第136章 福は内 136-1 鬼の面
おっと、そろそろあの季節か。
幼稚園だと定番の行事だ。
こいつも今までやっていなかったような。
あるいは、軽くその場凌ぎでやっていたような気もするのだが。
というわけで、とりあえず節分の鬼の面作りから。
まずはクレヨンで絵を描くところからね。
そしてみんなで描いたのがゴブリン画だ。
うん、確かにあれも子鬼なんだけどね。
ちゃんと緑色に書かれているな。
ブラウンゴブリンの方は、御友達枠に入っているから鬼扱いではないようだった。
他には魔物図鑑から引っ張り出したオーガとかを描いていた。
しかも顔が実物大サイズなのだ。
描いた絵は画用紙から大きくはみ出しているんだけど。
言っておくけど、これは自分が被る御面用だからね。
俺もオーガなんていう奴らはダンジョンで湧いた魔物しか見た事がない。
はっきり言って、こんな奴が森とかにいたら怖いよな。
なんといってもリアル巨大ナマハゲなんだから。
本場秋田におけるナマハゲのシーズンっていつなんだろうか。
うちは『わるいご』ばっかりいるからな。
ナマハゲなんて何人いたって足りやしないぜ。
「ねえ、えんちょうせんせい」
「なあに」
「なんで、としのかずしか、まめくったらアカンの?」
「おー、そうだよなあ。
確か鬼を退治する豆を食う事により厄を落とすんじゃなかったかなあ。
あるいは願掛けみたいなものか。
俺は子供の頃、好きなだけ食っていたけど。
今はそう食いたいとは思わんのだが。
どっちかというと大豆製品なら黄な粉の方が好きだったよ」
日本でも御子様からよくこういう質問が出るらしい。
御母さんとかがネットで調べ物をして、その成果をまたネットで発表なさっておられる。
俺も後でちゃんと調べておこうっと。
「きなこは、ぼくもすっき」
「あれは栄養あるしな」
昔はよく御飯にかけて、黄な粉御飯で飯を食っていたな。
黄な粉をかけると、米が一粒一粒まるでチャーハンのようにバラバラになってしまうので、中国人みたいに飯をかきこんで食っていたっけ。
油断すると、我が家ではマカロニだって黄な粉マカロニになっていた。
あれの原料に関して、子供の頃は不思議と気に留めなかった。
まさか正体が畑の肉だったとは。
確かにそういう色をしているんだけど。
塩や砂糖を入れないと微妙な味なんだよな、あれ。
今でも大豆原料の健康食品的な栄養補給食品は微妙な味わいに感じる。
はっきり言って不味い。
普通に煮豆とか黄な粉を食った方が絶対美味いって。
「まあ、子供の成長を祝うというか息災を願うというか。
日本では子供に知ってもらいたい行事として望まれているんだから、異世界で日本人がやってもいいかな」
だがうちの娘は、おやつ袋に黄な粉をまぶした黍団子を入れて持っていた。
最近は黍なんて使っていないものも多いらしいが、うちのは山本さんが作っているので本式の奴である。
個人的には黍原料ではない、岡山県の御土産品で貰う奴が好きなのですが。
黍って、はっきり言っちゃえば、只の昔ながらの雑穀なんだからよ。
昔は米なんて美味しい物は食えない事が多かった。
黍なんて、所詮は粟や稗と並ぶ、只の雑穀なのだ。
うちも御袋の意向で健康志向な麦飯米だった。
栄養はあるかもしれないけど、俺は普通の白米御飯の方がいい。
やっぱり日本人は銀シャリで決まりだぜ!
「おや、レミは黍団子派だったのかい?」
「うん!
これでコブンをいっぱいつくるの!」
昨日、日本の出版社に作らせていた異世界語の桃太郎を読んでやったせいだろうか。
黍団子で子分をティムする気満々のようだった。
鬼退治がツボに嵌ったのだろうか。
ダンジョンのゴブリンやオーガをネコミミの桃太郎さんに退治出来るかねえ。
ダンジョンは甘くないぜえ。
今時、黍団子なんかでティム出来るのは蟻ん子くらいのものだ。
奴等だって別にティムされている訳ではなく、砂糖の入った黄な粉に集っているだけなのだが。
ちなみに蟻って何故か味も付いていないモヤシ一本にも大量に集る。
あれ、蟻から見て美味そうな物なんだろうか。
「そうか。頑張れよ」
「がんばる!」
うちの子はやる気満々だな。
まあ、ファルやレオンじゃないので、そうそう魔物が懐いたりはしないと思うのだが。
プリティドッグやウミネコなんかはまた別だ。
あと、ドラゴンその他の我がグランバースト公爵家で飼育されている魔物もな。
ファルの御友達魔物なんかもいるな。
レミが可愛い子だから、ペット魔物は喜んで構ってくれるけど。
奴等なら黍団子で魔物を手懐ける御遊びには付き合ってくれるだろう。
レオンなら素で黍団子を使って魔物をティム出来そうだが。
ファルの場合は黍団子が自分のおやつになるのが関の山だろう。
御友達魔物と一緒に食べる用に。
あの子の場合は魔物なんか勝手に擦り寄ってくるからな。
とりあえずは節分準備だ。
豆は御菓子枠という事で山本さんがスキルで用意してくれている。
まあ、あんなものは大豆を煎ってしまえばいいだけなのだが、山本さんの逸品を使う事に意義があるのだ。
日本と違ってこの国は基本土足なので、豆撒きの習慣は流行りそうにないが。
このケモミミ園は上履きを履く、あるいは裸足なのだが、当然豆を撒くには衛生的でないので、やる時は床にも子供にも常時浄化の魔法を使う予定だ。
床にも衛生上の理由からシールドの生板を張っておこう。
食う時には、拾った豆にもう一度浄化の魔法をかける予定だ。
本当に魔法万歳だな。
そうでないと清掃が凄く大変だ。
昔は行事で撒いた豆が勿体ないからという事で、拾って食べる習慣になったらしいが、どうせなら撒いてから拾った物を煎れば雑菌とか消滅したのにな。
うちは特に何も考えないで普通に撒いていたけど。
しまいには床に撒くと汚いから、枡に入った豆を殆ど撒かずに食っていたような気もする。
もう子供の頃の記憶なんかあやふやなものだ。
当時の我が家の細かい事情を知る人も、もう他にいないしね。




