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63-4 守りの真髄

「里の場所はどこにある?

 行った事のない場所だと転移魔法が使えないから、行く方法が面倒になるんだが」


「くっくっく。

 それなら心配ない。

 たぶん、お前はよく知っている場所だと思うぞ」


「ほお?」


 そしてジェイミーが告げた、そのエルフの里があるその場所とは!


「お前ら! 本当にいい根性してんなあ」

「ふはははは、魔王様から御褒めに与って光栄至極だね」


 さすがの俺も、それには呆れ果てた。 



「よお、新婚さん。

 どんな調子だい?」


 俺はベルンシュタイン帝国皇帝ドランのところへ顔を出した。


「どうと言われても、あまり変わり映えはしないな」


 相変わらず、奴の後ろには「皇后様」がいらっしゃった。

 ドランの奴も新婚で張り切っているのか、後ろで書類の順番待ちをしている文官の姿は見えなかった。


「お前こそ、どうしたんだ?

 新婚早々、御姫様を放っておいていいのか」


「いや、一通りのごたごたが終わったんでな。

 立派な離宮を作ったので、シルも御付きの人達も落ち着いただろう。

 今度はまた違う話に首を突っ込んでいるんだ」


「そうか。

 どうでもいいが、こっちに飛び火するような内容じゃあるまいな」


 飛び火どころか、なんていうかなあ。

 いわゆる知らぬが仏っていう奴かな。

 御愁傷様。


「まあ、そういう話じゃないさ。

 またよかったら離宮まで遊びに来てくれよ。

 地球産の素晴らしいデザインだぜ。

 ブラウンゴブリンの芸術も絶品だ」


「それは素敵ですわ。

 アルバにいる帝国大使の話だと、相当素晴らしい宮殿だそうですね」


 一応、離宮の御披露目には帝国の大使も招待くらいはしておいた。

 御披露目だから、関係国の大使は全員呼んでおいたのだ。


「また行く機会があったらな。

 中々時間の余裕が作れないから外遊もままならん。

 今までうちの国は、あちこちに喧嘩を売っていたから、そんな仕事も真面にしていなかった。

 少しは親父までの代と違うというところを見せないといかんのだが」


 そういや、世の中にはそういう仕事もあるんだよな。

 もう敗戦処理も終わった頃だから、こいつが繁忙なのも少しはマシになっただろう。


 そう言いながらも、目の前にいる念願叶って愛しの幼馴染と結婚出来た果報者は、以前に比べたら余裕のようなものを感じさせる。

 以前と違い、話す時にちゃんとこちらを見て話している。


 結婚した俺は、傍から見て余裕が出来たように見えるだろうか?


「ところで、そっちの半分死んでいるような奴はなんだ?

 エルフ、しかもハイエルフのようだが」


 さすがは帝国だな。

 エルフ狩りをしていただけの事はある。

 フードをした怪しげな女の正体を一発で見抜いたか。


 まあ、それにドランの奴は関わっていなかったようだが。

 それどころか、逆に本人がハイエルフ由来である魔晶石による謀略を食らっていたくらいだからな。


「何、気にしないでくれ。

 あと言っておくが、こいつがこうなっているのは自業自得なのであって、断じて俺のせいじゃないからな」


 ジェイミーが二人から激しく同情の眼差しを受けていたので、そのように付け加えておいた。

 誠に失礼しちゃうぜ。



 俺とジェイミーは皇帝執務室を辞して歩き出した。


「それで、里の入り口はどこだ」


「まあここにあるのは、ただの非常口なんだが。

 まさかここを、大手を振って使う日が来ようとはな」


 ジェイミーは、さも可笑しそうに笑みを浮かべた。


「全く何を考えていやがるんだ。

 お前らエルフも大概だな。

 この宿敵ベルンシュタイン帝国の帝都ベルン。

 しかも、よりにもよってこの皇宮に里を作ってしまうとは」


 そう。

“ここ”がエルフの里なのだ。

 皇帝ドランの居城そのものが。


 何しろここにいれば、【敵であるはずの帝国が外敵から守ってくれる】んだからな。

 そもそも、その帝国自体が彼らにとって天敵の最たる物なのだ。

 灯台下暗し。


 さすがの先代皇帝やニールセンも、エルフ達が自分の足元に隠れ潜んでいたとは夢にも思わなかったようだ。

 俺だって、前もって聞いていなかったらそんなもの絶対にわからん!

 今までだって、まったく気が付いていなかった。


「御蔭様で、まったく見つからなかったよ。

 帝国に追われて以来、皆で相談してこうした。

 空間魔法を用い、うまく宮殿に同化してある。

 精霊達の助けを借りてな。

 だが、あの管理者には通用しなかった」


 裏宮殿っていうわけか。

 アルバ王宮にも、何か変な連中が巣食っていたりしないだろうな。


 エルフも運が悪かったな。

 そっち方面は奴の十八番だ。

 おまけに、平気で主神ロスの御使いたるファルスにまで喧嘩を売ってくるような、とんでもない相手なのだから。


 精霊の結界を通り抜け、人気の無い突き当たりの隅っこの壁に、ジェイミーは手を触れて入り口を開けた。

 こんなもの、俺にもわからなかった。

 訊けば精霊は教えてくれたかもしれないし、検索すればMAPにも反応したかもしれないが。


 さすがに思いつかなかったぜ。

 これが俺の検索能力の弱点だ。


『検索キーワードを思いつかない物は捜せない』


 なんたって、俺のユニークスキルは『PC』なんだからな。

 使う人間が能無しならば、ただの箱ならぬ、ただのスキルに過ぎないのだ。


 この世界には、まだまだこういう隠しスポットが、あちこちに在るのかもしれないな。

 異空間なんていう物も世界各地にあるようだし。


 俺は奴に促されるまま、里の中へと足を踏み入れた。

 その途端、色気も何も無い薄暗い石造りの通路が、溢れるような色彩に包まれた空間へと変わり、驚愕した。


「へえ、どこか精霊の里に似ているな」


「ああ、それを模して作られたものだからな。

 我ら同族も同然であるエルフのために精霊達がそのようにしてくれたのだ」


 煌くような光が印象的だ。

 なんていうか、普通の太陽光溢れる世界と違い、まるで不可視領域が見えているような。


 虹色の世界なのもわかる気がするな。

 地球でも色鮮やかなオーラを視る事が出来る人達がいるという。

 その人達の目には、俺達とは違った世界に映るものらしい。


 例えるなら世界がゴッホの絵みたいに見えるようだ。

 もしかしたらゴッホには世界が、本当にあんな具合に燃え出るかのように見えていたのかもしれないな。


 あいにくと、俺にはそんな才能は無かった。

 自分の体を覆う一ミリか二ミリくらいの厚さで白っぽい感じに視える表層オーラ、そして手の先から放射される同じく白っぽい剣のように伸びるオーラが視えたくらいだ。


 それくらいは見方を習えば誰でも視れる。

 実際に大学の授業で教授から習ったという人に会った事がある。

 つまり俺のオーラ視の能力は人並みそのもののレベルという事だ。


 この里の虹彩はオーラの見える世界とはまた違い、なんていうか不可視領域が目に見えているような感じといった方がいいだろうか。

 それが次々と色取り取りに、風に吹かれたように流れて入れ替わり、そして消えていくような。


 しかし目がチカチカしたりもしないし、別に不快でもない。

 それどころか、思わずそれに身を任せてしまいたくなるような暖かみのある景色なのだ。


「なあ、ちょっとここで御昼寝していってもいい?」


「駄目だ。

 早く里の長のところへ来てくれ」


「あのなあ。

 そういうお前は昼まで寝ていたじゃないか。

 御蔭でここへ来るのがかなり遅くなっちまったんだからな」


「ぐっ。

 い、いいから早く一緒に来てくれ」


 ジェイミーは俺を背中から押すようにして、引っ立てていった。


いつもありがとうございます。

おっさんキャンプ重版決定しました。

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