9 噂と情報
「すみません、区画で借りてるテントの契約を終了したいのですが…」
「はい承知しました、テントは片付けましたか?」
「はい」
「では冒険者証を確認します」
「お願いします」
「……………」
「あの?」
「あ、すみません…ではこちらで契約終了となります」
「ありがとうございます」
詠斗の冒険者証を見て固まる受付嬢だっだが、すぐに手続きを処理して見送った。
「ね、今の人達でしょ?」
「シッ!」
詠斗達の姿が見えなくなった後で隣の受付嬢が好奇心を剥き出しに聞いてくるが、人差し指を口に立てその続きを止めた。
今近隣各国、商会やギルドで話題になっている面々だが、厳重な箝口令が敷かれ情報を僅かでも漏らせば厳しい処罰の対象となる。
ズィーガー商会と懇意にし、2つのダンジョンの最終階層攻略…普通ならば諸手を挙げて歴史的な快挙として大々的に広く知れ渡るものだが、本人達の強い希望により公表は控えて欲しいとの意思を汲み取ったズィーガー商会からの伝達があり、それに納得せず攻略者達の情報を公開しろとの圧力にダンジョンドロップ品の賄賂で黙らせたのはつい2日前の話し。
現在は水面下で彼らの探り合いが行われている、彼らの情報には莫大な金額を投じてなんとかお近づきになりこちらに引き込みたい、もしくは利用をして…等良からぬ考えを持つ輩が増えているが全く情報が出て来ないので、今現在は静かなものだがこうして好奇心旺盛な同僚がいるのも事実、頭が痛くもなる、冒険者ギルドのマスターであるダンダからも再三厳重に一切口外しないように命令が下っている。
各地の冒険者ギルドもズィーガー商会からの口止め、詮索しない事を条件として、鉱物ダンジョンの魔石やドロップ品を本来ならば数年分の予算を投じなければ手に入らない品々を受け取ってしまっている、迂闊な事を言えば今後の取り引きは無いとも言われれば黙る他なかった。
あのブルラド商会も仕切りに攻略者の情報を集めているようだ、いい話しは聞かない、ズィーガーがかなり賄賂を多く積み黙らせたようだがそれで済む商会でもない、躍起になって探り…こういう所から情報が漏れていく気がする。
「いいじゃないー、聞く位ー。」
「いいから、仕事して」
「なによぉーいいじゃない、お近づきになりたいわぁ」
化粧のけばけばしい胸を強調し、面倒な仕事は全てこちらに押し付け将来有望そうな冒険者達に媚を売る、同僚に冷えた視線を送る。
「私の事きっと気にいるわよー、私キレイだし、次来たら私が対応するわー」
「……」
聞いてられないと言わんばかりに黙々と仕事をこなす、背の高い男性が冒険者登録した際に対応した受付嬢は、冒険者ギルドの職員の中で一番美人と言われている女性だったが、見向きもされずさっと手続きして出て行った位だ、その受付嬢がそんな対応なら隣の受付嬢など更に相手にされないだろう、狭い世界で自分が1番だと思っているのは、羨ましいが仕事はして欲しかった…。
「ここが、テイクアウトと軽食が食べるお店ですね!」
「ああ…出来てきたな」
「お兄さん方きちょるか、1人増えたかの」
「こんにちは」
「はじめまして、率といいます」
「ほかほか、わしゃドリィーガンちゅうもんじゃ」
「大分出来て来てるな、もう完成じゃないか」
「すごい、仕事早いですね」
「うんむ、だが細かい所を…」
「お兄さん!酒じゃ!酒」
「お、酒もうときとるのか」
「酒きたぞー」
「……仕事は早いしな、ほら」
他のドワーフが呼ぶ店から次から次へとドワーフが出てくる、増えたのは気のせいだろうか…。
「肉やくぞー肉」
「お兄さん方も食ってけ」
「食う…」
「食べますか?」
「時間はあるからな」
「なら、ダンジョンの肉出しましょう」
チグリスがさっさと鉄板の前に座りドワーフ達と混ざる、ドワーフ達に肉を渡し…詠斗達と肉を交互に見るが何も言わず焼いていく。
「明日一度この店で働く人達に来て貰い、意見を貰う。特に何もなければ、改装は終了だ。金は最初に提示した分は払う」
「ま、待ってくれ、まだ細かい所を直さんと」
「屋根やら外の壁なんかも…」
「まだ厨房も」
「ほれ、椅子やら棚も…」
慌てるドワーフ達魂胆は見え見えだ、ビールが飲みたいからギリギリまで引っ張りたいのだろう。
「わかった、わかった。気の済むまでやればいいが、明日は見て貰う。それと他の場所の改装…改築を頼みたいんだが」
「それはもしや、最近買い手がついたちゅうあの屋敷かの?」
「よく分かったな」
「ありゃ、わしらが作った屋敷じゃが」
「なら話しは早い」
率と詠斗が焼いた腸詰めをパンに挟んで食べていると、ドワーフ達もマネして肉を挟んでガツガツ食べている、チグリスは大河の分を貰って食べていた。
「あの、屋敷の先代は良い方々だったじゃ」
「ドワーフのわしらにも優しくてのー」
「ああ、だが跡継ぎがのー」
「確か賭博だったか?」
「そう、賭博と女遊びとかでのー」
「ブルラド商会の賭博場に出入りし…それが失敗だったんじゃ」
その名前に大河と詠斗がピクリと反応する、率は2人の反応に様子を伺いながら話しに集中した。
「特に女じゃが…」
「そうじゃそうじゃ」
「なんとも世にも美しい女にでおうて…わしらは酒のほうがいいじゃがな」
「それに入れ込み過ぎて代々受け継がれてきた財産を売り…」
「そこから家は傾いた…」
「あっちゅうまじゃったよ」
「そうか…ご馳走になったし、興味深い話しも聞けたな、今日はもう休んでもいいだろ、ほら。明日も頼む」
「おしゃーもうちょい仕事してかえるぞい!屋敷の仕事も引き受けるじゃが、他の町で仕事してた仲間も来たしな!がんばるぞ」
ビールの缶を追加で30缶程置いていく、増えたのは気のせいではなかったらしい。
「あ、千眼さん達荷物全て持ってきて、これから肉ダンジョンの下の階層に行くって、ユナイドさんにはライン済みって来ました」
「あ、本当だ、スタンプ使ってる」
「これ、無料か?こんなのあったか?」
神々から何故かファイトのスタンプやら、肉スタンプ…チグリスも送っている、色々グループラインがごちゃごちゃしているから分けるか…など考えながら、パン屋もパティ屋に向かった。




