62-3 誘いしモノ
「うわあ、びっくりしたあ」
そう言って斉藤ちゃんは再び姿を現した。
一応出現時には、裏ダンジョンへのゲートはずっと開いているのか?
ファルも不思議そうに首を突っ込んでいる。
よくはわからんが、今回も裏ダンジョンには入れるようだ。
斉藤ちゃんは中でずっこけたらしくて顔が汚れていたので、タオルで顔を拭いてやり、とりあえずは裏ダンジョン内部へ進むことにした。
「誰かいますか~」
斉藤ちゃんの間抜けな声が、ふんわりとしたサクサクコーンの御菓子のような感じに裏の空間を吹き抜けていった。
「返事が無いですねえ」
「まあ、普通は無いんじゃないのか?」
あったらこっちが驚くわ。
俺達は今、かくれんぼの真っ最中なんだぜ。
せめて大人しく隠れてくれているといいんだが、さすがにそれは無かろう。
もしも返事があったとしたら、その場で捕まえに行くけどな。
あのアドミンの事だから、そう簡単にいく訳がないのだろうが。
ファルの警戒振りが笑いを誘う。
まあ、笑い事じゃないんだが。
前回の煮え湯は俺が八十パーセントを飲み干したのだ。
ファルは俺の服を右手でしっかりと握り締め、左手はにぎにぎしている。
いつでも青鰭蜥蜴を俺に渡せる態勢だった。
ちょっと勘弁してほしいな。
まあ、あのアドミンの事だから同じ手は使うまい。
きっと、もっと悪辣な手を使ってくるのに違いない。
アドミンの奴、神聖エリオンに対してここまでやるとは。
もう全世界を敵に回したよな。
つまり、奴はある意味でエリオンクラスの存在である可能性がある。
次元や空間をやりたい放題好きに弄くれるランクの奴だからな。
用心していくか。
頼むぜ、「お前」。
お前と冒険するのも、あの「大和」の地以来だな、相棒。
「俺の中のあいつ」よ。
あの時、おまえは言ったな、「イコマ」。
忘れもしない、イコマの黙示録。
「お前に、夢と冒険とロマン、そして富と栄光を与えよう。
だが、おまえは体も能力もボロボロになって死んでいくだろう。
その時、お前の魂は至上の至福に包まれるだろう」
夢と冒険とロマンはあった。
そして得られるはずだった富と栄光は。
何一つ上手くやれなくて逃してしまった、この手の中からすり抜けていった物達。
その言葉、未だに忘れた事は只の一度もない。
呪いのように生涯俺を蝕んだリフレイン。
胸に突き刺さる後悔と救いようもない絶望を持って、心に疼き、ささくれだち、俺を打ちのめした。
なぜ、あんな黙示録を残した。
そして、なぜ俺なんかにこんな力をくれたのだ。
使いこなせもしない絶望しか残さないような力を。
そして人生も終盤へと移り、早々と失意の淵にあった俺を、お前は誘った。
ここへ。
この異世界へ。
そうさ、イコマよ。
俺の中のあいつよ。
おまえはいつも正しい。
間違っているのは、いつも俺だ。
でも、生憎だな。
俺はまだ終わっちゃいねえよ。
この異世界でも一生懸命に頑張っているんだ。
とりあえず、あのアホのアドミンだけは捕まえてしばく。
お前との話はそれからだ。
もう、こっちで嫁さんも貰ったんだぜ。
イコマ・アボカリプスの時代は終わった。
あれは地球での物語だった。
俺はとうとう富と栄光を手にする事はなく、体も心も能力も何もかもがボロボロになっていたが、まだ死ぬ事もなかった。
結果はイーブンで、仕切り直しの新世紀だ。
今からは家族の時間が始まるのさ。
お前もそれを望んだからこそ、絶対に有り得ないほどのレベルで時と空間を測り、この異世界へ【連れてきてくれた】んだろう?
そして今度は帰るんだ、懐かしい日本へ。
家族のための買い物が要るんだからな。
この世界にある物、俺が作る物だけじゃ我慢できねえよ。
嫁さんと子供用の物だけはなあ!
という訳だから、イコマ。
責任持って俺を日本に連れて帰れ。
お前に出来ないなんて言わせないぞ。
こっちは、お前の手の内なんて知り尽くしているんだからな。
そして、お前は持っているんだ。
【現実世界に、マンガや小説の中のような御都合主義を作り出す事も可能な能力】を。
それとて限界はあるが、ある程度の事はやってのけられるのが、イコマ、お前の強みだ。
いくらお前でも、この世に存在していない物には干渉出来ないし、また作り出す事など出来よう筈もないが、この裏ダンジョンは現実に存在している物なのだ。
俺は愛する家族のために日本へ買い物に行かねばならんのだ!
みんな、御父ちゃん頑張りまっせ(まだ本当の子供はいないのだが)。
とりあえずは、日本での買い物ツアーへ行くための案内人を捕獲せねばならない。
まあアドミンのことだから、少々やりすぎたって死ぬ事はあるまい。
最初から手加減する気なんてピコ1ミリグラムもねえがな!
「はあ。
武もねえ、ダンジョン探索に向かった時には、今のあなたみたいな顔をしていたそうよ。
それが、あの有様だったものねえ」
我が相棒、麗しき魔導ホムンクルスの君よ。
溜め息と共に禄でもない情報をありがとう。
ちょっと、ほどよくテンションが落ちましたわ。
心なしかファルが俺の手を握る力が強まった気がする。
やれやれ。
そして俺達は探索を進めた。
やはり、ここは魔法が封じられているな。
魔素も少ないのか無いのか知らないが、魔力の補充も出来ないのか。
やはり魔道鎧も出せないな。
前の時よりもルールが厳しくなっているんじゃないか、これ。
特にシールドやバリヤーを使えないのが厄介だ。
再生のスキルにより自力回復は可能だが、他人を回復させられない。
いや……再生だから元に戻るのだろうか⁇
真理はエリクサーがあるし、ファルは……うーん、どうなんだ?
「真理、ここに魔素はないようだが、おまえは大丈夫か?」
「うん。
ベスマギルがいっぱいあるから大丈夫よ。
普通に活動していたら、最低でもあと一万年は軽いかな」
そ、そう。
体さえ無事なら、ここでも御山の御爺ちゃん竜よりもずっと長生きしそうね。
「斉藤、お前らはどう?」
「あー、全然大丈夫っすよー。
魔法を使えないのが痛いですね。
足元が崩れたりしたら、飛べないから厄介かなあ」
そんな事を口に出すなよ。
奴は絶対に聞いているぞ。
もっとも、こいつらは落ちたって何も困りはせんがな。
「みんな、いざとなったらアレを使えよ」
「はあーい」
この上、アイテムボックスを封じられると厄介だな。
俺はある程度の人員数のゴーレムを出して武装もさせておいた。
武装はオリハルコン武器と火薬銃だ。
銃は弾丸がアイテムボックスから出せなくなると痛いな。
俺は万が一に備えて、おやつと御弁当も出して、大き目のリュックに入れて背負った。
大食漢を一人連れているからな。
ファルが自分でも背負いたがったので、おやつ満載のリュックを出してやった。
正直、レインボーファルスにとっては、こんなものは遠足に等しい代物だ。
青鰭蜥蜴さえ出てこなければの話なのだが。
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