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始まり。日常の終わりは月夜にて。

癖で改行が少なく読み辛い文章になっていたため、多すぎるかもしれませんが改行の方を文章の繋がりが崩れ過ぎない程度に入れさせていただきました。


次話以降、この辺り調整していこうと思います。

 紅葉の季節が終わり、風が少しずつ寒くなってくる。

 体育祭や文化祭などが終わり静かに高校二年生の終わりへと向かっている今日この頃、クラスへと転入生がやってきた。

 橙色の髪を首筋辺りでひとつに結び、伸ばした髪は肩下程に伸びている。

 髪と瞳は同じ色で、アーモンド型の目。まつ毛は長く、全体的に細く整った顔立ちは可愛いと言うより美人という響きが近いだろう。

 どこか垢ぬけた顔立ちは、まだ子供っぽさが残っている顔立ちの子が多いこのクラスでは少し違う世界を感じ、男子生徒の視線を掴んで離さなかった。

 高校二年の女子生徒としては少し低めな身長が、彼女がまだ高校生なのだという現実を思い出させてくれる。

「両親の都合で東京から引っ越してきました。西野椿にしの つばきです。よろしくお願いします」

 濁りの無い澄んだ声で、話しかけるような音量なのにその声は一番後ろに座っている僕の元までハッキリと聞こえた。

「以上か?なら席は窓際一番後ろの隣。あの空席だ」

 うちのクラスの担任は態度が荒い事で有名だ。

 気性が荒いのではなく性格が荒く、そこが受け生徒からは親しみを持たれてはいるらしい。

 そんな先生だからこそ、あまり彼女の自己紹介が自己紹介になっていない事も気にせず席へと移動させていた。

 窓際一番後ろの隣。僕の右だ。

 先月辺りに学内で喫煙やかつあげを行っていた不良生徒達が問題を起こし、関わった不良生徒が一気に退学させられる出来事があった。

 この空席に座っていたのも不良の一人で、滅多に席へ座らないから殆ど空席と同じ扱いであったが、その席へついに人が座る事になる。

 西野さんが席へ座った辺りで、僕は挨拶の言葉をかける事にした。

「僕、賀上涼太かがみ りょうた。これからよろしくね。西野さん」

 先生に注意されない程度の声量、最低限の挨拶として声をかけたのだが、彼女は僕の方を一瞥してすぐに正面へとその視線を移した。

 挨拶の声と短さから何処となく冷たさは伝わってきたが、思った以上に氷のお嬢様らしい。

 綺麗な子だし隣の席の好みで少し仲良くなれればな、将来的に同窓会とかで再会した時に名前を憶えてもらえてたら良いなとか思っていたがそれも無理だろう。

 あの目はそういう目をしていた。

「それじゃ、欠席者は見た感じ居なそうだし今日のホームルームはこれで終わり。次の授業は俺だから少ししたら始めるぞ。トイレ行きたい奴は俺が職員室から戻ってくる間に行ってこいよ。以上」

 そう言って先生はのっそりとした歩みで教室から出て行った。

 点呼を取らずに目視で確認する辺り、雑というか無駄を省いているというか。良くも悪くも荒い先生だ。

 先生が去ってからは転校生というものに付き物だろう、囲まれて質問攻めの時間がやってきたようだ。

 クラスの至る所から椅子を引く音がしたかと思うと、クラスの殆どの女子生徒が彼女の机の回りに集まっていた。

 クラス内の比率が女子生徒の方が多いため必然と集まる人数も増え、僕の右肩は溢れかえる女子生徒によりグイグイと押される。

 逃げるためにトイレに行こうとしていたのだが恐るべし女子。僕が動くよりも先に西野さんの席へと集まり僕の退路を一緒に遮断していた。

「西野さんって何処から来たの?」

「東京よ」

「東京のどこら辺に住んでたの!」

「東京よ」

「前の学校で彼氏とか居たの!」

「不要よ」

「良かったら俺と付き合わない?」

「不快よ」

 最後の質問はクラスのお茶らけ担当の男子生徒なため、多分冗談だろう。

 しかし不快と言われたのは心に来たのか、肩を降ろし引き摺る様な足取りで男子生徒の集団へと戻っていった。

 傍から聴いてても思うのだが、返答が機械的だ。全ての質問に対して一息で終わる回答で済ましている。

 それが面白くないのか、集まっていた女子生徒は当たり障りの無い返答を返しては離れ、数分足らずで西野さんの回りはホームルームの状態に戻った。

 彼女はその状態に満足したのか、鞄の中から一冊の本を取り出し読み始めた。

 表紙はカバーが掛かっていて読めないが、横目に見える内容は文章ばかりなので小説だろう。

 残り数分で先生が戻ってくるから余り読み進められないだろうが、平和な時間を過ごせばいい。

 僕の挨拶には何も返さなかったのに他の生徒の質問には返答していた事は恨んでいない。一切恨んでいない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 転校生とは、人当たりが良いから話題になるらしい。

 最初から冷たさ全開だった西野椿は、あの全員が散り散りに席へと戻った時から触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに話題として上がらなくなった。

 クラス委員長が果敢にも学校案内などを申し出ていたが、「不要よ」の四文字で片付けられていた。

 人当たりの良い彼女で陥落出来ないのであれば無理だろうと男女共に西野さんに触れる事は無くなり、その話が広がり自然とクラス外からのアプローチも無かった。

 そのまま放課後まで彼女の冷たさは崩れず、ホームルームが終わるのと同時に教室から立ち去って行った。

 関わり合いが好きではないのならそれはそれで良いのではと思うのだが、クラスメイト達は快く思っていないらしく色々な声が飛び交っていた。

「ありゃあ無理だな。付き合い悪すぎだろ」

「せっかく私達が話しかけてあげたのにさ、まじ有りえなくない?」

「皆、不満もあるけどあまり言わないようにしよ。西野さんも人付き合いが苦手なだけかもしれないんだからさ、仲良くしていこ。委員長命令!皆も部活とかあるんだから解散解散!」

 不満のお声が少なからず上がっていたが、委員長が残っていたのが幸いした。

 蟠りが有るのが好きではない彼女は必死にその場の不満を表に出さないようにしている。

 その態度が気に食わないという生徒もいるがそれはそれ。

 委員長が居なければクラスはまとまらず、秋の文化祭は成功しなかったために不満のある生徒もない生徒も態度はそれぞれだが、彼女の言葉に従いそれぞれの予定に沿って動き始めた。

 かく言う僕もアーチェリー部に所属しているため、クラスで油を売っているわけにはいかない。

 部長たち三年生が既に引退している今、僕を含めた二年生がしっかりしないと後輩たちに示しが付かない。

 中学が一緒だった友人も居るため、荷物をまとめて急いで弓道場へと向かう事にする。

 明日からあの氷のお嬢様が隣に座っていると考えると気が気ではないが、明日になってから考えれば良いだろう。今は目の前の事に集中しよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 氷のお嬢様が原因だろうか。今日の調子は良くなかった。

 普段は頭を空っぽにしてから部活に挑むのだが、今日はどうしても耳の片隅に彼女の声が残る。

今朝がたの問答であった「東京の何処に住んでたの?」「東京よ」が何の答えにもなっていないのに、質問した女子生徒がそれで納得していた事が奇しくもツボにはまってしまい、準備運動中に急に思い出して笑ってしまったのは誰の記憶にも残らないでほしい。本当に。

 それからも度々、頭の中を彼女の声が過りまともに部活へ取り組めなかった。それが悔しく自分の納得する一射が出来るまで居残り練習をしていたら、既に日が落ちてしまっていた。

 過去の先輩方が良い成績を残していたため、この学校の練習場には夜間用のライトなども設置されており練習に支障は無い。

 流石にこれ以上残っていると校舎の方が閉められてしまい部室になっているプレハブ小屋の鍵が返せなくなってしまうため、制服に着替えて校舎へと足を運ぶ。

 普段なら所々にまだ電気が残っている頃に道場を閉めているため、職員室と保健室くらいしか電気が残っていない今の時間帯はとても新鮮だ。

 消灯され、所々に小さく点灯している灯りを頼りに職員室へ向かう。この学校の職員室は職員棟と呼ばれる、下駄箱や食堂、休憩スペース等が配置されている校舎の二階にある。

 教室が集まっている校舎に比べてこの時間はまだ灯りが残っているが、それでも薄暗い事に変わりはないため、足元には気を付けなければならない。

 完全消灯するまで灯りを付けていても良いのではと思うが、電灯が消されるほど遅くまで残っているのはこちらの問題なので何とも言えないのが悲しい。

 職員室の扉を開けて中を覗くが、職員室内には誰も居なかった。

 本来は見回りと職員室に残る先生で分けられており誰かしらが居るはずなのだが、居ないのであれば仕方ない。

 戻ってくる先生も返されている鍵を確認するだろうし、ここは鍵だけ返して帰路に付いてしまおう。

 鍵を返し、靴を履きかえれば後は下駄箱から出て家へ向かうだけ。

 徒歩ニ十分と比較的近い距離に家があり、治安も良いためこの時間に歩いて帰っても問題は起きない。

 不注意の車などには気を付けなければならないが、帰路になっている道路は広めの歩道もあるため信号以外は気にしなくて良いだろう。



 帰路について十分程。この辺りは幅の広い川とそこに架かる橋があり、広い空がよく見上げられる。

 街が近いため星空が綺麗に見える事は無いが、見上げれば空しかないこの場所が僕は好きだ。

 帰りの早いテスト日などは土手や川岸、橋の上からこの辺りの風景を眺めるのが小さな趣味だったりもする。

 休日は家でまったりと漫画を読んだりしていたいためこの辺りまでは来ないが、だからこそここの昼空や夕焼け空は僕にとっては特別だ。

 見上げていた顔を正面へと戻し、再度歩みを進めようとしたのだが、耳が異音を捉えた。

 静かな夜には不釣り合いな、爆竹の音を大きくしたような音。

 それが橋の袂から伸びている土手の、川の上流側へ伸びた方向から聞こえてきた。

 退学騒動を起こした不良たちが川付近で爆竹を鳴らしているという話を数日前に聞いていた為それかと思ったが、それにしては音が大きい。何より声がしない。

 不規則に鳴り響く爆竹のような音。慣れてきた耳は他にも金属を打つような音や水を強く打つ音も捉えてきた。

 月を見ていた目は川に目を向けても暗闇のみを映し出していたが、こちらも慣れてきたため捉えられるものが出てきた。

 川岸は何処となく普段より凹凸が激しく見え、水を打つ音は間違いではなかったらしく高めの水柱が上がっていた。

 空から質量のある物体が落とされれば起こりそうな高さだが、空にはあいにく飛行機やヘリどころか鳥すら目に映らない。

 橋からの飛び降りも距離が離れているため除外する。そうすると水柱の原因は地上にあるのだろう。

 凹凸の激しくなっている川岸付近で目を凝らすと、微かに動いているものが見えた。

 月光を反射する艶やかな金色の髪。色が明るい事もあって、その色は完全に暗闇に慣れていない目でも少しだけ追う事が出来る。

 それ以外がシルエットすら朧気なため服装は黒いのだろう。それが右へ左へ、時には上へと動いていた。

 正直言うと、事件だろう。

 金色の髪は長いため多分女性だ。大量の爆竹で遊ぶ不良と、それを見かねた女性というのが妥当だろうか。

 僕が近づいた所で自体が好転するわけでもないので、ここは大人しく橋の上から警察へ連絡をかける事にする。

 面倒事は嫌いだ。通報をしたらさっさとこの場を立ち去ってしまおう。

 女性には悪いが、考え無しに突っかかったのではないと切に願う。

 百十番を入力し通話状態にしようとした時、ひと際大きい金属音がし、そちらに気を取られ顔を上げてしまった。

 視界に移るのは白と肌色。それが高速で僕の顔面へとぶつかり、その力に咄嗟に耐える事が出来なかった僕は背中から倒れ込んだ。

 頭を打たないように首だけは必死に上げようとしたが、顔面に受けた質量がそうさせてくれなく敢え無く後頭部も強打した。

「いっ…………たああああああああああ!」

 状況が何一つ理解できなかった僕に唯一伝わってきたのは後頭部の痛みだった。

 最初はあまりの痛みに声すら上げられなかったが、呼吸する間もなく痛みに耐えていた肺は酸素が足らなく、残った酸素と共に声を吐き出した。

 痛みにこのまま悶え苦しみ、痛みが引くのを待ちたい所だが、後頭部を打った原因が分からなければこの後の対処が取れない。

 これが川岸の不良から飛ばされたものであれば、逃げなければ目撃者として何をされるか分かったものではないからだ。

 痛む後頭部を抑えながら上体を起こし辺りを見回すと、傍には一人の少女と小さな物体が転がっていた。

 物体の方は耳の長く胴体の太い、ゆるキャラのようなピンクのウサギだったため気にしない。むしろそれよりも気にしなければいけないものがあるからだ。

 傍で倒れている少女は金色の髪をしていて、服装は藍色の服だ。

 ブレザーなのだが、何処からどう見ても僕が来ているブレザーと全く一緒。

 つまり同校の生徒という事になる。

 そしてこの少女の傍には小さいながらも赤い水溜まりが出来ている。血だ。

 ストッキングの大部分が断線していて、太腿の辺りに血だまりが出来ている。

 血だまりは少しずつではあるが広がっているために血は間違いなく止まっていないだろう。

 何で川岸に居たであろう少女がこの場に吹き飛んできたのかは全く分からないが、今は彼女の意識確認が最優先だ。

「ねぇ、ねえ!大丈夫ですか!」

声は大きく、耳に届くようにしながら身体は軽く揺する。 大きく揺すった方が少女の意識確認がすぐに出来るかもしれないが、僕が頭を打っているのだから彼女も頭を打っている可能性が大きい。

 そのため下手に動かす事が出来ず、出来る事は声を張る事だけだった。

「ん……うぅ。い、たい」

 何度か声をかけていると、少女の意識が少しずつ覚めてきたのか、呻き声が聞こえてきた。

 どうやら完全に意識を失ったわけではないらしい。

「大丈夫ですか。今救急車呼ぶからもう少しだけ我慢しててくださいね」

 意識を取り戻してきた少女にそう伝えると「きゅうきゅう、しゃ」と耳から入った言葉を理解するためなのか、ゆっくりと声に出していた。

 それによって現状が少し理解できたのか、彼女は頭を打っているであろうにも関わらず大きく状態を起こした。

 安静に、という言葉を口にしようとしたのだが、僕の口は無意識的に別の言葉を口にしていた。

「……西野、さん?」

 艶やかな金色の髪は風に揺れ、額から、一筋の赤い滴が流れ出した。

 髪色だけが似ていない西野さん。彼女の表情は驚愕に染まり、そして険しい。

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