プロローグ 始まりはまた異世界から
「では、これより、再び我々の世界アタラクシアの病を治癒する為の異界人を召喚する」
『異議なし』
「召喚する異界人は、計8人。《アタラクシア》の治癒の状態により順次行う、担う者 導く者 手を差し出す者 掬う者 与える者 変革する者 もたらす者 そして最後は…××××××を持って召喚を完了とする」
「召喚する異世界は地球」
「召喚する者は日本という場所に生きる者」
「今を生きる世界に未練がない者」
「《アタラクシア》で生きていける者」
「我々の勝手な都合で呼ぶには誠意を持って」
「誓いを」
「心と魂と肉体に」
「我らの出来る限りを以て」
「祈りと願いを」
「ここに示す」
「我ら13の神の誓いを契約とする」
最初に手を挙げた者から時計回りに、1人づつ右手を挙げ誓いを立て一周すると、中央の《アタラクシア》の雲の穴が3つゆっくりと塞がっていく。
「では、招こうこの《神ノ庭》に3番目の異界人手を差し出す者導く者を…」
神々の頭上に渦巻く雲、ゆっくりと白い空間を侵食し広がっていく。
「な、成澤君!好きです!よ、良ければ付き合って下さい!」
ああ、これで何度目だろうか…長い睫毛を伏せどこか儚げな印象の成澤 率は内心溜息をついた。
関わらないで欲しい、僕は貴女の事なんか知らない、記憶を探っても見覚えのない女性。
顔を真っ赤にし俯いて返事を待つ、返事は1つしか持ってない。
「ごめんなさい」
「あ、そ、そうだよね、成澤君私の事なんか知らないよね。同じ学部でよく講義が一緒で…席も時々近くて…それで…」
勝手に気まずげに話を進める、もうここを去ってもいいのだろうか…爪をカリカリと削る…良くないのに…、もういいだろうか。
「ご、ごめんなさい引き留めてしまって…」
「いえ、気持ちに応えられなくごめんなさい…。失礼します」
率も頭を下げてその場を後にする、ああ何もかも気が重い…早く帰り…たくもないけれど帰れば…、スマホを見ると着信が何件も入っていた…。
「率くん、おかえりなさい」
「……」
時計を見ると19時を過ぎている父親がもう帰ってくる時間、いつも大体この時間に家戻る事にしている…帰る場所、帰りたくない場所、都心の一軒家白を基調とした柔らかな家は亡き母の趣味が詰まっていた。
鍵を開けると妙齢な女性…父親の再婚相手の女が出迎える、挨拶もせずに足早に2階の自室のカギを開ける、鍵を掛けなければあの女が勝手に入って来て人の部屋を物色するからだった。
そしてあの女が連れて来たあの女と瓜2つの女…、それが率の部屋をノックする。
「お兄ちゃん帰ってきたのぉー、マオミの電話どうして出てくれないのー?一緒に帰りたかったのにー」
「マオミ、率くん疲れているのよ。沢山お勉強して」
「えーマオミのお兄ちゃん、友達に自慢したいのにぃ」
扉の前で繰り広げられる茶番、イヤホンを掛け聞こえない振りをする。
机の引き出しの一番下鍵付きの引き出しを開けマニュキュアを1つ取り出し眺める綺麗だった、唯一の趣味…人には言えないがマニュキュアで自分の爪を塗るのが趣味だった。
最近は男性でもするようだがあくまでもはみ出さないように塗ったり、コツコツと買い集めた数は結構な物…みつからないようにオンラインの倉庫に預けている、後はネットで調べて他の人の作品を眺めて過ごしたりする程度…早く就職して家を出ればとそこまでの我慢だと言い聞かせていた。
「ただいま」
「あ、パパ」
「おかえりなさいあなた」
父親が帰ってくる…父の事も好きではない、母が亡くなりすぐに再婚して連れて来たのは、あの女とその娘…。
父親があの2人の相手をしているうちに一階のシャワーを浴び洗濯を行う、そうしなければ娘の方が勝手に入ってこようとするからだ、父親に伝えても間違えてしまったのだから家族だからと怖気が奔るような言葉を吐いてくる。
「おかえりなさい、お父さん」
「ただいま率、俺も風呂入ってくるか」
「そうしたら、ご飯にしましょう」
一見みると普通の家族…父母兄妹…、気持ち悪い他人が侵食しているこの家を早く出たいと思った。
「今日のご飯はあなたが好きなビーフシチューよ、パンはいつもの所。私が作ってもこんなに美味しくならないもの…」
「君のビーフシチューは絶品だな。パンだって美味しいよ」
「ママのビーフシチューは…う…」
マオミが急に吐き気を催し洗面台に駆け込む、心配した母親が様子を見についていく。
「どうしたんだ?」
率は無言で満腹にもならない程度の量を食べる、食べている時あの母娘は父にばれないようにこちらをねっとりとした視点で見ているからだった。
「マオミ!?あなたもしかして!」
泣いているマオミの方を抱きながら母親が戻ってくる、父親も立ち上がり駆け寄る。
「わ、私妊娠しているの…」
「なっ!相手は!?君はまだ16歳だぞ!」
「うう、ごめんなさいお兄ちゃんと…」
「率、本当か!?」
「ちが…」
言い切る前に父親に顔を殴られた床に倒れる、何なんだこの下らない茶番…率は自分が何より大事だった、自分が傷付く事が何より嫌だった、それ以外は皆一緒だった。
目の前の母娘に何の興味も無い、只勝手に家にいる寄生虫だと思っている。
「率!お前の妹だぞ!」
「パパ、お兄ちゃんは悪くないの!私が誘ったの!好きなのお兄ちゃんが!」
「マオミ…」
勝手に話が進んでいく…、目の前の寄生虫に触ったこともない、父親が血の繋がらない娘の方の話しを信じるなんて…電話がなる頬が熱い…痛い…、考えればすぐにそれが嘘だとバレる。
「電話に出てくる、仕事先の相手だと困るから」
冷静さを取り戻しつつある父親が電話に出る為廊下にでる、残された率は目の前の寄生虫と話す気もない、立ち上がり2人から離れるが、マオミは醜い笑みを浮かべた。
「なっ、はいはい…それは…はい…わかりました…一度はい、息子と話を…はい、一度失礼してすぐに折り返しはい…」
居間に戻って来た父親の顔は青白い、一気に老け込んだようにも見える。
「率…三戸 夕と言う女性を知っているか?」
「しらない」
「そうか…今日お前に告白し振られた子のようだ…今そちらの両親から電話が来て、手首を切って自殺未遂で病院に緊急で運ばれたとご両親から連絡が来た…遺書があったそうだ…今から病院に行く、来なさい」
「……っ」
父親を押しのけ靴だけ履いて飛び出す、「待ちなさい!率!」背後の父親の声を無視し走った、とにかく走った。
何なんだ、なら付き合えば良かったのか?自分の感情を殺して?ならさっさと家を出れば良かったのか?どうすれば良かったのか?
「もう嫌だ…僕が死ねばここから逃げられるのかな?でも、嫌だ…生きていたいでもここじゃ誰も僕を生かしてくれない…」
涙が1筋頬を伝いそして地面に染み込む、それをぼんやりと見ている霧とももやとも言えない物が広がり宇宙空間のような穴が開いている、何だと思うとそのまま穴に吸い込まれゆっくり霧の様な靄が消えていった…。




