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あいはぐ  作者: おじぃ


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29/33

29,それぞれの思い

 ダム建設のために国の機関から派遣されたという男性は、私たち八人の前で、ごめんよ、ごめんよぉ、とひたすら陳謝している。きっと計算ではなく、心からの言葉。私が思うに、きっと彼は国が電力不足の危機に陥る可能性があるとはいえど、この村にダムを造ることで私たちから故郷を奪うのは本意ではないのだろう。


 絵乃が男性を(なだ)め、涙の理由を問う。


 絵乃の言葉に男性は、優しい子だね、と涙を浮かべながらも笑顔を見せ、語り始めた。


「この辺りに電気を送っている原子力発電所はね、造ってから二十五年くらい経って、そろそろ寿命なんだ。だから故障する前に発電を止めなきゃいけないんだけど、そうすると電気が足りなくなってしまうかもしれないんだ」


 子供たち八人は同時に頷いた。


「電気が足りなくなっちゃったら、どうなるか想像してごらん?」


「停電、しちゃうね」


 一年生の(のぞみ)が、細い声で言った。


「そうなんだ。停電するとね、エレベーターに閉じ込められた人とか、手術を受けてる人とか、色んな人が体調を崩したり、死んじゃうかもしれないんだ。その他にも、電車が動かなくなったり、電話が通じなくなったり、建物では水が出なくなったり、信号が点かなくなって交通事故が起きたり、 暗い所でロウソクを使うと火事が起きたり、大変な事が沢山起きてしまうんだ」


 一呼吸置いて洋子が問う。


「確かにそれは大変だけど、電力供給を安定させるには水力発電しかないんですか? ソーラー発電とか風力発電とか、他にも考えられますよね?」


「そういうのもあるんだけどね、ソーラー発電は個人で発電可能なエネルギーシステムだから普及すると自分たちの利益が上がらないって言って電力会社が嫌がるし、風力発電だと、風は日によって強さや吹く方向が違うから、安定した電力供給が期待出来ない。安定した電力供給と税金の使い道も含めて考えてみると、水が豊かなこの場所に水力発電所のダムを造るっていう結論に至ったんだ」


 やべぇ、何言ってんだかよく解んねぇ。


 真と大介は会話の内容が難しくて混乱し始めた。


 二人の様子に異変を感じた絵乃が心配して声をかける。


「二人とも大丈夫? 揃って口開いて、上の空になってなるように見えるわ」


「「おっぱい揉めば元気、百倍だぜ、キリッ…」」


 ドヤ顔で何かを期待しているかのような、しかし脳内がパンク状態のため引き攣ったスマイルで絵乃と洋子に交互に目をやる高校一年生と小学五年生。


 しかし洋子は二人を無視して男性の話を真剣に聞いている。


「無理しないで木に身体を預けて休むといいわ。ロリコンブタ野郎と思春期の迷える子羊ちゃん」


「こ、子羊だと!?」


「あぁ、もっと、もっと言ってくれぇ、ハァ、ハァ…」


 絵乃の発言に反発する大介と、相反して顔を紅潮させながら興奮して息の荒い真。


 この二人に今の話題は理解出来そうもないと思った絵乃は、彼等の頭を鷲掴みにしてどっさり積もった雪の中にズボッ! と突っ込んであげると、頭だけ雪に埋もれたまま二人は動かなくなった。


 その様子を見ていた男性が、この子たち、大丈夫なのかな? と心配そうな顔で絵乃に尋ねた。


「はい、大丈夫です。頭を冷やしてリフレッシュしてもらっていますので、気にせずお話を続けて下さい」


 男性は、そうかい、わかったよ、と頷き、話の続きを始めた。その表情は、内容とは裏腹に、子供たちに語り聞かせるように穏やかだった。


「さっき、ソーラー発電は電力会社が利益を得られなくなるから嫌がるって話をしたけど、電力会社の社員の中には、水力発電所を造りたくない人も沢山居るんだ。新しい発電所を造れば、それを管理したり運営するのにお金がかかる。その分、電力会社のお金は無くなってしまうから、電力会社で働く沢山の人たちは、お給料、特にボーナスがあんまり貰えなくなってしまうんだ。それに、みんなが必要以上に電気を使わなければ、いま動いている古い発電所が無くなっても電気は十分に足りるんだ」


「つまり、水力発電所は本来ならば不要ということですね?」


 絵乃は男性に確認した。


「うん、極論を言えば、そういうことになるね」


 ならば、人々は日々どれだけの電力を無駄にしているのだろう? 


 誰も居ない部屋の蛍光灯やテレビ、エアコン、その光加減、音量、設定温度。


 電力に限定しなければ、自動車や暖房器具に使われる燃料、それに水道やガスだって、少し気を付けるだけで無駄は省けるはず。


 省エネ活動を一人だけで変わらないといって、やらない人も居るけれど、それは単なる怠惰や自己中心的な発想に過ぎない。私はそんな勝手な人たちのために村を犠牲になんてしたくない。


 村に無関係な立場になり、客観視してみると、有効に電力を使用するとしても、環境問題が深刻化している現代において、村や自然を破壊してまで新しい発電所を建設する必要はないだろう。これを機に、というのは大袈裟かもしれないが、今後の経済活動は、人々のためのみではなく、地球に生きる多種多様な生命にも考慮した、『エコな経済活動』を展開すべきではなかろうか。


「オジサン、電力不足の問題は分かったんスけど、国の予算の使い道にダムを造るって話も聞いてるんすよ。その辺どうなんすか?」


 突如、項垂(うなだ)れていた真が頭を上げて言った。どうやら冷静になれる状態まで復活したようだ。


「それはね、要するに、『電力が足りない、どうしよう?』『なら、余ってる税金があるから、それを使ってダムと発電所を造っちゃおう』ってことなんだ」


「なんかアバウトっスね」


「いやいや、ちゃんと綿密に予算を組んでるよ。難しい話だって、案外目的は単純だったりするのさ。だから要約すると、こんなにも短時間で説明できるんだ」


 そこで洋子が言う。


「私は電力とか税金がどうとかってより、ダムを建設する計画はずっと前からあって、村の大人たちはそれを知っていた筈なのに、子供たちに黙ってたってのが一番許せない」


「そうか。それはきっと、言い出せなかったんだろうね」


「なんでですか?」


「それはきっと、村の大人の人たちは、大切な故郷(ふるさと)がなくなってしまうかもしれないっていう、不安や恐怖を子供たちにまで煽りたくなかったのだろうね」


「だとしても、やっぱり言って欲しかった。故郷の一大事だからこそ、ちゃんと話して欲しかった!!」


 言いながら泣き崩れる洋子を、真は胸に抱き寄せた。洋子はされるがまま、真の胸に顔をうずめた。 

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