第135章 冬のスポーツ 135-1 禁断の遊び
「ねえ、園長先生」
「なんだい、トーヤ」
「どうしてうちの学校ってスキーやスケートみたいな冬のスポーツをしないの?」
ギクギクギクっ。
「え? そ、それは一体何の御話なんだい?」
「ええっ。
だって稀人の国では、そういうのが盛んなんでしょ。
定期的に冬のオリンピックとかをやっているんだし」
「うわー、そこまでバレていたのか」
ちっ、その話題には敢えて触れないようにしていたのによ。
相変わらず、この小僧ときたら。
「だって、あんなに面白そうなのに」
「じゃあ、カーリングなんてどうだい?」
「そんな地味なの嫌ー。
僕はスキーやスノーボードがしたいの~」
あー、御狐様が久々に駄々を捏ねているなあ。
「ふ、何を言う。
炎を共にするドワーフの王子ともあろうものが、そんな惰弱(情熱弱者)な事を。
男のハートを燃やすものは情熱の炎のみ!」
「園長先生って、もしかして寒いところが嫌い?」
「うわっ、いきなり耳元で囁くなよ」
エディがいつの間にか、俺の背中にくっついて低い声でぼそぼそと囁いてくる。
この前の映画撮影の時から、こういう渋めの登場スタイルが御気に召したようだな。
「そ、それがどうかしたのか?
お前だって雪の中で凍死しかかっていたんだから、寒いところって嫌いだよね?」
「ぬくぬくと温かいところで暮らしながら寒いところでの御楽しみがあるのは、また話が別なのです」
ぬう、子供って立ち直りが早いよな。
普通、ああいう事は一生物のトラウマになるものなんじゃないのか?
まあ女将さんが凄く優しくしてくれていたから、俺が思う程気にしなかったのかもしれない。
あそこは炎の一家だからな。
特に今はいろんな事に夢中になれる時期で、そんな事を気にしている暇がないのかもしれない。
うちとドワーフ国と二足の草鞋を履いているのだしな。
「スキー行きたいよう」
「スケートしたいよう。
それ、トリプルアクセルっ!」
そう言いながら、その場で飛び上がってクルクルと空中で回転するエディ。
どうもエディの方がトーヤよりもマニアックな傾向があるな。
そこへ、くすくすと笑いながら愛娘を抱いた我が妻が現れた。
「ねえ、あなた。
レミちゃんが、パパに御願いがあるんですって」
「へえ、なんだい?」
俺はちょっと目尻を下げ加減で訊いてみた。
「レミね、レミちゃんね。
ソリあそびがしたーい。
クリスマスのサンタさんみたいに」
あう。
そう来ましたか。
あれが結構羨ましかったのね。
将来は公務として、魔導ソリに乗せてクリスマスにプレゼントでも配らせようか。
「ほらほらほら、公爵令嬢も御所望だよ」
「いよっ、氷雪の魔王」
「ぬうー。
人より体温が低いのもあって、俺は寒いところが大っ嫌いなんだよ。
暑さは割合と平気なんだが」
スキーに行く人は、最初の一回でその是非に関して見事に意見が分かれるという。
俺はアカンかった方だな。
「もうこんなところは嫌だ。
スキー靴なんて、真面に歩く事も出来んじゃないか。
寒いだけでもう辛抱堪らん。
こんなところ二度と来るか、ボケ」
「ああ、中々上手く滑れなくて悔しいなあ。
次も是非チャレンジしたい!」
後者は世の中で成功していくようなタイプだと思うが、残念ながら俺は前者のタイプだった。
物事に対して文句ばかり言うタイプって駄目だよな。
いや俺はただ寒いところが大嫌いで、おまけに不器用なだけだったんだけど。
「アル御兄ちゃん、人間辛抱だよ」
くそ、エリの得意の台詞が幻聴として蘇るぜ。
「御兄ちゃん。
アル御兄ちゃんってば」
「うわあ、いたのかエリ」
「もう、さっきから呼んでいるじゃないの」
「珍しいな。
何か用だったのか?」
「うん、あのね。
ポールが御願いあるんだって」
「へえ、それはまた珍しいな」
よく見たらポールもエリと一緒にいる。
この子は寡黙な職人タイプなので、滅多にそんな我儘を言う事はないのだが。
また軽薄にペラペラしゃべったりしないタイプの超美少年なので、女の子からはもてるのだった。
「あのね、園長先生。
冬のスキー合宿とかしないの~」
うぬっ、こいつもか。
まあ子供ってそういうものだよね。
さてはトーヤ達に毒されたな。
いつも一緒につるんでいるんだし。
あれは寒いから絶対にやりたくないのだがなあ。
まあ子供達から御要望があったのならば仕方がない。
やるか。
「しょうがないな。
じゃあ、何か企画を立てるから待っていな」
「やったー!」
日本に連れていくのも考えたが、日本のスキー場は万全ではない。
怪我をしたり、あるいは崖から落ちたりという可能性もある。
ケモミミの子供は体力があり余っているから、子供コースに甘んじる事はない。
碌な事をしないのに決まっているのだ。
ここは一つ、園長先生謹製の安全に配慮しまくった人造冬季林間学校を開設する他はない。
ヒントとなるのはブルーアイランドのゴーレム海浜だ。
あれと同じようにスキー・リゾートそのものをゴーレム化するのだ。
コピー・クラーケン魔核をベースに奢り、ゴーレム・スキー場を作るとしよう。
いっそ空港と同じく拡張空間としてケモミミ園の庭の一角にでも作っておけば更に安心だ。
もしかすると、久しぶりに魔王心をそそられる案件なのかもしれんし。
「ねえ、ママ。
パパが悪い顔してるよ」
「あはは。そうね。
でも今日は見逃してあげましょう。
きっと楽しくなるわよ」
そう言ってシルが笑いながら娘のミミをもふっていた。
おっと、またちょっと顔に出ていたかしら。
俺って、どうにも正直者で困るな。
常に権謀術数を巡らせているような、王侯貴族という物には大変不向きな男だ。




