131-26 盗み食いの報い
御約束のように、魔女が嗄れたような声を出して言った。
魔王というか、むしろ魔女の格好をして現れている。
特におばさん魔女っぽいメイクはしておらず、ちょっと濃いめの化粧を中心にしているようだ。
目の周りが少し歌舞伎役者っぽい感じの、なんというか、いかにもな感じの魔女メイクだけれど。
こいつの場合、表情や声だけで結構悪そうな雰囲気が出せるからね。
案外と女優としての才能があるんじゃないのか?
「この盗人どもめ。
いつ、この城に入り込んだ。
ジョリーの奴め、侵入者を撃ち漏らしていたのか。
あの図体をしていながら使えない奴だ。
この美食魔王のおやつに手を出そうとするなんて、とんでもない連中だ。
どうしてくれようか」
「そうです。
なんて不届きな奴らなんでしょう。
魔王様、こいつらにはどんな罰を与えましょうか」
そう言って不敵に笑っている、魔王の従者らしき狐獣人の少年。
言わずもがな、そいつはエディだ。
また豪く出待ちしていやがったな。
もうクライマックスっぽいシーンだから、そのうちに映画が終わる頃なんじゃないか?
たとえ出番が著しく減ったとしても、どうしても悪役側で出たかったとみえる。
そういうところ、この子って無茶苦茶に通で凝り性だよな。
「ふふっ。
とりあえず、そこの盗み食いをした白い奴はこうだ!」
美食魔王エリーンは、例のフランネルの作る指揮棒のような魔法の杖を振るって、ロイネスを蛙に変えた。
これ、実は本当に蛙に変わっているのだ。
時間が立てば元に戻るのだが。
俺も、まさか地球の魔法が異世界の精霊に通用するとは思っていなかった。
フランネルが、ケーキを盗み食いをしていた人間体形のジョリーに魔法をかけたらロバになってしまって、あれにはさすがにびっくりしたな。
なんというか、高位精霊であるはずの精霊の森の大神官が……。
レインが聞いたら、また頭を抱えそうだ。
子供達が大喜びで乗り回したり追いかけ回したりしていたけど。
さすがにちょっと可愛そうだと思ったのだが、子供達が喜んでいたのでよしとした。
奴もそう慌ててはいなかったし。
もう、あのくらいの狼藉にはすっかり慣れっこの模様だ。
フランネル本人も「まさか精霊の森の大神官に対して、こんなチャチな魔法が通用するとは」と目を丸くしていた。
いかにも大学教授兼任の魔女らしく、どうにも探究心を抑えられなかったようだ。
画面の中では、蛙に変えられたロイネスはゲコゲコ言って大慌てで飛び跳ねているように見えたが、何か余裕がありそうだったので、どうやら台本にあったシーンのようだ。
なんか目が笑っているし。
最近は俺も蛙の目が笑っているのかどうかまでわかるようになってしまった。
異世界で、精霊・魔物・その他の怪しい生物などと散々戯れてきたからな~。
まあ、うっかり者の奴にしては中々いい演技だ。
「残りの人間は、そうさね。
あとで養殖魔物の餌にでもしてやるか」
エリーンは悪そうな顔で、ゆっくりと絶妙な手の動きで巨大な鳥籠を撫で、そう嘯いた。
中々楽しそうにしているな。
滅多に出来ない御遊びだろうからなあ。
何しろ、また例の如くに御愛想で勝ち取った役らしいし。
それがまたいい演技になっている。
「わあ、ちょっと待ってえ。
私達、御父さんを探しに来ただけなの~。
御願い、ここから出して」
「御父さんだと?
ふふん。
あんな奴は、もうとっくに魔物の餌にしてやったさ」
「ええっ、嘘でしょう⁉」
「嘘なもんか。お前達も直に奴の後を追うのだ」
そう言った後に両手を広げて哄笑するエリーン。
高笑いは、こいつの十八番だしね。
「そんな、御父さん」
「いや、あの教授がそう簡単にくたばるとは思えませんがね」
「う、うん」
ジョセフが言っているのは、以前に出た映画で主役をやった時の台詞だな。
元SAS隊員である英国人考古学者の教授を追って古代の迷宮へと挑む若き青年実業家の役だったっけかな。
あいにく、今回はそんな格好いい役ではないはずなのだが。
うちは迷宮攻略なら自前の領地の物で十分間に合っているし。
迷宮の底どころか、その裏ダンジョンに至るまで領主自ら攻略済みよ。
ダンジョンコアにまで伝手が出来ちゃったんだからな。
その御蔭で地球へ帰る事が出来るようになり、今この異世界で絶賛映画の試写会なんかをやっていられている最中なんだからな。
「なんとか逃げ出して、教授を探しに行きましょう」
「オーケー。
じゃあマホラ、とりあえず最後の一枚いってみようか」
「それでは、御言葉に甘えまして」
魔法の羅針盤マホラが、羊皮紙製のスクロールを宙に浮かせた。
「お前達、そいつは!」
エリーンが、そう言った途端に大爆発が起こり、あたりは煙で包まれた。
「ゲホゲホ。
ちょっと煙が多かったね」
「というか、何故か爆発しているんだけど⁉」
「ゲコゲコ」
「よくみんな無事でしたね」
今の爆発を食らって、ちょっと嬉しそうなアレックス君。
いつもならジョセフの出演する映画って、爆発・爆発・大爆発シーンの連続だからね。
俺も彼の映画は大好きで結構見ていたりするのだ。
映画館へ見に行って、同時発売のブルーレイで買って見て、更にネットの無料映画でやっていたりするとまた見て。
う、只の大ファンじゃねえか。
今回、彼に来てもらえて本当に良かったなあ。
「ゲホゲホ。
おのれ、不埒者ども。
どこへ行った!」
煙に巻かれて一行を見失った美食魔王エリーンが遠くで叫んでいた。
「さあ、教授を探しましょう。
彼だって昔は軍で鳴らした方なんだ。
こんなところで、そうそうくたばってなんかいるはずがない」
あれ、やっぱりそういう設定だったのか。
もしかして、こいつの提案なのかな。
「マリエッタ、きっと教授は生きているよ」
「ゲコっ」
「ありがとう、みんな」
そして駆け出していく一行の行く手に現れたのは、ワンダーキャットの御兄ちゃんだ。
あはは、悪そうな顔で笑っていやがるなあ。
ぷふっ。
そしてドワーフのアニキまで一緒にいる。
やっぱり奴も出ていたのか。
アニキも結構この手の変わった御遊びは好きだから、同じく悪そうに笑いながら実に楽しそうにしていやがること。
いい体というには、あまりにも膨れ上がっているアニキの存在感が半端ない。
奴は人族じゃあないのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
ほとんど、あの親方譲りのいい体をしていやがるからなあ。
隣に立つ世界的な有名俳優であるはずのジョゼの御兄ちゃんが霞んで見えるわ。
ワンダーキャットの兄貴本人も、若干苦笑いしているようにも見える。




