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三 廃病院での肝試し

「はい、私の話はこれで終わり」


 マミちゃんの一言で、その場の誰もが大きな息を吐いた。こ、怖い……それって、女の子をひいたの、死んだ先生って事だよね?

 でも、何で校歌を最後まで聞くと死んじゃうの? その先生も、何でレパートリーに校歌が入ってるのよ。


「えー? それはわからないよ。ってか、七不思議ってそんなもんじゃない?」


 マミちゃんの言葉に、そういうもんなの? と首を傾げているのは私だけらしい。和美ちゃんも本条さんも藤原さんも、納得しているんだけど。

 えー? 何か理不尽。


「じゃあ、次は誰?」

「言い出しっぺの和美が話しなよ」

「そっか。んじゃあ、私のとっておきね!」


 そう言い置いて、和美ちゃんは声を落として話し始めた。




 これは、私が中学の頃の話なんだけど、家の近くに廃病院があったのね。近所でも有名な心霊スポットでさ。

 廃病院って言っても、かなり大きな総合病院でさ、鉄筋コンクリート製の三階建て、地下二階まであるような病院だったんだ。

 その病院ってさ、潰れたのにもいわくがついている病院なのよ。何でも、跡取りの若先生が、自分とこで働いている看護師に手を付けて子供が出来ちゃったらしいんだ。その看護師さん、泣きぼくろのある人だったんだって。

 でも、若先生はいいとこのお嬢さんとの縁談が進んでいたから、当然看護師と結婚なんてとんでもない、ってなったの。

 それですったもんだあったらしく、結局その看護師さんは病院を辞めて姿を消しちゃったんだけど、それ以来病院ではおかしな事が起こり始めたんだ。

 夜中に顔色の悪い、お腹の大きな看護師が歩いていたり、その看護師に案内されて地下階に連れて行かれたり、最後の方には寝ている患者さんを覗きこんで「違う」って言いながら去って行ったりしたんだって。

 そんなこんながあって病院は潰れちゃって、廃墟になったのよ。で、そこは割と最初から「出る」って有名だったから、肝試しの会場として頻繁に使われていたのね。

 でも、そこで肝試しをやるのに、一つだけ約束ごとがあったんだ。一つは女性を連れて行っちゃダメ。もう一つは、医学生や医者の子供を連れて行っちゃダメ。

 なんでも、女性を連れて行くと必ず死んじゃって、医学生や医者の息子を連れて行くと帰ってこれなくなるんだっていうの。

 帰ってこれない人はどうなったのかって? 行方不明らしいよ。




「それって、やっぱりその、看護師の人が……?」

「多分ね。女性が死んじゃうのも、恋人を取られるって思うからじゃない?」


 和美ちゃんは、あっけらかんと返してきた。何で怖くないのよ、そんな話しておいて……

 どうやらこの場で怖くなっているのは私だけらしく、マミちゃんや本条さん、藤原さんも平気な顔で続きを待っている。ええー……


「んじゃ、続きね。こっからが本番だから」


 和美ちゃんはそう言うと、話を再開した。




 私が聞いたのは、先輩からで、その先輩はさらに先輩から聞いたんだって

。その大本の先輩の友達のお兄さんって人が、数人と組んで夏に肝試しに行ったんだって。この人を仮にAさんとしておくね。

 このAさんって人、元はこの辺りの人じゃなくて、その肝試しの二年くらい前に親の仕事の都合で引っ越してきた人だそうよ。

 だから、例の病院の話もよくは知らなかったらしいの。しかも前の土地の友達も夏休みで遊びに来てるからって、その友達も肝試しのグループにまぜちゃったのね。

 その中に、女の子も二人いたらしいの。地元民の先輩の先輩って人は止めたんだけど、肝試しやろうなんて人が聞く訳ないよね。結局、女の子含む八人で廃病院に行ったんだって。

 廃病院の周囲はフェンスが囲っていて、入り口の門は閉められていたそうだけど、フェンスの一部に穴が開いていて出入り自由なんだ。そういう情報って仲間内で回るから、彼等も知ってたみたい。

 その穴から入ってすぐ、八人のうちの一人が気分悪くしたんだってこの人を仮にBさんってしておくね。

 周囲はBさんが怖じ気づいたんだろうって笑っていたそうだけど、Bさんは風邪引いた時みたいに寒気が止まらなくてずっと震えていたそうなの。

 そんなBさんを無理矢理連れていく訳にもいかないっていうんで、Bさんはそこに一人で置いて行かれたんだって。

 肝試しって言えば一人ずつ行くじゃない? でも、その時は誰から言うでもなく全員一緒に一番の恐怖スポットまで行くって事になったみたい。一人残されたBさんの方が怖かったんだって。

 彼等が目指したのは、例の看護師がよく目撃された二階のナースステーション。そこまでの経路も情報で出回ってるから、迷わず行けるだろうって事でね。

 確かに、階段を上ったそうなんだ。でも、辿りついた先は地階だったんだって。上の階なら必ずあるはずの窓がなくて、暗闇続くような廊下が伸びていたそう。

 それ見た途端、もう凄いパニックだったって。Aさんが一番酷くて、我先にと階段に走ったそうだよ。

 震える足で何とか一階に上がってきたそうだけど、気付くと二人、いないんだって。そう、女の子達。

 本当なら探しに行くべきなんだけど、Aさん含む五人はもう怖くて地下には行けなかったそうなんだ。

 とりあえず、外に出て警察に連絡して助けてもらおうって事になって建物の外に出ようって事になったんだけど、どうしてもエントランスに辿りつかない。

 廃病院って、L字型の建物なのね。エントランスは一方の端、階段はもう片方の端にある。だから、まっすぐ走って角を曲がればエントランスのはずなのに、どれだけ角を曲がってもエントランスが見えてこない。

 そのうち、曲がり角を曲がる度に、周囲の景色が少しずつ変わる事に気付いた人がいるんだ。

 それで、一旦止まって今の場所をちゃんと確認しようって事になったそうなの。

 で、窓から見える景色を見たAさんが、悲鳴を上げた。一階を走っていたはずなのに、どう見ても二階か三階の高さだったから。

 その場で男ばかり五人が固まって怯えていると、曲がり角の向こうから足音が響いてくる。自分達以外には誰もいないはずなのに。

 その足音も、ヒールのコツコツいう音ではなくて、ぺた、ぺたっていう足音らしいの。

 しかも、それに加えて何か重いものを引きずるようなずる、ずるってお供一緒にしたんだって。

 怖いのに彼等は動けずに全員が曲がり角に視線を集中していると、暗い中から髪を振り乱した女性が歩いてきた。その両手には、引きずられた人が二人。

 例の、地下ではぐれた女の子達だったそうよ。

 それを見た五人は、そりゃもう死にものぐるいでかけ出したんだって。どこをどう走ったかわからないけど、気付いたら建物の外にいたそうだよ。

 その後、一人外に残されていた人にこれまで中であった事を話して、六人で固まって震えていたんだって。動こうにも、動けなかったらしいの。

 で、朝になって警察に駆け込んだけど、当然そんな話を信じる警官なんている訳なくて、表向き廃墟ではぐれた女の子二人の捜索って事で動いてくれたそうなの。

 警察と一緒に廃病院に行った言い出しっぺの男子は、外で待っていた人に縋るようにして震え続けていたって。

 捜索の結果? 誰もいいなかった。彼等と一緒に行った女の子も、彼女達を引きずっていた人影も。

 不思議なのがね、警察が行方不明の女の子達の家に行ったら、誰もいなかったんだって。それどころか、もう何年も人が住んでいないような様子だったそうなの。

 その事をAさんに伝えると、彼は震え出したそうよ。女の子二人とAさんは同じ学校の友達だったから、その家が空き家なんて事はあるはずなかったんだって。

 でも、Bさん達と一緒に見に行ったら、本当に廃屋になっていたそうなの。その様子が、まるであの廃病院のようだったんだって。

 その辺りから、肝試しに行った人達の周囲でおかしな事が起こり始めたらしいんだ。

 夜中になると、携帯に着信がある。その番号、行方不明になった女の子達のものなの。誰も怖くて出られなかったらしいわ。

 着信は一晩に一人ずつ、六人全員回るとまた最初の一人に着信があるんだって。

 ある日、とうとう恐怖に負けて建物に入ったうちの一人が出ちゃったらしいの。そうしたら、やっぱりあの女の子の声で、こう言うんだって。

『あんたも来なよ。ここはとてもいいところだよ。私達の親もいるから大丈夫。だから、あなたも家族で来なよ』

 笑うように、そう言って切れたらしいの。それを翌日学校で話したその人は、二、三日していなくなっちゃったんだって。家族も一緒に。

 これで、着信に出るとヤバいって事になって、誰も携帯に触らないようになったらしいの。




「なんでBさんにも着信があるんだろうね? だって、中に入らなかったんでしょ?」


 マミちゃんの疑問に、和美ちゃんは緩く首を振った。


「どうもね、廃病院の敷地に入るだけで、怒りに触れるらしいんだ」


 その場合の怒る人って、例の引きずる人……? 怖くて聞けない。

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