8話 スキル統合
……ってまだ諦めるには早すぎるか。
火が効かないならリーチのあるこれで牽制してやる。
俺は尻尾をうねらせて、エリートゴブリン達に見せつけるように地面を叩いた。
バンっと大きな音が鳴り、小石はそこかしらに飛散した。
自分はまだ強い力を持っている、温存しているっていうアピールで原始的な威嚇方法。
こんなものが効く筈もないのは百も承知だけど、まともに走れるだけ傷の具合が良くなる為の時間稼ぎになってくれないかな?
「「ぎぎ……」」
俺の行動を見るとエリートゴブリン達は顔を見合わせて 動きを止めた。
普通のゴブリンより賢い分こんな行動の1つにも細心の注意を払っているのだろうか。
「――きゃっ! ……分かりました」
エリートゴブリンの1匹は抱えていた女性から手を離すと、その尻を叩き背中を押した。
女性はそれがどのような命令の合図なのか察したようで、恐ろしい剣幕でにじり寄ってくる。
多分攻撃を仕掛けた時俺がどんな反応、そしてスキルを発動するのかチェックしようとしてるのだろう。
まるで偉いさんと毒味役みたいだな。
普段から性欲の捌け口だけじゃなくてこういった扱われ方もされてると思うと流石に気の毒だな。
女性の体つきや身に付けているものを見る限り、今までの村娘のような人達と同じでのほほんと暮らしていたタイプではない。
男に混じって狩りをしていたか、或いは女性冒険者か。
体が丈夫な分どれだけ悲惨な目に遭おうとも死ぬ事は出来なかったのだろう。
まさか日頃体を鍛えていたのが仇になるなんて思ってもみなかっただろうな。
『【鑑定lv2】』
-------------------------------------
種族:人間
状態:妊娠
スキル:拳闘術、活力強化、洗浄
-------------------------------------
種族:人間
状態:妊娠
スキル:弓術、心眼、洗浄、裁縫
-------------------------------------
拳を握り近づいてくる女性は近接型、未だに抱き抱えられたままの女性は遠距離型の戦闘スタイルらしい。
2人とも目に生気が通ってないのは、ゴブリンの子供を授かった事に気付いてしまったからか……。
「――はぁっ!」
女性は声を無理矢理張り上げて、一気に距離を詰めてきた。
冒険者としてはまだ未熟なのかその姿に脅威を感じない。
攻撃の威力はそこそこあるけど……遅いな。
女性から放たれる拳の動きをしっかりと捉え、受け流す。
殺すのは容易い相手だけど、回復の為にもう少し時間稼ぎをさせてもら――
「しに……た……」
「が?」
吹けば消えてしまいそうな程の声。
何を言ってるか聞き取る事が出来ず、俺はドラゴンなりに言葉に疑問符をつけてみる。
「死、にたい。殺、して。おね、がい。仲間に、見捨てられて」
「……」
女性はぽとりと涙を溢しながらそう懇願した。
俺はそんな女性の顔をついついじっと見つめてしまう。
すると女性の拳には殺気を感じられなくなり、同時に俺の受け流しも雑になる。
「返事、したから、伝わってるんだよね? 死のうとすると、あいつらに止められる。殺されそうになると、助けられる。囮にするけど、道具として重宝される。それが、どれだけ、辛い事だったか……。悲しんで、くれなくていい。あいつらが、割りんで来ない、ように一思いに――」
「がっ!」
俺は女性の言葉を遮って尻尾の先で女性の心臓を貫いた。
レベルが上がった事で尻尾は槍異常の凶器になっていたのは受け流す作業の時に気が付いてはいたが……あっさりいき過ぎて人間を刺したっていう感覚がない。
「あり、が……」
再びなにかを言いかけた女性だったが、俺はそれを無視して頭から思い切り齧りついた。
――がりごり、ばりっ!
頭骨が割れ、脳が口の中に。
女性はもう何かを考える事も出来ない。
出来ないけど……笑ってるな。
口の中に入った脳を味わいながら一度女性を離してやると、その顔は嬉しそうに笑っていた。
そんなに微笑み掛られても……俺は別にあんたの頼みを叶えてやったわけじゃない。
だからあんたが言い終わる前に攻撃しただろ?
お礼も言われる筋合いはない。
俺はモンスター、ドラゴン。
もう人間の言う事は聞かない。
人間に見捨てられたあんたに同情するつもりもない。
それは人間を信じすぎたあんたが悪かったんだから。
ただ……だからって俺が人間以外、モンスター全員と仲良くしてやるつもりは毛頭ない。
『人間を捕食しました。スキル:【活力強化】を盗みました。スキルが重複しました。スキルが統合されスキル:【リジェネlv1】に変化しました。使用方法:常時発動。魔力不足の場合、元々のスキル:【活力強化】と同様の効果となる。貴方に神の御加護がありますように』
同じスキルを盗んだ場合どうなるのかは気になっていたけど、統合される事もあるのか。
俺の体の回りには白くぼやける光の玉がフワフワと漂い始め、体温はぐっと上昇する。
全身を優しく包まれているような感覚で心地がいい。
気付けばさっき出来た翼の傷が自然ではあり得ない塞がり方を見せ始めている。
自分の回復力を高めるだけではなくて、ダメージを外部から直接癒してくれる効果がこのスキルにはあるらしい。
痛みもすっと引いて……これなら走っても飛んでも大丈夫そうだ。
「ぎぎゃああああああっ!」
女性を差し向けたエリートゴブリンは大事な性奴隷が殺された事に驚きと怒りで気がおかしくなってしまったのか、地団駄を踏んで奇声を上げるともう1匹のエリートゴブリンから女性を取り上げて乱暴にその体をまさぐり始めた。
女性を取り上げられたエリートゴブリンは何か言いたげな表情を見せるものの、気が弱いのか実力が劣るのか抵抗はしない。
不思議だったのは女性がそんな気の弱そうなエリートゴブリンに悲しい視線を送っていた事。
さっきの女性とゴブリンの関係は完全に奴隷と主人だったがこっちはそれだけではないのかもしれない。
必死にもがく女性。
辛そうに顔を背けるエリートゴブリン。
胸や尻を堪能しつつも、動き回る女性に対しても苛立ちを感じ始めるエリートゴブリン。
……これ今のうちに攻撃出来るのでは?
体が完全に回復して逃げるよりも戦いに目を向けられるようになると、今がとんでもない攻撃のチャンスだという事に気付いた。
俺は早速翼を広げるとそのまま両足で前方に跳ねた。
そして【飛行lv1】を発動し風に乗ると、ただ走るよりも速いスピードでエリートゴブリンに向かっていく。
このスピードと人間を簡単に貫くほど強靭な尻尾さえあればエリートゴブリンといえど、防ぐ事は出来な――
――ごきっ!
骨の折れる音が辺りに響き、女性がぱたりと地面に落ちる。
どうやら、苛立ったエリートゴブリンが力加減を間違えて首の骨を折ってしまったらしい。
もう1匹のエリートゴブリンは慌てて女性の元に駆け寄るが、女性は既に息がないのかまるで動かない。
「――くく……ぎぎゃぎゃぎゃっ!」
女性は死んでしまったが、今の行為でエリートゴブリンのスキル:【性欲筋力リンク】は無事発動したようで、その筋肉は数倍に膨張。
漲る力に嬉しくなったのか、苛立っていたエリートゴブリンは高笑いをしながら俺と顔を合わせた。
俺のスピードか、それともエリートゴブリンの筋力か。
全力で突き刺そうとする俺の尻尾とそれを掴んで受け止めようとするエリートゴブリンのムキムキな腕。
間違いなく激しいぶつかり合いになる。
そうなると思ったんだが……。
「ぎっ!?」
なんだ、その筋肉は見かけ倒しか。
【性欲筋力リンク】……これ、ただ性欲ん満たす為の口実にしかならないハズレスキルみたいだな。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。