63-6 里の復活
脱力。
そして、とてつもない快感。
体の中を駆け抜けていく命のリズム。
魂が振り絞る命を称える歌、体の奥底からイメージされる魔法、あらん限りの力、己の魂そのもの、一つ一つの細胞が奏でる脈動、毛細血管に至るまでの一滴一滴に息づく血の流れ。
完璧に共鳴し、増幅し、質さえも強化されていた。
これが魔法の真髄のような物なのかもしれない。
船橋武の作品から感じられる、あの拘りに近い感覚か。
俺は、彼にまた一歩近づけただろうか。
それから俺はトンっと大地を蹴って飛び上り、また長の家へと戻った。
ふと気が付くと、長が俺の前で頭を垂れていた。
ファルはまた人化している。
「長、まだ寝ていなくては」
俺は手を差し伸べたが、彼は膝を着いたまま俺に縋り大粒の涙を溢した。
「エルフは感情が薄い」などと言った奴は一体誰だろう。
ハイエルフのジェイミーだって喜怒哀楽は激しかった。
「いえ、いえ稀人よ。
また、また我らを救ってくださったのだな。
ああ、偉大なるロスよ、そしてファルスよ。
おお、おお、大いなるもの。愛しきもの。
我らの願いを聞き届けてくださって、心から感謝に堪えませぬ」
はっと思い、ふと窓から見下ろすと、里中から集まったエルフ達が片膝を着き祈っていた。
「ファル。
こっちへ来て、顔を見せてあげておくれ」
力いっぱい歌って御腹が空いたのか、三人でおやつに夢中になっていたファルを呼んだ。
どうでもいいのだが、ジョリーとシルヴィは歌っていないよな?
ファルは窓辺にやってきて息をすうっと吸い込むと、元気よく挨拶をした。
「エルフの里のみんなー、ファルだよ。
今日はすっごく楽しく歌えて、とっても嬉しかった。
これからも仲良くしてね~」
エルフの中から響きが起こり、皆が立ち上がった。
うーん、まだ子供だから、まあこんなもんだよね。
御挨拶に関してはカミラといい勝負だな~。
まだ一歳なんだし。
これがレミだったら、得意の「おっす」の一言で済ませちゃうかな。
想像してみたら、ちょっとほっこりしてしまった。
「おお、おお。
ファルス、レインボーファルス!」
「ああ、ロスよ、ファルスよ」
「ああ、ああ、あああ!」
「ロスよ、偉大なる女神ロスよ」
はあ? 女神だと?
各地のロス神殿に像として刻まれたその姿は厳めしい顔をした髭のおっさんなんだがな。
俺は思わずファルの方を見たが、きょとんとしていた。
「なあ、ファル。
ロスって女神様なの?」
「うん。
祝福の歌も、ロスの御姉ちゃんから教わったんだよ」
くはあっ。
御姉ちゃんなのか。
しかも、歌を教わったのだと。
という事は、ファルスは神と交信しているのか。
ロスは実在する?
ええっ。
この世界に実在する神はいないんじゃなかったのか。
俺の勘違い?
そういや「神はいない」とは誰も言っていなかったような。
やっぱり俺の思い込みなのか。
歌はてっきり、ファルスの遺伝子の中に保存されているものだと思っていたのに。
いやいや、そういえばファルスは一旦跡形もなく滅びてしまっても、またフェニックスのように蘇ってくるのだったな。
普通の生き物ならば絶対に考えられない事だ。
しかも神様との通信インフラ付きだったか。
やっぱり、この世界は地球とはちょっと違うぜ。
ま、まあ、それはいいとして問題は例のアレだ。
「長、ちょっと御願いがあるんだが」
「ああ、貴方様の頼みであれば、なんなりと」
長は目を潤ませて俺の両手を握り締めてくれた。
「鍵が欲しい。
あの管理者が探しに来た奴だ。
正直に言うが、今回の事は俺がお前達を巻き込んだようなものだ。
俺がダンジョンにある鍵のかかった扉に辿り着いたので、管理者の奴が先手を打ってきたんだ。
すまないな。
今、千年前に起きた稀人船橋武対迷宮の管理者の戦い、そのリターンマッチが行なわれているんだ。
日本への帰還を果たせずに無念の涙を飲んだ稀人船橋武のためにも、是非ともあの扉は開けたい。
何か手がかりはないものだろうか」
「なんと。
しかし、御力になりたいのは山々なのですが心当たりがなくて。
はてさて」
思案するものの、首を傾げる長達。
他のエルフも一様に首を捻っている。
その時、見た目は七歳くらいの可愛らしい女の子が一人、前に進み出た。
「爺!
昔、稀人様がエルフを助けてくれた時に、何か里で預かったって言ってなかった?
お話で聞かせてくれたじゃない」
爺、そんな大事な話を忘れていたのかい?
わかる、わかるぞ、その気持ち。
歳を食うと、どうしてもね。
歳の食い方も半端じゃないしなあ。
「おう、おうおうおう。
そんな事もあったような、あるいはなかったような。
儂もその頃はまだ生まれておらんかったでな。
あれは確か、儂の爺さんの頃の話だったか、それとも曾爺さんの時の話じゃったかのう」
えーと。
頭が痛くなりそうだな。
なんだか五千年竜バルドスの竜生レベルの話になってきたぞ。
「なあ、ジェイミー。
お前、結構長生きなんだろう?
何か覚えていないか」
「あれ? もしかしたらアレの事かな」
おお、生き証人の記憶が蘇ったか。
エルフに長生きはしてもらうものだよな。
「長老。
あの丘の精霊樹の下に埋めた箱の話を覚えていませんか?
代々の長に語り継がれる大事な話だったんじゃ」
おーい、爺。
もう自分で覚えていられないんなら、引退して若いもんに後を任せてくれよ~。
後世の者が困るだろうが。
主にこの俺が。
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