23,大介の意外な一面
クリスマスの夜、秋子先生の借家に村の子供たちが集まってパーティーが行われていた。
秋子先生がキッチンにある冷凍室からケーキの箱を取り出してきた。なぜ冷凍室なのだろう?
「みんな~、このケーキはアイスクリームで出来た特別なケーキなのよ。元気がある子もそうじゃない子もケーキで景気良くいきましょう!」
一瞬、元気がある子もそうじゃない子も時間が止まったようだった。普通ならケーキの登場を喜ぶ場面なのに。
「先生、笑えないし突っ込めないギャグはリアクションに困りま~す」
時間が再び動き出し、大介が余計な事を言うと、秋子先生はケーキを扇形に切り分けながらニッコリして、そうだねと返事した。「あぁ、ケーキなのにひんやり冷たい、まるで雪解けの小川の如く喉から脳内が澄み渡ってゆくようだわ」
「ケーキなのにアイスクリームの食感なのが不思議で美味しい。秋子さんグッチョイス!」
私と洋子ちゃんはケーキを絶賛。しかし大介は異論を述べた。
「おいちょっと待った! なんで俺の分だけペラペラの千切りなんだよ!?」
「ごめんね、五等分は難しいから私と大介君のだけちっちゃくなっちゃった。でも私の分のほうがちょっと多いかな。てへっ!」
「ちょっとじゃねぇ!! 秋子先生のほうが十倍くらい多いだろ!! それにオバサンがてへっ! なんて言っても可愛くねぇ!!」
「私、まだ二十代なのになぁ」
秋子先生はまたニッコリした。
反論した大介は、お茶目な秋子先生に隣の部屋へ連行され、戻って来る時は首を掴まれ引きずられながら両手で股間を押さえ、瀕死状態だった。
しばらくして意識を取り戻した大介は、サンタクロースが描かれた銀紙のパッケージに包まれた瓶を両手で頭上に揚げながら言った。
「おいみんな! シャンメリー開けるぞ~」
シャンメリーとは、子供が居る家庭のクリスマスパーティーでよく飲まれる定番の炭酸飲料のことで、カルピスウォーターくらい白いプラスチック製の詮を開けるとそれがロケットのように勢いよく飛ぶ。
スポンッ!
勢いよく吹っ飛んだ詮は一旦天井にコツンと当たってから落下する。
コツンッ!
「ぁいたっ!」
詮が落下し、私の頭に直撃した。言葉の割に、プラスチックの詮は痛くも痒くもなかった。
「あっ、わりぃ絵乃」
大介が謝るとみんなが、あははっと軽く笑った。
「ふふっ、来年は当たり年になりそうね」
私は詮の直撃に、来年を予感した。でも来年には、ここが無くなってるのかな。どうかダム建設が中止になって、今まで通りみんなで楽しく暮らしたいな。本当に当たり年だったらいいな。
しばらくして、テーブルを囲んだまま真君と洋子ちゃん、アスタ君と秋子先生、大介と私がそれぞれ二人で話していた。
「なぁ絵乃、お前はダムについてどう思ってるんだ?」
大介にしては珍しく、真面目な話を振ってきた。
「私に相談かしら? いいわよ。お姉さんに何でも話しなさい」
「あぁ、そういえば一つ年上なんだった」
「そうよ。普段はそんなの意識しないけれど」
こうしてダムの話を真面目にするのは実は秋子先生に次ぐ二人目だった。家庭内ではその話は何故かあまり持ち上がらず、そもそも客観的にみれば腰越家は普段から会話の少ない家族なのだろう。
「俺たち小学生はみんな四月までに引っ越すだろ?」
「ええ」
「んで、うちは引っ越しと同時に親が離婚する」
「え? 離婚?」
離婚という未知に、どうリアクションしたら良いか分からない。とりあえず所々相槌を打ちながら話を聞く。
「そう、それで俺は母親に付く事になってるんだけど、正直、俺は長男として今住んでる所の後継ぎになるつもりだった。こんな俺でも村に愛着あるからな」
仮にこの村がダムにならず残ったとして、将来はこの村の誰かと結婚して、子供を産んで、なんて平和的な未来像があった。しかしこの村は存続そのものが危うい状態である事をいつの日か知った。
この山興村は『準限界集落』と呼ばれる、全人口のうち五十五歳以上の住民が半数を超え、後継者不足が懸念され、将来の存続が危うい村でもある。ダム建設計画の背景にはそれも関係している。
そのような土地の未来は果たしてどうなるだろう?
頭の中で未来を想像しつつ大介の語る内容も理解し会話を続ける。
「あなたって男の子らしいわね。私そこまで意識していなかったわ」
「ああ、体育の時間は絵乃の着替えにさりげなく注目してるぜ」
そういう所が男の子らしいのは以前から知っていた。しかし私に欲情していた事には少し驚いた。
「あら、そうだったの? 私も男の欲望を孕んだ視線が向けられるようになったのね。なら私は次回から大介の着替えに注目させていただくわ」
「いや、そこは恥ずかしがったり今度から更衣室で着替えるとか言うトコだろ」
「だって、やられっぱなしではいられないもの」
物心ついた頃から思っていた事だけれど、私の思考回路は常軌を逸しているみたい。
私だって十二歳。男子と同じ場所で着替えるのに抵抗はある。しかし洋子ちゃんが六年生の頃も同じ教室で着替えていたし、私は恥ずかしいから別の部屋にして欲しいと洋子先生に告げるのも、胸がつかえてしゃっくりが出そうなくらい抵抗があった。
「で、本題のほうはいいの?」
話が脱線したので本題に戻そうとしたら大介は、やっぱ明日話す、今日はクリスマスパーティーを愉しもうぜ、と言った。それもそうねと私は同意し、パーティーを愉しむことにした。
今まで無邪気な腕白少年かと思っていた大介だけど、自分なりに物事を捉えて考えているんだなと感心した。
どこか思考がズレている私でも、頼りにしてくれている以上は彼の心情を真摯に受け止め、気持ちを良いベクトルへ向けられるよう応えていきたいと思った。




