117-3 魔法インク・パワーアップ
「えー、という訳なので、逃げ出した怪獣のリストを今から作ります」
脱走した七夕怪獣は、アドロスのあちこちで目撃談が報告されている。
子供が魔法で作った物なので、今のところ特に被害らしい被害は報告されていないが、ミハエルの耳にでも入ると色々と小煩い。
御隠居達も野次馬根性丸出しで、御伴を引き連れて見にいってしまった。
このあたりの性格は、あの武からの遺伝(火事場見物野次馬因子)が子孫へもろに伝わっているなあ。
とりあえず、怪獣を追いかけていった子供達を呼び集めて、事態掌握のフェーズに移ったというわけだ。
「空き缶ネズミなんかだと動く時間は短いが、こいつはどうなんだろうな」
「園長先生、多分効果時間は長いと思うよ」
トーヤが元気に手を上げて発言する。
「そうなのかい?」
「うん。
園長先生が改良してくれた魔法インクの性能が、かなり上がってるんだもん」
「うおっ、そうなのか」
マジックペンを作るついでに少し改良して魔法インクの性能を上げてみたのだが、それが仇になったか。
それから一時間ほどでリストを完成し、タブレット端末に入れて関係各所に配った。
うちの警備の冒険者に、アドロスの冒険者ギルド及びゴーレム達などだ。
俺の魔法PCをホストにして情報は共有する勘定だ。
子供達はとっくに怪獣を追いかけに行っている。
「やれやれ、仕方が無い。
俺も行くとするか」
「ファルも行く~」
さっそく新聞紙の兜を被ったファルが張り切っている。
今日は何か、保健所の野良犬捕獲人みたいな格好をしている。
手には捕獲網を握り締めて。
そいつに怪獣達は収まらないと思うがな。
今度、ライトウエイトの魔法を発動出来る空間拡張式の捕獲網を作ってみるか。
「ひゃっほーう」
表に出てから奇声が聞こえるので振り返ると、エディが自分の怪獣の頭に跨って、歓声を上げながらケモミミ園前の大通りを駆け抜けていった。
やれやれ。
だが、そう心配する事はなさそうな雰囲気だった。
通行人が振り返ってガン見していたが。
「あんまり人に迷惑をかけるんじゃないぞー」
「はーい」
まあ所詮は短冊から生まれた魔法怪獣なのだ。
さほど長くは存在できないだろう。
子供が創ったもののせいか、人に危害は加えないようだし、もう少し遊ばせておいてやるか。
あれ、ケモミミ園の御向かいにある異世界苔生し寺の方から、何やら鐘の音が聞こえてきた。
ま、まさかと思うのだが。
寺へ足を伸ばしたら、子供達が鐘突き堂のあたりに集まっている。
鐘の中に何かの怪獣がいて内側から鐘を突いているらしい。
何の怪獣かはよくわからない。
緑色の足だか触手だかしか見えん。
何か癖になっているらしく、一発鳴らしては体をブルブルさせて、また一発と。
まあいいんだけど。
消えるまで好きにやっていなさい。
遊園地にも行ってみた。
観覧車にコーヒーカップと、あらゆるところに怪獣どもがいた。
造物主である子供達と一緒に。
どっちも楽しそうにしている。
あれらは子供に作られた怪獣なんで、これも当然っていうものなのかもしれない。
せっかくなので、ゴーレム達にはしっかりと写真や映像を撮らせておく。
俺と一緒に来ている精霊カメラマンは、今日は背中に鰭をたくさん生やして尻尾の大きな怪獣スタイルで決めている。
フードコートも覗いてみたが、キッチンエリにも怪獣が居ついていた。
店先でステイして失敗作とかを貰っているらしい。
どさくさに紛れて精霊共が御零れに与っていた。
まあいいんだけれど。
精霊ども、ちゃんと対価としてエリに加護を置いていけよ。
遊園地を出ると、道の真ん中に大鰻が寝そべっていた。
何故鰻にしたのか。
鰻が食べたかったのか?
こいつめ、一体どうやってここまで来たのだろうか。
芋虫ごろごろとかで?
子供達が大鰻を見つけてツンツンしている。
ここに置いておいても仕方が無いので、こいつは回収だな。
間違って、うな丼なんかにされていても困る。
そもそも魔法怪獣って食べられるのだろうか。
レミの描いた、あのでかい蝉がそうなのかどうか気になるのだ!
またしばらく道を行くと、でっかい犬がいた。
怪獣というよりは只の犬だ。
フェルドと同じくらいの大きさなのだが、明らかにスタイルは普通の犬だった。
やたらと顔がでっかいな。
顔と体との対比はブルドッグくらいの感じだ。
こいつは白いむくむくな犬なんだけど。
どうやら、そいつを描いたのはミニョンのようだった。
むく犬の上に乗っかっていて実に楽しそうだ。
俺は電話で奴を呼び出した。
「おい、ジョゼ。
今から、ちょっと来ないか?」
「なあに?
今、学校から帰ったばかりなんだけど」
「来ないと絶対に後悔するぜ」
何しろ、どれだけ実体が持つかわからないからな。
後で映像を見せつけられて血の涙でも流すのがオチだ。
「へえ? じゃあ今から行くわ」
ほどなく、ジョゼ番のゴーレムに連れられて彼女はやってきたが、奴はそのむく犬を見るなり突進していった。
そして、それを気にも止めていない犬の足で跳ね飛ばされて、世界一の御嬢様ともあろう者が異世界の路上へ無様に転がった。
スカートじゃなかったのが不幸中の幸いだ。
「きゃああああ。無念!」
「やれやれ、いきなり飛びつくなよ。
あれは魔法で実態化しただけの絵から出てきた怪獣だ。
そいつはフェルドみたいに、お前に対して気を使ってくれないからな」
俺は回復魔法をかけてやりながら、ジョゼを引っ張り上げてやる。
ジョゼめ、相変わらずの残念ぶりだな。
「ジョゼー」
むく犬の上から、犬体形のミニョンが可愛く前足を振った。
「これ、あたしが描いたんだよー。
ジョゼも早くおいでよー」
それを聞いてジョゼがピョンピョンとジャンプしながら登ろうとしているが、肝心のワン公は意にも介していない。
知らん顔でスタスタといってしまう。
しょうがないので、ジョゼを抱っこしてフライで飛び上がり乗せてやる。
うちの気使いの出来る魔物達と違って、この犬では落ちるといけないので、そのまま俺も付き添いだ。
「うわあ。
フェンリルもいいけど、大きな普通の犬も素敵ねえ」
「でしょう~。
七夕すてきー」
そういう考え方はどうだろうと思ったのだが、もう今更だ。
これがうちの七夕スタンダードになってしまうかな。
こうなると毎年やらないといけなくなりそうだ。
来年はもう少しフィールドを考えてやるとするか。
七夕怪獣イベント用に専用空間を用意するのも悪くない。




