1 時永 詠斗
「はあー、どうしようこの先…」
部屋を借りていた不動産屋を項垂れたまま出て、住んでいた近くの公園へと足を運びベンチに座って頭を抱えていた。
「まさか、車突っ込むとかさーないわー」
夜勤の倉庫仕事から帰ると、借りていた築50年の木造オンボロの付近が騒々しく救急車やパトカーのサイレンが早朝の住宅地に不釣り合いに鳴り響いていたのは、数時間前の事、まさか自分の家とは関係ないだろうと高を括ればまさかのドンピシャ一階の自分の部屋に車が、半分以上お邪魔している状態で出迎えられはるとは21年の人生何が起こるか分からない。
「疲れた、もうー眠気も飛んだし、悪い事ばかり考えるから良かった事を思い出そう」
時永 詠斗21歳、彼は悪い事が起きたら少しでもその付近の良かった事を探す、そんな前向き青年だった。
「車を突っ込まれたけど、俺は元々あんまり荷物ないし、運転してたのは飛び出した子供を避けて突っ込んだ人で、子供も運転してた人も無事…とそれは良かった」
ベンチの傍らに置かれたボストンバッグとスーツケースを横目で見つめ、腕を組みうんうんと頷く。
「これからの家の事…引っ越し代や破損した物の補償、新しい新居に引っ越すまでの家賃負担は無償…までは良かったー」
問題は次の家、この辺りで今安い物件は不動産屋にはなく、今探して貰っている最中、とにかく今は貯金したい、とにかく安く済ませたいという気持ちが強かった。
「将来…」
詠斗は母子家庭の母1人子1人、詠斗が20歳になり第2の人生をと母が再婚し実家という実家もない。
義父と仲が悪い訳でもない、この状況を知れば戻って来いと言ってくれるが、詠斗には漠然とした夢がある。
その夢を叶える為の近道は、貯金が手っ取り早い手段だった。
「はあ、誰の物でもない場所とかで農業してのんびり暮らしたい…」
そう言った時、足元に薄い灰色の雲のような霧のような物が出現し、中心から宇宙に似た空間が拡がって詠斗と荷物を呑み込んでいく。
「え、何これ!わっちょっ」
足元に気づいた詠斗が驚き、急いで立とうとするが瞬く間に宇宙のような空間に落下していく、荷物も吸い込み穴は薄くなり消え、元の景色に戻った、そう何事もなかったように…。
あなたは異世界に行ったら何をします?~異聞・蒼刻の剣と黒騎士に捧げる英雄達の詩~
01刻 蒼い瞳の戦士
《アタラクシア》で唯一名がある大陸《クトゥム大陸》クトゥムバイバス歴011年、空は雲が流れつつも晴れた蒼い空が広がっていた。
《クトゥム大陸》には《バイバスガント国》という大国の他、いくつもの小さな国が点在し常に領土争いを繰り広げられ常にこの大陸は貧困に晒されていた…。
「今日も空は高くて青いな…死ぬには丁度いい」
乾いた風が身体を過ぎていく…男は満身創痍、顏の右側には薄汚れた包帯が巻かれ左脚の膝から下は粗末な木の義足、そして男が立つ場所は戦場、手に持った剣は刀身がボロボロで血が滴りそれでこの戦場を生き残ったのが伺えた…。
男は自身の事をよく理解している、そして今日男は自身が死ぬ日だろうと理解していた。
「せめて次はもっとましな……いや、どうでもいいか…」
男はそう言い正面を向く、戦場というには静かだ周囲には敵味方入り混じった屍ばかりが存在していたからだ、自身もまもなくそうなるだろうと思っていた。
数多の死体、その中の1つ…。
「……ああ、来た、英雄…《黒騎士》…」
男は正面を見据え待っていた存在を眺める、巨大な銀色の馬にのった黒い鎧を身に纏った《黒騎士》を。
『……』
「死ぬために始めよう」
《黒騎士》は馬から降り男を見据える、男は剣を構え勝つための生き残る為の戦いではなく死ぬ為の戦いを挑んだ…。




