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加護なし少年の魔王譚  作者: ジャック
1章
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第4話 試験③

「では、レイシェレム学院編入試験の合格者を決めます。今回の合格者は20名とさせてもらいます。」


ここはレイシェレム学院の職員会議室の中。ここにはレイシェレム学院の全教師が集まっている。


「ユリアム=ストラー……。確か……性格に少し難アリということで進学試験を落とした生徒でしたね…」


「えぇ…。しかし今回は特に問題を起こしてはおりませんでした。それどころか魔法の精度は前に比べ少し上昇しておりました。この編入試験の中では間違いなくトップクラスでした。さすがは元Bクラスという所でしょうか。Aクラスへの昇級も考えられるでしょう」


「……それもそうですね」


会議は次々と進んでいく。362人の中からわずか20人を選ぶのだ。試験官が見て半分を落とし、残り半分中から20人を職員会議で決める…というのが試験の実態なのだ。しかも試験官以外の教師も試験の外から見ていた。なのでスムーズに進む。


「次はラルク=フォードですね…。」


「出自は平民ですが、親が騎士団と魔道士団に所属していますね…」


「あぁ!ハルクの子供か!そうか…」

「忖度はなしですよ」

「わかっておる。」


ここには元は騎士団や魔道士団の最前線で活躍した者も少なくはない。"英雄"、そう呼ばれるものもいる。年を重ねれば自然と同僚の知り合いは多くなる。ここには魔道士団や騎士団を目指すものも多いので忖度が発生しそうなものだが、厳粛に行われているため発生しない。


「筆記試験ではいい成績を残すことはできていませんが実力はかなりのものでは無いでしょうか?Eクラスとはいえ元レイシェレム学院のレーチ君を倒しているわけですから」


「そうですね…では、19人目の合格者はラルク=ジュードで決定でよろしいですか?」


「「「「異議なし」」」」


こうして会議は進み、最後の一人を決めることになる。


「しかし…ココ最近は豊富ですな!既に我らが学院には勇者や聖女、賢者など名だたる加護持ちの生徒がいる!いやー、巷では今の世代を混沌の世代(カオスエイジ)などと呼ぶ人もいますが否定できますな!」


「わっはは」と会議から笑いが飛び交い始める。勇者や聖女、賢者、聖騎士など今、この学園には10年に1度とも言われるような加護が勢揃いしていた。どの加護を持つものも将来の国を担う星である。魔族との戦いでも期待されている。


しかし、


「……ゼノン……スカーレット……」


誰かがその名を呟いた。その瞬間に場はしずまりかえる。


「件の無加護ですか……」


「そもそもなぜ試験など許したのだ!」


「私です。すみません…。仮にも実力主義を謳っている以上、試験は許した方が良いかと思いまして……」


その女教師の言葉を誰も否定できない。実力主義を謳ってはいるが加護で入学を決めることはある。いい例として勇者や聖女がある。


加護で選ぶ理由としては才能やこれからの伸び代が遥かに高いからだ。最高の才能は最高の環境で育てたい。それは国の意向でもある。


「べ、別に入学を認めなくてもいいんではないでしょうか?過去には入学者が0などという年もありましたし…。私も試験を見てはいましたがあ(・)れ(・)はほとんど反則でしょう…」


教師の言うあれとはもちろん体力試験の1つ目のことだ。


「あれは魔法の威力、正確性を見るためのものです。なので魔法に強い素材を使っておりますがあれでは反則と言わざるを得ないでしょう…」


「しかし…、ユリアムに勝利しているという実績も…」


「試験官は実際に見ていてどう感じましたか?」


「無加護は全く魔法を使っていませんでした…。運動能力は確かに高いと言わざるを得ません。しかしそれだけです。筆記試験も平均程度ですし」


「つまり魔法は使えないということですか…。確かに『成長魔法』などという魔法を使っているみたいですし」


「…運動能力は高いでしょうけど、所詮は無加護と言わざるを得ませんね。伸(・)び(・)代(・)は(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)」


ここから議論は白熱していくことになる。


「別に落としても問題ないのでは?」

「入学を許せば貴族からの咎めもありますし、内部生徒からの反発も少なくはないでしょう。そもそも学院の評判に関わります。」

「実力はあるようですが……それに聖女様や勇者様とも出自は同じようですし」

「伸び代はありませんし、彼は平民です!落としてもどこからも咎められません!彼が合格するほどの実力という証拠もあ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)!」

「ここはひとつ…Sクラス担任のファナ先生からも一言頂けませんかね?」


この会議の真ん中に座る教師が隣に座る先生へとへりくだりながらお願いをする。


そして会議が1度止まり、お願いされた銀髪の麗しい女教師に集まる。


女教師は注目を集めているのにも関わらずただひたすらに自分の下にある資料を読み漁る。


(ゼノン=スカーレット…。出自はソツ村…。確かミオさんとアルスくんと同じだったかしら?身分は平民。そして…無加護。試験を見てはいないけど話からは色々わかるわね)


そして1枚の資料に目を移す。それはゼノンの筆記試験の解答用紙だった。


(これは明らかなカンニングね。この部屋の受験者と全く同じ間違いの筆記がいくつか…。でも試験官が分からなかったということはかなり高度なのでしょう。面白いわね)


ペラッとページをめくり、試験官からの実力試験の結果を見る。その間も教師はただ黙って彼女を見つめていた。それほどまでに彼女の発言権は大きいからだ。


"英雄"。そう言われれば思い浮かぶ名前は5つ。そのうちのひとりが彼女なのだ。元はこの学園の理事長だったが、今年の入学者の加護により、国から教師をするよう頼まれたのだ。この中での最高発言権は間違いなく彼女である。だから今までの決定には意見を挟まなかった。彼女の主観で決まってしまうからだ。しかし、そんな彼女に決定を委ねるほどに会議は白熱していた。


(試験は反則ギリギリ…。でも悪くないわ。これはこちらの落ち度。知識は足りないようだけど悪知恵は働くようね。試験を見たわけじゃないけど実力はあるようね。そして……)


彼女の視線がある1点で止まる。


(成長魔法……。ふふ。面白い魔法を使うのね……。私でも……)


パサと資料を机へと落とし、視線を上にあげる。そしてゆっくりと声を開き、透き通るような声が響いた。


「彼は合格という意見に賛成です」


「「な!?」」


その言葉は会議に衝撃を与えた。


「しょ、正気ですか!?それでは評判に関わるのでは!?」


「問題ないでしょう。そもそもこの編入試験の本来の目的は内部生徒への刺激です。彼らに負けないようにと…。なら無加護が入学できたとなればどのような理由であれ、少しは頑張るでしょう。」


「し、しかしそれでは苦情が出ますぞ!?」


「そんなものは気にしなくていいでしょう。貴族からの苦情が出ても大丈夫です。無加護は…この学校のフラストレーション解消のために入学させた─と、そう伝えてあとはご子息の改善点でも伝えておけば納得してもらえるでしょう」


「そ、それはつまり…」


「えぇ。彼はEクラスに入学。いじめにでもあうでしょう。暴力的な…。それも全生徒から。教師(わたしたち)もそうなるよう仕向けましょう。するといじめられやすくなる。彼らが学校や身分、クラスに抱いているフラストレーションを無加護に向けます。そうすることで他の生徒はさらに良い成績を収めるでしょう。退学するなら入学後も楽じゃないという評価を世の中は抱くことになるでしょうし、評判も取り戻せます。所詮は無加護…。神からの祝福がないものなど獣と同じです。どう扱おうが自由でしょ?」


「お、おぉ!さすがはファナ先生!もうそこまで考えておられるとは!この意見に異論のあるものはいますか?」


しー…んと場が静まり返った。つまり……


「では、ゼノン=スカーレットは合格ということにします。」


(ゼノン=スカーレット……。今年は荒れそうね)


自分で荒れるよう仕向けて置いてファナはこれからの学院について考えながら笑った。


「……ゼノン=スカーレット……。成長魔法……。見つけた……、見つけたぞ……それにしてもこんなにもわかりやすいとは……。傲慢にも程があるな……」


そして別のところでは1人、ゼノン資料を見て怪しげにニヤリと笑うのだった。


こうしてゼノンの知らぬところでレイシェレム学院の合格が決まった。

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