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92-3 可愛いもの誕生

 そうこうするうちに、ついに可愛い子犬達が生まれてくる日がやってきた。

 魔物の出産なので、付き添いは犬の家族だけにさせた。

 出産は離宮の暖かい自分達の部屋で行われた。


 人間達には出産の邪魔をしないように申しつけて。

 特にあの二人。


「ねえ、園長先生。もう生まれたかしらね」

「さあ」


「もう生まれてしまったかのう」

「さあね」


 さっきから、ずっとこんな会話ばかりしている。

 シルが、くすくすくすくすと、ずっと笑いっぱなしだ。


「もう、御母さまも叔父様も。

 少しは落ち着いてくださいな。

 自分の子供が生まれてくる時だって、もっと落ち着いているでしょうに」


「そうは言うがな、シル。

 プリティドッグの赤ちゃんなのだぞ?

 可愛い子犬が今まさに誕生しようとしているのだぞ」


「そうよ、シル。

 あなたの御爺様は、今日絶対に外せない仕事が入ってしまっていて、泣きの涙をみているのですからね。

 その分まで頑張らねば!」


 何を頑張るつもりだ。

 今日はこの人達から絶対に目が離せない。

 というわけで今日は、朝からずっと離宮にあるリビングの一つで、シルと二人でこの人達を見張っているのだ。

 それは俺一人じゃ無理な芸当だし、どっぷりと二人の関係者であるシルはその事を知り尽くしているのだ。

 まあ本当によく出来た奥さんだこと。


「はっ、これは子犬達の鳴き声!?」


 マジですか、王妃様。

 俺には魔王としての能力(デビルイヤー)をもってしても、まったく聞こえないのですが。


 あ、本当だ。

 レーダーに生まれたばかりの子犬が映っている。

 全部で六匹だ。

 王妃様ってば、一体どういう耳をしていやがるのだ。


 この広い館の一番端同士の部屋だというのに。

 きっとプリティドッグの鳴き声だけを、このように聞き取れる不思議な能力なのに違いない。

 これぞ、まさにプリティドッグ脳という奴だな。


 絶対に本物の耳で聞いていないのに決まっている。

 聴音魔法か?

 それとも脳の音響処理能力が限界突破しているのだろうか。

 うちの館の壁は安アパートのそれとは違うんだからな。

 そうそう音が貫通したりはしないのだ。


「本当だ。

 聞こえる気がする!」


 犬公爵も叫んだ。

 気がするだけなのか。

 いや、それは単なる気のせい、幻聴ですね。

 あんたAランク冒険者じゃないだろうに。


「さあいくぞ、ロッテ!」

「ええ!」


 さっそく御邪魔に行こうとする二人の襟首を、俺はドラゴンさえ抗えないパワーでギュっと掴んで引き止める。


「もう何をするんです、アル!」

「そうじゃ、そうじゃあ」


 ぶんぶんと両手を振り回して抗議する二人。


「ええい、黙りなさい。

 もうなんですか。

 二人とも、いい歳こいて。

 人間だって出産直後に、赤の他人に産室へ土足で踏み入れられたくはないでしょうに。

 地球の猫科の猛獣だと、それで興奮して赤ちゃんを噛み殺してしまうような奴だっているんですから」


 俺にそう言われて、ぐうの音も出ない二人。


「しかしなあ」

「ええ、本当に」


 俺に強力なシールドと転移阻害の魔法で部屋の出入りを完全にロックされてしまったので、為す術もなくて部屋中をうろうろしだす一国の重鎮達。

 相変わらず困った人達だな。


 やろうと思えば王妃様の腕輪の転移機能を止めてしまう事も俺には可能なのだが、後が怖いのでそれはやらない。

 やんわりと押し止めておかないとな。


「なあ、アルよ」

「ねえ」


「なんですか?」

「せめて、御祝いの品だけでも渡したいのだが」

「それと写真が手に入らないかしら」


「いいでしょう。

 御祝いの品は届けさせておきます。

 でも写真は駄目ですよ」


「「なんで~」」


「そんなものは決まっていますよ。

 あんたら、写真を見たらもう我慢できずに突撃したがるでしょうに~!」


「う、むう。それは確かに」

「ま、まあ、そうでしょうけど」


「写真は後で見せてもらえるようにしますから」


 この人達も自覚があるから困るんだよなあ。


 とりあえず部屋の入り口に張った超強力なシールドは外しておく。

 さすがに、この高貴な人達をいつまでも軟禁しておけないわ。


 だが世の中に、空気を読まない奴っていうのはいるもんだ。


「ほら~、子犬こんなに可愛いですよー」


 振り向くと、またこっちの世界へ遊びにきていた斉藤ちゃんが生まれたての子犬を抱っこしていた。


「こらこらこら」


 俺はちょっと慌てたが、斉藤ちゃんは笑っている。


「うおおおー、か、可愛い~」

「もう蕩けそうよ~!」


「はっはっは。

 どうだ、うちの子は可愛いだろう」


 ジョニー、お前の仕業か。

 いつの間にか、俺の後ろでジョニーがドヤ顔をして、椅子に足をかけて帽子に手をやって、カメラ目線を向けたポーズを取っている。


 なんかもう馬鹿馬鹿しくなってきたな。

 そういや、こいつらは自意識が非常に高い生き物なんだった。


「ね、ねえ。

 ジョニー。

 ちょっと子犬を抱いてもいいかしら」


「どうしようかな~。

 まだ生まれたてで目が開いていないんだぜ」


「そ、そこをなんとか!

 ジョニー様~」


 奴は、にやにやしながら王族達を手玉に取っている。

 またジョニーの悪い癖だ。

 俺はそっと転移でママのところへ行った。


「ママ、産後の肥立ちはどうだい?」

「いや、今生まれたばっかりなんだけど」


 子犬達はまだ目が見えないのでもがいていたが、年上の兄弟達に頭を撫でられていた。

 自分達と同じ匂いがするので、そうされると彼らも安心なのだろう。


 だが子犬達は一斉に俺の方を向いている。

 あ、俺の余剰魔力放射を感じるのか。


 俺は床に胡坐をかいて座り、彼らが来るのをじっと待った。

 子犬達は、よたよたと這いずってくると、両前足で俺の足に掴まった。

 いかにもタッチっていう感じで凄く可愛いな。

 いや、気持ちいいわ。


 何かとても幸せそうだ。

 じーんとするらしい。

 まるでファルのよしよしみたいだ。


 この子達は魔物だから、生まれた時に、この世界の魔力を吸い込んで生命力を強くするのだ。

 生まれたばかりで、まだ僅かな魔力しか持っていないため俺の魔力を欲するのだ。

 この辺の事情はファルスなどと同じのようだ。

 俺はファルと斉藤ちゃんを呼んだ。


「斉藤ちゃん、ちょっとさっきの子犬を連れてきてくれ」

「魔王様、なんですか~」


 上手に抱っこされて気持ち良さそうな顔の子犬を抱えた斉藤ちゃんが転移で現れる。

 王妃様も後をついて転移してきた。

 犬公爵二人の手を引いて。


 ジョニーも、しっかりくっついてきている。


「ジョニーはともかく、あんたらは呼んでいないのだがな」


「アルったら!

 それはないわ。

 頭を撫でていたら急にいなくなるんですもの~」


「そうじゃあ、こんなに可愛いのに~」


 もう完全に病気だな。


「おいちゃん、なあにー」


 俺はさっき離れていた子犬にも頭を撫でながら魔力を振り撒いてやると、ファルに頼んだ。


「生まれた子犬達に、いつものよしよしをしてやってくれ」


「わあ、子犬がいっぱいだあ。

 可愛いな。

 それ、よしよし」


 ファルに撫でられた、生まれたての目も明かない子犬が皆蕩けそうな顔をしていて、見ているだけでこっちも幸せな気持ちになってくる。

 もちろん、犬キチ三人組の顔もそれに倣っていた。


 今日も我が家はハッピーだ。


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