謎の転校生 後編
先ほどの光景が脳裏をちらつき、席に座ってなお落ち着くことなくずっとそわそわしながら周りをじろじろと見ていた。
それは周囲に気味悪い様子でありひそひそと黒野勇気を噂の種にする。
授業開始から10分たっても先生は現れずHRは未だに始まらないので生徒たちも会話を楽しんでいたのだ。そこで、噂の種になりそうな陰湿な性格の勇気が目に付いてひそひそと昨今の転校生の話題から勇気に変更になっている。
いつもの彼とはうって変わっているなどという話が勇気の耳にも聞こえる。
しばらくして、教室の戸が開き教師が入ってくると同時にもう一人入って来た。
クラスが騒然となった。
勇気も目を向けて唖然となって空いた口がふさがらなくなる。
「ほら、みんな静かにぃー! 噂で知ってると思うけど私たちのクラスに新しい仲間が増えます。じゃあ、久遠さん自己紹介お願いできる?」
「はい」
久遠と呼ばれたその転校生は黒板の方を向き、ご丁寧に名前を書いてくれる。今は珍しい自己紹介のやり方だ。
「久遠雪菜です。父の仕事の関係でこの町にきました。なにぶんまだ不慣れな街で知り合いもいないので皆さん仲良くしてくれると助かります。どうぞよろしくお願いします」
綺麗な声色で自己紹介を述べて、深くお辞儀をする。まるでいいところのお嬢様といったような雰囲気が醸し出されている。
にしても、目に焼きつく綺麗な金髪とその綺麗な顔立ちはわすれるはずもなく、勇気が先ほどみた異様な美少女と同一人物で間違いなかった。
(まさか、転校生だったなんて……彼女が無事ってことはあいつら死んだのか?)
などと物騒なことを考えてると数分後に後ろ側の戸口、飯倉桃子教師と転校生の久遠雪菜が入って来たのとは反対側の方から件の3人組が遅刻して入室して来た。
優秀な生徒で知られる3人の遅刻は目を引いて注目される。
「3人とも遅刻。めずらしいですね。どうしたんですか?」
「す、すいません」
「さーせん」
「うっす」
平伏する3人は転校生の存在に目もくれずおとなしく自分の席に座った。
3人のことだから転校生を見て奇声を上げるのではないかと思った勇気だったが拍子抜けしてしまうほどにおとなしくあっけにとられる。
(どうなってんだ?)
3人に気を取られてる間に先生が久遠の座席を指定していた。
よりにもよってそれは勇気の後ろの席である。
向かってくる彼女と目が合い彼女はウィンクする。
一瞬、どきりとする。それは恋愛感情的などモノではなく恐怖と言う心拍の鼓動。
(あれから何が起こったんだろうか)
気になりながらも教師がそそくさと退散していき1時限目の授業が始まる合図のように入れ違いで数学の担当教師が入って来たのであった。
*******
放課後。
今日も一日の授業を乗り切り勇気はホッと胸をなでおろした。
しかし、今日は一番疲れたと言える一日だった。
なぜならば、転校生の存在があったからだ。
転校生とはいつの世の時代でも目を引く。
教師から一日で何回も彼女は当てられ余裕で問題を回答していく姿はまさに勇士だった。
周りからも感嘆させられ勇気の一つ後ろの席である彼女の席には昼休みには多くの人がごった返し陰湿な勇気にとってはその席にいるのがただ辛かった。
彼女は一躍時の人だ。
その美貌と知性には目を見張るものがある。明日にでもなれば学校中にその噂が広まること間違いないだろう。
(かえるか)
久遠に話しかける生徒連中の集団に間を縫ってどうにか教室から出た勇気は上の階へ向かった。
そこでも我が学内のもう一人の注目者である存在が待つ教室へ。
勇気はこの時ばかりも精神に疲労がくるが大好きな恋人のいる教室だと前向きに考えどうにか乗り切れる。
しかし、道中に今日は余計な邪魔が入った。
「よう、勇気ちょっとツラ貸せよ」
階段を上り差し掛かったあたりで3人組が勇気を囲い壁に追い詰める。
「えっと、急いでるんだけど」
「先輩のところに行くんだろ?」
「そうはいかねぇし」
「マジで何様気取ってんスか」
「え? 弟様だけど」
普通に真面目に返答したところ3人の顔はさぞ悪くなった。
まぁ、そうなるなぁーと勇気は他人事のように考えつつ3人を無視して2階へ上がろうとするが無理やりその腕をひかれる。
「いたっ」
「行かせるかってんだよ!」
「なに無視してんだし」
「ちょーしのってんじゃないっすよ」
今日は一緒に帰れそうにないと考えに至ったところで3人組の筆頭、的場良治の肩を誰かが掴んだ。
その腕の先を勇気も見て硬直する。
「てめぇ、たしか転校生の……」
「なになに的場君に惚れたし」
「仕方ないっすよね。的場さんかっこいいスもん」
良治を担ぎあげる様に二人が言うが彼女はその言葉を首を振って「ちがうわ」と答えた。
そのまま彼女は勇気の腕を掴み引いて抱きしめた。
「は?」
「私、彼に用があるの。それから、あなたたちはもう記憶にないかもしれないけど私にかまうなって言ったでしょ」
その一言で彼らの態度が急変した。
硬直して虚ろな目つきをしながらその場から離れていく。
「え?」
「さぁ、行きましょうか。ユウキくん」
「あ、あのどこに?」
恐怖に足がすくみ彼女に逆らえない。
腕を強引に抱きしめられては抵抗する気力もわかない。
腕をひかれるままに階段をどんどんと彼女は上がって行ってしまう。
そこで、辿り着いた場所は屋上だった。
仕切りのフェンスに囲まれた殺風景な屋上。唯一の利点があるとすればその殺風景ながらもそこから見える街の景色くらいだろうか。
彼女は勇気をそこで開放してフェンスの方に勇気は非難する。
おびえながらもゆっくり何か言葉を考えた。
「な、なんだ? 俺になにする気だよ。用事って言ってたけど俺と君は知り合ったばかりだ。何もお互い知らないだろう」
「いいえ、私はあなたのことを十分知ってる」
「は?」
そう言って久遠はポケットから不気味なほどに赤黒い色をしたスマートフォンを取り出した。
そのまま指を走らせて操作する。
スマートフォンで思うように操作完了したのか指を止め液晶画面を見せてきた。
画面にはとある裏サイトが表示されていた。
「それって、復讐サークルのサイト」
「――災厄さん、私はあなたの願いを叶えに来た復讐サークルの管理人です」
告げられた衝撃的な事実に目を回し立ちくらみを覚えた。勇気は自分の世界が一瞬停止したかのような錯覚に陥った。ありとあらゆる物の音が聞こえなくなり感覚さえなくなる。
この女は今何と言ったのだ。
「か、管理人だって? はは。面白いこと言うなぁー。俺は災厄さんなんて人知らないよ。人違いでしょ。じゃあ、俺はこれで」
素早くその場から退散しようとした勇気の目の前にいつの間にか彼女は移動していた。
勇気は引きつった悲鳴を上げた。
どす黒く淀みきった彼女の瞳が自分の心の奥底さえ見抜いてるように見えてしまい足をすくませその場に腰を抜かし座ってしまう。
「そう怖がらないでほしい。私はあなたに危害を加える気はないわ。その逆。あなたに危害を加える奴には容赦せず徹底的に叩きのめす。今朝のはその余興」
「今朝のってまさか……」
偶然目にした彼女のあの異様な強さ。
そこからサイトでは復讐サークルの復讐実行はされると言う言葉を思い出す。
彼女の実力は本物なのだろう。
いや、でも、不可解なことを思い出した。
さきほど、不良の3人はまるで彼女とは初めて話したような会話をしていた。
彼女はそれに対して『あなたたちはわすれてるかもしれないけど』という含み的な言い回しをしていた。
何かまだある。
「き、君が何者にしても俺の復讐を手伝ってほしいってことはあれは冗談のようなもので……」
勇気もまさか、実際にやってくるなどとは考えてもおらずにサイトにメールを送信したに過ぎない。
復讐実行など到底無理なばかげた話だというのが本心だったのだ。
「冗談で書いたの? 本当にそうなのかしら? 『今の自分が心底嫌になる。そして、周りもだ。自分を嬲り貶す連中。俺はそんな連中に報復してやりたい!』だったかしらね。文面にはあなたの恨みつらみを感じ取ったわ」
「っ! 何を根拠にそんなこと言えるんだよ」
彼女が言った言葉は勇気が管理人に送った文章である。
それを知っていた彼女は管理人に間違いあらず、その証明に彼女はスマートフォンで送ってあるメールを見せた。
「根拠? 根拠はあるわ。それは――これよ」
そう言った時、勇気は幻覚を見たと思った。彼女の背中から突然生えた漆黒の二つの翼。
まるでカラスのような印象を感じる翼である。夕日の日差しの関係か彼女の瞳もいように赤く見えた。
「幻覚と思ってる? 違う。これは現実よ。私は堕天使。数多の人の復讐と言う願いを聞き届ける使者」
「う、うそだろ。堕天使なんて神話の生き物がいるはずないだろう。あれは空想の産物だ」
そう言った勇気だったがその決断を揺るがすことが昨今起きていた。
彼女の女生徒は思えないずば抜けた身体能力。そして、不良たちの異様な態度。
彼女が堕天使というのならばその奇妙な能力でどうにでもできるだろう説明はつく。
「あなたは今口ではそう言ってても信じてるでしょ。私のこと」
「っ!」
「話を戻すけど私は人が書いた文に言葉や態度から感情を読み取ることができるし心をある程度は見透かせるわ」
「……お、俺が書いた文が本当の復讐を願ってるって言いたいのは感じ取ったからか?」
「ええ、そう」
「ば、馬鹿を言うな! 帰らせてもらう」
「だから、帰らせないわよ」
またしても目の前に彼女は現れる。
これも堕天使の力か。
「あなたを助けたいの。だから、私と契約を結んで」
「け、契約?」
「ええ。そうすれば復讐を援助してあげる」
「援助だと? あんたがやるんじゃないのか?」
「何を言ってるの? 復讐と言うのは自分でするからこそ復讐よ。私は援助する力を与えるだけ」
「ち、ちから?」
彼女はそう言って右手をさし出した。掌の上には無骨な赤黒い拳銃があった。
「こ、これは?」
「『Barrett trigger』。これはあなたの悪意を弾丸にして復讐したい相手に撃ち込むための銃。能力はあなたの悪意によってどうなるかその時にわかるわ」
「俺に人を殺せってのか! むりだ!」
「いやいや、ちがうわ。この拳銃は拳銃であって拳銃じゃないの」
「どういうことだよそれ?」
「これは権能。拳銃の形をしてるけど、ほら弾は入ってないでしょ」
彼女はそう言って装填個所を見せた。弾丸ははいっていない。
「悪意を弾丸にするっていう意味はこの弾丸がないことに関係してるのか?」
「ええ」
「この拳銃を使えば復讐が果たせるのか?」
「そうよ。だけど、復讐する覚悟。もちろん、場合によっては人を殺す覚悟も必要よ」
「っ!」
「復讐とはそういうことよ」
彼女の言葉別に間違ってはいない。
時に復讐は人を殺すことさえいとわない心がないと出来ない。
(俺はその覚悟があって彼女に助けを頼んだのじゃないか)
勇気は拳銃を手に取った。
「契約するってことでいいのかしら?」
「ああ。だけど、その前に一つ。お金が出ると聞いたがそれはいつもらえるんだ?」
「あなたが復讐を遂げれば私の力でお金は用意する。だけど、その代わり私はあなたから善意の心をもらう」
「善意の心?」
「ええ。私が力を行使するのに必要なことよ。あなたが復讐をする場を設けるのには私の力が必要不可欠になるからね」
「それって、人が寄せ付けなくするとかか」
「そういうこと」
たしかにそれはいい条件である。
善意なんてものは元々復讐するんだから持ち合わせする必要はない。
だったら、契約を結ぶ。
「準備OKだ。なにをすればいい?」
「そのままそこにいればいいわ」
彼女は勇気が握った『Barrett trigger』に手を重ね何かを詠唱した。すると、漆黒の光が屋上を包み込んだ。
勇気は手首に鈍い痛みを感じて抑えた。
じんわりと漆黒の羽のような入れ墨が浮き上がった。
「契約完了よ」
「あとは復讐の準備をするだけ。それはあなた次第でいつでも始められるわ」
「だったら、いま――」
勇気がそのあとに続く言葉を言うよりも早く屋上の扉が開かれた。
二人して一斉にそちらを向くとそこには一人の美少女が慌てて入ってきた。艶やかな長い黒髪をなびかせる絶世の美少女で学園のアイドルでもあり勇気の恋人、黒野芽衣だった。
「二人とも何してるのよ」




