月夜の下。選ぶべき二つの選択肢。
※追記
大変申し訳ありません。
パソコンが壊れたため、次回更新は未定です。
--------------------
更新時期が長く空いてしまいそうでしたので、過去話に比べて短いですが一旦投稿させていただきます。
活動報告にも記載してありますが、筆が遅いため投稿は大体一週間半から二週間間隔になると思われます。
今回までの話のように一週間間隔程で投稿出来るのが自分としても望ましいですが、その辺りご了承いただけますと幸いです。
そよ風が髪を撫でるのを感じ、失っていた僕の意識は覚醒した。
閉じてる瞼を開くと、目の前には少しの明るさと橙色の線が目に入る。
開けた視界で辺りを確認すると目に入るのは一本の街灯と満月。そして橙色の髪色に戻った西野さんだった。
西野さんは僕が寝転がっているであろう石造りのベンチとは別の、隣にあるベンチに座って月を眺めているようだ。
上体を起こすために身じろぎすると、頭の後ろから「うぐっ」というラビの呻き声がする。
身体を捻りながら上体を起こし頭のあった場所を確認すると、そこには僕の枕替わりになっていたであろうラビがうつ伏せで寝そべっていた。
「おはようなノ、少年。頭とか身体の具合は大丈夫そうなノ?」
ラビに言われ身体を確認する。
目立った外傷は元々ないため外的問題は見受けられず、一連の騒動で受けた衝突による痛みなども感じない。
二度頭を打ったにしては運が良いと言える程身体に異常は無く、時間は不明だが石造りのベンチに寝転がっていたため全身に硬さが残っているくらいだろうか。
ラビの声と視界の端で動く僕を捉えたのか、月を眺めていた西野さんが上半身ごと視線がこちらへと動く。
「巻き込んだ」
そう言って、彼女は向けていた身体ごと頭を下げた。
「やめてよ西野さん。あの場に留まったのは僕の意志だし、あの狼が突っ込んできたのもラビに言われた事をやったら襲ってきたんだから西野さんは悪くないよ」
西野さんが罪悪感を抱かないよう、自分の意志で残った事と、襲われた原因をとりあえずラビに押し付ける。
実際問題、ラビに言われた通り集中したら襲われたのだから、ラビのせいにしても差し障りないだろう。
「説明して」
西野さんはラビに視線を向け、そう口にする。
その目は戦闘中に見せていた目をしており、ラビは飛び跳ねながら言葉を発し始めた。
「まず訂正させてほしいノ。あれはグレイウルフの探知範囲がラビの予想を上回っていたのが原因なノ。大体、この少年が膨大な魔力を持っている事も含まれたイレギュラーだから、ラビだけの責任じゃないノ。」
ラビは左へ右へ、時には回転しながら話しているため全く緊張感が無い。
そういえば、僕の事を魔力タンクと比喩していた。イレギュラーと言うからには、僕のような存在は稀なのだろう。
西野さんの視線は上下に何度も動き、僕の身体を見つめている。女の子に嘗め回されるように見られるのは初めて少し恥ずかしい。
僕の身体を見つめても納得した答えが得られなかったのか、彼女は小首を傾げながら口を開いた。
「この人、女の子なの?」
「どっからどう見ても男だよ!何でそんな結論に行き着くのさ」
「あー、それを含めてラビから説明するノ。長くなるから、掻い摘んで話すノ」
ラビの話を更にまとめるとこうだ。
まず西野さんは魔法少女と呼ばれ、名の通り魔法を使える女の子らしい。
そして魔法を使えるのは成長期を終えるまでに魔力を獲得した少女のみ。
更に、本来魔力を獲得できるのは少女のみという話だった。
僕のような男で魔力を持っていたり、成人してから魔力を得る女性というのは極稀で、五十年に一人居れば多い方らしい。
「僕が希少な存在だっていうのは分かった。それで、僕は今後気をつけなきゃいけない事ってある?今回の一件で僕、目を付けられてたりしないよね?」
ラビが動き回っているのが気になって仕方ないため、今は僕の腕の中に納まってもらっている。
傍から見たら少女趣味な男の子に見えるかもしれないが、幸いにもここは夜の公園。
冬が近いため日が落ちるのは早いが、時間的に夕方を過ぎている今であれば人通りは少ないため誰かに見られる事は無いだろう。
「それは大丈夫なはずなノ。あの場に居たのはグレイウルフ一匹のようだし、君が今まで以上に魔力を放出しなければまず見つからないはずなノ」
ラビはそう言うが、橋の上で行った会話曰く僕の魔力は駄々洩れらしい。それに今回の騒動で意識して魔力を放出する術を知ってしまった。
見えないものを意識して見ようとする。
意識しなければ今の所魔力を操れないはずだが、知らないのと知っているのとでは訳が違う。正直、今まで通りを保てる自信は僕には無かった。
「ラビのせいで魔力の扱い方を少し知っちゃったんだから今まで通りってのは難しいよ。こう、意図的に抑える方法はないの?」
「んー、しいて言えば頭を空っぽにする事なノ。何も考えなければ操作も出来ない。それ則ち無の境地、なノ。まぁ、今回少年が言っていたような浮遊する目玉。そういった半端に見えてる不自然な物を見つけても見ようとしなければ、君の魔力は漏れているもの以上に放出されないはずなノ」
見えないものを見たのは今回が初めてだ。
それこそあの戦闘が耳に入らなければ今この瞬間にここへ居る事もなく、見えない存在なんていう非科学的なものも知る事は無かった。
つまり遭遇率は極めて低いはずだ。
それならばこちらから気付く事も、向こうに気付かれる事もそうそうない。
「これで僕の事は大体分かった。今まで通りで良いんだね。それで聞きたいんだけど、あのミストストーカーって奴と、魔法少女って具体的になんなのかな」
僕の疑問に、西野さんが口を開く。
「退治する者と、されるモノ」
やはり彼女は口下手なようだ。退治する魔法少女と、されるミストストーカーなのであろうが、それ以上の情報が何一つ読み取れない。
「ツッキーは喋るとポンコツなんだから少し黙ってるノ」
「失礼よ。それに、私も加わりたい」
「仕方ないの。少年、ラビからお願いがあるの。これは拒否しても良いししなくても良い。けれど受け入れた場合、ラビは君をラビたちの状況に巻き込まなければならなくなるノ」
僕の腕の中でも耳をピコピコと動かしていたラビだが、この時だけは身動きひとつせず、声のトーンも高さがひとつ低くなっており、決断を迫っている事が受け取れた。
今僕の前にはふたつの道がある。
ひとつはこのまま今日起こった事を忘れ、昨日までと同じ日常を送る事。
ひとつは彼女たちの非日常に巻き込まれる事。
正直言って、普通なら後者はあり得ないだろう。あんな状況に生身で首を突っ込むのであれば常に死を覚悟していなければならない。
あの数分だけで死が直前まで迫っていたのだ。次があっても生存している確率は限りなく低いだろう。
「ごめん……正直言って、怖かった。今でも怖いんだ。僕はあの瞬間間違いなく死んでた。僕が運よく魔力を操作出来なかったら。数刻でも西野さんが遅れてたら、僕は死んでた。だからごめん。知らない事は怖いけど、これ以上踏み込むのはもっと怖いんだ」
西野さんの表情は日常で見た表情と、戦っていた時の表情だけ。日常で見た西野さんの表情は一貫されていたが、その中では何処となく、安堵したような目をしている。
橋の上からしきりに謝っているのだから、彼女としてもこれ以上僕を巻き込みたくないのだろう。
「それなら仕方ないノ。ちょっと脅したような部分があるけれど、その選択は当たり前で正しいノ。それじゃあこの話はここでお終い。君とラビ達との関係も白紙なノ」
そう言ってラビは僕の腕の中から抜け、西野さんの足元へと移動する。
「けれど覚えておいて欲しいノ。もしも君が意図せずしてこちら側へ巻き込まれた時は、心の中で強くラビを呼んで欲しいノ。きっと。きっとかけつけるノ」
それだけ言い残し、ラビは公園の出入り口へ向かって歩き出した。
西野さんもそれを追うように立ち上がる。
「さようなら」
それだけ言い残し、ラビの後を追うように公園から出ていく。
時刻は九時を回った辺り。そろそろ補導が始まる時間だ。
僕の片足は非日常に踏み込んでしまった。
それでも僕は、まだここに居る。
非日常と隣り合わせの、酷く歪な日常に。
大変申し訳ありません。
パソコンが壊れたため、次回更新は未定です。




