12 着々と
「ただいまー」
『おかえりなさーい』
畑へ戻ってくると大勢に出迎えられ、なんだかくすぐったい…がしっかりドラゴンの姿に戻った大半は酔っぱらっていた。
「すっかり出来上がっているな…」
「焼き肉パーティが途中で宴会になり今こんな感じです」
酔っぱらってグースか寝ているドラゴン達を人の姿をして素面の面々がスマホで画像を撮って笑っている、日本でもお馴染みの光景でなんだか微笑ましい。
「率さん、その抱えている器の中にいるのって、キンカダイルラーガですか?」
「そうだ…、コイツ弱っている。魔力と水の流れは作ったが水が合ってない」
ナイルが率の抱えていたガラス鉢に気づくチグリスが現状をナイルに教えるていると、ウィンとアキを甲羅に乗せたきゅうが寄って来る。
『きゅ!』
「きゅう、コイツが弱っている。水が合わないようだ」
『きゅ』
きゅうが片手を挙げガラス鉢の中の水を風魔法で取り除き、すぐに水魔法で水を生成し入れ替えてやる。
「これで、大丈夫だと思います。キンカダイルラーガは元々魔力を多く含むダンジョン付近の水場や、魔力を多く持つ水に棲む生物の側で魔力を吸収し生きている魚なのでしばらくすれば元気になりますよ」
ナイルの言葉に率が安堵しきゅうが頷く、アキが丸太のテーブルに残っていたパンを持って来て小さくちぎってガラス鉢に入れてやるとゆっくりと突いている。
「良かった!きゅうありがとう!」
『きゅ!』
「名前を付けたらどうだ?」
大河と詠斗が元気に回復したキンカダイルラーガを眺めながら折角だからと言ってくれたので、昔飼っていた金魚のふーすけから貰ってふーにしようと決めた、2年程生きて土に埋めた後は生き物を飼っていない、命に責任を持つ自信がないからだった。
その後すぐに母も亡くなって義母と義妹が来て…ここで皆とならもう一度命に責任を持っていきたいと思った。
「君はふーだ、よろしく」
「よろしくね、ふー」
「よろしく…」
ぱしゃとガラス鉢の水面で尾ヒレをはねて挨拶しているように見える、戻ってきてひと段落もしたので千眼がお茶の準備をしてくれたので一息付く事にした。
「ふう、ここでこうして茶を飲むのは落ち着くな。千眼、ブルラド商会はどうだ?」
「…奴隷を買い集めている、人種年齢性別関係なく…」
「金を集めているようだが、それは?」
「『テンランド』は常に金を集めている…弱者から搾取するのが一番簡単だ…」
「いつもあんな風に人々からお金を巻き上げているんですね…」
「あれは酷い」
「…せめて俺達が商売をするところから消したい、目障りだ。それにはまず『アウトランダーズ商会』をでかくするか」
「はい!《トタラナ》から追い出します!」
「僕も追い出しに協力します!ので、まずは新しいお店の制服を作りたいんです!」
「あ、洗濯機」
「乾燥機」
「電子レンジ…」
『あー』
まさかチグリスからその名称が出てくるとは…、確かに飲食店をするにあたりあれば便利な物だ。
「冷蔵庫も、欲しい」
「制服とは、主の本によくある学校に通う際に着用する服の事か?」
「ああ、それの飲食店版だな」
「服なら、テトラですね」
「ああ、今呼ぶ」
チグリスがスマホを取り出し誰かに掛ける、「こっちに来てくれ」と電話越しに伝えると少し離れた所から袖が長くダボダボした服を来た小柄な若草色の髪に瞳のドラゴンのテトラが歩いて来た。
「チグ、ボクに何かよう?」
「用があるのはこっち」
「あ、りっちゃんボクによう?」
「制服を作りたいそうなので協力して下さい」
「せいふくーなになにどういうの?」
「雑誌に載ってる、カフェ特集」
「確かに、テントの中に戻ります」
「じゃ、みんな戻ろうか…他の皆は…」
「家を持って来たのでそれぞれの家に戻るかその辺で寝ると思います、父様達は千眼さんにテントの中に入れて貰って本を読んでますし戻りましょう」
「そっか、ならテントもここに置いておくよ。魔力を流して貰って自由に出入りしてね」
「はい、分かりました。ではテントに戻りましょう」
「帰りましたー」
「おかえり」
「詠斗どの!是非是非我にこの温泉なるものおー作らせて貰いたい!」
「え、温泉?」
「ここでか?」
「銭湯とかなら…」
「銭湯でも、良い!風呂に浸かり酒を飲む!」
本を読んでいたナイデル達から詠斗達の方へ真っ直ぐアルケールが雑誌(大河祖父趣味)を開いた状態で走ってくる、そのページは大絶景のパノラマビューを温泉に浸かりながら酒を呑んでいるワンシーンで眼をキラキラさせているが、ここは《不毛の地》絶景もなければ温泉もない。
「銭湯みたいな物なら作れるし、水もお湯も魔法でなんとかなる…自動清掃で水の入れ替えも簡単…」
「後は風呂…確かに入りたいな」
「木ならありますから…」
「我が作ってもよいか!?作るぞ!風呂!そして酒を呑みたい!」
「いいですよ」
「大河殿本を借りるぞ!さっそく明日から作る」
「どうぞ、まだ収納に雑誌があるから出しておく」
「助かる!ありがたい」
大河から銭湯特集の雑誌を何冊か受け取り、ウキウキと丸太のテーブルに戻っていった。
「お風呂楽しみですね」
「ドラゴンのお風呂凄そう」
「りっちゃん、早く早くせいふく教えて!」
くいくいテトラが率の服の裾を引っ張る、皆で図書スペースに向かうとナイデル『ハリー・ポッター』とオリガ『本当は怖いグリム童話』※を本を読み、大柄な灰色の髪で目元を隠したドラゴンのカルがガラス細工の雑誌を眺めていた。
「長がすみません、あの絵を見てからずっとああでして…」
本から顔を上げてナイデルが苦笑いを浮かべている、オリガも栞を挟み苦笑していた。
「銭湯出来たらお風呂に入れるのでありがたいです」
「長は凝り性なので凄い物が出来ると思います」
「ただ、自分がやりたい事にしか熱心じゃないのが困り者です」
「テトラさん、こういう服が飲食店で着る制服です」
「これはいいね!なるほどなるほど。これ、いい!りっちゃん、これにしない?ボクがんばるよ!」
「これは良いですね!カッコいい!」
テトラが選んだのはカフェ特集の雑誌(大河父趣味)笑顔の男女が微笑む見開きページ、モスグリーンのカフェ帽子、首元も同じカラーのスカーフにエプロンと白いシャツとモスグリーンのズボンを着用している物だった。
「お洒落なカフェみたいな制服だね」
「これはいいな、皆のサイズを測らないと…たがミシンもないのにこんなに作れるのか?」
詠斗も大河もページを見て賛成しているがしかし、従業員分の制服を用意するのは道具がなければ難しいだろう。
「平気ー縫うの大好き」
「テトラは縫うのも、早いですよ。私達の服も彼が縫ってます」
「なら、頼んでもいいか?賃金も出す」
「いいよん!」
「なら明日皆のサイズを測りましょう!テトラさん、きてくれますか?」
「いいよん、町とかには布の仕入れに行くし」
「なら、メジャーみたいなのが必要かな。定規はペンケースにあったけど」
「メジャーなら…ある。仕事帰りにたまに家具屋に行って本棚とか買う時に図るからな」
収納から100均で手に入るメジャーをテトラに渡すと、嬉しそうに使い方を聞いていた。
「ボクも皆が使ってるカバンが欲しいな…。そうだ明日行く前にあの子達連れてこよう!詠斗くん、ボクがいつも糸や布を貰っている子達をここに連れて来てもいいかな!」
「もちろん!歓迎するよ!カバンも買いに行こう!」
「ありがとう!」
雑誌を抱えてテトラも明日の為に調べておくと、丸太のテーブルに移動していった。
一方チグリス、オリガ、カル、千眼は家電の雑誌(大河母の趣味)を見ながらあーでもこーでもないと鉱物と魔石を並べて話し合いを行っていた。
「これは…水を…風魔法を魔石」
「みんな、家電をもしかして」
「主…いけそうだ」
「詠斗殿、面白いですねこれらは中々複雑ですがカルが形に出来そうです、今酒を呑んで外で寝ている数名も起きれば早く出来そうです」
「本当ですか!すごい」
「おれ、石、好き…ガラス瓶もいっぱい作る、明日鉱物ダンジョン行く…楽しい」
「ありがとうございます、カルさん!」
「カルは昔から細かい物を作るのが得意なんです、ジャムを入れるガラス瓶も綺麗に作ってくれましたし」
「そう!すごいよ!しかも沢山!綺麗で形も均等だし」
「確かにこれはすごい」
テーブルに置かれたガラス瓶の試作は蓋もしっかり密閉出来て、形も大きさも手頃で機械が作った様に正確だった。
「ありがとう、カル」
「喜んでくれて…うれしい」
大河が礼を言うとカルが頷く、また洗濯機等の製作の話しに戻っていった。
「俺達も店に必要な物をピックしたら、寝るか…」
「はい、夜市楽しいです」
「明日も行こうか」
「まだまだ一部しか見てないから」
「あの品揃えハマりそうです」
等話し合が続く、頼もしい味方が増えて準備は着々と進んでいった…。
『本当は怖いグリム童話』※グリム童話から引用




