5、召喚の儀
「うーん、良かった出待ち無し。」
いやーこれでも結構昔の特徴残し過ぎたかなって思ってたんだけど流石に分からなかったのかな、後ろからストーキングしてくる相手も町の出口で出待ちして「こんにちは!死ね!」をしてくる相手もいなかった。いやぁ治安良くなったなこのゲームは。β初期にはPKの規制が緩すぎて初狩リスキルが横行したものだ。
「当時最強は蛮族だったからなぁ。」
初期を思い出して懐かしむ。いや蛮族の魔法耐性はEと最低ラインだったのだが、レベル上げて防具揃えて奇襲仕掛ければ並み以上の相手じゃなければ魔術師すら速攻で屠ることができたのだ。あれは結構クソゲーだった、実際2日で修正パッチ来たぐらいには。
「なーに一人ブツブツ言ってるんだスノ…今回はセットか。」
「ゆk……なんだ武蔵坊辞めたのか?鞍馬。」
後ろから話しかけてきたのは諭吉だった。前回は武蔵坊を名乗って各地で武者修行と言う名の1v1を繰り広げていたのだが、どうやら今回は止めるようだ。まああの名前でずっとやってたら初回から絡まれ続けるだろうからな、俺とは別のベクトルで。
「いや、蛮族今回どうなるのかなって。」
「ああ、俺以上の山猿たちか。」
結構な物言いだ、諭吉お前も方向性が違うだけで結構野蛮なプレイだったぞ。
「セットはもう召喚した?」
「いや、狩場でやろうと思ってる。」
一応町で召喚も可能だった。でもあそこでやったら確実にPKのお兄さんもしくはオネエさんたちが来ることだったろう、龍喚士がわざわざ殺してくれってやってきたぞってな。そんぐらいにはヘイト買ってるんだよな召喚士。
「そういえばヒビキと狂華には会ったか?」
「いんや…多分先に行ってるんじゃね?」
俺たちにはβの頃から行動を共にしている仲間がもう二人いる。どっちも女子なのだが別に浮ついたことの無いゲーム仲間と言う奴なのだけども。いや前言撤回、隣にいるこいつがクソボケのニブチン野郎だから好意に気が付いていないだけで、そこがどうにかなれば浮ついたことにはなるな。
「狂華……アプローチもう少し考えないとなぁ。」
「?…どったの?」
うーん、変えるべきはコイツかもしれんな。いや唐変木を変えるのは無理があるか。
まあ…その…頑張れ!
「いねぇ……まだログインすらしてないのか?」
「そじゃね?ヒビキは知らんけど狂華は進学校のエリートだし大変なんだろ?」
町はずれの森林、ビガンから次の町ファウストへの道のりとは真逆の方向に行ったところに例の狩場は存在する。これはβ版後期、マップ研究中に偶々発見した穴場ポイントだ。発見後それとなく狩場の位置を聞いたりして未開の場所だということも発覚したのだから俺らで占拠しようぜって感じになったのだ。
まああまり褒められた内容では無いけども、まあ仕方ないでしょ。一応見つけようと思えば見つけられる場所にあるのに探せてないのだから、初めて見つけた俺らが有効活用しても別にいいだろう。俺らを責めるというのならまず研究しなかった自分たちを責めるんだな。
「先狩りでもするか?」
「そだな、召喚して先狩りしておくか。」
先に狩っていても別にあの二人だったら許してくれるだろう。まあどうせ俺のレベリングが結構かかるだろうから先に始めておかないと逆に置いてかれるんだよな。
「ってことで召喚の儀を行います。」
「つっても最初の確定一回やるだけっしょ。」
おいうるさいぞ旧一万円札、別にいいだろ最初の一回は特別なんだからさ。しかも最初は素材いらずの種族確定ガチャなんだぞ、運営の心意気なんだぞ。
「あー、なんか意気消沈って感じだ。」
「そう言いながらも手はコンソール走ってるぞ。」
そりゃ召喚したいもん、ドラゴンは速きを重んじるんだぞ。
「はい召喚陣完成。」
「うわーお、やっぱり龍の召喚陣だ。」
確定ガチャ何が出てくるかな、飛竜系かそれとも地龍か、はたまた水龍系統か。魚竜は龍じゃないので別カウントです。
「お゛っ!?びっくした。」
「演出変わったんだな、咆哮が聞こえた。」
昔はただ光るだけだったんだがな、まさか咆哮が轟くようになるとはな。運営ニクイねえ。
ベキベキと陣が崩れ始める、それと同時に鱗で覆われた顔が出てくる。この形状から水龍ではないことだけは確定した。あいつら滑々してて結構両生類っぽいからな、コイツは完全に爬虫類の顔だ。
次に見せたのは翼膜、これで完全に飛竜であることが確定した。うーんいいねこの色、黒みがかった赤に綺麗な翼膜、惚れ惚れしてしまうな。
『ベビードラゴンLv1を召喚しました。』
『称号:龍喚士を獲得しました。』