22 稼いだぞー
「お早いお戻りで…」
《クイナト》の商業ギルドに戻るとにこやかにユナイドが出迎える、一瞬驚いた顔をしていたがすぐに裏表ありそうな怪しい笑みを浮かべた。
「買取りを頼む」
「では、2階へ。茶をお持ちします」
千眼とナイルを先に畑に送り3人で応接間に入り、ソファに座ったタイミングでカートに載せたお茶と茶菓子が運ばれた。
「どうぞ、王都一の名店の焼き菓子です」
茶色いパウンドケーキのような物が皿に載り、飾りもないが中にはドライフルーツがふんだんに使われ、しっとりとした
食感と食べる度に違う味がして美味だった。
「美味しい」
「もっと…」
「どうぞ、私の分で良ければ。この焼き菓子は日持ちがして寝かせれば風味と味が変わって、貴族の方々は1日1切れずつ食べて味わいます」
チグリスの皿と交換し角砂糖3個入れてお茶をユナイドが飲む、詠斗達は串のような物で少しずつ切って口に運んだ。
「後で土産用に包んだ物をお持ち下さい」
「どうも」
「俺達も買いたいですね」
「場所を教えますが人気の店なので今日はもう品切れです。早い時間に行けば種類も豊富ですよ」
「へぇー明日行こうかなー」
「この街で何があるか見たいな、それと買取りの品を出しても良いか?」
「承知しました、こちらにどうぞ」
鉱物ダンジョンでドロップした、ガラスや加工出来る鉄の塊や魔石等を覗く宝石や転移石や金銀等のズィーガーに売る以外をテーブルの上に載せたが溢れて床に零れ落ちてしまう、眩しい…輝きが部屋を満たした。
「……こちら全てを買い取るとうちが破産しそうですね…」
「急ぎで貴族の屋敷を買うから、100,000,000あればいいが」
「それならすぐに用意出来ますね、それですとこちらとこちら…これとこれで…100,000,000ログですがどうします?」
「それでいい、後どれぐらい買取れる?」
「そうしますと、後300,000,000ログ程の予算を用意したので、このテーブルの転移石全てと…悩みますね」
「なら、全て預けるから400,000,000ログ貰って残りは捌いたら都度手数料やら経費を抜いた額を『アウトランダーズ商会』の口座に入れてくれ」
「よろしいのですか?でしたら残りの300,000,000ログは…」
「アンタを信用することにした。任せる」
「はい!ユナイドさんお願いします」
「お任せ下さい、お預かりします。このユナイド『アウトランダーズ商会』と『ズィーガー商会』に莫大な利益を約束します」
「お願いします」
「この金は『アウトランダーズ商会』の口座に全て入れてくれ」
「承知しました、ではこちらは全て引き取らせて頂きます
。入金処理をして参ります、お待ち下さい」
収納袋に全て納め静かに退出する、状態異常無効の不老不死の肉体のお陰か疲労感も無く満足感で満たされていた。
「4億…1日で…皆すごいなー」
「詠斗くんもな、お疲れ。当分ダンジョンはいいな。疲れてはいないが…」
「俺もです…大分稼ぎましたし」
「これ…もっと食いたい」
「明日ねチグリス、今日はお疲れさま。美味しい肉料理をごちそうするよ」
「そうだな、俺も手伝うから。沢山食え」
「!早く帰ろう!」
「まだ後少し」
「ん…」
渋るチグリスを宥めつつ、ユナイドが手に包みを持って戻って来る。
「こちらが焼き菓子ですどうぞ。『アウトランダーズ商会』の口座に入金しましたので、ギルド証に魔力を注いぐと口座の額が分かります。すぐに消えますのでご安心を…」
「便利だな」
ギルド証を確認し、400,000,000ログ増えた事を確認した。
「この後は予定とかありますか?王都では夜も明るいので夜市もありますよ。勿論朝から活気がありますが、また夜市も独特な雰囲気があって楽しめます…」
「夜市…いえ、今日は帰ります。この後でズィーガーさんにも買取りを頼むので…」
「そうですか、夜市は毎日催されているので是非今度寄って下さい」
「はいありがとうございます。また来ます」
「はい、お待ちしています。千眼様にもよろしくお伝えください」
「ああ、伝えておく」
「ん…」
席を立ちあがりその場で転移魔法を使い《トタラナ》に戻る詠斗達を見送る、その場で消えた詠斗達には言いづらかったが買い取りにだした鉱物の大半は希少価値が高すぎて値段がつかないものばかりだった…しばしそれをどう捌くか考え、王都に《ズィーガー商会》の宝飾品店でも作ろうかと考える。
後にこの宝飾品店を《ズィーガー商会》と《アウトランダーズ商会》で共同経営していくのはまた別の話し…。
「今日来てた、副支配人のお客様…」
「あの3人でしょ」と
「そうそう、可愛い男の子とすらっとした美形…」
「不愛想だけど端正な顔の赤い髪の男性」
場所は変わり《ズィーガー商会》《トタラナ》支店1階の職員の休憩室、テーブルとイスしかない簡素な部屋のてーぶの上にはお菓子やお茶が置かれ、4人の女性職員が談笑していた。
《ズィーガー商会》特にここ《トタラナ》支店は副支配人の意向により徹底的な実力主義、年齢性別経歴一切問わず能力で出世が決まる場所だった、ここで談笑している女性職員達も能力でのし上がった強者達であるが、やはり女性、話題はいつでも好奇心をくすぐるものだった。
「お茶を出す時に見たけど3人ともいい匂いがしたし…もっと見ていたかったわー。目の保養よー」
「いいなーうらやましいわー」
「うちの副支配人は気に入ったお客様しか対応しないものねー」
「そうそう、貴族のお客様の相手だって気に入らなければしないし」
「まあ、ここまで《ズィーガー商会》を大きくしたのは副支配人のおか…」
「おや、そうですか?褒めて頂きありがとうございます」
「ふ、ふく支配人!!」
「教えてくれた焼き菓子お客様が大変喜んでいましたよ、ありがとうございます。お菓子はみなさんに聞くのが一番ですね」
何時の間にか背後にいたユナイドに驚く3人だが、ユナイドは気にもせずニコニコと笑みを浮かべていた。
「よ、良かったです」
「ええ、お客様に気に入って頂けて…」
「休憩室で話す分には構いませんよ、ええ…ここではね…ここ以外は分かりますよね?」
この休憩室は防音機能付きの特殊な空間設計がされている分、下世話な会話も暗黙の了解で黙認されている。
人の口は軽いどんな立場でも、うっかり話してしまうならいっそ好きなだけ話せる場を…という訳でこの休憩室が生まれたのだ。
だから良いどんなに仕事が出来る人間も疲労が溜まれば迂闊な事を滑らせる、この休憩室を設けてからは仕事の効率も更に上がり他の支店や本店でも同じ休憩室が出来た。
「さて、私も仕事を…今日も忙しいですねからね…」
お茶を一杯淹れて貰い飲んで仕事に戻る、神出鬼没な副支配人は時々こうして気配無く現れるこれがユナイド的ストレス解消法であり、従業員にはいい迷惑である…。
「こんにちはー」
「お待ちしておりました!こちらへ、お茶を用意します」
《トタラナ》の《ズィーガー商会》に立ち寄り応接室に通されソファに座る、座り心地は堅いが落ち着く、大河も詠斗もソファを購入したい。
「さっそくだが、腹を減らした奴がいるから。買取りを頼みたい」
「もちろんですとも、《トタラナ》支店と同じ位の予算用意しましたよ!さあ、こちらへ」
「それは頼もしいな、向こうにも大分置いてきたがまだあるからな。詠斗くん骨も出すか?」
「はい、沢山ドロップしたので出しますよー。武器とかにも加工できるんですよね。肉ダンジョンの7階層でドロップしたワニみたいなやつの皮?と骨と…せっかくだから魔石も…」
「鉱物ダンジョンの11階層のクリスタルみたいな透明な石と、細かい宝石と魔石と…」
「……………えとですね、このワニの皮というのはこの未攻略の肉ダンジョンの最終階層のボスのドロップ品で間違いないですか?あとこの透明な石は鉱物ダンジョンの11階層のラガングランのドロップ品ですね………」
固まるズィーガーの顔色は悪い、悩むというより苦悩している感じが伝わる。
「ちなみにユナイドは、詠斗さん達が鉱物ダンジョンと肉ダンジョンを攻略したことについて何か言ってましたか?」
「いや、出した物で予算で買いきれないものは預けた。売れ次第経費や手数料を抜いた額を《アウトランダーズ商会》の口座に入れるよう頼んだが、こっちもそうするか?」
あいつ面倒な事はこっちに丸投げしたな…ズィーガーは内心舌打ちする、さてどうするか…。
「そうですね、そうして頂ければ予算内で買取り出来る物は買わせて頂き、後は預かる形に…最終階層のボスのドロップ品が出れば誰が攻略したのか報告しなければならないのですが…」
「目立つのは困るな…」
「一番楽なのは賄賂で黙らせる…のが一番ですが」
「それで詮索されないのならそれでいいですよ」
「そうだな、法に触れなければ面倒事は金で黙らせるか」
「そうですか…賢明な判断ですね。各国にドロップ品…この肉ダンジョンのおそらクローガルダイルの皮を1枚献上すれば事足ります」
「この皮1枚で黙るなら安いな、これで余計な詮索はされないんだろう?」
「この皮1枚よりも攻略者の情報をよこせという国もあるかもしれませんが…」
「このドロップ品を《ズィーガー商会》に売って情報は渡すな、詮索はするなと言うほど俺も非情ではないな。商売はどうしたって情報が回る。相手が黙るまで積めば良い、予算内で買いきれない物は賄賂に使ってくれ」
「承知しました、どこの国からも手出し出来ぬよう手腕を奮わせて頂きます」
「よろしくお願いします」
「ではこちらの予算内で買いきれる、宝石類と…魔石とクローガルダイルの皮2枚、シーブエスプの骨は全て買取りで30,000,000丁度でいかがでしょうか?」
「ああ、詠斗くんは?」
「は、はい!おねがします!」
「後はお預かりし足りた分は経費などを抜いて売れた分を口座に入れさせて頂きます、《ズィーガー商会》始まって以来の最高の買取りありがとうございました」
ズィーガーが深々頭を下げる、これからの莫大な処理を思うと泣けてくるが(いや、もう泣いてもいいと思う)
ズィーガーを信頼してこうして預けてくれるなら応えるしかない。
「こちらこそ、貴族のあの屋敷はそこから金額を引いてくれ」
「承知しました、明日までに書類を用意しますのでまたいらして下さい」
「わかった」
「ズィーガーさんありがとうございます!」
「では、明日」
転移魔法を使いすうと消えていく、もう商業ギルドも《ズィーガー商会》もてんてこまいで誰も何も聞いて来ないのが唯一の救いかもしれない…。
後で気力があればユナイドに文句を言っていやると、自分を奮い立たせ猛然と仕事に向かった。




