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謎の惨殺事件

 復讐を遂げた後の二回目の朝は最悪の空気を作った。

 ダイニングルームで重苦しい空気を立ち込めながら家族での食事。

 家族での食事と言えばどこの家庭でも明るい空気を出しながらするものだろう。

 だが、暁家はそうではなく、どこかギスギスとしていた。

 それも仕方がないといえる。互いに殺戮めいた所業を行いあった仲だ。うまく取り繕うような空気もできなかった。

 箸のお皿に重なり合う音だけが響く。

 手早く食事を済ませた芽衣は「ごちそうさまでした」と言いながら食器を手っ取り早く片付けてリビングに向かって一人でテレビを見ていた。

 テレビからはニュースの放送の声が聞こえた。


『本日未明。○○市の民家にて2名の惨殺死体が発見されました。身元は民家に住む、的場桜さん50歳女性と的場剛三さん55歳の男性とされており警察は殺人事件として調査を――』


 テレビのニュースから聞こえた内容に椅子から立ち上がって急いでリビングに向かった。


「芽衣姉さん、テレビの音量上げてもらえる!」

「え? ええ」


 テレビの音量が上がり『的場家惨殺事件』についての詳細が語られる。


『――現場の状況から行方不明の的場良治くん16歳が事情を知っていると思われ、警察は彼の行方を捜査をしているとのことです』


 不穏なものを感じてしまう。

 勇気はさっそく携帯をとりだして久遠に連絡をした。だが、つながることはない。


「くそっ!」

「ねぇ、ユウくん。この事件の被害者の的場って……」

「ああ。俺らが復讐した相手だ。でも、俺らは殺すまで痛めつけてはいない。それに家族には手出ししていないのに殺されてる」


 それが何を意味するのか。この事件の当事者、的場良治が今は犯人と疑われてる。

 だけど、彼は昨日に復讐後の作用で催眠状態に陥っていた。それで女とのトラブルを引き起こして警察に身柄を拘束中だったのだ。なのに、なぜ警察で身柄が拘束されず行方不明扱いとされているのかと言う謎や勇気らが行った催眠による何らかの作用でこの事件を引き起こしたのではないかと言う罪悪感が焦燥感を募らせた。


「彼、殺しちゃったのですね。まぁ、しょうがないのでしょうね。私たちには関係ないでしょう」

「は?」


 勇気はおもわず携帯を手元から落とした。

 芽衣の顔を伺ってみてみると彼女の瞳に光が宿っていないような虚ろな表情である。

 なにも感じてもいないようなそんな印象をうけた。


「芽衣姉さん、何言ってんだよ。すこしは慌てるべきだ。これが俺らがしでかした結果で生まれた現象だとしたら少しは俺らにも非があってだな」

「何を今さら言ってるんですか。私たちはそもそも復讐をするために彼を痛めつけて催眠暗示までしたのでしょう。それに、今回の事件はあくまで彼がやったことにしろやってないことにしろ私たちの証拠はあの現場には何一つないわけでかかわりのある物的証拠も出ません。それでいいじゃないですか、ユウくん」

「ね、姉さん?」


 あまりにもあっけに取られて空いた口がふさがらなくなった。

 勇気は頭を抱えて契約の時に交わした説明を思い出した。

『あなたが復讐を遂げれば私の力でお金は用意する。だけど、その代わり私はあなたから善意の心をもらう』

 善意の心。今の芽衣には全くその善意というものが欠落していた。

 罪悪感さえ抱かないのは善の心が欠落しているからか。


「くそっ」


 自分が行った結果はまるで不幸な道のりに過ぎなかったことをやっと自覚した。

 だけど、もう遅い。


「人って簡単にに死んじゃうんですね」


 テレビを見ながら彼女は今までの彼女らしからぬ言葉を口にしていた。


 ******


 いつものように登校をしながら勇気は逐次、芽衣のことを心配するように見てしまっていた。

 どうにかして、彼女に優しさを取り戻せないものかと考えてしまう。


「ん」


 大通りの道端に猫の死骸があった。

 ちょうど、人が通る歩道の真ん中だった。

 臓物を撒き散らしている。腹が引き裂かれている。 

 車にでも引かれて死んだのだろう。


「かわいそうにだな」


 だけど、わざわざ拾ってどこかわき道に移動してやろうという気持ちまではわかなかった。

 それが一般的な人の考えだろう。

 そのまま見送ろうとした勇気だったが代わりに芽衣が動いた。


「え」


 その時期待した。もしや、善の心がまだ残っていたのだろうかと。

 だが、そうではなった。芽衣には悪意しかなく彼女は近くに運良く捨てられてあったスコップで猫の死骸を救うとゴミ捨て場にほうりいれた。


「本当に人の歩く道にあるとか邪魔ですよ」

「ね、姉さんっ!」


 思わず彼女の手からスコップを奪い取って放り捨て、ゴミ捨て場の中から猫の死骸を拾い上げた。

 車にひかれて歩道にまで吹き飛んで死んだであろう子猫の死骸。それを無残にもゴミ捨てに捨てることはない。

 勇気は丁寧に近くの公園の団地の隅っこの方に埋めてやった。

 勇気がひと段落して芽衣と一緒に行こうとしたが芽衣は待ってることはなく勇気を放って先に行ってしまったらしかった。


「っ」


 胸が締め付けっられるように悲しく苦しくなる。


「どうしてだよ芽衣姉さん……」


 一人で歩道に取り残された勇気の近くでクラクションが鳴らされた。

 車道に顔を向けて目を見開いた。勇気のそばに一代の黒バンが止まり窓枠が開くと警察官、駆動が顔をのぞかせた。


「どうも、黒野君。お姉さんは一緒じゃないのかな?」

「姉は先に学校に行きましたけど姉に何か?」

「おっと、その様子だとまだ知らないのか。ちょっと、君のお姉さんに事情聴取をって思ってね」

「え」


 事情聴取と言う言葉が最初になにを意味するのかどういうものだったかと思考が停止した。

 しばらくして、その意味がはっきりとわかるほどに脳が覚醒して鼓動がはやまった。

 勇気は駆動を置いて走って学校に向かった。

 門をくぐりぬけていくと学校はやけに騒々しく校内の敷地では多くの警察官が集っていた。

 生徒同士の噂から校庭でなにかあったことを聞いて勇気は向かった。

 立ち入り禁止の黄色のテープが引かれていた。

 校庭の中央がブルーシートで覆われて何かを隠していた。


「あ、あの何があったんですか」


 おもわず聞いていられずにはいられなかった。

 近くの警察官に聞くと彼は渋ったような表情で何も聞かなかったことにしてどこかに行ってしまう。


「聞いた?」

「ああ、まさか的場先輩が殺されたんなんてね」

「自殺?」

「例の女性のトラブルって話があったしまさか、その女性に殺されたとか。家族もろとも」

「マジでぇ?」


 などと聞こえた会話に聞き耳を立てながら焦りは尋常ではないほどに身体にまで現れ始めた。発汗に立ちくらみ。


(的場良治が死んだ?)


 それは喜べるような出来事のはずであるが事実を目の前にしてみるとそう喜べるような出来事でもなかった。

 特に事件は殺人の因果性を考えられれば真っ先に自分は疑われかねないこともある。

 それに、芽衣だった。

 周りを見渡してみれば芽衣はいない。


「教室か」


 電話をしてみるが不在の通知が入ってくる。

 周りの目を構わず一目散に芽衣のクラスに向け走った。

 教室にさっそく辿り着いて先輩に芽衣の居場所を聞いた。


「え? 芽衣? それなら、数分前にここに来たんだけどすぐになんか警察の人に呼ばれて校長室に……」


 それは絶望的なまでの報告だった。

 おもわず頭を抱えてよろめいた。

 彼女がやっていないにしても痛めつけたことは本当のことだから結果としては疑われることだってある。

 ふらついた足取りで校長室に向かう道中に誰かに肩を掴まれた。そのまま壁に押し付けられる。

 顔を上げた勇気の目の前には久遠の顔があった。


「久遠さん?」

「情けないかおね。そんな悲嘆にくれたような顔してると疑われるわよ。安心して胸を張ってなさい。証拠はないのだから。第一、能力での作用で彼が死んだわけではないわ」

「え」

「今回はもっと厄介なこと。悪魔が出てきたのよ」

「悪魔?」


 そう彼女の一言にただ、勇気は困惑するだけだった。

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