3話 レベルアップ
勇者を食ってやる。
転生したばっかりで目標があるってのはプラスに捉えるとして……そろそろこいつを食ってやるか。
「た、のむ。まだ、死にたくねえ。死にたくねえよ。母ちゃんに会いてえ、とびっきり甘いものを腹一杯食いてえ、女を抱きてえ……やでぃらい事がまだ、まだ」
目はもう虚ろ。口が上手く回っていないし言葉もうわ言になってるな。
ぴくぴくと体が痙攣しているところを見るともう動く事は出来なさそうだ。
この状態までいくと食ってやる事が善意になる気もしないでもない。
「が、あ」
俺はドラゴンである自分の体からなんとか食事の挨拶『いただきます』を絞りだそうとしたが、人間の言葉はどうやっても出せそうにない。
姉さんが神官だった事もあって、食事の際の挨拶は欠かさなかったから無言で食うのは違和感が……あ、でもさっきこいつの手をそのまま食っちゃったな。
でもさっきのは味見だから! 神様! どうかお許しを!
……よし。それでは改めて、『いただきます』。
「ま、まっでぎゅえ――」
俺は心の中で神への謝罪を済ませて食事の挨拶も済ませると、男の首筋に噛み付いた。
手に噛み付いた時よりも勢いよく血が口の中に流れ込む。
やっぱ美味い。
首の辺りも美味いが……腹の肉も、腿の肉も、骨の髄も全部美味い。
ぐちゅ、ぎぎゅぐべじゃ、ごりばりがりっ! ずじゅうううううぅ
――ふぅ。ごちそうさまでした。
『レベルが1から2に上がりました。スキル【ファイアブレスLV1】を取得。スキル使用方法:口を開き喉付近に意識集中のみ。詠唱無し。身体能力が向上。レベル5で進化可能。レベルは次第に上がり辛くなります。進化しないままの最大レベルは10。初回レベルアップおめでとうございました。貴方に神の御加護が有らんことを』
再びアナウンスが頭に流れた。
人1人食っただけでレベルが上がったけど、レベルって俺が思う以上に上げやすいのか?
それとモンスターが強くなり姿を変える事があるのは知っていたけど、それがこの進化なのか?
だとしたら思いの外早くこの小さい姿にお別れする事になりそうだ。
因みに今の俺ってあの男達が言ってたドラゴンでいいのか?
もしかして一応羽は生えてるけど……進化しても大して強くなれない種族なら勇者を殺す、食べるなんて夢物語でしかないぞ。
『【鑑定LV1】を自身に使用する事も可能です』
おお、もしかしてこのアナウンス俺の質問に対して何でも答えてくれるのか?
いくらモンスターに対してとはいえ過保護過ぎな気もするな。
『お答え出来る事は限られています』
律義に俺の疑問に答えてくれるアナウンス。
どうせなら今何が答えられるのか、何が答えられないのか色々質問してみるか。
今後の事を考えればアナウンスさんとは懇意にしておく方がいい気もするし。
『それじゃあ質問だけど、この世界は俺が元々生きていた世界と一緒か?であれば俺を殺した勇者はどこにいるんだ?』
『同じ世界です。私はあなた以外の勇者、また個人の情報は分かりません。私は地域、国などの詳細情報についても分かりません』
『――次の質問。スキルというのはどういった条件で手に入るんだ?レベルアップか?それとも別の条件があるのか?』
『スキルはものによって取得条件が異なります。【ファイアブレスLV1】に関してはレベルアップ、【ガニバリズムLV1】に関しては人間を初めて食べるという条件を満たした為です』
『――さっき自分の事を【私】といったが、お前、いや、あなたは生きてるのか?』
『複数のアナウンスシステムの1つであり生命ではありません。感情もありません。一人称は全て私で固定されています』
『――システム、それは神が作ったんだよな? それはどうやって? 神とは一体どういう存在なんだ?』
『……私は生み出された方法についてお答え出来ません。神は至高の存在で創造主です。それ以外の情報は分かりません』
『――最後に……強くなる為には、目的を果たすにはどうしたらいい?』
『信頼度の高い仲間を集める必要があります。弱いモンスターは強い敵を倒す為に群れで戦います。それでは貴方に神の御加護がありますように』
結局分からない事だらけだったが、つまりこの世界仕組みについての内容がアナウンスシステムに搭載されていないって事なんだろう。
無駄な処理をさせて負荷をかけない為とか、そんな感じか?
……ただ、俺の頭になかった答えを得られたのは大きいな。
『信頼度の高い仲間、か』
アナウンスの言葉を反芻すると、俺は一先ず食い終わった人間が持っていたポーチを漁った。
食事の後には口をゆすいでおきたいから……お、あったあった。
ポーチから水筒を見つけると俺は自分のその小さな手で蓋を開けて中に入っていた水で口の中でべたつく血を洗い流した。
ポーチはサイズ的に俺の身体でも運べそうなので、身体に装着させ、空になった水筒もその中に入れ飲み水用にとっておく。
今の強さじゃ人間を何人も相手にするのは不可能。
到底人間のいる里に下りられない。
しばらくは俺の背後に見える森でサバイバルをしなければならないのだろうけど、丸腰状態で突っ込むのははっきり言って不安だったからこうして道具を手に入れられたのは有難い。
生まれたばっかりで最悪なスタートになったと思ったが、むしろラッキーだったのかもな。
――森かぁ。モンスターがわんさかいるだろうけど、仲間に出来そうな奴とかもいるのか?
人間の時俺の村でもモンスターを使役していた。
四つ足で力が強く農業用に用いられた『マダラキャウ』、機動力が高く他の村に出掛ける際や狩りに出かける際のお供だった『リュマ』、空いた家を守護、また毒を嗅ぎ分ける仕事を担わせていた『ワンポ』。
どのモンスターも村の中で繁殖をさせており、人間に対して一切攻撃を仕掛けてこなかった。
そんな都合のいいモンスターがあの森にいるとは到底思えない。
だが他に向かうところもない。
俺は傷ついた体をぺろりと舐め、早速森へ徒歩で向かう。
本当は飛んで行きたかったが、どれだけ力を込めても跳ねてみても飛ぶことは出来なかった。
翼があるのに飛べないのはまだそれ用のスキルが無いからだろうか?
――スキル……。
そういえば自分に【鑑定LV1】を使うの忘れてた。
『【鑑定】LV1』
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種族:ベビードラゴン
状態:流血【小】
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ドラゴンではあったけど、まだまだ一端の個体には遠いみたいだ。
そういえばスキルのLVってのがあるけどこれが上がれば今よりももっと見たい情報も見れるのか?
もし出来るのなら、冒険者のスキルを見て襲ったり、ヤバそうなモンスターの判別、後は仲間に出来そうかどうかってのも確認したいな。
『スキルは使用回数に応じてレベルアップします。スキルを保有している対象のレベルに応じて限界値が変わります』
……過保護、もうこれ姉さん並みじゃん。
ここまでしてもらって呼び捨てもあれだからアナウンスさんって呼ぶ事にしよ――
――がさ
目の前の森を抜けてきたのか、木の影から草むらをかき分ける人間の姿が見えた。
レベルが上がったとはいえ、この状態でまた人間を相手にするのは無茶。
俺は相手がこちらに気付く前に急いで近くの岩に隠れた。
体が小さくて助かったな。
「くそっ! あいつらパーティーメンバーの俺を見捨てて自分達だけで卵を持ち帰りやがって……。なんとか助かったから良かったものの……街であったら覚えておけよ」
ボロボロの体と服。
しかし、その雰囲気はさっきの2人とは一味違う。
モンスターとしての本能が機能してるのか、間違いなくあいつは強者。
あんな人間があの様なんて……この森ちょっとやばい所なのか?
あーっ! 怖がってばかりいられないぞ俺。
どっちみちこの開けた場所に居たら食い物も飲み水も寝床も手に入らない。
それどころか、強い人間に簡単に見つかって殺される未来も……。
……あの人間がいなくなったら突っ込む。
頼む、ヤバいモンスターの攻撃の対象が人間だけであってくれ。
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