悪魔は誰だ?
捕まった勇気を置いて堕天使である彼女はただ一人で逃亡をした。
それは考えがあってのことだった。
まず、黒野勇気が捕まったのは敵の餌場とも言うべき場所である。
その状況の中では戦うことも困難だった。
そして、彼を助けるためには雪菜が一人で餌場の守護する悪魔の使い魔を倒すことが必要。
悪魔の使い魔を消す方法はただ一つ。
「主人である悪魔がどこにいるかよね」
考えられる線として、勇気の身近な人物が考えられた。
消去法でいけば、黒野芽衣は除外される。なにせ、悪魔の使い魔の罠にはめられる餌の対象であった。
さらに、自分をおびき出すための餌になってしまった。なので、除外。
ならば、他にはだれがいるのか。
「勇気や芽衣さんらの母親?」
そうと思い立ってすぐ行動に移した。
堕天使としての能力を使い自らを他人に視認されないようステルス化させて黒野家に不法侵入する。
運よく玄関のカギが開いてよかったと心の中で雪菜は思った。
中に入ってみると容疑者候補として考えた彼女は居間でタウン情報誌を開いて読んでいる。
背後から何をしてるのかとそっと窺って見ると求人情報欄に赤丸をつけている様子だった。
(この人、あの二人がかなり嫌ってるからどのような人物かと思ったけれど……)
彼女はとても前向きに社会に溶け込もうとしてる様子だった。
勇気たちから聞いていた人物とはまるで真逆的印象を与えた。
(いやいや、見かけに騙されてはダメ。悪魔はだますのに長けた存在。常日頃からそういう騙しのために生活リズムにさえ騙しの行動をとりいれてるって聞くわ。そうよ、今になってその化けの皮が――)
なんて、考えたが彼女は受話器を手にとってその求人先に電話をかけ始めた。
そのずいぶんと前向きな姿勢に彼女の中で彼女と言う存在が悪魔であるという可能性は消えた。
忍び足で黒野宅から出ていき、今度はめぼしい線として考えるのは学校だった。
自分も通うあの学園であれば両名にも接触があり、被害者の的場や自分の存在も監視することもできる境遇にあった人物がいるはずだった。
では、それは誰だろうか?
「来てはみたものの……」
現在、学校は閉鎖中。警察の捜査のために教師も生徒もいない。いるのは警察官だけ。
今なお、ブルーシートに覆われたグラウンドで警察官が徘徊して捜査をしている。
しかし、めぼしい物的証拠がなくて頭を悩まされてる様子だった。ある警察官になにやら一本の電話が入った様子だった。現場が急に解散ムードへと変わり片付けを始める。
(え? 何どういうことよ)
数分もたたぬうちに警察の一人もいなくなり学校は者さびしくなった。
グランウドでステルス化を解き、雪菜はブルーシートの中をくぐって遺体のあった個所を見つめた。
「やっぱり」
超常的生物にしか見えぬような残留物がそこには見えた。
散らばるように光る黄色の粉と黒い血。
それは悪魔がいたという物的証拠を物語った。
その物体を手にした時に何者かが歩いて近づいくる気配に感づき雪菜はステルス化を再開した。
入ってきたのは雪菜や勇気のクラス担任である飯倉桃子だ。
(え? なぜ、教師が?)
彼女は遺体現場を見て、懐から小瓶を取り出した。
その中身を遺体現場のあった個所に数滴たらす。
すると、じゅわぁという音を立てて超常的生物のいた証拠となる残留物が蒸発して消えていく。
(なっ!)
その時に垣間見えた彼女の眼は赤黒く、人間の瞳のものでは決してなかった。
おもわず声を引きつらせた。
その気配を敏感に感じ取ったのだろう。飯倉桃子がこちらを振り返った。
そのまま彼女はこちらに手を伸ばしてくる。
雪菜はゆっくりと後ろへ下がっていき堕天使の能力で転移を発動した。
学内の廊下へ転移して疲れが押し寄せて腰を落ち着かせるように座り込んだ。
「まさか……あの教師が……」
予想だにしなかった犯人。
今まで、彼女はおおよそこちらが堕天使であるということにも気づいてはいなかったのか。
それとも気づいていて気付かないふりをしていたのかさえ分からない。
不安が募り始めるともはやどうしていいのかさえ分からず唸るしかなかった。
「しかも、彼女を殺すしかない。いや、無理ね。あの悪魔ただの悪魔じゃないわよ」
身近で感じ取った凄み。
あれは悪魔の中でも最上位クラスのものだった。




