56-6 ブーメラン結婚式
「まさか、お前と一緒に結婚式を挙げる事になろうとはなあ」
愛しの『幼馴染の君』と無事結婚出来そうなので、やたらと落ち着いているドラン。
「それは、こっちの台詞だ」
「こういうのって、お前の国ではブーメランと言うんだったか?」
うーん。
「あははは、あはははは」
何故か真理に受けまくっている。
「なんだよ、真理。
いきなり、そんな馬鹿笑いをして」
「いや、だって。
掲示板でも受けているわよ~」
うわ。
みんな、見てたんかい。
「はい。しっかり中継しておきましたです。
もうバッチリ」
あ、葵ちゃん……。
416:アボリジーニな名無し
あっはっは。
園長先生ブーメラン~
417:迷えるガーディアンな名無し
事案発生~。
発生だけど、だけど、うーん。
そっちの世界じゃ合法で当たり前の事例な上に、
御両親から責任を取れと言われているわけだから。
これ、最高裁でも扱いに困るんじゃないかしら。
418:人生の墓場にいきなり放り込まれた魔王
おい、そこの婦警。
人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ。
誰も手なんか出しちゃおらんわ~。
自分の生徒なんだしー。
419:他人事な名無し
でも、御世継ぎは早く作れって言われるわよ。
事案確定な案件ね。
ギルティ~。
420:乾杯はまだかな名無し
ここまでに、誰もおめでとうを言っていない件について。
くそ~、みんなして好き放題に言いおって。
しかし、そんな事に構っている場合なんかじゃないのだ。
いかん、帝国に対する布告を忘れていた。
俺はゴーレム部隊に命じて、帝都中で派手に色付き花火を打ち上げまくった。
そして俺の演説映像を全域に展開する。
「あー、親愛なる帝国臣民の皆さん、どうも。
毎度御馴染み、アルバトロスの魔王アルフォンスです。
かのアルバトロス・ベルンシュタイン戦役における戦時賠償の一つを取立てます。
そういう訳なので皇帝ドランの結婚相手は、この魔王たる俺が指名した。
嫌だというなら、もう一回帝国中の全兵士を裸に剥いて荒野へ転がすので、そのつもりで」
これで全兵士が震え上がっちまうから、ドランを降ろそうなんて馬鹿はいなくなるだろう。
リヒターの溜め息が聞こえてきそうだが。
あいつはいずれ宰相行きだな。
宰相は国で一番苦労するポジションだから、嫌がって貴族がやらない事も多いと聞く。
首席宰相たる日本の総理大臣を想像してみればいい。
あれはマスコミや野党から叩かれるためだけにいるサンドバッグのような役職なのだ。
総理大臣なんかになりたい奴の気が知れんわ。
実にリヒター向きの仕事だ。
好き好んで苦労を、わざわざしょいこみたがる物好きも世の中にはいるものだ。
「なお、本日ただ今より皇帝ドランと愛姫フランチェスカ嬢の結婚式を執り行なう。
ザイードの姫とアルバトロスの王太子、魔王の舎弟とその幼馴染、そしてアルバトロスの姫と魔王本人の結婚式だ。
これは関係国の、同盟の契りを表すものだから反対は許されない。
以上だ」
俺は半ばヤケクソ気味に帝国全土へ向かって宣言を出した。
出来れば、この俺は抜きにしてほしかったぜ。
スマホがメールの着信音を鳴らした。
おっと、マナーモードにしておくのを忘れていた。
式の最中だったらヤバかったぜ。
見たら、日本の真理さんからのメールだ。
魔法PCのネット回線からの転送なのだ。
「園長先生おめでとう~。
まさか園長先生が、うちの遠い親戚になるなんてねー」
そういや、そういう事になるのか。
普通なら確実に付き合いなんて一切無くなるレベルの遠さだな。
千年先の親戚か。
とりあえず「ありがとう。よろしくな」と返信しておいた。
そして式は無情にも開始された。
幸せ一杯のカップルが二つ。
どうしてこうなったのかと笑いを噛み殺す花嫁と、どういう顔をしたらいいのかわからない花婿のカップルが一つ。
シルのドレスの裾はレミが持ってくれた。
エディが上手に采配してくれているので、なんとか様になっている。
うん、ベールガールのドレスが似合っていて、とっても可愛いぞレミ。
まさか、こんな事になるなんてな。
この子と初めて会った時には睨まれながら猫パンチを食らってしまい、思わず四つん這いになって蹲ってしまった。
そんなあの日には、こんな事になるなんて想像もつかなかった。
帝国はベルンの大神官、アルバトロスはアルバの大神官が、そしてザイードは長老が祝福を与えるらしくて、それぞれが祝いの言葉を述べ、代表として地元アルバ大神官のジェシカが式を執り行なった。
神殿で御馴染みの精霊達が乱舞して、俺も御祝儀の魔力はやりっぱなしなので、王都アルバの上空は世界中からやってきて顕現した精霊に埋め尽くされた。
それから俺達は国王一家と共に移動して、王宮前面にある入宮受付ホールの屋上にある観覧席へと立った。
山本夫妻はこういう時も王家と共にある事が許されている。
王国貴族の人達も、彼らが上級貴族相当の地位であるという認識を持っているようだ。
かつては巨大な空中庭園の発着場にも使われたという、広大な王宮前広場に並んだ兵士達へ顔見せしていたが、そこには別の者達が押し寄せていた。
直径四キロメートルにも及ぶ王宮ゾーンを、子供の姿で現れた精霊達が埋め尽くし、山本さんが観覧席より無数の種類がある祝い菓子をこれでもかと出しまくっていた。
ええい、御祝いの餅撒きですか!
山本さんの能力で直接広場中にぶち撒いているので、まるで放水の如くに菓子の波が踊っていて、凄まじい光景だ。
無限菓子撒き!
そして御菓子を目当てに上空から舞い降りてくる精霊達が、山本さんに加護を付けまくりだった。
あー、この馬鹿者どもが~。
調子こいて、葵ちゃんの御腹の中にいる子供にまで、どさくさに紛れて加護を付けまくっていやがる。
それ、ただの赤ん坊じゃないんだからな~。
どうやら奴らにもそれがバレちまったらしい。
なんていう事だ。
これはレオンの比では済まないのではないか?
俺はちょっと青ざめていたが、俺の肩をポンポンと叩く奴がいた。
うちの御嫁さんだった。
彼女も稀人子孫である上、うちの精霊どもの加護も直接持っているので、そういう事もわかるのだ。
彼女は頭を振り、俺の肩に手をかけたまま、にっこりと達観したような笑顔を見せた。
ああ、魔王の嫁になるだけの根性は最初から持っているんだな、こいつ。
なるようになったというのか。
やがて披露宴会場で御披露目となったが、今回は規模が大きいので大型舞踏会場が使用された。
宰相の話だと、ここで時折、王妃様主催の武闘会も催されるようだ。
俺はそういうイベントには絶対に出ないからな。
剣の腕は相変わらずへっぽこなのだ。
まだ素手で力任せの方がいいくらいだ。
相手の持っている鈍らなんぞ、指二本でへし折ってくれるわ。
これでも剣道初段なんだけど。
その分、本来打撃的な武器である西洋剣は基本的に性に合わない。
引き切り、そのまま抜けるような型と体裁きが身についているのだ。
だから、すぐに鍛造オリハルコン刀を作ったんだ。
この世界だと、剣道の面・篭手・胴じゃなくて、首・胴・袈裟切り・突きといったあたりだけど。
あとは鎧の無い手足や、鎧の関節狙いか。
腕一本切ったって大出血で相手を殺せるし、敵が真面に武器を持てなくなるから勝利確定だろう。
そうなれば魔法使いだって真面に魔法を唱えられまい。
勝てば官軍の、実戦の世界だ。
審判は神。
副審は天使様と死神あたりか?
生き残ったら勝利の命懸けのルールだ。
「一本それまで」なんていう温いルールはない。
一本食らったら、後はそのまま止めを差されるだけだ。
吹き抜けで、王宮の通常高さ制限三十メートルを目一杯に使った大型のホールが会場だ。
専用の大型厨房や多くの広い控え室を持ち、幾多の政治や時には陰謀の舞台にもなったであろう。
この王宮の中でも、かなりのスペースを食っている。
俺達の分のケーキは、俺が魔道鎧を着込んで綺麗に細かく切り裂いた。
それをシルが御皿に取り分けてくれる。
それはもちろん、チビ達の御気に入りの皿だ。
それらも、今日はドレスを着込んだゴーレム部隊の手によって別室の子供達の元へと運ばれるのだ。
さすが、よくわかっている。
うちの御嫁さんになるっていうのは、こういう事なのだ。
この子でないと務まらないのかもしれないな。
今日は葵ちゃんがやけに張り切っていた。
う、これは嫌な予感がするな。
「さて、じゃあ恒例のチュウの御時間です。
本日は豪華メンバーで三組合同ですよ~」
やっぱりかよ。
俺はこういう事を人にやらせるのは大好きなんだが、自分がやるのは好きじゃないんだがな。
俺は仏頂面をしていたが、シルが袖を引いて催促した。
見ると、他の連中は躊躇いなく実行している。
もうしょうがないので、キス顔を上向けたシルと公開処刑の場に臨んだ。
初キッスがこれか。
まあ、それ自体は別に嫌じゃなかったのは認めよう。
ふと気が付くと、ゲートの向こうでファルを頭に乗っけたレインが、柔らかい笑みを浮かべて微笑んで見ていた。
武の結婚式の時を思い出しているのかもしれない。
そしてレインが言った。
「今日の良き日が、この先も続く事を願って」
今日はザイードやベルンシュタインなど各地にゲートを繋ぎ、映像と共に祝福の歌を聞かせられるようにしてある。
シドにも頼まれたので、ハイドにも同様に展開した。
ネットにも前から宣伝してある。
初めて、これを聴く人も多いだろう。
神聖エリオンの祝福「フィーア・ルゥアー・オースリー」を。
いつになく長く大きく、そして透明感を以って、聖なる歌声がこの世界の、そしてネットの向こうの視聴者の元へと届けられた。
新たな関係を祝福するかのように、それは厳かに、そして魂を蕩かせるかの如く、たなびくように響いていった。




