4、hello,new world
「そうそう、キャラメだけ俯瞰視点なんだよなこのゲーム。」
いやまあ普通俯瞰視点じゃなかったらキャラメイクなんてできるはずが無いんだけども。
でもフルダイブ型が開発された当初のゲームはそれはもう酷くて、鏡を見ながらキャラメイクとかいう荒業を要求されたのだ。一度中古屋で買ってきたフルダイブVRの先駆者『ロマンス・ハネムーン』をやってみたのだが、あれは結構酷かった。主人公の顔をいじれるというギャルゲーらしからぬ奇抜さと直で体験できるを売りにしていたのだが、精巧な顔を生み出すのに100時間使うとすら言われた酷評なのだ。俺はもうあきらめてデフォ顔のままプレイした。まあ普通に面白かったとだけ言っておく。
「ええと確かプリセットの48番を呼び出して―の……あれ違うな。」
ここで誤算が一つ、正式サービスによりプリセットが変更されたようだ。48番の見た目は確かこう柔和というかなんというか、朗らかで胡散臭そうな青年って感じだったんだが、これはどう見てもおっさんだな。
「…いちからやれって感じか。」
ええい面倒くさい、キャラメにはあんまり時間かけたくないんだよ。ドラゴンと触れ合う時間が短くなるし、何より凝り過ぎると特徴が書きやすくなってPKされやすくなるんだよ。特に龍喚士やるってんだから少し地味目にするか量産型主人公顔にしとかないとずっとレイド状態になるんだよ。流石に序盤からリスキルされ続けるのは堪えるからな。
「多分この目で……いやもしかしたら3番か?」
あ、やっべこれ確実に沼るパターンの奴だ。
「あ゛あ゛ぁ……終わらねえぇ……。」
あれから多分30分は使ったはずだ。予定だったら三分程度で終わらせていたはずだから10倍もの時間をロスした。この時間は結構痛い、だって多分召喚はもう済ませてただろうし最速で動けてたら狩場には一番乗りで入れたはずだ。
ワンチャン最終日に見つけた狩場も暴かれている可能性がある、もしくは俺と同じように正式版で独占する為に秘匿しておいた可能性まである。つまりはスタートダッシュで差をつける必要があったのだ。
「なんでプリセット変えるかねぇ……。」
ええと身長がこうで、肩幅はこれぐらいと。ああプリセットがそっくりそのままだったらここまで苦労しないのに。
「ええい、もう終わりじゃ終わり。」
無難も無難、俗にいうテンプレ的な顔立ちに少しだけオリジナル要素を加えた量産機体。それがようやく完成する。
「設定その他はもうβ版を引き継ぎでおしまい、さっさとログイン。」
計測結果、キャラクリエイトに45分使用。想定のタイムを大幅にオーバーしてしまった、再走できるのならしたいですねやっぱ絶対しない。
「ビガンよ、私は帰ってきた。」
始まりの町ビガン、多分ビギナーから取っているこの町は冒険者であるプレイヤー全員の初期リス地点だ。ほら回りを見てごらん、同じような初期装備に身を包んだカラフルな髪の群れが見れるよ。原住民たちは何も思わないのだろうか、それとも俺たちは野草のようにいきなりすっぽりと生えてくるとでも思っているのだろうか。もしかして皆旧ソ連陸軍思想をお持ち?
とりあえず変更点が無いかステータスだけでも見ておこうかな。
─────
PN:セット 職業:召喚士 Lv1
ステータス
体力:E 精神力:B- 筋力:E 忍耐:E- 敏捷:C- 意外性:C
スキル
無し
装備
頭 旅立ちのバンダナ
胴 旅立ちの服
手 旅立ちの籠手
足 旅立ちのブーツ
─────
「うっわひっで。」
このゲーム、レベル以外では数値データが現れないのでこのアルファベットに沿ったもので想像する、もしくはDPSチェックで実数値を計るしかない。でもまあレベル1の頃の実数値ぐらいは何となく想像できる範囲内にある。多分コレは最低クラスだな。
「弱体入り過ぎだろ、これ趣味枠になってないか?」
流石に調整が入ったβ版でも体力も敏捷もCだった、それに意外性とは幸運のことなのだが、これだってBあったんだぞ。流石にこれは下げ過ぎじゃないか運営。
「ネタ枠にまで落ちたかそれとも召喚獣にバフが掛かったか……後者で頼むわ。」
兎に角さっさと狩場に移動しますかね、多分あそこなら人いないだろうから召喚だってできるし、何よりいちゃもん付けられずに済む。
それにどうせ諭吉“たち”だっているだろうからな。あの狩場は俺らしか知らないだろうし。