13,最上級生として
月曜日、二日ぶりに飼育小屋を訪れた。ヒヨコたちは順調に成長し、顔つきがニワトリらしくなってきた。
「絵乃ちゃん、またニワトリの衣装…。さっきまで普通の服着てたのに、いつの間に着替えたんだね」
後から来たアスタが私の格好にツッコミを入れた。
「着替えてるんじゃなくて、普段着の上から被ってるの」
彼は私の事を不思議だとか、意味わからないとか思っているでしょう。当の私も意味わからない。
飼育小屋の中をさっと箒で掃いて外に出る。見上げれば青空。梅雨時にしては珍しく雲一つない快晴だ。カラッとした陽射しがもやもやした気分を少し取り除いてくれる。
ふと校舎の方を眺めてみると、村では見かけないスーツ姿の 中年男たちが校長に迎えられているのが見えた。この学校が廃校になる事と関係ありそうな臭いプンプン。
そうか、やっぱり廃校になっちゃうんだ…。
動物たちの事で頭がいっぱいだったけれど、やはり自分が巣立つこの世界でたった一つ小学校が無くなってしまうのは素直に淋しくて、切なくて、実感が沸かない。
私もこの村から居なくなる。引越先は遠く離れた神奈川県、葉山の森の中にある別荘に決まった。別荘とはいえ、今住んでる家より設備は充実していて、本荘にするには申し分ない。そして何より、湘南と呼ばれるその地域は人口もペットも多く、周辺に動物病院が幾つかあるからブロイラーたちとも安心して暮らせる。
「絵乃ちゃん、引越したらブロイラーとガーデンのこと、よろしくね」
「ええ、アスタはラビットと仲良くね」
廃校後、飼育小屋の動物たちは上級生三人で分配し、二羽の鶏(ダジャレか!?)を私、ウサギのラビットをアスタ、ヒヨコたちを大介が育てることになった。
「もちろんだよ、絵乃ちゃん。なんでこの学校、無くなっちゃうんだろう? ずっとみんなと一緒に遊んだり勉強したりしてきたのに、それが来年の四月には、出来なくなっちゃうんだよね」
「そうね、でも四月まではみんな一緒よ? それに引越してからだってまた会えるわ。だから連絡先教えてね?」
「うん…」
淋しそうに目を細めるアスタを見て、胸が締め付けられた。
来年、桜が咲く前にずっと一緒だったみんなが離ればなれになってしまう。私の家で時々夜ご飯を一緒に食べるトメばぁちゃんともお別れになってしまう。
いま目の前で下級生が、仲間が困っている、淋しそうにしている。特にアスタみたいな素直な子が弱っていると助けたくなってしまう。母性本能は十二歳の私にもしっかり備わっていて、その上、最上級生としてしっかりしなくてはいけない。そんな緊張感があった。
「コケッ、コケコケッ!」
「どうしたの? ブロイラー」
両翼をバサバサさせて私に訴えかけるブロイラー。
まるで「元気出して!」とでも言っているよう。
「ありがとう。なんか励まされたわ」
「コケッ!」
感謝の言葉を告げるとブロイラーは右翼だけを挙げ、敬礼のように返事した。
「どういたしまして!」
私にはそう聞こえた。
頑張ろう、大変な時こそ元気出さなきゃね。