一話 仲間はずれ
「おい、そこ。ボーッとしてんじゃねぇぞ」
「はぁ…」
教室。教師がこっち向かって言う。
窓の外を観てはやったし。
『えー? マジ叱られたー?(笑)』
『ウケるwww』
『転校生だしねー』
でもな、あたしだけ叱られなきゃなんないんだよ。
あーあー。進学の転校生、甘くないわね。
別にどうでもいいけど。
外から見覚えのない鳥の鳴き声。烏の一種なのか?
「はぁー、疲れた」
放課後すぐ部屋に帰る。
グレーブ魔学園女子寮。
学園全体は予想したよりずっと大きいし、てかでっかい、迷いやすそう。
とは言え、この寮、多分百弱の部屋ぐらいある。それはまぁ、確かに多いが、全生徒にはとても足りないじゃない?
まぁ、兎に角。
「ここ、これから住み所になるねぇ。心配してしまってしょうがないか」
安全さのことじゃない。他の生徒達もなんとかなると思う。でも……。
「汚れ、濃いな」
悪魔だらけで、当然だ。
でもあたしは違う。
あたし達天使には、汚れと言う物は毒なんだから。
「…仮眠とろうかな」
睡眠で治る。この程度の汚れに慣れないとここに暮らす事は難しい。
「あ、思ったより柔らかくて気持ちいいベッド」
見直したよ、魔界。
ぐぅ〜
「うっ」
お腹の音で目を覚ますとは。
まぁ、昨日から何も食べてない。
実行ランク試験で気絶し、翌朝ギリギリ起こされたし。しかも保健室に。随分道を迷ってて朝ご飯抜き。
昼休み中、学食探したけど見つからなかった。
この学園、全く無駄に広過ぎるわ。
「ん?」
机に何か貼り付けてる事に気付く。
『転校生に学園を案内して』
そう言えば個人室じゃなくてツインルームって言うやつだったね。
通りに大きい、じゃ特にないけど、一応風呂付だな。
一人専用は流石にないな。
ルームメイトにまだ会ったことないけど。
「仲良くなれる子に見えないね」
期待も上げずに、ただあいつをほっとく事にした。
自分で学食を探さざるを得ない様だ。
……。
「寮の隣かよ!」
声を出さなくていられなかった。
人界スペシャル・ナポリタン。
ここで何の料理を提供するのかなーと悩んだけど、大丈夫みたい。
人がいっぱい……まぁ、どこの世界の学食だってそうじゃないかな。
『あそこ、噂の転校生?』
『ホントだー』
『あー、あれね。実験で倒れたって』
『えーダッサ!』
噂って早いな。
気に入らないけど、どうしようもないしな。
にしても、実行ランク試験略して実験……酷い略称ね。
……その後帰ってから翌朝起きるまで、ルームメイトは帰ってこなかった。
――――
教室。同級生も今日もまた下んない事喋る。
『転校生ちゃん変だねー』
『そーそー。誰にも喋んないしー』
そんで変なのかよ。
てかあたしだけじゃないでしょ。変って言うなら、後ろ右のあの子じゃん?
目隠ししてんだよ?
……いや、知らない事情があるかも知れないけど。
『実験気絶だって』
『そりゃノーランクだろ?』
『いやオチじゃね?』
「あんたさ、どんなランク?」
突然前の子に話し掛けられる。
「えっ、そいや言われなかった…」
「ウソ。言いたくないのか?」
うるせぇな。
「だから知らないって」
「うわーっ。マズイに決まってるー」
「お前なぁ!」
「静かにしろ!」
ヤバい。またやってしまった。
だからあたしには向いてないって言ってたのに。
目立っちゃうじゃんか。
昼休み。昨夜寮の隣の食堂で買ったパンを食べて、学園を探検することにした。
まず屋上に行こう。そうしたら……。
「?」
そこに、女の子一人立っている。
短い銀髪と、黒い目隠し。見違えるはずがない。
うん、クラスのもう一人の変な子。あたしは普通なはずだけど。
「あ……」
「……」
「……」
気まずい。目合わせた気がする。見えないけど。
それ以外も無表情で、何を考えてるのか全然分からない。
「……慣れた?」
「え?」
何を?
「学園」
「あ、あー。まだ全然」
「そう……」
……。
うん、やっぱ気まずい。
えー、なんて話そうか?
「なんか変だって言われてるけどな」
「転校生だから仕方ない」
あーそう言う事か。
「……シネカ」
その子の名前?
「……デスティネアよ。よろしく」
「長い名前ね」
「……」
初耳だがな。
シネカと友達(?)になった。
まだ半週も経ってないのにある事に気付いた。
そう考えながら、廊下で止まる。
「あっ」
そして、左腕に何かぶつかった。
「どこ見てんのよ!?」
振り向くと、ムカついてる女子生徒がこっちにつべこべ言う。
そっちからぶつかったんでしょうが。
って事は、つまり、悪魔って予想通り悪ガキだらけって事。
「きゃっ」
また何かぶつかった。正面に。
あ、今度はあたしのせいか。道を見ないで歩いたし。
小さい何かにぶつかった。
「あ、すま――」
「あ、ごめんなさい。道見てなくて」
「え」
謝った?
正直な顔で謝りながら立ち上がる少女。
茶髪のボブにヘアバンド、そして大きな緑の目。
「いや、こっちこそ。ぶつかったのはあたしだし」
「そんな事は……」
『リリッセ、置いとくぞー』
「あ、待って〜。では」
お辞儀して小走りする女の子。
あ、叱られてる。一応廊下だし。
……そんな悪魔もいるんだね。リリッセ、って言ったっけ。
部屋に戻ったら、知ってる奴を発見。
「何であんた?」
「ルームメイト」
「でしょうね」
貼りメモを見たら立ち上がるシネカ。
机の方で何書いてあるのかここからよく見えない。
「行く?」
また何? 突然。
「え、どこへ?」
「案内」
あー、それもあったっけ。
で、案内に連れていく。
大事な施設やよく使う所を見せてくれてる。教室、部室、保健室など。
学食いくつかも見せて、客のピーク時まで丁寧に。
商店街まであるんだなー、ここ。
考えると、この子、ちょっと変わってるけど意外と真面目にやってる。
いや、真面目って言うかしっかりやってる。
だから気になるな。
「ねぇ」
「ん?」
「昨日、どこにいたの?」
「?」
何を言いたいのか、と聞くようにこっちを見つめる。
「案内、昨日予定だったでしょ?」
「いなかった。放課後」
そいや早速帰ったな。
いやそれでもさ。
「じゃなくて、昨日帰って来なかったよね」
「あー」
聞いて良かったのかな? プライベート過ぎじゃないよな?
「寝てた」
いや意味分からん。
「寝てたって?」
「寝てたから邪魔したくなかった」
なーんだ。そう言う事か。
こいつも超言葉苦手だな。
あたしが寝てたって意味かよ。
分かる分けないじゃん、それ。
で、寝てたあたしを邪魔しないように、夜遅く帰って来たとか。
「じゃあ、朝早起き?」
「日直」
まあ、なんだ。シンプルだな。意外と普通な子じゃん。
いや普通よりも気が利くやつかな。
「早寝した方がいい」
でも会話スキルは低過ぎ。全然ついてけない話だ。
「朝から実行」