黒野勇気 前編
都会の郊外の中にあると言うのにそこだけはまるで別空間のように森林に囲われ都会から仕切りのようにして隔離された一つの施設。
そうなっているのも地形やその場所が学校と言う教育施設にあるからだろう。
山道の頂上にあるその学校は有名な優秀学校である『先城学園』。
現代において全国の高校、上から5番目の学校であり偏差値もそれなりに高い。
だけど、そんな学校でも悪い部分は存在する。
いや、どんな学校にも存在する悪い部分。
『先城学園』の裏。森林に囲われ、誰も通るくともない悪さをするなら持って来いの場所。
そこで、一人の青年を数人の不良が囲い、暴行を加えていた。
「ふぅー、すっきりした」
「この学校にいると息詰まってしょうがないよなぁ」
「ああ。お前のようなサンドバックがいてマジ助かるぜ」
3人の不良は唾を吐き捨て青年の財布を取り出し中身を見てげんなりした顔で捨てる。
「ちっ! 十万用意しとけって言っただろうが! 使えねぇ貧乏人が」
「おいおい酷ってもんだろ。コイツ、養子だから親にさえせがむことができない陰湿くんだろう」
「ああ、そうだったそうだった。バイトでもしてためる勇気もないビビりな陰湿野郎でもあったなー」
言いたい放題言って止めに頭部にかかと落としを行い青年が地べたに這いつくばった姿を見送り3人はその場を後にして消えていく。
青年は何事もなかったかのように立ち上がって土ぼこりを払う。
財布を拾い上げ、財布のポケットに入った学生証を見た。
『先城学園高等部1年A組 黒野勇気 生年月日2006年6月6日』
生年月日を見ると先ほど言われた言葉が繰り返し頭の中に響いてくる。
拳を強く握りしめて涙をぬぐう。
災厄の日付である自分の誕生日。
ホラー映画でも6の並ぶ日は最悪とされるがその通りだ。
自分のあの日に起こった惨劇は最悪。
「教室戻るか」
過去の起った惨劇を忘れるように一歩一歩を踏みしめて教室に戻って行った。
******
クラス内カーストというのはどの学校にも存在しているものである。
勇気はクラス内カーストでは最下位のランク付けだろう。
そして、勇気をいじめていた不良が最上位に位置する。
その下は不良を取り巻く連中つまり勇気以外のクラス全員がそうなる。
まったくの逆の存在。不良は学内では気前のいい優秀生徒であり教師やクラスからも慕われていた。
その裏の顔などみんなは知らない。
それに対して最下位の勇気はクラスでは誰とも口を利かず孤高の存在を気取っていつも寝た振りをしながらクラスの中で一日を過ごす。
クラスで浮いた勇気と言う存在は誰も干渉はしようとしない。
入学当時から勇気は心を病み、誰とも会話をしようとしなかった。だが、不良グループだけは声をかけたが勇気が愛想悪く接しなかったのが原因だ。
それが彼らの怒りにふれたのだろう。
それ以降はずっと勇気はサンドバック。
「ほら、プリント配ってねー」
クラスの上下関係などあることも知らない馬鹿な教師の呼びかけ声でプリントを後ろに回していく生徒。
勇気はクラス内カーストの表れとでも言うべき窓際の一番後ろの席であるためにプリントの配ると言う行動は行うことはないので寝た振りを行える。
「えっと、ここ最近ここ都内で危ない事件が続いています。それの厳重注意を促した書類です。事件が終わるまでは部活動は中止。全員が早期下校を願います」
教師の伝達にクラス全員が不満の声を上げる。
教師の言った事件。
それは都内に起こっている『連続殺傷事件』のことだった。
学校や会社の帰りに突如として襲われ惨殺されてしまうと言う通り魔的犯行の事件。
いつ何時襲われるか分からないが特に夜が多いと言う。
そのことから学校側にも対処が出回ったのだろう。
「では、今日も早い下校。かならず二人で下校を。そうだ。黒野君は職員室に来てください」
勇気は顔をあげて頷いた。
気分が悪い。
一体どういう用事だろうかと目を細めて訝しみながらHRが終了と同時に先生のもとまで歩いていく。
「さぁ、一緒に職員室に行きましょうか」
ふてくされた面持ちで歩きつつ職員室へ向かった。
職員室は暖房の利いた良い部屋だった。この冬にはやはり暖房は欠かせないのだろう。
何人もの教師が自分たちの机の上で書類業務に明け暮れていた。
勇気が1年A組担任の教師『飯倉桃子』と入ると鋭い目つきが刺さっていく。
学校内でも評判が悪い勇気は教師たちの悪い印象の格好の的。
特に教師の間では担任教師の桃子は愛想のいい笑顔が似合う、かわいらしい教師で有名だ。
小柄で、スタイル良く容姿は端麗で生徒にあたりもいい生徒。だけど、勇気にとってはそんな教師でもクラスの状態に気づかないでは馬鹿な教師でしかない。
桃子が自分の教師の職務席に座りさっそく切り出した。
「今日呼んだのはね、授業料に関してなんだけど来年度分がまだ支払われていないのよ」
そろそろ2月に入り春休みも近くである。
特に授業料は支払いを終えていなければならない時期。
今年の2022年には勇気も2年になる。
その時に授業料支払いが済んでなければ2年での授業は受けれない。
勇気にしたらそれでもよかった。
「そうですか。すみません。家の事情でまだ準備できていなくて」
「あ、いや、別に責めてるわけじゃないのよ。ユウキくんの家庭事情はよく知ってるしだけどね、お姉さんかお母さんにどうにかかけあえない?」
その時だった。
職員室の扉が乱雑に開かれ一人の女子生徒が入ってくる。
艶やかな長い黒髪に誰もをひきつけさせる端正で整った美貌、モデル以上の抜群のスタイルを維持した体つき。神にでも愛されたと言うべき美少女。
「すみません、2年C組の黒野芽衣です。1年A組の担任の飯倉先生はいますでしょうか」
その美少女は勇気と同じ姓を名乗って手には茶色封筒を握りしめて入って来た。
「黒野、お前今日休みだっただろう、何していたんだ?」
「すみません。ちょっと家庭の事情で」
その黒髪の美少女がこちらの存在に気付き駆け寄ってくる。
「あ、飯倉先生! すみません、遅れましたがこれユウちゃんの授業料です」
「あ、はい」
茶色封筒を飯倉先生に手渡した。
しっかりと封筒の中には授業料が入っていた。
「えーと、黒野さん、まさかとは思うけど今日授業休んだのはこれを集めるためにバイトしていたとかじゃないわよね?」
「え、まさかーあはは」
明らかに挙動不審で目をそらす彼女に桃子は見逃すはずはなかった。だけど、あえて追求はせず溜息をつきながら続けていった。
「あなたのお母様にはしっかりとお話を聞きたいわね。まったくあなた方の過程の複雑な事情は知っています。何かあればすぐに私たち教師に相談しなさい。特にユウキくん、いくら義理でもあなたのお姉さんなんだから黒野さんには心配かけないこと。黒野さんがこうして必死になったのもあなたのためなのにどうしてあなたはそうやってむくれてるの?」
勇気はそんな顔をした覚えはなく言いがかりにも甚だしい。
「まぁ、いいわ。気をつけて帰りなさいね、二人とも」
二人して職員室を出てから勇気はぽつりと口を開いた。
「芽衣姉さん、また余計なことを」
「余計なことってあなたのためですよ! あのクズババアがろくに働きもしないから私が準備しないといけませんしユウくんにはしっかりと学業を身につけてもらわないといけません。それにあなたが将来困るんですよ」
「……」
「私たちはいくら義理でも姉弟でしょ、ね?」
そう、勇気の担任の教師も言ってた通り芽衣と勇気は義理である。
10年前に勇気が両親を失い施設を転々として里親に引き取られたあとに出来た義理の姉。
そのあとも悲惨な経緯があったので二人して支えていかねばならない生活が芽衣がこうして勇気を気にかけることになっている。
「家に帰りましょう」
「……………ああ」
二人して姉弟にしてはめずらしく手をつなぎながら帰宅をした。
********
家に到着して玄関を開くとすぐに怒鳴り声が響く。
「芽衣ー! やっと帰って来たっ!」
みすぼったらしい格好にぼさぼさの乱れた髪。目はクマだらけでひどくやつれた素顔。
40歳にしては大分老けこんだ顔をしている。
さながら50歳前後だろうか。
この一家の大主ともいうべき存在、黒野真紀は煙草を手にしてずかずかとやって来た。
手をつないだ二人を見て険しい顔つきでつながれた手を無理やり引き離し芽衣の腕を掴む。
「あんたまた私の煙草代を盗んだね! なんてことしてくれたんだい!」
「だったら何ですか! あれは私が稼いだお金ですから私がどう使おうが自由ですっ!」
「っ! あんたを産んだの誰だと思ってるんだいこのクソ娘はぁ!」
芽衣が腕を掴まれて痛そうに顔をしかめながらも歯向かい、その腕を必死に引っぺがそうとする。
だが、真紀の腕力の方が強くより爪が食い込むほどに握力が増していく。
うっ血し始めた腕を勇気は見て真紀の煙草を払い落した。
「っ! 何すんだい? ただ飯ぐらいのあんのくそ女の息子が」
彼女の視線は勇気へ変わり、芽衣の腕を離して勇気の胸ぐらをつかむ。
「タバコ臭いからタバコを払い落したんだよ。それにその煙草代を盗んだのは俺だよ。俺が授業料支払うために使ったんだ」
「っ! ふっざけんじゃないよ!」
思いっきり勇気の腹をけり上げリビングにまで引きずっていく。
慌てて芽衣が引きとめようとするが裏拳が芽衣の顔面を叩き倒れさせる。
「今日はもう許さないよ」
そういって取り出したライターを勇気の腕に近づけ炙っていく。
ジッと肉が焦げるにおいが立ち込める。
そのまま上着を脱がせ今度は傷だらけの背中に非をつけた煙草を押し当て根性焼きを入れる。
「最高だね! あんたを見てると本当にあの忌々しい女の顔が思い浮かぶよ! 私はねあのクズな夫みたいに児童保護施設なんかに捕まりはしないからね。あのクズは馬鹿だよね。うまくやりゃぁいいのに下手を打つから捕まってさ」
真紀は満足したように勇気を放り捨てリビングのソファに腰をおろしてテレビを見続けた。
「何が煙草代だよ。あれは芽衣姉さんが稼いだお金だろ」
ぼそっとそのつぶやきが彼女に聞こえないように漏らした。
加筆修正しています。
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