異世界転生してみたいから死んだら、また自分に生まれ変わった件
子供のころ、背が低くていじめられた。太っちょで気の弱い僕は、僕より年下の奈美ちゃんに呼び捨てで呼ばれていた。高校になって、知らない同級生に「ぶさいく」といわれて、容姿を気にしだした。身だしなみを整えてみたけど、離れた目とぺちゃんこな鼻が欠点だ。
高三の夏。ささいなことで友人ともめて孤立したら、いじめにあうようになった。段々エスカレートしていったけれど、卒業までなんとか耐えた。
大学に行けば自由……だと思っていた。同じ高校のいじめっ子Aがいるのを知るまでは。噂はLINEを通じて一気に広まり、僕はまた孤立した。
もう嫌だ!!!
そう思ってアスファルトを歩いていると、電柱の隅に一冊の本が落ちていた。『異世界転生』もののラノベだった。希望を失っていた僕は、死んで異世界に行ってみようと思った。死後の世界なんて、誰もわからない。この世界もつまらない。苦しいだけだ。逃げ出したい。そんな気持ちだった。
ガタンゴトン……
僕は電車に飛び込んだ。これで醜い体や過去とおさらばだ。そしてハーレムが僕を待っている。
――はずだった。
「おめでとうございます斉藤さん。男の子です」
「あなた。産まれたわよ、勇気が」
「ああ、あったかいなぁ」
聴き覚えのある声、感じたことのある温もり。父さんと母さんだ。
その日から僕は斉藤勇気になった。
エルフは?美女たちは?僕イケメンになるんじゃないの?勇気を持って死んだのに!……でも、母さんの手、あったかいなぁ。父さんの瞳にはぶちゃいくな僕が写っている。でもそんな僕から目を逸らさずにじっと見つめてくれる。
(勝手に死んじゃってごめんね)
僕は嬉しさと悔しさで「オギャーオギャー」とひときわ大きく泣いた。
続きません。