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4話 初めてのモンスター

 ――そろそろ入るか。


 ダメージを負った人間が森から大分離れたのを確認すると、俺はそろりそろりと森に踏み込んだ。

 人の通った跡がギリギリ道の様になっているけど、ちゃんとした馬車道はない。


 思えばさっきまでいた草原にこの森への道は無かった。


 多分だけど、普通の人間はこの森への侵入をしない。

 もしかしたら近隣の村や街の一般住人には侵入禁止となっているのかもしれない。

 冒険者みたいな職にはそういった法は適用されないからさっきみたいな人間達が極まれに現れるのかもしれないけど……。


 とにかく、それだけこの森は危険って事だな。


 高く生い茂る木々を避け、草花をかき分けながら最新の注意を払って俺は森の深い場所に進む。

 

 モンスターがモンスターを襲っている所なんて見た事はないけど、この森に棲んで食料となる肉を手に入れようと思えば、普通他のモンスターを狩る事になるはず。

 さっきみたいな冒険者だけを餌にする奴らもいるだろうけど、それってやっぱり期待薄だよなぁ。


 ――がさ


 モンスターに攻撃されない事を祈りながら進んでいると、正面で遠くの草むらが不自然に揺れた。

 風……なわけがない揺れ方。

 ここを進めば間違いなくモンスターに鉢合わせ。


 人間を1人食ったとはいえ、こっちはまだ傷が癒えてない。

 もしこの先のモンスターがさっきの人間を追い詰めた奴だったとしたらあっさり殺されてゲームオーバーだろう。


 取り敢えず様子を窺う為俺は一番近くの木に近寄りそれに登った。

 森全体が薄暗くて見晴らしは良くない、それに足場にしている木の枝が思いの外細くて不安定。

 それでも今は下にいるより安全なはず。


 さぁて、どんなモンスターが出てくるのかな?


 俺は緊張の中に高揚感を感じながら音のする草むらへと視線を向けた。

 するとそこから俺と同じくらいの大きさの黒くてひょろ長いのが一匹。

 見た目からしてそこまで強そうではないけど一応鑑定だけはしておこう。

 スキルは使った回数によってレベルアップしてくれるみたいだしな。


-------------------------------------

種族:ヒルスネーク

状態:吸血中

-------------------------------------


 状態吸血中。

 よく見れば口に何かを咥えてご機嫌な様子で森を闊歩しているようだけど、あの銜えてるのって他のモンスター? モンスターの部位?

 分かるのはヒルスネークが何かに勝った戦利品としてあれを咥えているかもしれないっていう事。


 拾っただけかもしれないけれど、モンスターや人間を倒してそれを咥えているのだとしたらそこそこ強そうな相手だ。

 ここは静観して通り過ぎてくれるの待った方がいいのかも――


「ききっ!!」


 ヒルスネークを木の上から観察していると、暗がりから1匹のモンスターがヒルスネークの正面に現れた。

 流石にこのモンスターは絵本にも度々登場して俺でも知っているくらい有名だけど、取り敢えずの鑑定は欠かさない。


-------------------------------------

種族:ゴブリン

状態:流血【小】

-------------------------------------


 ゴブリンはなにかと戦った後なのか俺と同じ状態で肩や横っ腹から少しだけ血を流している。

 ただそれでも、ヒルスネークに躊躇する事無くゴブリンは持っていたこん棒でヒルスネークの頭を叩いた。


 ヒルスネークはその衝撃で咥えていた何かを離すと、反撃をするどころかそそくさとその場から逃げていった。

 ゴブリンは俺の知るところだとかなり弱い部類のモンスター。

 人間、特に女性を捕まえる為に村や街に現れる事もしばしばあるらしいが冒険者でなくても撃退は出来る強さで、例えるなら10歳にも満たない子供位の強さなんだとか。


 そのゴブリンがこれだけ図々しく生きているなら俺もこんなに怯えずに堂々としててもいいのかもしれない。

 傷が良くなったら仲間探しの前に弱いモンスターを殺しまくってレベリングするのも悪くないな。


「ききっ!!」


 ゴブリンはヒルスネークが落とした何かを拾い嬉しそうに飛び跳ねる。


 咥えられていた時はそれが何かが分からなかったけど、あんなに高らかに持ち上げてくれればそれが何か簡単に分か――



 あれ、人の指じゃん。



 もしかしたらゴブリンも人を食う習性があって、その食料を今のヒルスネークが盗んでいたっていう話なのかもしれない。

 と、いう事はあのゴブリンの巣には人間がいる可能性が高い。しかもそれは無抵抗の人間。

 生きてはいないだろうけど、それでも食料としては最高、スキルも簡単に手に入れられるかもしれない。


 ここはあのゴブリンを襲うんじゃなくて巣に帰るまでついていくのが賢いかも知れないな。


「きききゃっ!」


 俺は木から降りると駆け出したゴブリンを追った。

 その速さはそこまでではない。

 敢えて距離を開け見失わないように、そして気付かれないように慎重に……。


 これで人間っていう食料のストックを手に入れられたら……俺のモンスターサバイバル生活は最高のスタートになるな。



 ――ざああああああああああああ。


 ゴブリンの後をついていくと川のある少し開けた場所に出た。

 そして川に沿いながら進んでいくと大きな音を立てて流れていく大滝が姿を見せた。


 ゴブリンはその滝を見るとふうっと一息ついて胸を撫で下ろすと滝に近づこうとする。


 間違いない。ここがこいつらの巣。

 滝の裏に大きな穴が見える。あれが巣入り口。滝裏の洞窟なんてちょっとおしゃれじゃないか。

 さて、ここまでくればこいつに用はないし、その指をもらってしまおうかな。


「きき!?」


 俺は滝の脇にある通路みたいなところにゴブリンが差し掛かると、ゴブリンの首に噛み付いた。

 ゴブリンは俺の存在に全く気付いていなかったのだろう、驚きの声を上げながら目を見開いている。

 ばたばたと手足をばたつかせて、俺に攻撃を仕掛けようとしているけど完全に背後をとってしまえばそんなのは全く気にならない。


 ただ、大声で仲間を呼ばれるのはしんどいからまず喉を噛み切らないと。


 首の後ろを骨ごと噛み千切り、ゴブリンがその場から動けなくなると俺は正面に回ってその喉に噛み付いた。

 ゴブリンは声を出したいのか口をあぐあぐと動かしているが、出るのはひゅーっひゅーっという空気の漏れる音だけ。

 もうこいつが俺に対して出来る事はない。

 そのまま放っておいても死ぬだろうが、ここまで連れてきてくれた事に感謝して俺は一思いに喉を噛み切ると続けて頭に噛み付き頭骨を割り、脳をぐちゃぐちゃにしてやった。


 口の中に広がるゴブリンの脳の味。

 首や喉にもあったが癖のある匂いと酸味は更に強い。

 人間と比較すると遙かに不味い。

 これを食べるのは本当に食料に困ったときだけだな。


 俺は指だけを預かると、死体となったゴブリンをそのまま滝の下に落とした。


 ゴブリンにそこまでの知能があるとは思えないが、もし死体を原因に俺の存在を知られて大捜索なんかされたらたまったもんじゃないからな。

 ……さてと、それじゃあこれを頂くとするか。


 俺は唾を飲み込んで喉を鳴らすと、ゴブリンの持っていた人間の指を口に入れ咀嚼した。

 意外にもジューシーで血はそこまで凝固されておらず、やや新鮮さが残っている。

 もしかするとこの指の主は最近殺された、或いはまだいきているのかもしれない。


『新たな人間を捕食。スキル【カリスマ】を盗みました。使用方法:常時発動』

お読みいただきありがとうございます。

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