アイツ
「監視カメラを確認させていただいてもよろしいですか?」
(おいおい...また警察かよ...)
この土地に店を構えてまだ2年ほど、しかし同じ様なことを何回聞かれたかと言われると「初めの3ヶ月で数えるのを辞めた」としか答えられない。
ーK市N町3丁目、俺が店を構えているこの土地は大変治安が悪い。喧嘩に盗みに器物破損...週に一度は騒ぎが起きる。その度に警察はそこらじゅうの店を尋ねて監視カメラを確認する。もちろん俺の店も例外ではない。そしてこういう場合の俺の答えも決まりきっている。
「━いいですけど、気分が悪くなったらすぐ映像止めて下さいね?」
「え?」 これもお決まりの返答だ。
イマイチ事情が分かっていない警察を連れて俺は監視カメラの映像を確認出来る部屋へ入った。そして警察に口が酸っぱくなるほど映像停止ボタンの位置を教えこみ、部屋の外に出た。いくら見慣れてるとはいえ、出来る限りあんなものは見たくないからだ。
俺が部屋からでて3分程たった。
(そろそろ出てくるかな?)
そう思ってから更に2分程たった頃、おもむろに部屋の扉が開いた。中から出てきた警官の顔は化粧の下手くそな女のように真っ白になっている。
「もうよろしいんですか?」
そう聞くと、
「えぇ...はい...。御協力感謝します...。それでは...。」
と消え入りそうな返答を残して警察は俺の店をあとにした。
俺は警察と入れ替わるように部屋に入ると監視カメラの録画映像を確認した。
(さてと...あの警官はどこまで見たのかな?)
モニターに目をやると、そこには案の定アイツが映っていた。俺は湧き上がる吐き気を堪えつつモニターの電源を切り、録画データを消去した。こんなものを2度も見ようとするもの好きは居ないだろうし。
目を閉じるとニヤついたアイツの顔がチラつく。
微妙に位置がズレた福笑いのような、人間に限りなく似ているがどこか決定的に違っている顔。
俺がここに店を構えてから一方的にこの店に住み着いている同居人だ。俺はこの人間もどきをアイツと呼んでいる。
現時点での俺とアイツの関係性は大きく5つ
1.俺はアイツを監視カメラを通してのみ視認できる
2.アイツは俺に関心がある
3.アイツは1の関係性を認識している
4.アイツはカメラ越しに俺に何かを伝えようとしている
そしてこれは俺の予測であるが
5.アイツが何を伝えようとしているか理解してはならない
なぜ俺が理解してはならないと思い至ったのか、それには理由がある。ちょうど半年前、好奇心に耐えかねた俺はアイツが何を伝えようとしているか確かめようとした。結果として俺は病院に緊急搬送され、三日三晩高熱にうなされ、断片的なアイツからのメッセージが頭の中を反響し続けた。そのメッセージとはたった2音『なぁ』だけである。『なぁ』、たったそれだけの語り出しを聞いただけで死にかけた。なら、全てを聞いたら...?死ぬ、もしくはもっと酷いことになるのは火を見るより明らかだった。