135-7 雪原を駆ける者たち
「よおし、じゃあ僕達もやるぞ。
それ、チチンプイプイ」
あ、そう来ましたか。
子供の発想は柔軟だなあ。
仏像は台座から飛び降りると、何故か凄いスプリントスタイルで駆け出していった。
雪原を裸足で駆けていく雪を固めて作った芸術品のような氷の仏像が、国際スプリントレースみたいな感じの走り方で突っ走っていく様は異様な有様だ。
何人かの子供達が追いかけていったが、すぐにぶっちぎられている。
「ああっ、行っちゃった……ま、まあそのうちに帰ってくるでしょ」
トーヤは空になった台座に『他の窓口を御利用ください』の札をかけておいた。
それは少し違う気もするがな。
まあ、この空間から外へは出て行かないと思うのだが。
真っ直ぐ行っても空間内を一周してくるだけだからな。
親方はアトリエパレスに絵が飾られていた何代か前の王様っぽいものを作っている。
何か陸上競技のような格好で、非常に筋肉質なポーズを作っている。
いや、これは槍投げポーズなのか。
この世界の場合、それも何か怖いな。
ドワーフの筋肉達磨姿で何かがはち切れそうなのだし。
勇壮なそいつは親方のゴーレム魔法で動き出した。
そして何故かは知らないのだが、彼もまた動き出すと勇んで駆けて行ってしまった。
他にも、『インゴッド投げ』スタイルの奴らや、走り幅跳びで着地したかのようなポーズを取っていた奴、パンクラチオンの拳闘士といった佇まいの奴なんかもいたが、もれなく駆けて行ってしまった。
「なあ、親方。
雪像とかいう物は飾られているのが正なのであって、勝手に駆けていってしまうような物ではないのだが」
だが親方はまったく気にしている様子はない。
いつもの如くに、聞いた話が右から左へ突き抜けているだけなのかもしれんが。
「さて、次は何を作るかな」
親方達が考え込んでいる間に、トーヤは他の子達に指導を始めた。
ポールがレミとマリーと一緒に『蝉』を作り始めた。
薄い羽根の具合とか、なかなか絶妙に作り上げている。
言っておくが俺は食わんからな、それ。
どうせなら肉まんの方がいい。
あ、その辺で肉まんの氷像を作っている奴らがいる。
これはまた微妙な物を。
ちゃんと中央には精密な温泉マークが描かれている。
隣には二つに割って、ほかほかと湯気を立てている奴が。
氷で出来ているのに、肉まんのジューシーさが大変よく表現出来ている。
寒いから暖かい肉まんが食べたいんだな。
今日のおやつはそれにしておくか。
そっちは、おでんか。
これもまた雪像にするには微妙なセレクトだな。
大人の部の、今晩のおつまみはそれでいくか。
子供用にも夕飯メニューとして、おでんコーナーを出しておくかな。
さすがに、こいつらは駆けていかないようだった。
足ないし。
プリティドッグの子供達は人化状態で、親と一緒にベルーナのウサギを作っていた。
実物大の帝王アレクがよく出来てんなあ。
俺よりも芸術性は遥かに高いぜ。
おそるべし、プリティドッグども。
「チチンプイプイ、ウサウサミラクル~」
ミニョンがトーヤに教わったウサウサ魔法をかけてやると、そいつはゲレンデをどすどすと駆けていった。
やはり、跳ねずに二本足で駆けていくのだった。
こういうのは、魔法をかける術者のイメージによるものなので、子供達から見たあいつらは二本足歩行が基本なのだ。
俺も連中がウサギらしく跳ねているところなんて、殆ど見た事がないのだが。
ファルが御友達魔物達とレインボーファルス像を作っている。
雪と氷で作成すると、霊翼が上手に表現できていていいな。
一緒に来ているジェニーちゃんが、冷気をかけて解けないようにしていたり、爺譲りの状態保存の魔法をかけていたりするようだ。
この子も魔法が器用だな。
しかも自前のドラゴン魔法だけでなく、武の系統の錬金魔法や地球の魔法の系譜までこなす。
文字通り『世界』を股にかけたドラゴン魔女になりそうな按排だ。
多分、種族的には結構長生きしそうだし、精進のための時間は十分か。
そして、あの巨体で考える人というか、只のうんこ座りをしていた親方が突然に立ち上がった。
「よし、次はこれだな」
そしてゴーレム魔法を唱えると、むくむくと雪が集まっていく。
おいおい、子供用の雪がなくなってしまうではないか。
俺はスキー場ゴーレムに命じて雪を急速増量させていった。
俺の魔力やコピー能力と連動しているので、苦もなく生み出される大量の雪達。
頼むから雪崩にはしないでおくれよ。
スキー場で、それだけは洒落にならん。
それは、まるで神話の世界であった。
四つ目の大巨人ギガンテスの群れが幾重にも立ち上がり、各々がその四本の手を用いて自力で勇壮なポーズを取ってゆく。
もちろん、そいつらの体は雪で出来ていて、これがまたキラキラと輝き、実に雄邁な様だった。
「こいつは詩人オルセイの詩の一篇よ。
かつてエルドアの地に住み着いたドワーフの先祖達。
その地の先住者であったギガンテスどもは、それを阻まんと立ち上がった。
だが精霊族としての力をもってそれを討ち果たし、我らはエルドア王国の基盤をあの地に築いたのだ。
エルドアは、それを率いた初代国王の名だ。
エルドアはエル・ドワーフのこと。
神の鍛冶師の意味よ」
「へえ、国名にそんな謂れがあったのだなあ。
こいつは中々の見ものだ」
その神というのはフレア神の事かな。
もしかしたら地球のバッカスのように飲兵衛な神様なのかもしれない。
炎の神にも燃料は必要だろうしなあ。
そして、そこに現れたドワーフども。
あの全長二十メートルを誇るギガンテスの前では、彼ら赤銅の肌の戦士とて、ちっぽけなものではあったが、それで怯むような彼らではない。
ちなみにドワーフの方は本物だ。
いつの間にか、子供達が総出で見学している。
特に芸能関係志望の子は最前列に陣取っていた。
もちろん、そこは超強力なシールドで防護済だ。
「ウオオオオオオ」
見事に吠えるギガンテスの群れ。
いやあ、よく出来ているな。
そして鬨の声を上げる精霊族の戦士達。
自慢の武器を振り上げて。伝説の時代から伝わる戦士の装束を身にまとった彼らは、剣を振り、槍を回しながら突撃していく。
そして壮烈なジャンプで切りかかる。
だが、再生力の高さであっという間に復活していくギガンテス。
「おっと。
ちーと本格的に作り過ぎたか。
こいつはいかんな。
只の氷製のゴーレムのくせに、奴らもすっかり本気になっておるわ。
所詮はAランクであるものの、どんどん仲間を増やしておるし」
雪と氷の魔物群であるギガンテスは、どうやらスキー場のシステムに便乗して新しい仲間を生み出しているようだ。
まるで無線ルーターのタダ乗りみたいな話だ。
親方達も何をやっているんだか。
でも大迫力の演武なので子供は大喜びだ。
そしてトーヤが開いたゲートから次々と現れる援軍のドワーフ戦士達によって、ど迫力の戦闘劇が繰り広げられていった。
みんな楽しそうだな、おい。
そして、もふもふ王子様の出番がやってきた。
「ギガンテス!
貴様らの狼藉もそこまでだ!
出でよ。
我らが神、偉大なるフレアの御使いサラマンドラゴよ」
そして呼ばれてやってきたサラマンドラゴの大軍勢。
案外と結構な数がいるのだな、こいつらも。
御友達から特別なイベントに呼ばれたので、蜥蜴顔が実に楽しそうだ。
俺もこいつらと付き合いが長いので表情がよくわかる。
彼らが放つ強烈な炎が氷の催事場にダンスを舞い、彼らギガンテス役の氷のゴーレム達は再生も追いつかずにとうとう溶けていった。
他の雪像は溶けないようにプロテクトされている。
上がるドワーフの雄叫びと子供達の歓声がゲレンデを華やかに染めていく。
御狐王子とサラマンドラゴどものドヤ顔の笑顔が眩しいな。




