20 異世界流夜の過ごし方 6
「先にお風呂入ったけど、晩飯の支度をしよう」
「カイネ、今日は初日だから座って休んでいるといい」
「あ。え、いえ手伝います!」
「カイネさん、休んでて下さい」
丸太のイスを用意され座ってしまう、風呂に入り3日間歩き通しで…持って来た干し肉も干した果物もすぐに無くなった、クタクタでボロボロで…働き始めた食堂は最悪だった、金を盗んだのは分かっている一番カイネをいじめていた先輩だった、周りとグルになって盗んだと言えば入ってきたばかりのカイネが盗んだと決めつけられてしまうのは当然だった。
大した額じゃない食堂の売り上げ金なんて…確かに給料もまともに貰えないカイネからしたら大金だろうが、盗みなんてしない、店主に殴られ僅かな給料も取り上げられた、でもそんな人たちがこんな自分を拾って働く場所をくれた…頑張ろう…。
「カイネ、寝てしまいましたね…」
「ああ、千眼…」
「先ほど飛ばした…」
大河の声に千眼は既にい動いている、大河はどうしてやろうかと考える、善人でありもううちの従業員でもあるカイネだ、カイネが受けた傷以上のダメージは受けて貰わないと気が済まない。
寝てしまったカイネの膝にアキとウィンが乗る、服も詠斗よりも背が高いが痩せすぎな為すんなり入った服を来て寝ている姿は無防備であどけない。
「美味しい物沢山食べて貰おう、では今日は昼に肉を沢山食べたし夜は野菜と魚で!」
「はい!」
「蒸し焼き…」
「……」
「焼き魚と貝も良いな」
「僕はサラダを…」
「我々も一緒に」
「肉焼いても良い?」
ドラゴンの面々も集まり皆で合同で食事作りが始まった、また食事が終われば風呂に行く面々もいるらしく酒は風呂場でと言いながら食事を用意している。
「ん…、あ、寝て…」
膝の上にアキとウィンが乗り心配そうにカイネを見上げている、アキとウィンを撫でて顔を上げると既に食事の臭いと温かい世界が広がっていた。
「起きた?」
「ご飯できましたよ」
「食べよう…」
「肉…美味い」
「冷めないうちに食べましょう」
「さ、肉も魚もパンも果物も好きな物を食べたらいい」
「はい、ありがとうございます」
人に作って貰った温かい食事を食べるのは何時ぶりだろうか…、孤児院にいた時は皆の分を先生たちと作り残った冷めた僅かな食事をし、食堂では余った野菜や具のないスープを貰うので精一杯だった。
「これは、貝と魚のスープ。こっちがポテトサラダにこっちはサツマイモって芋を甘く似た物と魚を蒸し焼きにした物、焼いた物、こっちは肉を焼いた物、後はサラダね。それでは」
『いただきまーす』
外は暗くなり夜になっていたがランプや魔石で周囲は明るい、みんなの顔がはっきりと見える。
「おいしい…」
「沢山食べてください」
「お茶…」
「は、はぃ…」
涙が自然と溢れた…テーブルにシミを作っていく…、止まらない…次から次へと溢れていく、周囲は静かだった…。
「う…ぅう…」
誰も何も言わない、両手を覆い泣きじゃくるカイネ…泣き止むまでずっと皆が見守る。
大河がポケットに入れていたスマホのバイブが鳴る、こんな時にとラインを見て僅かに顔に笑みを浮かべてすぐにポケットにしまう、カイネ以外もそれを見てスマホのラインメッセージを見てそれぞれの表情が違った。
『間も無く次の召喚の儀を行う』
詠斗は喜ぶ次も優しい人が良いと、大河は早いな…もうかと思う、率はこの世界を好きになってくれたら嬉しいとまた好きになって貰える世界にしたいと…。
今日はいつもより食事の時間がゆっくりとしていた、ゆっくりと静かだが心地の良い時間だった…。
「はい、はい。そうですか…残念です」
スマホで話す声、吐く息は白い…着古したジャケットとマフラー、型落ちしたスマホで話しながら空を見上げれば僅かな星が輝く、東京の片隅の道端で青年は肩を落とす。
「はい、失礼します…」
見上げた瞳からは一筋の涙が頬を伝う、自分の力ではどうにもならない金があれば救える…だが無い…。
多額の金じゃなければ自分が育った場所を救えない、無力すぎる自分、こんな時はいつも星を見る少し元気になるからだ。
「はぁ…」
がっくりと肩を落とす、傍らには免許を取ってから格安で手に入れた軽自動車、この相棒ももう寿命だった。
苦楽を共にした家族の様な相棒とも別れなければならない、高卒で事務職員として採用された傍ら自分が捨てられていた児童養護施設の子供達の世話をボランティアで請負、休みもない日々を送っていたそれももう終わる。
その児童養護施設が無くなる、子供たちもばらばらに他の施設へと移動する…。
スマホの待ち受け画面を見つめる施設で撮った写真、大事な宝だった。
「相棒、行こうか…あと2日…よろしく」
処分は決まっている微々たる額だが引き取ってくれる業者がいたからだ、運転し会社の寮へと戻る。
最近隣の部屋の会社の先輩が寮の規律を無視して友人を招いて騒いでいる、迷惑だ…でも苦情を言えば肩身が狭くなるだからこうして相棒と残り僅かな時間をドライブして帰る時間を遅くしていた。
「生きていくって難しいね…」
そう言って更科 綴は帰りたくもない寮に向かう、でも帰る所がそこしかないのだから仕方ない…。




