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125-15 無料企画

「あと、これを見てください」


 そう言って、皇帝ハシムは一枚の企画書を俺に差し出した。


「なんだい?」


 だが、それを見て俺は些か驚いた。

 それは、『無料アトラクション企画』だった。


 あらまあ。

 これまで著しく生活が困窮していた彼らのことだ。

 少しがめつい企画を出してくるのかなとか思っていたのだが。


「ほお、これは?」


 なんだろう。

 これは今までの物と違うと、企画書に触っただけで感じ取れる。

 それ自体は、俺にはよくある事なのだが。


「はい。

 アドロスには、あなたの作った遊園地があります。

 そこの料金は相場から言えばありえないほどの良心的なもの。

 しかし」


 そこまで言って、涙を滲ませるハシム。

 えっ。


「しかし、我々のような者には、それすら高峰の花であったのです。

 入り口まで連れていってはやったものの、悲しそうな顔をしたハルを連れて、粗末な家に帰るばかりの日々でした」


 ぐはあっ。

 ヤベエ、ちょっと吐血したよ。

 健康で物理攻撃も受けていない魔王がマジで吐血するシーンってあるんだね。


「だ、大丈夫ですか? 魔王様」


 少し慌てたカシムが駆け寄ってきた。

 本当に実直で誠実な男だな。


 大丈夫!

 魔王は、いや『龍王』たる者は、これくらいでは死なないよ。

 まあ、それについては龍王である事など、あまり関係はないのだが。

 異世界の魔王は中々死なないが、只の龍王なんていう者はすぐに死ぬ。


 特別な場合を除けば寿命以外では死なないとまで言われる龍王なるものだって時には死ぬさ。

 所詮は只の普通の人間なんだものな。


「わ、わかった。

 この企画は必ず取り入れよう。

 この魔王アルフォンスの名と、『龍神大和』の名において誓う」


「大和?」


「ああ、気にしないでくれ。

 大和は俺の神様さ。

 彼女は、この世界の者じゃないんだ」


 龍神大和。

 それは、いつもは口に出さない、俺にとっては特別な名前。

 俺にイコマというセブンスセンスの相棒を与えてくれた者。

 イコマ同様に、者と言ってしまう事さえ少々憚られるような奇天烈な相手なのだが。


 だが俺はそんな『龍神』というモノに『遭った』事がある。

 それはある種の物理的に存在する神様のようなものだ。

 少なくとも、それは人間が概念から作り出した空想による宗教上の神様などではない。

 中には歴史の中で神格化されている人間の神様もいるのだろうがな。


 だから俺は龍王と呼ばれるような人間の一人なのだ。

 龍王という言葉からは何か凄いイメージがあるが、何も特別な人間なのではない。


 単に龍神と遭った事がある。

 ただ、それだけの、ごくごく普通の人間なのだ。

 どいつもこいつも、異世界でゴブリンにちょっと齧られただけで、あっさりと死ぬだろう。


 まあ『龍神の加護』があるから、いきなり異世界へ飛ばされても龍王たる者はそうそう死んだりはせんと思うのだが。


 ちなみに『龍王を殺すと龍王の力を手に入れる事が出来る』と言われているのは只の迷信で、実際には龍神の怒りを強烈に買うだけで、もし万が一それを実行に移した奴がいたとしたら、そいつはまず間違いなく龍神にぶち殺される。


 そういう妄言の多くは、大概は龍王の力を欲した大昔の権力者なんかの妄想の記録だ。

 もっとも、その手の人間が龍王になったなんていう話はまず聞いた事がない。 

 なんていうかこう、理屈からして有り得ないのだ。

 そういう奴って間違いなくロクデナシで欲の皮の突っ張った屑ばかりなんだから。


 そもそも、『不死身の相手』を狙って殺す事が難しい。

 ここで言う不死身とは、別に龍王が不死の超人という訳ではなく、危機の際にはそこにいない、あるいは危機を察知するので逃げられるという事だと思う。


 俺はこの世界では、魔法・スキルやパワーと耐久性に任せて、あれこれと逃げずに立ち向かってしまったので、本来の立ち位置である龍王としてはあまり良い立ち回りではなかったのだ。

 あれこそは、まさに魔王としての蛮行だわ。


 俺の場合も、龍神由来であるセブンスセンスたるイコマが魔法PCとかのユニークスキルを作ってくれたり、勝手にこっちの神と交渉して凄い魔法を使える仕様にしてくれてあったのだ。

 剰え、向こうの世界と繋がる部分を残してくれ、俺が日頃から杖とも頼むインターネットを繋がるようにしてくれた。


 そして彼の者の加護がこちらの世界でも途切れないようにしてくれたのだ。

 さもなくば、あれだけ間抜けな真似を山ほど積み重ねて、この俺が今頃生きてなどいられるはずがない。


『寿命以外では滅多に死ぬような事はない』と言われる、龍王と呼ばれる人間の持つ特殊な不死身性が異世界でも通用する事を、幾多の危機を乗り越える事により俺は図らずとも証明してしまった。


 あれは、あの龍神というモノには、会うのではなく遭う。

 そんな感じのものなのだが。


 大きな龍神に遭うには、特別な場所に行かなければならないが、ただそこへ行っても駄目だ。

 おそらくは『インビテーション』が必要なのだ。

 金額無制限のクレジットカードの審査を受ける時のように厳しく、彼らが望む一定の条件を満たさなければいけないのだろう。


 これは体験上からくる自分の想像に過ぎないのだが、最大の条件は龍神から見て『観察に値する面白い人間』である事だろうか。

 俺の場合は、サイキックで遠方から彼女を『ノック』したせいだろう。


 ああいうものに招かれている事って、案外とその場では気付かない。

 後になって、「ああ、そうだったのか」とか思うだけだ。

 その辺はUMAと出会った時なんかと同じだな。

 UMAとの邂逅は、何故か皆一様に五年くらい後に、そういうものだったのかと思い出すらしい。

 俺がUMAと出会った時もそうだった。


 後はやはり、なんといっても『邪まな意志を持っていない事』だろうか。

 彼らは凄まじく『人を試す』。

 まるで、この異世界の神のように。


 うっかりと知らないで、おかしな真似をしたりすると非常にマズイ事になる場合がある。

 場合によっては、インビテーションという名の面接の最中に死に至る事もあるはずだ。


 俺は、うっかりとそういう事を知らないでそいつのところへ行ってしまったのだが、現地で試されているのをちゃんと感じ取れたから慎重に行動し、何事もなく立ち去れたのだ。


 だが、少し肝が冷えるような経験を何度もした。

 元からのサイキックな素養が無かったら危なかった。

 もっとも、そういう特別な要素が無かったら、最初から龍神の地などへ呼ばれたりはしないがな。


 あれを無視して『御前』にて、強引でおかしな真似とかをするとアウトなのだ。

 あっさりと龍神の聖域から強制退場となる。

 クレーン車で車を引っ張ってもらえばいいだけなら、まだマシな方だろう。

 大概は長期入院コースだ。


 元々すぐ死んでしまうような、龍王としての必要条件を満たさない愚か者に、彼らもインビテーションは出さないはずなのだが、彼らは『試験』そのものも楽しむらしい。

 大概はそのまま合格させてもらえるのだろう。


 というか基本的には、すでに事前審査に合格していて、彼らの眼鏡に叶った人間しか招かないのだから。

 既に叙爵が決まっている貴族が、王宮に馳せ参じて爵位を賜るのと同じだ。


 殺してしまったりしたら、後で彼らがその人間を観察して楽しめない。

 それでは、わざわざ呼んだ意味がまったく無くなってしまう。


 今思えばロスやアエラグリスタなどの、この世界の神々も、やたらとその辺りには拘っていたように思う。

 アエラグリスタも、俺に危害を加える意思はまったく無かったようだし。

 奴の御楽しみのために与えてくる精神的なダメージは別として。


 大和は、龍神の力を計るための便宜的な指数で測る、金額ベースの数字で年間175兆円に達する日本最大クラスのパワーラインの一端を担う。


 パワーラインというのは、地球中を走っているといわれる、何らかの『力の道』だ。

 それ自体が一種の意思のようなものを持つという。

 あるいは星の意思のようなものでもあるという。


 龍の道とも言われているものなので、俺も子供の頃はよく知らないで『ドラゴンロード』と呼んでいたのだが、一般的にはそう呼ばないらしい。


 陽の龍と陰の龍、龍頭と龍尾で、道というかラインを作るようだ。

 その中間地点においても、バランスを取る平衡地点としての聖地のような物があるとする説もあるが、それは定かではない。

 俺の経験上からは存在するような気がするのだが。


 それを見ても普通の人にそれとはわからないかもしれないが、龍王たる俺には容易にその判別がつく。

 それが、いわゆるレイラインというものと重なっているのかどうかは知らない。

 あれは単に寺院や遺跡などを繋いだ線に過ぎない。

 聖域同士を繋いだ線ではないのだから。


 だが小都市のパワーラインの詳細MAPのライン上に宗教施設が多いのは確認した事がある。

 見事なまでに宗教施設を網羅していて震えあがった。

 そこに在るのは大規模墓地や宗教施設だけではなく、街の発展を促す大規模な企業団地なども含まれるのだが。


 広域MAPは作った事がない。

 あれらのMAPは作るのには極度の集中力と凄いエネルギーがいるのだ。


 地図を購入するコストも半端ではないのだし。

 昔はインターネットなんて便利な物はなかったのだ。

 それに当時ネットがあったとして、画面の中の電子地図で望みのMAPを作るのはまず無理だろう。


 たった一つの都市の詳細MAPを作るために、二十代半ばの若い時分でも極度に集中したダウジングで五時間は費やしたはずだ。

 あれは歳を食ってしまったら絶対に出来ない、極度に集中力の必要な作業だ。


 出来上がったものは、ただポイントを線で繋いでいくだけで、ぴったりと精密な多重同心円状の図形が出来上がるほど凄いものなのだが。


 金額で大和由来のパワーラインの力を表す数字は、わかりやすくいうと東京・大阪・名古屋を結ぶラインの経済力を合わせた数字に由来する。


 小学校の社会科の授業では『黄金の太平洋ベルトライン』として習ったな。

 大和は、必ずしもこのラインと完全に一致はしていないのだが。

 それでも、ほぼこれと一致すると俺は思っている。


 これは黄金の太平洋ベルトラインが、俺の小学生当時(四十五年前)の基準で日本経済の規模のうち七割を擁すると言われたので、そう看做したものだ。

 昔は確かそれくらいの計算だった。

 まあ、現代日本のGDPを大雑把に五百兆円くらいと見積もっての計算だ。


 最近のそういう数字はよく見ていないので正確には知らない。

 日本はデフレに長く苦しめられたので、GDPも株式の総額も長い間殆ど変わらなかった。

 そして龍頭と龍尾でそれを折半という単純な計算だった。


 龍神の龍頭と龍尾は大きく異なる。

 地図上に表される聖域の形である『パワー図形』で、はっきりと区別がつく。

 単なるプラス極とマイナス極の違いではないのだ。


 通常、宗教画などに描かれる聖地や一般的なパワーライン、ラインというか龍神単体として描かれるパワー図形は、大方巨大な二重同心円状に描かれる龍頭である事が普通だ。

 だが大和のような龍尾は、それとは形が異なるようなのだ。

 なんというかな、一目見ただけで『尖っている』と感じるものなのだ。


 龍頭は自然に人を集める聖地となりやすいが、龍尾は人が忌避する忌み地だ。

 あれだけ大きな存在でありながら、そこには人家一つ存在しない。


 大和の地図上に記されるパワー図形の形だけが特殊で、他の龍尾と異なるという可能性はあるが。

 あまりにもヤバい体験だったので、あれ以来その手のものとは関わらないようにしたから、他の聖域の龍尾についてはよくわからない。


 俺はうっかりすると、他の龍などにもダブって招かれてしまいかねないような、爺ちゃん譲りの性質の良くない体質だったので。


 本日は、そんな滅多に出さないような、自分にとっては最高に神聖とも言える大和の名前を誓いの対象として出すほどに、俺にとって精神的にくる案件だったのだ。


 だって、俺は幼稚園の園長先生なんだからな。


龍尾は非常に特殊な物なので、うっかりと興味本位でその場所へ行ったりすると危険な場合がありますので詳細な描写は避けました。

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