65-4 やってきてしまった男
俺達は、ちょっと気まずい空気の中、離宮にある俺のリビングで向かい合っていた。
御互いにどう話を切り出したものかという微妙な空気を挟んで。
ほどなくして、エリーンが御茶のワゴンを持って現れる。
シルも一緒だ。
俺達は二人とも、御互いに顔見知りである女性二人の笑顔が醸し出す空気に、ホッとした具合で緊張を解いた。
なんなんだろうね、一体。
「マクファーソン叔父様、御久しぶりです。
内覧会以来ですね」
「やあ、シル。
元気そうで何よりだ」
あれ? そういう血縁だったっけ。
「ねえ、彼は君の叔父さんだったの?」
「ああ、正確には母上と叔父様がサイラスの従兄妹なのよ。
だから、叔父様の子供と私が再従兄弟なのよ」
「そうだったのか」
そういう事は、さっぱりわからんな。
今度、関係する王国関連の家系図を貰えるようにミハエルに頼んでおくかな。
地球の王朝関係もさっぱりわからんのよ。
「やあ、君はこの間の。
あの時は送ってもらえて助かったよ。
ここで働いているのかね?」
「ええ、警備の冒険者です。
私はここの古株ですよー。
グランバースト公爵とは、まだこのケモミミ園が出来る前からの付き合いですから」
そう言いながら、全身これ御愛想といった感じで応対してくれるエリーンを見て、彼もなんとなく事情を察したようだ。
聡いな。
彼も見た目は少々もっさりしている感じなのだけれど、伊達に公爵なのではないとみえる。
まあ、あのバイトンとて昔はそれなりの人物だったようなのだからな。
「それで、エルリア公爵閣下。
本日は我が家へ、一体どのような御用向きでございますので?」
事情を全て知った上で惚けている俺の様子に、シルがもう噴き出しそうな顔をしている。
「うむ。
実はその、一つ頼みがあってな」
そう言ってからも、後は中々切り出さないエルリア公爵。
こちらからも言い出し辛い雰囲気だったので、ここは敢えて待った。
放置プレイ約五分。
その間、俺は御茶をたっぷりと楽しんだ。
侍女さんに高級ティーセットで淹れてもらって。
これらは、俺が日本のデパートでたっぷりと鑑賞し散々手に取った事のある高級ティーセットなどを新スキルで再現したものだ。
そして、ついには観念して口を開くエルリア公爵。
「実は、儂は大の犬好きでな。
子供の頃、あのシャルロット王妃と共にサイラスの叔父から聞かされたプリティドッグの話が忘れられなくて。
シャルロットがプリティドッグ探しの旅に出る時に誘われたが、さすがに儂は一緒に行く事ができなんだ」
一緒に行っていたら豪い事ですがな。
そうか、あれの汚染源は王妃様と一緒だったんだな。
「そして、あやつと来た日には『あの子』を手に入れてからというもの、会う度に自慢の嵐よ。
もう、なんともならんくてな」
王妃様、あんた……。
「そのお、後生だ。
プリティドッグの子を一匹わしに譲ってもらえないだろうか。
この通りだ」
いきなり頭を下げられてしまった。
やはり自分でも次の赤ちゃんを貰うのは無理だとふんだか。
うわあ、こいつは困ったなあ。
なんと説明したものか。
「いやあ、エルリア公爵。
頭を御上げください。
その、なんて言ったらいいのかな。
うちのプリティドッグは私が飼っているわけではないのです」
一瞬ポカンとして、それから何を言われているのかよくわからなかったらしく、彼も激しく首を捻った。
「だが、犬はお前の家にいるではないか」
「ええまあ、それはそうなんですがね」
また、ちょっと部屋の空気に沈黙が満ちた。
「叔父様。
あの子達は、ここが気に入っているから居ついているだけなの。
別にうちで飼っているわけじゃないのよ」
シルがさりげなく助け舟を出してくれる。
俺が説明しても、中々納得してもらえないだろう。
「しかし、アルバ王宮やハイド王国、そして北の公爵家には……」
「あれはその、なんていうか勝手に懐いてついていったようなものだから。
ちゃんと先に待遇の交渉もしているのです。
みんな、いつでも好きな時にここへ帰ってくるし。
だから、いくら南の叔父様でも、あげるとかあげないとか、そういう問題じゃなくてね」
「そ、そうなのか?」
シルの説明に、南の公爵様は困惑を隠し切れないようだった。
まあ普通はそうだよなあ。
「それとね、叔父様。
最初に来たうちの子ミニョンは、神聖エリオン様の傍にいたくて、ここへ追いかけてきたの。
だからプリティドッグの家族みんながここにいるのよ。
その意味はわかるよね、叔父様」
それを聞いて、さすがの南の公爵も、それ以上の我儘を言う気はないようだった。
「そうかー、そいつは残念だ。
せっかくのいい機会だと思ったのだが」
肩を落とし、嘆く南の公爵閣下。
とても強面公爵には見えない有様であった。
「あと母には、あんまり自慢をしないように言っておきますから」
「それなら、せめて彼らを一撫でしてから帰りたいものだが。
あの子達は今どこに?」
シルは困ったような、あるいは噴き出したいような、そういう感じの顔で伝えた。
「えーと、叔父さま。
言いにくいんですけど、彼らは今、全部あなたの真後ろにいます。
遊園地から、ずっと背後を付き纏われていましたよ。
みんな、そういう悪戯が大好きなもので」
それには慌てて、くるっと振り向いたエルリア公爵の真後ろで、人型のままでにっこりと笑うミニョン一家がいた。
そしてポンっと犬形態に戻ると、強面公爵は、あっという間に犬塗れにされてしまった。
そこには目を回して犬どもに揉みくちゃにされる犬公爵がいた。
もはや、そんな称号がついてしまいそうだな。
これはもう誰が見ても犬公爵にしか見えんわ。
「うはははは。
おい、こらちょっと。
よさんか、お前達」
そう言いながらも、子犬達から顔中を舐められまくって嬉しそうにして、子供のように燥ぐ南の叔父さんなのであった。
「まあ、その程度でプリティドッグを飼いたいだなんて君もまだまだだね。
だがまあ、精進したら考えてあげよう」
と、ミニョンパパが偉そうにのたもうた。
初登場のくせに美味しいところを持っていくとは、なんて如才のない奴なのだろう。
何気に、こういう犬好きな人間の事は嫌いじゃないらしい。
なんというか、動物を物扱いするような非道な人間には死んでも屈しないが、プリティドッグが大好きで本当の家族のように愛してくれるというのなら考えてもいいというスタンスのようだ。
どうでもいいけど、お前ら。
犬体形のまんまで喋るんじゃないよ。
今までは人型でも喋らなかったんで、どうにも違和感ありまくりだ。
かくして、強面な南の公爵とはワンコを通じた近しい御付き合いが出来そうだ。
パンダ外交ならぬプリティドッグ外交?
この人も王妃様みたいに、毎日ここへ通ってきそうな気がするぜ。
やれやれ。
ダンジョンクライシス日本
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こちらもよろしくお願いいたします。




