14,子作りしましょ!?
秋が深まり、残された時間は少ない。
「俺に大学行く頭なんかねぇよ。就職だよ就職。でも東京に本社がある大企業だぜ?」
「そうね。もし浪人したらどうする?」
「縁起でもねぇ事言うなよ」
火曜日の放課後、絵乃はブロイラーを右肩に、ガーデンを左肩に載せて一年生の頃に作った秘密基地を訪れた。六年間維持してきたこの基地ともお別れになる。
二羽を肩から降ろして倒木のベンチに座りながら膝に肘をつき手の平で顎を抱えてずっと続く森の木立をぼんやり眺め考え込む。
小学校が廃校にならなければ下級生たちは転校せずに済む。今の私に出来るのは、期待は薄くても学校職員に廃校反対を強く訴えてみよう。今までだって反対とは言ってきたものの、決定事項だからだめだと言われ続けた。今、私に出来る事を思いつく限り実行してゆく。これが最上級生として、みんなにしてあげられる事だと。絵乃が考え込んだ末に出した結論だ。
◇◇◇
家に帰ると、絵乃が低学年の時によく遊んでもらった高校一年生の真と中学三年生の洋子が来ていた。
「おっす! 久しぶりだな!」
「久しぶり~、お邪魔してま~す」
「久しぶりね。突然どうしたの?」
「友達の家に来るのにどうしたもこうしたもねぇだろ? 俺ね、東京にある大学、略して東大に行くことになったんよ。んで、村を離れるから挨拶回りに来たってのが事情ってわけよ。ってか洋子が何故か俺に付いてくる意味がわからんよ」
「わ、私は、ほら、その、真が一人で行くのは心細いと思って一緒に行ってあげてるのよ? 感謝しなさいよね? っていうか行く事になったって、まだ高校入ったばっかりじゃない」
この二人は小さい頃からいつもこうだ。真は洋子ちゃんに意地悪を言ってツンツンした台詞を吐かせて愉しみ、洋子はそんな目論みなどに気付かず、まんまとそう言う。洋子が真を好いてるのは絵乃から見ても明白だ。
腰越家の居間のちゃぶ台に近所に住むトメばぁちゃん以外のお客が来るのは久しぶり。しかも両親も留守の家に無断で上がり込まれるなど滅多にないが、この村の人々は家に鍵をかけるなどほぼないので仕方ない。
絵乃はお菓子を出すためにキッチンへ行った。居間は再び二人きりの空間になった。
「本当は大学行く気なんかないんでしょ?」
「そこは突っ込まないでおくれよ。でも、俺の挨拶回りに洋子が無理矢理付いて来たって言えば、機転利かせていつものツンツンっぷりを発揮してくれるって思ったわけ。ま、俺を頼りにしてくれたのは気分悪くもないけど」
「だって、味方は一人でも多いほうが、絵乃ちゃんだって心強いでしょ?」
「ああ、俺もしっかりしねぇとな。いつまでもガキじゃねぇ。愛した女と後輩くらい守れなきゃ男が廃る」
「フッ、まだ十六のくせに」
「お前なんかまだJC(中学生)だろ? でも、洋子が俺に泣き付いて言ったこと、ちゃんと真っ正面から向き合うから」
キッチンから絵乃が戻り、カキピーや煎餅といったお菓子の袋がちゃぶ台に並ぶ。
「二人とも、何を話していたの?」
「ああ、洋子がいつまでも子作りさせてくれないから交渉してたんだ」
すかさず洋子は、バカ! 十二歳の子になんて事言うの!? と真の後頭部をひっぱたいた。