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黒野勇気 後編

 数年ほど前からのこの立て続けに繰り返される虐待。

 最初のころは何ともない普通の生活を送っていたはずだった。

 そもそも、ココに来たのが間違いであったのだろうとさえ思う。

 10年前に両親を何者かに殺され、最初は両親殺しの容疑者扱いされ少年院に行かされたが物的証拠やDNA鑑定の結果などから勇気は釈放をされたがそのあとに里親となる親戚の夫婦に預けられた。

 そこでは手厚い歓迎を受けるかに思われたが実際その家庭環境は最悪だった。

 勇気が来て、数日後に里親の父親が借金を抱え会社をクビになり自暴自棄になって勇気が来たタイミングからおかしくなったという話をこじつけ勇気を虐待したのだ。

 そのあとに、実の娘にまで手を上げる始末になる。

 次第に里親の母親、真紀にまで手を出すようになったが実の娘、芽衣が通っていた中学校の教師が虐待の発見により父親は児童養護施設のもとで警察に捕まり拘留された。

 虐待は収まったかに思われたが精神的苦痛を受け続けていた真紀も勇気を見て過去に勇気の母親に受けた苦しみがフラッシュバックしたのか、その後に勇気と実の娘に虐待を始める。特に勇気は父親の虐待時も母親の時も常に自分には優しい芽衣を守るように身を犠牲にしていた。

 なぜ、母親を訴えようとしないのか。それは彼女の話術が児童養護施設を追い返してしまうからだ。

 過去に試した結果がそうなっていてあきらめている二人。

 高校生となった今では二人は虐待の頻度も減ってるために口にしなくなり二人だけの生活とでもいうように生活をしていた。

 そのような状態の中で勇気は学校でもいじめを受け続ければ精神的に疲労し、芽衣以外のだれも信用できない性格となるのも仕方ないと言える。

 現在は里親の母親は仕事もせずに家で引きこもり生活であり一家の資金を稼いでるのは芽衣であった。

 今の学校に通えてるのは勇気は両親の生命保険金で芽衣は父親の残したお金で通っていたがそのあとの授業料などは足りずに働くしかなく一家の長女である芽衣が学校を時折欠席してバイトに明け暮れていたのだ。


「ユウくん、平気ですか? また私をかばって傷つきすぎです」

「姉さんこそ今日のことごめん。あんなこと言うつもりはなかったんだ。イラッとしたことがあってつい芽衣姉さんに当たってた。本当に最悪だよね俺」


 芽衣姉さんは首を横に振って笑顔を浮かべる。


「そんなことないですよ。こんな日々が続いてれば誰かに当たりたくなる気持ちもわかります。さぁ、部屋に行きましょう」


 姉さんに肩を貸してもらいながら2階に上がって芽衣と共有してる部屋に入る。

 元々芽衣一人だけが使っていた部屋なので内装はファンシーな女っぽい部屋であった。


「姉さん、一つ聞きたいんだけどどうして授業料を両親の遺産から出したらいいと思うのにだめなんだよ」

「また、その話ですか? それはユウくんが大人になったら使うためのお金です。貯金するのが一番だって以前お話ししましたよね?」

「どうして? 授業料を支払うだけだったら大した額じゃ――」

「あのですね、ユウくんの両親も確かにそうしたほうがって考えて残していますでしょう。でも、遺産にも限りがあります。しっかりと先行きを考えて遺産は使って行く方がいいでしょう。ですから、授業料に関しては私が稼いだ金額でどうにかできるので甘えてください。それにですね、授業料を払ってしまえば将来性において大学進学時の学費がピンチになるでしょう。遺産を使うならその時が一番いいと思いますよ」

「俺、大学行く気ないよ。高校卒業したら就職を考えてるし」

「……ユウくん」

 

 感極まったような涙ぐんだ表情を芽衣は浮かべた。だけど、すぐにその涙をぬぐいとって勇気の頬に手を添える。


「今の時代大卒の方が就職が有利なんですよ。ユウくん、頭はそこそこいいんだから大学は行くべきです。気遣いはうれしいですけど少しでもユウくんにはいい会社に就職してほしいのが私の願いです」


 姉の教えを受けながら勇気は低くうなる。

 芽衣は話をひと段落するとベット下に隠してある医療器具を取り出し勇気の治療を施していた。

 手際の良い治療にさっき受けた傷口は少しだけ痛みが和らいだ気がした。


「ちょっと、私にもお願いできますか?」

「あ、うん」


 いつものように芽衣は上着を脱ぎ下着姿になると背中を向ける。

 例のサロンパスを背筋の付近を押して痛みの確認を行い、痛んだ場所に張り付けて完了する。

 互いに互いの治療を施しあった。

 これが黒野姉弟の日常である。


「……芽衣姉さん、俺もバイトするよ。姉さんだけには頼れない」

「それはダメ。あなたは勉強に専念してください」

「で、でも、芽衣姉さんの方が頭いいし俺んなんか学校でまともに授業受けてる意味ないよ」

「もう、そういうこと言うの禁止ですよ。なおのことユウくんは勉強しないといけません。それに私は2年生だからすこし余裕があるし大丈夫です」

「姉さん……」


 姉の気遣う優しさが心にしみるが実際のところその気遣いは余計なおせっかいだった。

 勇気は少しでも学校にはいたくない。でも、芽衣の気持ちも考えてしまってるために頑張って学校には通い続けている。いじめにだって耐えていた。


「俺、将来は絶対芽衣姉さんに恩を返すよ」

「ふふっ、うれしいこと言ってくれますね。だったら将来は私と結婚でもしてくれますか?」

「え、ええ! 芽衣姉さん冗談だよね?」

「さぁ?」

「からかわないでよ」


 本気なのか嘘なのか、義理の姉はうれしそうにほほ笑みを向けた。


「芽衣姉さん、俺姉さんのこと好きだよ」

「ええ、私もです」


 そっと抱き合いながらキスを交わし勇気は思う。

 この先もずっとこの姉には心配をかけ続けるわけにはいかない。

 今回の授業料の問題。

 それによって母親はまた荒れだして金銭面に余裕がなくなっているのはわかる。来年はさぞ厳しい状況になるだろう。

 姉は幸運にも水商売には手を出してはいないしいろんなバイトを掛け持ちして生活費などを工面している。

 いくら、学校の奨学金制度があっても支払いがある。今回のはその分割支払い分。

 このままではまずい。

 その決心が胸に募るのだった。

 


 ―――その夜、勇気は一緒のベットで寝ていた姉を起こさないように配慮して抜け出して携帯を手にしてトイレへ向かった。

 日課のようにしてる日記を書き込むためだ。

 姉に恩を返すためにもこの日に起こったことをしっかりと記載する。そして、将来もし自分が偉くなったら自分を蔑んだ奴らに復讐するためにという怨念を込めた記しでもある。

 日記を書き終えて眠気がやって来ないので暇つぶしにネットサーフィンをおこなった。

 もちろん、内容はバイト探しだ。高校生になったのでバイトもできる。

 この時にまでバイトをしなかったのは姉の強い希望だったし未だに「バイトをしないでください」と言われてるけれどもさすがに我慢の限界である。


「早く、姉さんに恩を返すんだ」


 はやる気持ちもあり金になるバイトを探してる傍らであるサイトが目に付いた。

 復讐をするだけでお金を稼ぐことができるとかいうあまりにも怪しげないサイトだった。


「なんだこれ?」


 サイト名は『復讐サークル』。

 いわゆる2ちゃんの闇サイトものであった。

 レスにどんどん書き込みがあり恨みつらみが書き込まれていた。

 中には復讐の依頼する声まであった。

 特に面白いのは復讐を行いたい方は管理者に相談。

 という謳い文句の文言が下部に記されていた。

 メールアドレスが添付されていて不気味なものだった。


「こういうのって支援受けた奴いるのかな?」


 さっそくレスに書き込みを行ってみた。

 自分の悲惨な過去や日夜の虐待を記せばみんなが同情をしてくれた。

 そこで、管理人に相談したことがある人がいるかと言う書き込みをすると誰もが口をそろえて返答はないが復讐は達成してくれたなどと不気味な書き込みが入った。


「馬鹿な。うそだろ?」


 次第に打つ手が止まり指が震える。


「え」


 勇気はドギマをぬかした。

 勇気が書き込みを行ったことが目にとまったのか管理人本人からの書き込みが来たのだ。

 大きく炎上するレスに管理人は迷うことなくこう記す。


「私のメールアドレスに一度送信くださいか」


 恐る恐るだったが添付されたメールアドレスに自分のハンドルネームを記載して先ほどの返事をもらったことを伝えて数秒後に返事をもらう。


「返事くるじゃん」


 内容はいかにも堅苦しい感じでありながら不気味な一言で絞められた一文。

『今のあなたの気持ち大変よく理解しております。そんなあなたに私はぜひ、お力をお貸ししたい。ですので、あなたの恨みを晴らす協力をさせていただけませんでしょうか? そう、復讐を』



 ごくりと生唾を呑んだ。

 脳裏に鮮明に蘇ったのは今日さんざん自分をいたぶってきた連中の顔。

 姉の悲しい顔。


「そうだ。できるなら俺は……」


 勇気はその返事に協力を申し込んで送った。

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