木洩れ日の路地と風の丘 AfterStory (久石譲:魔女の宅急便イメージアルバムより)
初めての方もいらっしゃると思いますので、改めて自己紹介をします。私丹波山夏美13歳。小学校の最後の春休みの時に、父の仕事の都合で山梨県上野原市から神奈川県横浜市へ引っ越してきて茅ヶ崎南中学に転入し、吹奏楽部へ入部しました。
入学式の時に出来た友達の都岡美緒さんは父の仕事の都合で夏休みの終わりごろに岐阜へ引っ越してしまいました。その一か月後の出来事です。都岡美緒さんから写真付きの手紙が来て、新しい友達と仲良くなったり、新しい学校でも吹奏楽を続けていると書いてありました。
一方、私も吹奏楽を続けていますが、普段優しい先輩たちも練習の時になると、とても厳しくなり,、言い方もきつくなりますので、辞めたいと思ったことが何度もありました。
しかし自分から入りたいと言った以上、卒業するまで続けるつもりでいました。
そもそも入りたいと思ったきっかけは「魔女の宅急便イメージアルバム」の曲を演奏してみたかったからです。
特に「風の丘」と「木洩れ日の路地」は一番のお気に入りです。
しかも入部した初日に先輩や顧問の前で「演奏してみたい」と口にして先輩や顧問を巻き込む結果となってしまいました。
今は文化祭が近づいていますので、帰りは下校時刻ぎりぎりとなっています。
本当は楽器を持ち帰ってまで練習したかったのですが、私が担当しているオーボエは結構うるさく両親から苦情が来たことがありました。
部活のない日や休日は学校の屋上や近所の河川敷で練習しています。
当日は久石譲の「風の丘」と「木洩れ日の路地」に決まったのですが、いざ譜面を見たら非常に難しく、練習に苦戦しています。
今日もトランペット担当の今宿清美さんと一緒に近所の河川敷で練習していました。
彼女の吹くトランペットはとても音色がきれいで思わずうっとりしてしまって手を休めてしまうほどでした。
「夏美ちゃん、一緒に練習をする!」
「あ、すみません。」
「ちゃんと練習しないと舞台に出られないよ。」
今宿清美さんは二年生で私より一つ年上ですが、友達のような関係でいます。
本人の要望で「ため口で接してほしい」ということでしたので、彼女の前ではため口を使うようにしています。
日が暮れ始め、私と今宿清美さんは練習を引き上げ、近くのコンビニでチョコレートを買った後家に帰りました。
玄関のドアを開けるなり、母が「あ、お帰り。夏美、また楽器持って帰ってきたの?近所迷惑だから音を出さないでね。」
「わかってる。今日は河川敷で練習してきたから、もうやらない。」
「ならいいけど、先日音を出した時に近所から苦情が来たから気をつけなさいよね。」
本当は「うるさい!」の一言を言いたかったのですが、後々のことを考えたら面倒なことが起こるとわかっていたので我慢しました。
夕食と風呂を済ませたら部屋でそのまま眠ってしまいました。
次の日、日曜日でしたので楽器をもって近所の河川敷で練習をしていました。
「お、頑張っているね。」
後ろを振り向いたら今宿清美さんでした。
「あ、清美こんにちは。今日は本村さんと一緒なんだね。」
「うん。」
「夏美、頑張ってる?練習も大事だけどたまには息抜きをしようよ。」
「そうだね。」
彼女は本村明美、パートはチューバを担当していて、私とはクラスメートでもあります。
「ねえ、これから3人で駅前に行ってアイスを食べない?」
「いいね。夏美ちゃんも一緒に行くでしょ?」
「うん。」
「じゃあ、家に楽器を置いてきなよ。そのあとバスで行こうか。」
私は部屋に楽器を置いて、3人でバスの乗って駅前まで行くことにしました。
残暑とはいえ、太陽の光が容赦なしに照り付けてきたので、用意していたサングラスでまぶしさをしのいでいました。
「私、場所とっておくから。」
「ありがとう。」
「二人は何にする?」
「私チョコバナナ」
「私いちご。」
「清美がチョコバナナで、明美がいちごだね。了解!」
そして私はチョコミントにしました。
「よかったら味見してみない?」
「いいね、じゃあ私夏美ちゃんのチコミントもーらいっと。」
「じゃあ、私は今宿先輩のチョコバナナを一口もらうね。」
私たちがアイスを食べていたら後ろの方から人の気配がしました。
「ずいぶんと楽しそうだね。もうじき文化祭が近いと言うのに駅前でアイスを食べて浮かれているなんて、余裕なんだね。」
後ろを振り向いたらアニメ部の牛久保直美さんがいました。
「夏美ちゃん、これでわかったでしょ?これが本当の吹奏楽部の姿なんだよ。諦めてアニメ部に入った方が身のためだよ。」
「牛久保直美、何しにきた?」
「私も暑いからアイスを食べに来たの。それともなーに?私がアイスを食べたらいけない決まりでもあるの?」
牛久保直美さんは少々喧嘩腰で言ってきました。
「別に。私はあんたがアイスを食べたらダメとは一言も言ってないけど・・・私ら他に用事があるから、どうぞごゆっくり。」
話によると牛久保直美さんと今宿清美さんは昔から犬猿の仲で会うたびに喧嘩をしているみたいなんです。
今宿清美さんは少し疲れた顔して先に家に帰り、私は本村明美さんともう少しだけ駅前の店を数件立ち寄って帰ることにしました。
文化祭の練習の中休みの時です。
私が昇降口で靴に履き替えて家に帰ろうとした時、牛久保直美さんに声をかけられました。
「こんにちは。今日は練習休み?」
「はい。ですから私は河原で練習をしようかと思っているのです。」
「少しだけ部室に立ち寄って行かない?」
「でも、練習が・・・」
「そんなに長くいさせないから。」
私は牛久保直美さんに言われるままアニメ部の部室に立ち寄りました。
中はいろんなポスターが張られていて、話によると卒業した先輩たちの作品だそうです。
私は机のある席に座るよう言われました。
「ごめんね。ちょっと乱暴なやり方になって。今紅茶とお菓子を用意するから。」
牛久保直美さんは紅茶とお菓子をお盆に載せて私の前に差し出しました。
「お菓子はマドレーヌでいい?」
「そんな気を使わないでください。」
「毎日練習で嫌になるでしょ?」
「好きでやっていることですし、それに先輩たちはみんな優しいです。」
「でも、うるさく言う人もいるでしょ?例えば今宿清美とか。」
「確かに今宿さんは厳しいですけど、普段はとても優しいです。」
「ふうん、そうなんだ。ねえ、紅茶のおかわりどう?このあと時間とれる?」
「実は文化祭が近いので自主練しようかと思っています。」
「ねえ、夏美ちゃんは見たいアニメとかある?」
「魔女の宅急便かな。」
「了解!」
「明日の放課後時間とれそう?顧問の小机ちゃん、明日は午後から出張でいなくなるから吹奏楽は明日も自主練決まりみたいだし。どう?」
「じゃあ、練習したあとで。」
「了解!明日は千鶴ちゃんが甘いビスケットを用意するみたいだから。」
「千鶴ちゃん?」
「うん、ここの部員の池辺千鶴ちゃん。」
「初めまして、丹波山夏美です。」
「知っているわよ。親の都合で山梨から引っ越してきたんでしょ?そし今は吹奏楽部に入っているんだよね。」
「はい。」
「練習も大事だけど、たまには息抜きすることも必要だよ。そうしないと本番で大きなミスをやって大恥をかくどころか、他の部員や小机先生に迷惑をかけるだけになるよ。」
「そうですよね。」
「じゃあ、明日夏美ちゃんの練習が終わるまで直美が付き合ってくれるそうだから。」
「いいって。結構時間がかかるから。」
私はあわてて断りました。
「牛久保さん、一つだけ聞いてもいいですか?」
「どうしたの?急に改まって。」
「私をアニメ部の部室に誘った理由は何ですか?」
「知りたい?」
「そもそも私は吹奏楽部なので、アニメ部に入る予定はありません。」
「今宿清美にそういうふうに言えって言われたの?」
「違います。私の意思です。」
牛久保直美さんは「負けた」という顔で私に話し始めました。
「ご覧のとおり、うち部員が少なくて結構ギリギリなの。今いる3年生も文化祭が終われば引退するし、そうなれば、2年生は私と池辺さんだけ。一年生も鴨志田さん一人だから、部としては成り立たたなくて、やがては廃部決定になるの。お願い、実際に入らなくてもいいから名前だけでも貸してくれる?普段は吹奏楽部で活動していていいから。アニメ部は月に一度紅茶を飲みながら好きなアニメを見るだけでいいから、お願い!」
牛久保直美さんは半分泣きそうな顔して私に頭を下げてお願いしてきました。
さすがにそこまでされたら、断れ切れなくなり名前だけ貸すことにしました。
「いいよ。その代わり普段は練習で忙しいから無理だよ。」
「ありがとう。」
こうして私はアニメ部との掛け持ちになったのですが、それがのちに面倒な展開になるとはその時は考えもしませんでした。
文化祭までのこり2週間を切った最初の月曜日でした。
放課後の練習を終えた私は顧問の小机先生に呼ばれて、アニメ部と掛け持ちをしたことに対して問い詰められてしまいました。
「丹波山、アニメ部と掛け持ちになったって本当か?」
「はい。でも、なんで先生が知っているのですか?」
「生徒の間でうわさになっていたから、ちょっと聞いてみたんだよ。」
「部の掛け持ちは校則では禁止になっていませんよね。」
「確かにそうなんだけど、文化祭やこれから始まる定期演奏会にかなり響くぞ。そもそも演奏したい曲があるからという理由で自分で入部してきたんだろ。」
「そうなんです・・・」
その時、今宿清美さんが横から口をはさんできました。
「先生、夏美ちゃん・・・じゃなくて、丹波山さんのアニメ部の入部って本人の意思ではなく、牛久保さんにいいようにお願いされて入った可能性が高いと思います。」
「本当か?」
「はい、牛久保さんが半分泣きそうな顔して私にお願いしてきたので・・・」
「夏美ちゃんに一つだけいいことを教えてあげる。人前で泣きそうな顔してお願いするのは牛久保さんの十八番なんだよ。」
「じゃあ、私の前で泣きそうな顔してお願いしてきたのは演技だったの?」
「そうだよ。」
「だって、アニメ部は秋の文化祭が終われば3年生が引退して残りの部員数が3人しかいなくって、やがては廃部になるようなことを言っていたから・・・」
「全部うそ。3年生が受験で引退するのは事実だけど、それでも残っているのは全部で6人はいるはずよ。」
「6人も?」
「1年生が4人、2年生が2人ってところ。だから夏美ちゃんが名前を貸さなくてもよかったわけ。ちなみ名前貸すだけで済むと思わないほうがいいよ。」
「文化祭が終われば冬のコミックマーケットでサークルを出すから、徹夜で同人誌の制作に付き合わされるよ。」
「でも、牛久保さんは『名前だけでいい。月に1度紅茶を飲みながらアニメを見るだけでいい』って言われたから・・・」
「全部嘘に決まっているでしょ。紅茶を飲みながらアニメを見てくつろぐだけだったら、アニメ部ではなく、漫画喫茶か自宅で充分じゃん。」
確かに今宿清美さんの言う通りでした。今振り返ってみるとアニメ部の勧誘は罠だったかもしれないと。
「とにかくアニメ部の退部届は俺が出しておく。今宿ではないけど、お前近いうちに悪質商法の罠に引っかかってもおかしくないよ。」
私は何も言い返せない自分に腹を立て、非常に悔しい気持ちでいっぱいになり、唇を強くかみしめていました。
私は小机先生が用意した退部届の紙に「アニメ部」と書いて提出しました。
翌日廊下を歩いていたら牛久保直美さんと池辺千鶴さんが私ことで思わず耳を疑いたくなるような会話をしていました。
「ねえ直美、あの一年の吹奏楽部に入っている丹波山さんってすごく単純だよね。紅茶とお菓子で釣ったら簡単に入部してくれたんだよ。あれマジでうけた。紅茶を飲みながらアニメを見ているだけで済むわけないのに。」
「実はそのことなんだけど、小机ちゃんがアニメ部の退部届を持ってきたんだよ。」
「マジ?それで受理したの?」
「うちの顧問が受理したみたいだよ。」
「じゃあ、今度は何で釣る?それともいっそのこ吹奏楽部を退部させてアニメ部に入部させる?」
「それも視野に入れているけど、あそこには顧問の小机ちゃんと今宿清美がいるから簡単にはことを運べないよ。」
「大丈夫だよ。あの子かなり単純そうだから。」
「毎日のように来させて、うちの部員にすれば演奏会に出られないどころか、吹奏楽部の退部も決まりだね。」
私はそれを聞いてショックでたまりませんでしたので、翌日の部活の時に今宿清美さんと本村明美さんに昨日のアニメ部の二人の会話について話しました。
「これであの二人の実態がわかったでしょ。あの二人の誘いにのったら間違いなく最後はアニメ部行きになるよ。お菓子につられて行った自分を責めなさい。」
「夏美ちゃんって街頭のアンケートや繁華街のナンパについていきそうなタイプだと思う。」
私は二人が言っていることがまりにも正論すぎて何も言えませんでした。
さらに部長の白根一華さんが「文化祭が近いし、アニメ部の人が声をかけてきてもついていったらだめだよ。」と言ってきました。
次の日の昼休みのことでした。牛久保直美さんが教室にやってきて私を呼んできました。
「今日池辺さんがチョコを用意したから食べに来ない?」
「せっかくですけど遠慮しておきます。」
「どうして?」
「文化祭と定期演奏会が近いので練習に専念したいのです。」
「一日くらい休んだって平気よ。」
「でも、私がいつもみんなの足を引っ張っているので、少しでも頑張ろうと思っているのです。元々自分から入りたいと思って入った部だから卒業するまで頑張ろうと思っているのです。」
「それと同時にアニメも好きなんでしょ?うちの部に入ればお菓子を食べながらアニメが見られるんだよ。今日だって夏美ちゃんのために魔女の宅急便のDVDを用意したんだから。甘いチョコを食べながら一緒に見よ。」
「今日も放課後練習があるので無理です。」
「大丈夫だって。一日サボったって平気だから。今宿清美と小机ちゃんには私の方からきちんと言っておくから。」
その時です。牛久保直美さんの背後に今宿清美さんが立っていました。
「うちの部員が迷惑しているのわからない?牛久保直美。」
「今宿清美には関係ないでしょ?」
「おおいに関係あるわよ。この子はうちの部員なんだから。アニメ部の部室行きたくないって言っているのわからない?」
「アニメ部に行くかどうかは本人が決めることでしょ?今宿清美には関係ないと思うけど・・・」
「夏美ちゃんが困っている顔見て行きたがっているように見えるの?だったら今すぐ眼科へ行って視力検査受けてきなさいよ!」
「わかった。今の気持ちを直接夏美ちゃんに聞けば文句ないでしょ?夏美ちゃん、今のまま吹奏楽部を続ける?それとも辞めてアニメ部に入る?」
私は迷わず吹奏楽部へ残る方を選びました。
「私、やっぱり吹奏楽を続ける。」
「夏美ちゃん、本当にいいの?練習きついよ。帰る時間遅くなるよ。」
「それでもいい。自分でやりたいものを見つけたから。自分の手で魔女の宅急便の曲を演奏してみたいと思ったから。」
「負けた。私の負け。今宿清美、夏美ちゃんを任せたよ。もし泣かすような真似をしたら、迷わずアニメ部で引き取らせてもらうよ。」
牛久保直美さんはそのまま黙っていなくなりました。
翌日から本番に向けて厳しい練習が始まり、帰りもほぼ夕方5時近くで、少しでもミスをすると先輩の雷が飛んできます。
「丹波山さん、本番まであと5日もないの。未だにこんなミスをするなら本番では降りてもらうよ。」
「すみません。」
「じゃあ、10小節目から始めるね。」
先輩の厳しい言葉は鞭よりも痛く感じました。
前日には顧問の小机先生からの差し入れで冷えたジュースが配られました。
「お前たち、明日は本番だ。本番だからと言って緊張せずに今まで通りに演奏すればいい。」
「はい!」
「よし、いい返事だ。明日は思いっきり楽しもう!」
こうして文化祭当日を迎えるのでした。
文化祭当時がやってきました。
みんなクラスの出し物が忙しい中、私一人中庭でオーボエの練習をしていました。
「いたいた。夏美、まだ練習しているの?今クラスの出し物が忙しいんだから、いったん中断して教室へ来てちょうだい。」
クラスメートの舞岡あかねさんが私を連れ戻しにやってきました。
私のクラスはコスプレ喫茶で衣装はコスプレ研究部から借りてきたり、趣味でやっている人は自分で用意する人もいました。
私はキキのコスプレでしたので、黒いワンピース、焦げ茶のショートウィッグに赤いリボン、朱色のパンプスで接客をしました。
本当はほうきも用意したかったのですが、クラスの人から邪魔になるという理由で却下されました。
「夏美ちゃん、3番テーブルにケーキを運んでちょうだい。」
「はーい。」
私は言われるままに紅茶やジュース、ケーキを運んでいきました。
教室内ではBGMとしてアニメソングを流し続けていきました。
しかし中が混んでいくにつれ、マナーの悪い客も入ってくるようになりました。
盗撮やセクハラなど明らかにオタクと言われるような人が喫茶店を楽しむより、コスプレイヤーを見て楽しむ人が多くなっています。
1人スマホで盗撮していた人がいたので、私が注意しに入ったところ、逆切れする始末で大変でした。
「お客様、盗撮はご遠慮ください。」
「なんだテメェ、こっちは客なんだよ。少しは感じよくサービスできねぇのかよ。」
「お客様、うちの生徒が何か不愉快な思いをさせたみたいで・・・」
「おたく担任?じゃあ、もう少し感じよく接客できるように指導しておけよ。」
「招致しました。しかしお客様も先ほど私どもの生徒に対して無断で撮影をされたので、先ほど撮られましたお写真は消去していただきたいのです。どうしても撮影をされたい場合は一言お声をかけて頂きたいのです。」
「それが客に対する態度か?」
「ここは教育の現場であってサービス業ではありませんので、どうしても納得がいかないのでしたら警備員控室にご案内します。」
男性は20歳代くらいでしたが、「ちっ」と舌打ちして教室をあとにしました。
「お客様不愉快な思いをさせて本当に申し訳ありませんでした。」
話によれば先ほどの男性はこの学校の卒業生だったのですが、なぜこのような態度をとったのかは不明でした。
他にも卒業生が連れてきた友達が生徒にセクハラをして警察に連れていかれる始末もありました。
しかし私のクラスに対抗して現れたのが今宿清美さんのクラスでやっている「アリスのお茶会」でした。
女子はアリス、男子は執事の格好で出迎えてくれました。
客の出入り数は五分五分っていう感じでした。
私の学校の文化祭は一位のクラスにはエンディングで金賞としてみんなの前で賞状がもらえるので、みんな必死になっています。
ちなみ文化祭ででた売上金は学校の予算として使われるそうです。
「夏美ちゃん、そろそろ上がっていいよ。この後吹奏楽のステージがあるんでしょ?」
「あ、そうだった。みんなごめん、体育館へ行ってくるね。」
「夏美ちゃん、衣装のままだよ。制服に着替えて。」
私は言われるままに衣装から制服に着替えて体育館へ向かいました。
舞台裏へ行ってみるとすでにみんなが集まっていて、楽器のチューニングをしていました。
「あ、ごめんなさい。今クラスから抜けることが出来ました。」
「お疲れ。夏美ちゃんもチューニングやって。」
私は用意したオーボエで音のチューニングを始めました。
済んだ時点で部長の白根一華さんが「今日は文化祭なので、いつもより肩の力を抜いて楽しんでいきましょう。」と言ったとたん、みんながいっせいに「はい!」と大きく返事をしました。
でも私は急に緊張しました。それを見ていた今宿清美さんが「緊張しなくても大丈夫だよ。あと失敗しても『失敗した』という顔だけはしないほうがいいから。」と言ってくれました。
そして舞台の幕が上がり、顧問が手を振り上げた瞬間、演奏が始まったのと同時に私の緊張も高まり、いつ失敗してもおかしくない状態でした。
1曲目が終わり、2曲目の演奏が始まろうとした瞬間、再び私の緊張が高まりました。
次の曲は私の好きな「風の丘」でした。
曲が終盤に差し掛かる時、指が震え始めました。
「もうだめ失敗する」と思いましたが、今宿清美さんの言葉を思い出して何とか乗り越え、最後の一小節に差し掛かり、無事終わりました。
客席から大きな拍手が送られ舞台の幕が下りました。
私の緊張が収まり、すべてが解放された気分でした。
「お疲れ。」
今宿さんが私に優しく声をかけてくれました。
「ありがとうございます。」
「とてもよかったよ。あえて言うなら終盤にかかる前に、少し音が弱くなったのを感じたけど、私の中では合格点かなって思った。」
そのあと音楽室に一度楽器を置いて、残った時間で出し物を見て楽しむことにしました。
2年生の廊下を歩いていたら、ピエロのマスクと衣装を着た人に後ろから声をかけられました。
「なんでしょうか。」
しかしピエロは無言でした。
「お話が出来ないのですか?」
ピエロはわけのわからないジェスチャーを私の前で見せて何かを訴えかけようとしました。
「できたら声を出してもらえると助かるんだけど・・・」
そのとたん、ピエロは私の手首をつかんで屋上の階段まで連れて行き、誰もいないのを確認したらマスクを外しました。よく見ると可愛い女の子でしたので、驚きました。
「さっきは手荒な真似をしてごめんね。」
「あなたは?」
「あ、ごめん。私はコスプレ研究部の星川みゆきです。あなたの教室を覗かせてもらったけど、キキの衣装似合っていたわよ。」
「ありがとうございます。」
「よかったら、この衣装着てみる?」
「でも、衣装のほとんどが私のクラスが借りているから・・・」
「大丈夫。先輩たちがたくさん残してくれたから、まだあるわよ。」
「みゆきさんが着ているピエロの衣装はこの1着だけですか?」
「たぶんね。私、一度制服に戻るから・・・・。あと、その前に名前教えてくれる?」
「私は1年の丹波山夏美です。みゆきさんは何年生ですか?」
「私は2年。よろしくね。じゃあ、さっそっく部室へ行こうか。」
星川みゆきさんはふたたびマスクをつけて私を部室へ連れて行きました。
入口には「コスプレ体験コーナー」と書いてあり、更衣室と撮影スペースがありました。
星川みゆきさんは制服に戻り、今着ていた衣装とマスク、手袋を私に渡しましたので、私は更衣室で着替えを済ませて、撮影スペースで写真を何枚か撮ってもらおうとしましたが、どうせなら岐阜へ転校した都岡美緒さんに送ろうと思いました。
「この写真、岐阜に転校した友達に送りたいと思っているのです。」
「なら、マスクを被った写真だけだとわからないから、マスクを外して持っている状態も送ったほうがいいと思うよ。」
「そうだね。」
私はマスクを被った時と外した時の写真を撮ってもらい、その場でプリントアウトしてもらいました。
「写真どうする?」
「一時的に預かってもらうのは無理?」
「無理ではないけど・・・・、じゃあ担任の先生に渡すから先生の名前教えてくれる?」
「鴨居先生。」
「ああ、数学の鴨ちゃんね。」
「あの鴨居先生って、みんなから『鴨ちゃん』って呼ばれているのですか?」
「みんなかどうか知らないけど、2年のほとんどがそう呼んでいるかな。夏美ちゃんのクラスではなんて呼ばれているの?」
「普通に『鴨居先生』って。」
「地味だね。もっとセンスのある呼び方にした方がいいよ。」
「やっぱ『鴨ちゃん』って呼んだほうがいいですか?」
「その方が鴨ちゃんも喜ぶから。今日の帰りのホームルームの時に試しに呼んでみたら?」
「そうしてみる。」
「せっかくだから、この姿で鴨ちゃんのところまで行ってみようか。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!さ、張り切っていきましょう。」
「今、思ったのですが写真は鴨ちゃんに渡さないで、教室に置いた方が早いかなって思ったんだけど・・・。」
「教室は今出し物をやっているんでしょ?」
「そっかあ。じゃあ、帰りにみゆきさんから受け取る形でいい?」
「夏美ちゃんさえよければ。」
「じゃあ、帰りまで預かってください。あと連絡先も交換していいですか?」
「いいよ。」
私はスマホを用意して星川みゆきさんと電話番号やメアドなどを交換しました。
「せっかくだから風船も配ってみない?ただ歩くだけだとつまらないから。」
「でも、クラスの手伝いとかあるから。」
「鴨ちゃんにはきちんと事情を説明するから。まだ何か心配事でも?」
「実は私、吹奏楽部に入っているから、今やっているのをばれたら退部になりそうで怖いの。」
「だーいじょーぶ。そんなに心配なら今ちゃんと小机ちゃんにも話しておくから。」
「今ちゃん?」
「今宿清美ちゃんのことだよ。こう見えても小学校の時からの付き合いだから何とかしてあげるよ。」
「ありがとう。」
私は言われるままにピエロの姿になって風船配りをしながら鴨居先生のところまで向かいました。
すれ違う人たちに風船を配ったり小さい子供と記念撮影もできたので、私にとっては夢のような時間でした。
教員室に入ると鴨居先生が小机先生と世間話をしていたので、私は後ろから肩を2~3回ほど軽くたたきました。
後ろを振り向くなり、鴨居先生は少し驚いて私を見ていました。
「ピエロがなぜここに?」
私は無言で風船を差し出しました。
「これを俺に?」
私は首を縦に振りました。
「ありがとう。横に星川がいるってことはコスプレ研究部の宣伝か。頑張れよ。」
鴨居先生はどうやら私がピエロだってことに気が付きませんでした。
文化祭もそろそろ終わりに近づこうとしました。
教室ではすでに片付けが始まろうとしていました。
「今年度の文化祭はこれにて終了となります。お帰りの際には充分に気を付けてください。」という放送が入りました。
私は制服に着替えてマスクと手袋、衣装を星川さんに返そうとしました。
「これよかったら、夏美ちゃんにあげる。」
「でもこれ、部活で着る衣装なのでは?」
「ああ、これもともと文化祭用で買ったもので、終わったら着なくなるの。」
「でも、来年の文化祭はどうするのですか?」
「来年は別の衣装で宣伝するから。だからこのピエロの一式は夏美ちゃんへの記念品なので受け取ってね。」
「ありがとうございます。大事に着させてもらいます。では、衣装は写真と一緒にお願いします。」
「了解!じゃ、靴も一緒に入れておくね。サイズは大丈夫?試着する?」
私はみゆきさんが用意したピエロの靴を試着してみましたら、ちょうどよかったので一緒に受け取ることにしました。
「じゃあ、私は自分の教室に戻るから、終わったら校門で待ち合わせでいい?」
「うん!」
自分の教室へ戻るなり、すでに片付けが始まっていました。
飾りを外したり机を元の位置に戻しました。
余った食べものや飲み物は皆で分けて終わらせました。
「みんな食べているところ申し訳ないが、ちょっとだけ連絡があるから聞いてほしい。明日は実行委員と教員たちがやる文化祭の撤去日、明後日は代休だから通常の授業は水曜日からになる。くれぐれも間違って来ないように。休みが2日あると泊まりの旅行や、だらけた生活もしたくなるかもしれないが、休みが明けると小テストがあるから、きちんと予習と復習もしておくように。」
「えー!マジかよ!」
「大マジだ!休み明けに『聞いてないよ!』なんて言わせないからな。」
「せっかくの休みが・・・」
「文句があるなら普段からきちんと勉強ぐらいしておけ!」
教室内ではブーイングが飛び交っていました。
「では、今日はこの辺でおわり。ゆっくり体を休めておけよ。」
「こんな話を聞かされた後にゆっくり休めるか!」
「そうだ!デビル鴨居!」
「何とでも呼べ!赤点を取りたくなかったら、きちんと勉強しろ!」
鴨居先生は生徒の反感などお構いなしに教室を後にしました。
「くそ!デビル鴨居め、絶対に許せねえ!」
「どうする?」
「放送で呼ぶ?」
「そうしようぜ。」
私は男子の反感などお構いなしに校門へ向かいました。
「星川さん、お待たせ。」
「みゆきでいいよ。私も夏美ちゃんって呼ぶから。あと、これピエロの衣装一式と写真が入っているから。」
星川みゆきさんが衣装一式と写真の入った大き目の手提げ袋を私に渡した瞬間、放送が流れてきました。
「えー、数学の鴨居実先生、鴨居実先生、至急1年2組の教室までくるように。繰り返します。数学の鴨居実先生、鴨居実先生、至急1年2組の教室へ来るように。以上です。」
「鴨ちゃん、どうしたの?」
「さっき帰りのホームルームで鴨居先生が休み明けに小テストをやるって話をしたら、男子がキレてヤジを飛ばしたの。」
「そんなの普段から勉強しない方が悪いに決まっているじゃん。」
「そうだよね。」
「夏美ちゃんは明日と明後日はどうするの。明日は今日撮ってもらった写真を手紙と一緒に岐阜の友達へ送ろうかと思っています。」
「いいね。友達もきっと喜ぶと思うよ。あと夏美ちゃん、敬語なしにしない?ため口の方が話しやすいから。」
「わかった。そうする。」
私とみゆきさんが家に向かっている途中、教室に残っていた男子生徒たちは鴨居先生に説教されていました。
「お前たち、そこまでして小テストなりたくないのか?確かに文化祭の後にこんな嫌な話を持ち掛けた俺も悪かった。だからと言って放送で呼び出してまで抗議する必要があったのか?」
「先生には僕たちの気持ちがわからないから、こんな言い方ができるのです。」
「確かに悪かった。でもそこまで小テストが嫌なら普段から勉強しておけばいいはずだ。何も遊ぶなと言っていない。1日のうちの1時間だけでもやっておけば違うはずだ。もし1時間のうちにわからないところ出て来たら俺に質問しろ。」
「わかりました。」
「今日は遅いし、早く帰ってゆっくり休め。」
「失礼します。」
そう言い残して教室を出ていきました。
「まんまと鴨居のペースに乗せられたな。」
「ああ。」
その日の夜、私は都岡美緒さんに手紙を送る準備をしていました。
「美緒久しぶり。岐阜での生活はもう慣れた?新しい友達とはうまくやっている?手紙も電話もメールも来ないから何だか寂しいよ。実は今日私の学校では文化祭があったんだよ。私のクラスではコスプレ喫茶でキキの衣装をやったよ。吹奏楽では『風の丘』を演奏をしたよ。そのあとはコスプレ研究部に立ち寄ってピエロの衣装を着て、マスクもかぶって風船配りや子供と一緒に記念撮影をやって、一生忘れない思い出のある文化祭になったかと思ったけど、帰りのホームルームに男子が鴨居先生と休み明けの小テストを巡って衝突しちゃったんだよ。まずは先に写真を先に送るね。そのあと日を改めて先生と交渉して文化祭で演奏した吹奏楽のDVDを送るので待っていてね。それではお返事を待っているよ。丹波山夏美より。」
私は書いた手紙を写真と一緒に次の日に郵便局へ持って行って送りました。
文化祭が終わって一週間が経ち、最初の部活の日が放課後にありました。
定期演奏会が近くなっていたので、私はいつものように音楽室へ向かい、顧問が来るまでの間、通しの合奏をしていました。
練習を続けていても顧問が来るが気配がありませんでした。
その不信に気づいた生徒たちは練習に乱れが入り、集中が途切れ中断になりました。
指揮者をやっていた部長の白根一華さんは皆の前で手を数回強くたたきました。
「みんな、ちょっとたるんでいるよ。定期演奏会まで日数がないんだから、ちゃんとやりなさい!」
いつも大人しかった白根一華さんもこの日だけは鬼になっていました。
「部長、今日は先生来ないのですか?」
「先生は今日職員会議で来られないから指揮は私がやります。」
白根一華さんは鬼のような目で私たちを見つめました。
「トランペット、ちょっと音が弱い!それとオーボエ、特に夏美ちゃん、音がさっきからずれている!」
さらに私たちを次から次へと指摘していきました。
「今日の通しはここまで。各自、自主練に入ること!」
私は空き教室を利用して練習に入りましたが、何度練習しても同じ個所でミスをしていました。
ドアが開いたので、練習をやめて音がした方に向けたら今宿清美さんでした。
「一緒に練習しよ。」
「はい・・・・。」
「どうしたの?元気がないじゃん。」
「白根部長、いつもより厳しかった。」
「ああ。もうじき定期演奏会があるのに、みんながあのザマだからいらだっていたのよ。3年生にとって最後の舞台なの。定期演奏会が終わると3年生は引退して受験に専念しなければならないから。」
「実はそのことなんだけど、ちょっと小耳にはさんだのですが、白根部長、卒業したら都築国際女子に推薦が決まっているみたいなんです。」
「あくまでウワサだから本人の前で言ったらだめだからね。」
「わかっています。どうしても気になっていたので。あの学校、吹奏楽では県内では常に1位で東関東大会、全国でも常に優勝しているって聞いたので・・・・」
「夏美ちゃんが気にすることはないよ。」
「わかっていますが・・・。」
「わかったなら、さっさと練習をする!明日また部長の雷が飛んでくるよ。」
私は言われるまま練習を続けていきました。
次の日も顧問は午後から出張で練習は自主練になりましたので、顧問代理として音楽の四季美台健太先生が来てくれました。
「オーボエ、もう少し強めに吹てくれないか?それとフルート、音が乱暴だから、もう少し優しく吹いてくれないか。」
「わかりました。」
小机先生が不在のまま本番までの日数が1日ずつ減っていきました。
定期演奏会の当日3日前になって小机先生が音楽室に顔を出してきました。
「みんな長い間休んでしまって本当にすまない。四季美台先生、代理ありがとうございました。」
「気にすることはないよ。どうせ暇だったんだし。」
「では通しで行きましょう。」
小机先生が手を上にかざして振った途端、演奏が始まりました。
これが本番前の最後だと思って精一杯やりました。
本番当日は楽器はトラックで会場まで運んでもらい、私達部員はバスで移動することになりました。
会場は国際ホールになっていて、とても広々としていましたので、正直緊張してしまいました。
出場校も私の学校の他に6校で、どれもレベルの高い学校に見えましたので驚きました。
私たちの学校は4番目なのでそれほどプレッシャーを感じませんでした。
「みんな普段通りにやっていこう。」
「はい!」
司会者が私達の学校の紹介を終えた後、舞台の幕が上がり客席からは拍手が広がりました。
先生は客席に一礼を済ませた後、私たちの方へ体を戻し、手を上にかざして振った途端、演奏が始まりました。
緊張が頂点に達したとたん、先生は軽く笑みを見せて私の緊張を和らいでくれました。
1曲目が終わり、軽く一息入れたらすぐに2曲目が始まり再び私の緊張が高まりましたが、先生は優しい顔でみんなを見つめていました。
曲が終わって楽屋に戻り、みんなの緊張は一気にほぐれました。
お茶やお水を飲んでいる人もいれば、雑談をする人たちなど様々でした。
先生がドアを開けて入った途端、みんなは静まり返りました。
「みんな休んでいるところ申し訳ない。ちょっとだけお知らせがあるから、そのままで聞いてほしい。実はこの演奏会をもって3年生は高校受験のため引退することになった。ついては3年生を代表として部長の白根一華、副部長の三ツ池瑞樹、一言ずつ挨拶をしろ。」
「改めて部長の白根一華です。今日の定期演奏会お疲れさまでした。練習中きつい言葉を出して、何人かの人が辞めたかもしれませんが、それでもめげずに頑張ってついてきてくれたことに感謝しています。私達3年生が引退した後、今以上に強くなって大会で優勝してくれることを期待しています。」
「改めてお疲れ様です。副部長の三ツ池瑞樹です。私からは特に皆さんにお伝えすることはありませんが、今日の定期演奏会は自分の中では100点をつけたいと思っています。もうじき引退になりますが、後輩の皆さんは次の新入生を迎え入れて、その人たちのいい見本になれるよう、頑張ってください。」
みんなは大きな拍手を送りました。
「みんな、明日は休みにするから、新部長と新副部長は明後日の部活で決めたいと思う。この後はバスに乗って学校へ戻る。楽器はトラックへ積むから、力に自信のある人はトラックの荷台へ行くように。」
男子と一部の女子がトラックの荷台へ上がり、次々と楽器を運んでいきました。
すべての楽器を運び終えた後、私たちはバスに乗って学校へ戻りました。
明後日から3年生は受験のため、部活には顔を出さなくなりましたので、残った1年生と2年生で新部長と新副部長を決めることになりました。
新部長は2年生の今宿清美さん、新副部長は狩場弘美さんが選ばれました。
「新部長になりました、今宿清美です。正直部長としての自覚がまだありません。この一年間皆さんと一緒に楽しく演奏できるように頑張りたいと思っています。」
「新副部長に選ばれました、狩場弘美です。部長と皆さんをサポートできるように頑張ります。よろしくお願いします。」
みんなはちょっと頼りない部長と副部長を見ながら軽く苦笑いをしていました。
「3年生が引退した以上、今以上に気合いを入れて頑張りましょう!それでは早速、チューニングから始めていきましょう。」
今宿清美さんの一言でチューニングから始まり、今まで演奏した曲を復習していきました。
そしてお話は卒業式の日に飛びます。
今日で3年生とはお別れです。私達残った部員たちは何かお礼をしたいと思っていたので、その日のために練習を続けていきました。
卒業式を終えて、3年生たちは校門の前で記念撮影をしたり、花束や贈り物を後輩たちから受け取っていました。
私は思い切った行動に入りました。
放送室に入って「吹奏楽部の3年生の皆さん、このあとお時間がありましたら音楽室へ来てください。私達後輩からの贈り物があります。」と伝えて、すぐに音楽室へ向かいました。
10分、20分経っても来ませんでした。
もう来ないのかとあきらめた瞬間、元部長の白根一華さんをはじめ、部員たちが集まってきました。
「ごめん、記念撮影やあいさつで遅くなった。で、贈り物って何?」
「3年生の皆さん、改めて卒業おめでとうございます。これが私達からの贈り物です。」
今宿新部長の指揮で魔女の宅急便のエンディングで使われた「やさしさに包まれたなら」と「今日の日はさよなら」を演奏しましたら、3年生たちが軽く口ずさんでいました。
演奏が終わり、3年生から拍手が送られ白根一華さんが一言挨拶をしました。
「後輩の皆さん、私たちのために素晴らしい演奏ありがとう。一生忘れることのない思い出が出来ました。今日で私達3年生はこの学校を去りますが、残った人たちでこの素晴らしい演奏を続けて行ってください。」
「白根部長本当にありがとうございました。これ私達在校生からの花束です。よかったら受け取ってください。」
「ありがとう。」
新部長の今宿清美さんが少し涙を流しながら大き目の花束を渡しました。
「清美ちゃん、絶対に無理だけはしたらダメだからね。じゃあ、私たちは帰るからあなたたちも遅くならないうちに帰るんだよ。」
白根さんそう言い残していなくなりました。
残った3年生も私達に軽く手を振って校舎を後にしました。
「3年生いなくなったよね。」
「そうだね。」
「私たちも帰ろうか。」
「うん。」
「帰りコンビニでチョコ買っていかない?」
「いいよ。」
コンビニでチョコを買った後、私と今宿さんは近くの公園のベンチで食べながらこの1年間を振り返りました。
「光陰矢の如し」「時は金なり」とは今の私達にふさわしいことわざのように感じました。
そして再び春が訪れて私は2年、今宿さんは3年生になって新入生の歓迎の追われていました。
卒業した白根一華さんはと言いますと、市内の名門校である都築国際女子高校へ入学しました。
新学期が始まった最初の日曜日、昨年の文化祭で演奏した吹奏楽のDVDを手紙と一緒に送り、翌日の放課後には、私は校門近くにある桜の木の下で一人オーボエを演奏したら、誰かが私に近づいてくる気配がしました。
おわり
皆さん、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の作品は以前書いた作品の続編となります。
主人公のクラスメートが岐阜へ引っ越した後、彼女は先輩たちと一緒に文化祭や定期演奏会の練習に励んでいたり、プライベートでは駅前で一緒にアイスクリームを食べる間になっていました。
また文化祭ではコスプレ研究部からピエロの衣装とマスクを借りて風船配りの体験をしたり、部員の星川さんと仲良くなりました。
他にも卒業式には3年生を見送るためのサプライズを用意するなど、彼女の成長ぶりには作者の私としても素晴らしいと思っています。
これを読んだ皆さんはどんな先輩に巡り合えましたか?
では次回の作品でお会いしましょう。