最初の復讐 ゲスな母親に報復を
黒野家はそれなりに一時期は裕福な家であった。
一家の大黒柱たる真紀の旦那が生計を立ててうまく仕事をこなせていた時期まではそうだった。
だが、ある時期からそれは変貌した。真紀の姉の息子を引き取り、養子として迎えた後に突然としてその息子は貧乏神だとでもいうように旦那の会社が倒産し、借金を抱え込んでしまった。
おまけに旦那の性格は温厚だで優しく気遣いがとれる人のよいはずがまぎゃくの性格に変わり真紀にも娘にも、貧乏神のような義理の息子にも手を出して家で飲んだくれ始めた。
それなりに、転職活動を行い始めたようだったが一度警察に拘留されたという息子の里親になった旦那の履歴には傷がついて受け入れ先などなかった。何よりも、元々所属していた会社自体も塔さん理由が不正を働いたのが大きな原因だったために良い印象はなかったのだ。
次第に、旦那に対して真紀自身も嫌気がさし始めた。ある時に児童保護施設の職員がやって来た時に心底ほっとした。子供が取り上げられそうになったが真紀も被害者と訴え出たことでどうにか子供と3人の生活が支援のもとで許された。
それでも、真紀にとっては心の傷は未だに癒えてはいない。里親にならなければと思い始めた上に子供たちに対して憎悪がわきあがる。
まず、真紀は貧乏神の息子を殴るけるの暴行を加えたが愛情をもった実の娘がその息子をかばうのが更に真紀をいら立たせた。だから、娘にも次第に手を挙げてしまった。
あれが、過ちだ。
真紀は自暴自棄が走って娘に家の生計を押し付けだれも信用できない心になってきた。
次第に引きこもり酒におぼれていったのだ。
******
黒野家のみすぼらしいこの腐った家に一本の電話が入った。
黒野家には現在、黒野家の母親と言う立場にある黒野真紀しかいない。
叫んで娘を呼んだが返答はない。毒を吐きながら受話器を取って「はい、黒野です」と応対した。
すると、相手からは見知らぬ女性の切羽詰まった気配が伝わるような声色でこういった。
「黒野さんのご自宅でしょうか」
「そうですけど、どちらなの? 今忙しいんで後にして。勧誘ならお断り」
「よく聞いてください。先ほどこちらの病院にお宅の娘さん、黒野芽衣さんが緊急搬送されてきました。早急にこちらへ来て入院のお手続きをお願いしたいのですが」
「え……」
おもわず受話器を取り落とし何かの聞き間違いだと耳を疑った。
慌てて机の上にあった携帯を手にとって娘の携帯にかけた。だけど、出ることはなかった。
「うそ……」
「あの、お母様? 聞こえていますか?」
「あ、はい……。そんあことより、入院費用はいくらかかるの?」
「え」
「いくらかかるか聞いてんのよ! 娘が入院することになるならお金がいるってことじゃない! ふざけないでよ! ああ! もう、あのバカ娘!」
「お、お母様落ち着いてください。まずはこちらの病院に来ていただいてゆっくりとお話を」
「わかった。それで、どこの病院?」
「それはですね……あなたの後ろですかね」
「はい?」
その瞬間視界が真っ暗に包まれて頭を何かで強打され、意識を失った。
******
まどろみの中で冷気を感じさせ目覚めさせられた。
髪がびしょびしょに濡れてあまりの冷たさに風さえ引きそうだった。
鈍い痛みが頭に感じて目が半開きだった。
「ここは……どこ?」
ゆっくりと景色を確認する。どこかの納屋だろうか。まわりに鉈や鎌など農作業で扱う道具が立てかけてある。他には目の前に照明スタンドがあって真紀に眩いほどの光が照らしかかっていた。
「だ、誰か! 誰かいないの!」
必死で叫ぶも誰の返事もなかった。しばらくして奥から足音が聞こえてくる。現れたのは3人組の男女。一人は男で二人は女。黒いケープを羽織り、顔を穴のあいた紙袋で隠していた。
男が手に赤黒い奇妙な銃をもち、銃口を向けた。
「な、なに! やめなさい!」
「やめなさい? お前は自分の息子がそう懇願したのに一度もやめなかったな」
「っ! な、なんの話よ! あなた息子の友達?」
くぐもった男の声がどこかで聞き覚えのあるようなないような声だった。
だけど、真紀は恐怖でそんな声の主の正体を考えることができない。椅子に真紀は手足を拘束して縛り付けられているんだ。
「今すぐ出して! 娘が娘が病院に搬送されたの!」
「何を言うんだろうな……お前にとって娘はただの金のなる道具でしかなかっただろう。自分は家でのうのうと酒でのんだくれて娘に生活のすべてを押し付けていた」
「だからなんの話をしてるのかさっぱりよ!」
今度は女が短刀を取り出して真紀の首筋に刃を当てがった。
「わからないとは言わせないです。そうしてすべてを他人に押しやって自分は酒におぼれてく生活を満喫していた。挙句にはストレスを娘や息子のせいにして自分のうっぷんの気晴らしに殴り続けていましたね」
「あなたたち娘たちのお友達さね、あのクソ餓鬼どもあたしに恩を忘れてこんな仕打ちを仕掛けているんさ! こんなことしてあなたちただじゃ済まないよ! 娘の搬送先の病院があたしの家に連絡をすればあたしが行方不明であることが知られ警察が動くわ。そうなったらおしまいよ!」
短刀で頬が斬り裂かれ真紀は絶叫を上げた。
「うるさいです。そうやって叫んでも無駄ですよ。第一その電話はウソです。私たちがかけた電話ですから」
「なっ」
「哀れな人だよ」
男の方が立てかけてあった鉈を手にした。そのまま徐々に近づき、真紀はやめるように懇願する。
その願いは聞き届けられずに思い切り真紀の肩に振り下ろした。
真紀は恐る恐る痛みの来ないことに驚いて目を開けた。
椅子の背もたれに鉈が突き刺さりぎりぎりで鉈の刃が皮膚を裂かなかった。服だけが裂け肩が露出する。
身体が震えあがり異常者の3人を見つめた。
「今度は本気でヤル」
「っ! じょ、冗談よね? 娘や息子が私を殺せっていうはずない。そう、そうよ」
「言うだろうな」
「そうですね。電話で娘が病院で搬送されたというのにもかかわらずあなたは真っ先にお金の問題を口にしたんです。実の娘が怪我をしたと聞いたら生死を確認するのが親ってものでしょう。なのに、お金ですよ。呆れてしまいますね」
さらに短刀で頬を切り裂いてく女に真紀は牙をむく。
「痛いじゃないの! なんてことするのよクソビッチ!」
「…………こうやってなんどもあなたの娘は傷をつけられてきたんですよ」
「はぁ? あたしゃ知らないよ」
男が今度は腹を殴りつける。
「まだ白を切るか? え? 息子も傷をつけられたんだ!」
さらにもう一撃腹を痛撃する。
真紀は肺から空気が漏れて喘ぐ。
「あはは、何が悪いと言うのよ。あのガキどもは私がいなかったらのたれ死んでいたも同然。私が救って育て。息子に至っては里親になってあげただけでも感謝してほしいくらいよ」
「だからと言って痛めつける権利はあなたにはない!」
「そうですね」
「私だって痛めつけられてきた! あのクソな旦那に! 旦那だって最初はそんな人じゃなったはずなのに息子が来てから全部変わった!」
それを聞いた時、男の方に変化があった。わずかながらに身体が小刻みに震え後ずさった。
「勝手に息子のせいにするんじゃありません! あれはただの偶然でした! ユウくんが来たからと言って会社が倒産したわけじゃないです!」
「ユウくん? ……まさか……あなた……」
そこへ今まで手を出していたなかった女が前に出て真紀の額に手を触れた。バチッ、と妙なことにそのすでに電流がほとばしった。真紀の体がスタンガンにやられたように感電する。
息も絶え絶えな状態になった真紀はゆっくりと3人組を順番に見てから嘲笑した。
「覚悟しなさい。これは立派な犯罪なんだよあんたら」
「あなたが犯したことはもっと犯罪です」
「ハッ、バレなきゃ犯罪じゃないんさ」
そういった時、真紀は拘束したひもをちぎって短刀をもった女に飛びかかった。
やれながらも後ろ手で徐々にひもを緩めて動かしていたのだ。
女に馬乗りになって紙袋を取っ払い素顔を確認して唖然とする。
その下にあった顔は実の娘の黒野芽衣だった。
「そう、やっぱりね。母親に対して復讐しようってのかい!」
「だったら何ですかっ! 今までの報いを受けなさい!」
短刀を振りあげた芽衣の腕を掴み、芽衣の首筋へ持っていこうとする。
「あははっ! 親不孝な娘は死んでしまいな!」
そこへ、男が助けに入るように横合いからタックルをかまし真紀を突き飛ばす。
真紀は短刀を手にして男の背中を突き刺した。すると、男が苦しむのではなく真紀が背中を押さえて苦しみ出したのだ。
「あがぁああああああ!」
そこへ、真紀に電流を流しこんだ女が笑う。
「その短刀の標的はあなたになってるのよ。他者を傷つけても傷は標的者にしか傷つかない。つまり、あなたは自分で自分を刺したの」
「な、なんなのさそれ? 意味わからないよ!」
短刀を放り捨て立てかけてある鎌を手に持ったが男の拳銃が撃ち落とした。
「くくっ、あはは。あんたも誰かわかったさね。クソな息子。なにさ? それであたしを射ち殺すか。え?」
「うるさい。黙れ」
「同じさね。あんたも結局犯罪――」
「黙れぇ! 『trigger on』!」
引き金が引かれ一発の弾丸が真紀の胸元を射抜いた。
真紀はしっかりと感触を感じ胸を抑えたが何も感じない。
ゆっくりと胸を触ってたしかめた。
「あはは、馬鹿さね。外したさね」
「いや、はずしてない」
その時後ろにいつの間にか義理の息子の黒野勇気がいた。
そして、なぜか、真紀はまた椅子に縛り付けられて座らされている。今度はさっきよりも頑丈な椅子だ。死刑宣告を受けた死刑囚が座るような拘束用の電気椅子。
娘の芽衣が作動スイッチに手を触れて真紀の体に飛んでもない電流が流れ込み身体が焼かれるような感覚を味わい続けた。
意識がシャットダウンしてまた目覚めると今度はどこか真っ暗な部屋で宙づりにされている。
芽衣が手にしたポリタンク。その蓋を開け中身の灯油を真紀に大量に浴びせる。止めに勇気が手にしたライターの火が点火し真紀を焼き焦がしていった。
真紀は絶叫を上げながら意識を薄れさせていきまた目覚めると中世のローマ時代を彷彿とさせる斬首台に自分はいた。その斬首台のひもを勇気が引いた。また、真紀は死んだ。そして、幾度となく繰り返される自分のいろんな死を永久に体験していく。真紀は絶叫して嘆き苦しんで闇の底へ沈んでいった。
******
倒れた虚ろな目をした義理の母を見下ろして勇気は腰を落とした。
その肩にゆっくりと芽衣が手をまわして身を寄せた。
なぜか、瞳からは何だがあふれてこぼれてくる。
なぜだろうか。
「くふふっ、あなたたちの偽善は頂いたわ。さて、この女はどうするの?」
「どうするってどうしようもないでしょう。こんな女もうただの人形ですよ」
「そうだな。芽衣姉さんのいうとおりだよ。俺の『Barrett trigger』の能力、死の回帰を永遠と体験している。精神は死んでるんだ」
「では、このままここに放置を?」
そう言った雪菜に二人は頷いた。もう、そこにいるのは亡きがらでしかない。それが親だという感情を捨てていた。
善意なんてものはもう感じない。
「ですが、お二人ともこの場所に放置するのは最善策とは言えないんじゃないの? 誰かが彼女を見つけたら大事よ」
彼女の言うようにこの場所に放置することがどれだけ危険が伴うかも考えないといけない。
でも、何処に移動させるというのか。家にさえこんな『人形』をおいてはおきたくはない。
「ここって廃墟じゃなかったんですか?」
「ここは私の能力で所有者を操って借りてるにすぎないのよ。早急に退散しないと能力の効果も切れて大事よ」
「どっかの廃墟に捨てるしかないか」
「でも、この『人形』をどうやってその場所まで移動させて持ち運ぶんですか? ユウくん」
そこへ雪菜が「いい案があるの」と申し立てた。
「いい案?」
「ええ。芽衣先輩。あなたのトリガーの能力がここで役立つのよ」
「私のトリガーの能力ですか? 標的を傷つけるだけじゃないのですか?」
「それはすべてのトリガーについた機能なのよ。本来の『Dagger trigger』の能力は他者を操ること。さぁ、起動コードを唱えて」
「trigger on!」
短刀がわずかに赤い発光を発生させた。
雪菜が短刀の刃を真紀にあてがうように指示を送り「立ち上がれ」と念じろという言葉に従い芽衣がやると真紀は立ち上がった。
「これで後は彼女を自分で廃墟に行かせればいいだけよ。私たちはこのまま家に帰ればOK」
「すごいなこれ」
勇気は自らのトリガーを触り、芽衣は真紀にどこか見知らぬ廃墟に行けと囁いていた。
二人の上手な権能の扱い方に雪菜はご満悦の表情を浮かべる。
「お二人ならどんどんとうまく権能を扱って行けるわ。そうそう、これが報酬金。あなた方の善意を元に私の力で構築したもの程度の金額よ」
勇気の手元に札束がひと束握らされた。
ざっと、100万はあった。
「なんだこの金額っ!? こんなにもらえない!」
「なにを言うの? これはれっきとしたあなたのもの。私はしっかりとそれに見合ったものをいただきましたので受け取ってもらわねばいけないわ」
「だけど……」
「まだ、微々たる善意があるのかしら……おかしいわね?」
「あ?」
「なんでもないわ。芽衣先輩にでは、渡すわね」
そう言って勇気の手元から札束をとり、芽衣に渡すと芽衣は雪菜から報奨金に関する説明を受け、平然として受け取った。
「もらえるものならいただきます。これで、当分は生活に困らないです。ですが、偽札ではないですよね?」
「そうんなことないわ。れっきとしたホンモノ」
ぺらぺらと芽衣はめくってポケットにしまった。
勇気は困惑したがそれも一瞬のこと徐々にどうでもよくなった。
「さっそく、次の標的は誰にするのか聞いても?」
「次の標的か」
「ユウくん、ユウくんをいじめた連中を懲らしめないの?」
勇気はフラッシュバックするリンチの記憶。
悔しそうに歯噛みして銃を握り締める。
「明日の放課後に奴らを標的にして捕まえよう。芽衣姉さんも協力してほしい」
「ええ」
「じゃあ、決まりね。ふふっ、楽しみですよ」
次の標的も決まり着実と復讐の物語のページは刻まれ始めて行った。




