57-2 騎兵団というよりは
傍で聞いていたシルが不思議そうに訊いてくる。
「あなた、とても楽しそうでしたけど何かあったのですか」
うおう。
あなた、か!
いや、それで合っているんだけれども。
「あはは。
そんな顔しないでくださいよ。
私だって慣れていないんですから。
でも、これからはそう呼ばないといけないんですよ。
ここにいる間に練習しましょ。
あ、学校じゃこれからもアルフォンス先生って呼びますからね」
「わかったよ、そうしよう。
さて。
いるな、近藤」
すっと一人のゴーレムが現れた。
袴に日本刀を差した厳つい男だ。
こいつは言わずと知れた、あの鬼の新撰組局長だ。
あれは俺が日本で住んでいた街にも縁のあった男なので、ここでも採用した。
彼に所縁のあった場所などは、それ目当てで新撰組ファンの観光客が訪れるほどの隠れ観光スポットになっているらしい。
俺は一回も行った事がなかったんだけどね。
なんていうか、「新撰組聖地巡礼の一環」みたいな感じで。
新撰組が命を賭して与した徳川にも所縁の土地柄だから、ワンセットで観光という感じじゃないのかな。
ついでに名古屋城あたりにも足を伸ばせるし。
名古屋駅の前は太閤通りと呼ばれ、そもそも名古屋駅の所在地である中村区自体が太閤豊臣秀吉生誕の地なのだ。
新幹線で来るのなら、むしろここが起点になるのだ。
「近藤局長、新撰組に勅命を言い渡す。
本日より制服は洋装に改め、官軍を迎え討て!
じゃあなかった。
騎兵団を構成せよ。
刀は帯刀していてよし。
三日後、王都へ帰還したら、ただちに騎兵団の観覧式を行なう。
ぼんくら貴族どもの度肝を抜いてやれ」
「はっ。
ではそのように。
あ、遅ればせながら、御結婚おめでとうございます」
何故だろうな。
コイツに言われると結婚じゃなくて、血痕の字が当てはまるような気がする。
まあ、おおむね荒事専門に作った「アドロスの狼」の大将なのだが。
今までも隊長クラスは出しておいたが、この期に及んで出し惜しみは無しだ。
えーと、アドロスの狼は壬生の狼の異世界版だから。
間違ってもスーパーカーとかで公道バトルをしたりする連中ではない。
それをやらせたって十分過ぎるほど務まる連中なのだが、主たる俺があの手の連中の事が大っ嫌いなんでなあ。
斉藤や山崎も集まってきた。
こいつらも新撰組から名前を取ったんだよな。
秋山ちゃんの名前だけは昔の日本海軍の軍人からだ。
拷問好きなのは、こいつのオリジナリティだけど。
「お、土方に沖田も来たか。
この娘、うちのカミサンになったから宜しくな。
ついては、お前らに元王族である彼女の近衛兵団であるシルベスター騎兵団を編成してもらいたい。
兵員は後で寄越すから。
魔王軍と同様に百万体で構成する。
三日後に観覧式をやるから、自衛隊式に派手にやらかそう」
ちなみに沖田ちゃんも女の子スタイルで、副長の土方をおちょくるのが趣味だ。
なんというか、そういうロールプレーね!
「かしこまりました。
それでは、姫様。
宜しく御願いいたします」
「あ、うん。宜しくね」
新撰組がなんなのかよくわかっていないうちの御姫様は、ちょっとダンダラ模様の侍集団に馴染めていないようだ。
本来なら新撰組は粗暴な人切り集団なんかではなく、捕縛を目的とした警察行動がメインだったはずなのだが。
うちも特に殺傷を目的としていないしな。
御嫁さんとは、今度一緒に新選組物のアニメやコミックでも鑑賞するとしようか。
あれならば日本のネットに溢れかえっている。
とりあえず、刀を腰に差したダンダラ模様の袴集団は、すうっと消えていった。
騎兵団の手配は整えたので、後の公務は新婚旅行だな。
えーと、そっちの方が落ち着かん。
外を見ると、王太子殿下は早速海パンで赤ビキニの君と楽しそうに戯れている。
うん、今が一番楽しい時だよな。
この方って御預けが本当に長かったしなあ。
ドラン達はビーチチェアに座ってのんびりしているので、ゴーレムさん達が優雅に御世話をしている。
「私も外で遊びたいです!」
御姫様のたっての御要望なので、外へ出かける事にした。
シルは銀髪と御揃いっぽい感じの光沢感のある真っ白なワンピースの水着に軽く上着を羽織っている。
白は透けやすいので、透け防止のエンチャントを施してある物だ。
俺はハワイあたりでよく見かけそうな、派手な花柄のトランクスの水着だ。
とりあえずは砂浜遊びから。
「砂の御城作りとドランを埋めるのと、どっちがいい?」
「どうしよう。どっちも捨てがたいな」
とりあえず、うちの御姫様的には両方だというので、まず奴の方から。
「おーい、ドラン。
ちょっとこっちへ来いよ~」
何か面倒くさそうに、倒すとサンベッド風になるビーチチェアーから起き上がる舎弟。
「なんだ?
せっかく人が優雅な時間を過ごしていたのだが」
その優雅な時間を作ってくれているのは、あの働き者のリヒター伯なのだがな。
「何、こっちで一緒に稀人式の遊びをしようぜー」
「へえ。どんな遊びなのだ?」
俺はニヤリっと笑うと、無警戒で迂闊に近寄ってきた奴にタックルをかまして軽く押し倒した。
「うわっぷ、こら何をする」
「それ! シル、今だ」
俺達はせっせと砂を奴の上に積上げて、奴を埋めていった。
シルは妙に楽しそうだ。
最近は物騒な事件が続いていて、こんな御遊びはさせてもらえなかったのだろう。
まあ、うちの行事はあれこれとやっていたけどね。
フランチェスカさんも面白がって参加した。
「なんていうか、こういう遊びなのは理解したが、これの何が楽しいんだ?」
「何がって、お前。
帝都の執務室で書類とにらめっこしていたら出来ない遊びだと思うのだが」
奴もしばし間を置いて考えていたが、どうやら腑に落ちたようだ。
「まあ、それには違いないな」
奴もゆっくりと埋まる事にしたようだ。
フランチェスカさんはドランを枕にべたーっと寝そべっていた。
「なあ、リリー。
今幸せか?」
「うん。貴方がいるから」
新婚っていうのは、普通ああいうもんだよな。
王太子殿下ときた日には、ナターシャ妃とラブラブストローで一杯のジュースを飲んでいらっしゃる。
先代に続いて、いずれはバカップルな国王夫妻が誕生しそうだな。
「なあ、シルは俺と一緒になってよかったのか?」
「え? ああ、うん。
いいよ。
なんで?」
「いや、あの連中を見ているとね」
シルはちょっと噴いて、悪戯っぽい表情を向けた。
「じゃあ、ラブラブします?」
そう言いながら目が笑っているが、口調は真剣なものだった。
「私は王女でしたから、普通の国ならば意に染まぬ相手のところ、遠い異国へと嫁に出されても仕方が無いのです。
本人の意思など、どこにもありません。
どこかの老いた王様の第七夫人とかでもね。
今回もそういう話が出ていたのは知っているでしょ。
だから、あの時婚約を受けてくれて凄く嬉しかったわ。
それに大好きな人達ともずっと一緒にいられるしね」
そう言いながら、シルは兄である王太子を見つめていた。
「ミレーヌ姉様の時もそうだったけど、みんな家族の幸せのために一生懸命で。
こんないい国もそうそう無いわ。
私、この国に残りたかったのよ。
それに園長先生は優しくて思いっきり子煩悩だからね。
知っている?
女の子は十歳になる前から、将来生まれてくる自分の子供の事を考えているの。
だから、結婚するなら自分の両親くらい子供の事を考えてくれる人が良かったわ。
貴族王族ではね、これが結構難しかったりするのよ。
アルさんはねえ、ご・う・か・く」
そういや女の子っていうのはそういうものだったな。
知識として知っちゃあいたんだが。
俺も少し嬉しくなって彼女の髪を撫でた。
俺だって、こんな可愛い子が嫁さんで悪い事なんてないさ。
なんてったって性格がいい。
それが一番だ。
そうこうするうちに、巨大な見上げるような砂のモンサンミッシェルが完成した。
日本だったら、こういう物が砂浜で発見されれば確実にネットで三文ニュースになるような建築物だ。
こいつは魔法も駆使した会心の出来で、俺としては大満足だ。
人柱には一国の皇帝を埋めておいたしな。
一応、日本のネットにも映像を投下しておいた。
うちの掲示板の連中は大爆笑していたがね。
主に人柱皇帝のラブラブ具合に。
「おーい、そろそろ陽が落ちるんだが、砂から出してくれないか?
このままだと海に流されてしまいそうだ」
少し焦った声を出しながら、ドランが足元でもぞもぞしていた。
とりあえず、みんなで皇帝の発掘作業にとりかかった。




