130-12 綱を引くモノ達
第一種目から大波乱になってしまったが、次は大綱引きだ。
場所はあるので、とにかく全員参加の方向で。
ハイパワー過ぎるスペックの俺が参加していると、さすがにアレなので俺は審判に回っていた。
ほぼ一万人対一万人くらいの人数だ。
これはまた長い綱だな。
この王都近郊のアドロスで行われるのに相応しい規模になった。
俺がアイテムボックスの中で繋いで作ったので、事実上やろうと思えばどこまでも伸びるけど。
綱引き専用に構築した再拡張空間の中で行えば、開催場所の大きささえも無限だ。
普通の綱引きは園児や小学生にやらせているので、変り種という事でやってみた。
何故か犬やウサギなんかも混じっているが。
これだけ人数がいると力が完全に平準化するから当然なのだが、これまた拮抗してなかなか決着がつかない。
「園長先生、さっきの騒動のせいもあって、プログラムの時間が押してきたんですけど」
「そうか、じゃあ仕方がないな。
おい、ゴン太」
俺は強制決着に入るため、うちのドラゴンを一頭ゲートから呼び出した。
「お前の好きな色の方を引っ張れ。
あんまり思いっきり引っ張っちゃ駄目だぞ」
「グオオ」
それを見ていた綱引きの参加者達が慌てた。
「あの、園長先生?」
「待って、待って。ねえ、ちょっと待って!」
「かかってこいやあ、ドラゴン」
そして、しばらく迷っていたゴン太がなんとなくで赤色についた。
ちょいっとロープの端を摘まんでいる。
赤色はブレス色という事でいいのだろうか。
あれも最高で摂氏十万度に達するから、超高熱を発していると、どちらかというと白に近くなるんだが。
だが不思議な事にゴン太が引っ張っても何故か決着がつかない。
「あれ? なんでだ。
そんな馬鹿な」
よく見たら、父兄席にいたはずの親方達の姿が見えない。
白組のトーヤが応援として親を呼んできたらしい。
親方とアニキが引っ張っているので均衡しているのだ。
ゴン太も、綱を思いっきり引っ張ると人間がみんな飛んできてしまうので全力など出せない。
だが全力でないのは精霊族のドワーフ達も同じだ。
「ほれ、そこのドラゴン。もっと力入れんか」
「魔物の王として、根性見せてみんかい」
「グオオ~」
そのまま引っ張り合っていたが、なかなか決着がつかず、止むを得ないので時間切れで引き分け判定とした。
パワー不足な訳じゃないからゴン美やドラ子を呼んでも仕方がないしな。
全長五十メートルの巨大ドラゴンが入って決着のつかない運動会の綱引きって一体なんだ。
「親方、無茶をするなよ。
勝負がつかなかったじゃないか。
こういうのは、みんなで和気藹々に汗を流して、笑顔のうちに決着がつくのがいいんだぜ。
ここは武器の試し切りに行く魔物大陸じゃないんだからな?」
「何を温い事を。
大体、お前が入れば一発でケリが着くだろうが」
「運動会っていうのは、そういうものじゃないんだよ!
さあさあ、父兄席に戻って戻って。
おい、誰かこいつらには酒でも飲ませておけ!」
俺はドワーフどもを縄仕切りの向こう側にある父兄席へ押し込んだ。
「なんじゃ、わしらにも暴れさせろ」
「だからあ、運動会は暴れるところじゃねえんだよ。
そのうちにトーヤやエディが出場する競技も始まるから、酒でも飲みながら応援してろよ」
それを聞いて、見物に来ていたヘレンが茣蓙の上に店を広げた。
「まあまあ、親方。
一献いかが。
奥様や息子さんも。
うちの息子は仕事に埋もれて遊びに来られないようですから」
そう言って大笑いするヘレン。
そのうちにアル・グランド王国でも運動会をやる事になるだろう。
「じゃ、飲むか」
「おう。親父、飲み比べだ!」
今度は飲んで暴れるなよ。
普段ならそんな事もないのだが、今日は愛息子の応援のために来ているのでハイになっていやがるのに違いない。
アニキもトーヤの事になると気合の入り様が違うからなあ。
「やれやれ。
真理、次は何の競技だったっけかな」
「パン食い競争じゃない?
あまり御昼の時間に近くてもなんだからって、自分でこの時間にしたんじゃないの」
「ああ、そうだったな。
今年のパンは見事な奴だぜ」
そいつは名古屋の御店で買ってきた物だ。
世界コンクールで何度も入賞しているお店なのだ。
時々エリーンがトーヤについていき、買い食いに行っているらしい。
そんな事ばかりしてやがるので、あいつには賃金の一部を日本円で払ってやっている。
王国大運動会用のパン食い競走用のパンを全部頼むと御店が大変な事になってしまうので、さすがに超大量には数を頼めないから、各種買ってきてコピーするしかなかった。
これらは素材から厳選しまくって作られた凄いパンばかりなのだ。
「さあてー、買い食いの時間だ。
じゃなくってパン食い競争の時間よ~。
食うぞー」
「エリーン。
一応、念のために言っておくが、パンは一人一個のルールだからな?」
「わかっていますよ。
作る方が厳選なら、食べる方も厳選でいかなくては」
運動会において魔法は禁止のルールなのでズルは出来ない。
そして号砲一発。
幼い頃(三歳)から狩人の御師匠様と一緒に野山を駆けてきたエリーン。
他のおっさんどもなんかの追随は許さない。
だが、速攻でパンの元に走りついた彼女はピタっと止まる。
選んでいるのだ。
この日の一期一会の運命の相手を。
後ろから迫る足音にも一切気は逸らさない。
そして決断に目をくわっと見開いた。
続いて助走すら必要としない華麗なる跳躍。
「うん、今日の胃袋は、やっぱり朝からもう世界金賞ベーコンですね!」
そこから颯爽とパンを咥えながら、ゴールを駆け抜けていった黄金の狩人。
ちなみに、俺はそこの店にある千九百円もする『パンのビールセット』が好きだ。
このパンの御店は名古屋に実在している御店です。
ニュースで見ただけで実際に行った事はないんですけどね。
(結構近いんだから無精しないで行って来いよな)




