6話 だって俺人間じゃなくてドラゴンだから
――ぷしっ!ぶちっぎちゅっ!
縄で縛られてはいるが女性が万が一大きな声を上げられる状況になっても大丈夫な様に俺はまず喉を噛み千切った。
噛み千切ったその肉を口の中で転がすと血液のと肉の旨味が広がる。
男よりも鉄の味が強いが、その分甘味が強くて味が濃い。
肉は女性の方が柔らかく、筋張っていない。
弾力のある男性の肉も旨かったが、どっちかといえば女性の肉の方が好みだな。
『――新たな人間を捕食しました。スキル【洗浄】を盗みました。使用方法:汚れた箇所を水につけこする。スキル【活力強化】:常時発動』
女性を食べていると2つのスキルを盗む事に成功した。
1人で2つのスキルを手に入れられるなんてラッキーだ。
特に【洗浄】のスキルは名前からもうその効果がなんとなく分かり、自分の体に着いた返り血をしっかり落とせる様になった事を確信する。
もう1つのスキルは名前だけではさっぱり効果が分からない。
活力って事はやる気が漲るとか疲れにくくなるとかそんな効果か?
『スキル:活力はスキル保有者の自然治癒力を高めると共に疲労を軽減する効果を持ちます。怪我をした箇所は通常の数倍又はそれ以上の早さで回復します。それでは貴方に神の御加護がありますように』
俺の質問に迅速に答えてくれると、アナウンスはさっと消えていった。
いきなり頭に声が流れる事に1番初めは多少驚いたが、こう何回も同じ事を繰り返してると流石に慣れるな。
「――が、あ」
一先ず危険が去ったようなので俺はゴブリンの死体を川に流し、血の跡を見つけられないように地面を掘り、土を被せた。
ゴブリンは見た目以上に重く、なかなか川下に流れていってはくれない。
他の仲間にここで見つけられると警戒される可能性もあるから、次からは土の中に埋めるのがいいかもしれない。
何もする事がない時は先行してどこかに墓地を作っておくかな。
それじゃあ片付けも済んだ所で今度は【洗浄】を試してみよ。
荷物を下ろして川に体を浸からせる。
みるみる体温が下がり若干体調が悪くなるが、それでもこの固まった返り血だけは落としておきたい。
表面の簡単な所は拭き取るだけで済んだが、鱗に引っ掛かった汚れはそうはいかず、実はずっともどかしく思っていた。
ひょーっ!寒う……確か、擦るだけでいいんだよね。
俺は寒さで動きが鈍くなっている体で必死に体を擦った。
すると体から小さな泡がブクブクと現れ、みるみるうちに汚れが落ちていく。
俺の村では洗濯の仕事は女性が担ってくれていて、自分で服を洗う事はなかったが、その時も今と同じように泡が溢れ出ていたんだろうか?
そういえば男と比べて女性は肌も綺麗で匂いも無臭に近かったっけ。
――ぶるぶるぶるぶるっ!
一通り綺麗になった事を確認すると、俺は川から出て体に付く水滴を弾き飛ばした。
人間と違って乾かすのが楽なのは嬉しい。
さて腹も満たして、体も洗った。
ゴブリンの巣を住処にするのはまだ無理だから……そっちの木の上を寝床にするか。
寝る場所としては狭すぎるけど、寝相いい方だから大丈夫、きっと。
俺はその辺に落ちている木の枝、伸び散らかった雑草を集め滝とその付近を見渡せる少し太めの木に寝床を作り始めるのだった。
よっしゃ、いっちょやってやるか……ってもう傷口にかさぶたが出来てる。
【活力強化】……これも当たりスキルだったか。
◇
――来たっ!ゴブリンが2匹と人間が1人!
『【鑑定lv2】』
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種族:ゴブリン
状態:興奮
スキル:無し
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種族:ゴブリン
状態:興奮
スキル:無し
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種族:人間
状態:気絶、流血【小】
スキル:洗浄、料理
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ゴブリンの巣の近くに寝床を作ってから早3週間、ゴブリン達を常に観察して分かった事がある。
ゴブリンは夜出掛けて数日経った朝方に帰ってくる。
それも1回に出掛けていく数は30匹以上。
目的地は全員同じっていう訳じゃなくて2、3グループに分かれて別の方角に。
その内帰ってくる数は半分程。
女性を連れて帰ってくるのが恒例で、1回出掛ける事にぜんぶで4、5人は連れて帰って来ている。
全員で帰って来れていないのは村や街で返り討ちにあっているからだと思うが、毎度毎度ゴブリン達が意気揚々と帰ってくるの所を見ると、仲間が死ぬのは当たり前でむしろ死んでもいい囮役を事前に用意しているようにすら思える。
そこまでして女を持ち帰る事のメリットがなんなのか……それは夜な夜な響き渡るゴブリンの淫靡な鳴き声が教えてくれた。
こいつら、ゴブリンは俺の思っている以上にその理性を性欲に蝕まれている。
まぁ醜悪な見た目以上にその思考が気持ち悪く思えた事もあって俺のゴブリン狩り、もといゴブリン殺しは面白いくらい清々しく行えているけど。
ただ1度だけゴブリンを殺しすぎた所為なのか、昼間巣の中から異様な雰囲気を醸し出す個体が顔を出した事があった。
【鑑定】の結果そいつはゴブリンエリートという種族で見た目はゴブリンの上位互換。
そんな奴が巣の入り口に様子を見に来ているって事はどう考えても邪魔する敵の殲滅が目的であり、その自信があるという事。
戦って勝てる保証もない、それに何かしら直ぐ巣の中に伝達するスキルを持っている可能性もあると思った俺は、絶対に見つからないように息を潜めて数時間その場から動く事はなかった。
あの時を思い出すだけでまだ冷や汗が出るが、あれのお陰で俺のゴブリン殺しと人間の横取りのパターンが決まった。
1回出掛ける度に殺すのは最大で2グループだけ。
しかも連続では殺さない様に、1回殺した次のグループは絶対に殺さない。
間隔が空き過ぎているようなら一旦スルー。
夜はゴブリン達が活発になるので行動をしない。
それを守ってここ2週間はかなり慎重に動いている。
今は間隔も空けているし、前に人間を持ち帰ってからそんなに経っていない。これは絶好のチャンス。
慎重になりすぎるがあまりここ最近はフラストレーションが溜まって溜まってしょうがない上に十分な食事も得られていない。
もう1秒だって我慢出来ない!
俺はこの3週間でlv2になった【鑑定】を一応使うと、その情報を横目に勢い良くゴブリン達に襲い掛かった。
1匹のゴブリンの首には尻尾を巻き付け、もう1匹にはファイアブレスを吹き掛ける。
不意打ちだった事もあってそれらの行動で1匹を絞殺、もう1匹に火を纏わせる事が出来た。
俺のレベルは現在3まで上がり、尻尾で絞め殺す事も出来る位力は強まり、火を纏わせた状態なら……。
「ききっ! き、あ……」
こうやって腕ごと体を尻尾で押さえつけているだけで簡単に倒す事が出来る。
最初はびびっていたが最早こいつらは雑魚。
後もう少し……レベルは倍の6。
あとは攻撃系のスキルをいくつか盗めたら巣を攻めてもいいかもしれない。
もう1ヶ月位はそうやって生きていった方が間違いな――
「ぎぎぎゅああああああああああああああ!!」
その時、ゴブリンの巣の入口付近で大きく突き抜けるような甲高い鳴き声が響いた。
しまった……ゴブリンエリートにばれた。
俺は急いでその場から離れようとしたが、いつの間にか火が燃え移り縄から解かれた女性が俺の尻尾を掴んでいた。
もしかしてこの女性は俺に助けを請いているのか?
人間同士であろうと自分の身の安全の為なら他人を見捨て殺してしまう。
それがモンスターと人間という立場なら尚更だ。
ゴブリンの巣からはもうぞろぞろとゴブリンが出てきてしまっている。
俺は女性を助けない。むしろ俺が少しでも助かる可能性を上げる為に食う!
悪くは思わないでくれよ。
だって俺は人間じゃなくてその敵、ドラゴンなのだから。
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