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140-5 メビス神の伝説と言いつつ本当は仏様、ですらなかったというお話

 そしてメビス大陸北部に上陸したブツダムG千手観音と、極悪暴れドラゴンから『勝手に門下生』に下った仏門龍アクシス。

 道中にて、たくさん御飯を食べたので、やや体形が丸くなったアクシスなのであった。

 これで当分は休まずに走り続ける事が可能であろう。


 断食行なのか?

 だがドラゴンはその気ならば、まったく眠らずに非常に長い期間活動する事が可能だ。

 だから栄養分を貯めておくのはとても大事な事なのだ。


 大海を渡る難行が終了し、陸へ上がったところにあった国では、なんと村が大型魔物の襲撃を受けていた。

 そいつは全長三十メートルにもなるジャイアントスパイダーだ。


 その惨状を感じ取った千手観音は跳んだ。

 一ッ跳びで、一完歩が一キロメートルを稼ぐスーパーランだ。

 とても走っていたのでは追いつけないアクシス。


 所詮は空を飛ぶ飛行魔物である飛行タイプのドラゴンなのだった。

 地竜ではないのだから、大地を速く走るようには体が出来ていない。

 跳ぶのも苦しい。

 もちろん海上を走るようにも出来ていないのだ。


 止むを得ないので足だけバタバタさせておいて、一応は『走っていますよ』というポーズだけはとって、御師様に追いつくために最小限は地上すれすれを飛んだ。

 とりあえず、勝手に弟子入りしているだけの身の上なので、御師様に置いていかれてしまっては堪らないのだから。


 そして、なんとか弟子としての格好はつけた。

 御師様よりも先に奴の体に取りつき、その自分の体よりも大きな怪物の頭を抑えつけたのだ。


「さあ、御師さま。

 今の内に早く」


 頷く千手観音。

 振り上げられたその幾多の腕々には、数々の物騒過ぎる得物が握られている。

 それは、あたかも物騒の語源が本当は仏僧であると言われても否定し辛いのではないかと思うほどだ。

 昔の僧なんて兵にも等しかったはずなのだし。


 そのあまりにも物騒過ぎる正義の使徒の襲来に、慌てて逃れようとする大蜘蛛の頭を、これまた必死になって抑えつけるアクシス。


 そして遠慮なくその狼藉魔物を『たたき』にする千寿観音。

 もはや、たたきというよりは、なますとでも言うべきだろうか。

 まず逃走手段となる足を一本ずつ落としていくところから始まる慈悲の欠片もない仏罰の襲来に、凄まじい苦鳴を上げながら暴れる醜悪な大蜘蛛。

 耳を塞ぎつつ唖然としてその裁き、あるいは捌きを見守る村人達。


 だが、いつしか荘厳とも言える審判の光景を前に、両手を組み合わせて跪き祈る村人達。


「おお、メビス様」


 そう呟く者すらいたほどだ。


 ついには全身バラバラにされ敢え無く息絶えた大魔物。

 村にも大被害を与えた怪物は見事に退治された。

 いつの間にか村中の数百名を超える村人が集まり、一心に祈りを捧げていた。

 そして千手観音は不思議な霊光を放った。


 園長先生が、かつて錬金魔王が作った魔導ホムンクルスのコアをコピーしたものをベースに作られたゴーレム魔核。

 不思議が不思議を重ね、こういう事を引き起こしてしまう。


『信仰の力α』


【多くの信仰を集めると目覚めるメサイヤ的なパワー。

 対価として多くの魔力を必要とする】


    ◆◇◆◇◆


「ん?」

「どうしたの、園長先生」

 

「ああ、真理か。

 いやな、なんだか知らないのだが、リンクを通して千手観音ヒナダムGが豪く俺のMPを食っているんだ。

 あいつめ、一体どこで何をやっているんだか。

 まあ、そのうちには帰ってくるのだろうがなあ」


「あはは。

 真っ直ぐに走っていったみたいだから、星を一周したら、いつか帰ってくるわよ」


「ああ。しかし、あまり面倒を起こしていなければいいんだが」


「それは無理よ。

 なにしろ、あれはあなたが作った者だものねえ」


「う、余計な御世話だよ。

 それよりも、なんだかまた子供の数が増えている気がしないか?」


「さ、さあ。

 気のせいよ、気のせい」


 実際には子供が二十人ほど増えていました。


    ◆◇◆◇◆


 そして千手観音が魔物から抉り出した魔核。

 そいつも千手観音の光が伝染したかのように光り出した。

 もし鑑定を出来る者が見たとしたなら、それについて、こう知ったことだろう。

『信仰の玉』と。


 千手観音は、それを少し困ったような微妙な感じで持っていたのだが、ふと傍らで恭順して傅いているドラゴンに目をやり、そいつに手渡した。


 処理に困ったので「片付けておけ」というつもりで渡したとみえるが、ドラゴンはその直径一メートルにもなろうとする異様に肥大化した巨大な魔核を恭しく捧げ持っていた。

 その尊敬と信仰の念が更に玉を輝かせ、そのありがたさに目が潰れそうになった人々は平伏して奉った。


 そして、その間に千手観音はその千手を駆使して魔物の残骸を解体して細かく素材に分別し、残りの廃棄物は目から発射したブツダム・ビームでダイオキシンさえ殲滅しながら焼却し、素材を人々に向かって差し出し、村人達はそれを賜った。


 人々は荒れ果てた村を再建出来るだけの莫大な原資を手に出来て、皆大粒の涙を零した。

 大蜘蛛は、その亡骸で己の蛮行を償わせられたのだ。


 最初からビームを食らわせておけば簡単に倒せるのだが、ブツダムたるもの、そのような風情のない事は出来ぬ。

 だって何のために得物を持った手をたくさん生やしていると思うのか。

 その己にとってのアイデンティティたる千手の存在意義を問われてしまうではないか。

 それに大事な素材まで焼却されてしまうので。



 そこから始まる、メビス大陸における神メビス降臨伝説。

 その『復活のメビス』に付き従う、輝く玉を手にした『メビス・ドラゴン』は、まるで中国の龍の如く手に玉を持って描かれた。


 いや、確かに玉は持っているのであるが。

 しかも、ありがたく神秘の輝きに満ちたそれは、本家の中国龍をも越える迫力なのではないだろうか。

 西洋タイプのドラゴンなので趣などまったくないのだが。

 あっちは水墨画だが、こっちはフルカラー特撮大怪獣シリーズなのである。


 千手観音ブツダムGは、行く先々(単なる進行方向)で人々を助け、そして悪を下した。


 多数の女達を攫っていた山賊どもがいた。

 その攫われた女達の中にはまだ年端もいかぬ少女などもいて、当然のように悲鳴を聞きつけてやってきた【メビス様】に、ほんの通りすがりの片手間に山賊どもはボコボコにされた。


 心に傷を負った女達は【メビス神の化身】に対する感謝と深い信仰により心を救われた。

 それほどのインパクトであったらしい。

 冒険者や騎士団に救われたとしても、ここまで彼女達の傷付いた心は救われまい。


 アクシスが引く連結した鹵獲品の馬車に乗せられ、【メビス神その神】自身によって都へ連れ帰られた彼女達はメビス神と邂逅した【メビスの巫女】として、自国王都の大神殿に手厚く迎えられたのであった。


 あちこちで人々を救い、何故か御布施というか御賽銭のような物をたくさん貰ったので、それを行く先々で、その日暮らしに喘いでいた貧しい浮浪児達に与えた。

 それを見た街の責任者達は神の化身の清い行いの前に平伏し、各地の恵まれない子供達は、これまた手厚く面倒をみられる事になっていったようである。


 メビスを信仰するあまり勘違いしまくった【自称メビス大陸ナンバーワン国家群】だからこその喜劇と福音の嵐がメビス大陸北部を吹き荒れた。


 本当に困っている人達が勝手に救われているだけなので別に誰も構いやしないのだが。

 知らぬは造物主たる園長先生ばかりなり。

 ゴーレムもまた飼い主に似るのだろうか。


 その後も、惑星アスベータ世界三大大陸の最後の大陸においても、あれこれとやらかして、また別の名の神として信徒を増やしながら、光輝く【メビス様】は無事にアドロスへの帰還を目指すのであった。


ダンジョンクライシス1巻、ハヤカワ文庫JA様より発売中です。

日曜日まで、お天気はいいようなのでホっとしていますね。



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