55-5 御禁制の品
「それで、あれから敵さんに何か動きはあったかい?」
俺は、街道の監視を任せてあったゴーレムの斉藤三尉を転移魔法で呼び出して尋ねた。
「はっ、あれから兵も数を大幅に増やしておりまして、出発の日も間近いかと。
マリノ国境にかなりの数が到着しております。
先遣部隊は、おそらくは明日進軍開始ではないかと。
現在積極派五か国の兵力は合計二十五万人ほど。
現在既に前線部隊十万人が国境にて待機中です。
その他の軍勢はまだ追加で行軍中です。
対してケモミミハイム側の兵はせいぜい数万人、おそらくは五万には届かない数ではないかと。
どういたしますか?」
御姉さん、もう目がキラキラしているよ。
なんか荒事を期待しちゃっていないか?
この子はちょっと変わり者だ。
他の兵士役のゴーレムの子達は、女性型でも兵士らしく髪は短めにしていたり纏めたりしているのだが、この子はドバっとそのまま伸ばしている。
しかも御洒落っぽくカールさせた感じで、色々と気を使っているようだ。
ゴーレムにも個性がある。
髪型とか、顔の造作とかは自分でカスタマイズしているのだ。
体形なども変えられるので、それぞれ好みの格好をしている。
非番の時は御洒落着を着ているし。
また美味しい物なんかも結構好きなようだ。
飯など食わなくても大丈夫な仕様なのだが、何故か皆エリーンのように食う事に物凄く情熱がある。
俺が量産で作った魔核であるにも関わらず、個々の魂のようなものがあるのが確認されている。
真理の魔核を解析して、宝物殿にあった武が作った魔導具などの情報から作り上げたゴーレム魔核。
当初は真理から教わったゴーレム生成魔法で作った、ただの土くれのような物に過ぎなかった。
そこへ真理の魔核を解析して、魔物魔核などを原料に作ったゴーレム魔核を組み込んでいき、それを随時改良していったものなのだ。
俺が一から作ったものじゃなくて、ブラックボックス的なものがあるのだ。
そもそも武の魔法と俺が作る魔法は、やや性質が異なる。
武の場合、魔法をまるで方程式か何かのように組んでいく、まるで精密な時計の歯車のように組み込んで複雑な動きをさせていく。
真理などは、その極地だ。
恐らくは兆の単位に達するような凄まじい数の魔法を組み上げ、物質のように構成し動かしている。
まさに魔法の細胞で出来ているといった感じの代物なのだ。
魔導ホムンクルスは、魔法で行なう錬金術のようなもので、まさに魔法による芸術そのものだ。
彼女のメンテナンスは、その精緻な芸術品のような構造を一から作った船橋武本人にしか行なえないだろう。
それを制御している魔核は、とんでもない代物だ。
簡単に作る事が出来ないというか、とんでもない魔法技術が必要だ。
船橋武はいかにも化学者らしく、まるで魔法を化学反応させたかの如く複雑な技術を開発した。
そして、それは心、あるいは魂というような物をホムンクルスに与えた。
製作者の心を映したかの如くに。
俺の魔法はイメージがメインだ。
魔法の発動をイメージで読み取り、それをコピーする。
そしてイメージで新たな魔法を作り上げ、それをスキルのような形にしていく。
それ自体も見取りの能力同様に「セブンスセンス」の力を借りて、あの霧の中で神の時間の間に構築された魔法PCがなければ不可能だった。
現在この世界にある多くの魔法は船橋武が組み上げたものだ。
効率よく魔力を使い、効果的に発動するように作られている。
旧来の魔法は及ぶべくもないので、旧魔法は皆廃れてしまったらしい。
俺の場合、地球にいた頃から超感覚知覚が発達しており、感じたりイメージしたりする力が非常に強いので、そうやって魔法を覚えたり作ったりしてしまえている。
ある意味で武以来の新しい魔法が誕生しているとも言える。
いわゆる感覚派っていう奴だな。
まるで絵画の世界のような流派だ。
最近、学園の仕事を始めてから、そういう事も勉強している。
生徒達にも、そういう観点で教えていければなと思っているのだ。
上級魔物から取り出した魔核を綺麗に整え、解析した魔核の超複雑な制御式、いや魔法そのもの、なんというか魔法回路とでもいうような物を焼き付けていくのだが、俺には本来そんな物を作る能力は無いので、イメージで捉えたものをアイテムボックスの中で魔核と合成して強引に作ったものだ。
いわゆる真理の魔核の劣化コピーでしかない物なのだが、それでも魂は宿った。
最新型は魔核の素材を魔法金属で生成したりもしている。
その他ハイブリッド素材にしてみたりとか、あれこれと変態的な魔改造進化を遂げている。
斉藤ちゃんは、なかなか物騒な魂をお持ちのようだ。
さすがは、あの新撰組の隊長である斎藤一から名を取っただけの事はある。
殺る気満々といった感じなのだが、今回殺しは無しの予定なんだからな。
頼むよ?
俺は大張り切りの三尉ちゃんの事を、やや不安げに見ていたのだが、その時マウテニアの山の中に置いてきた秋山三尉から電話が入った。
俺の着メロはファルの祝福の歌だ。
「連中から聞き出しました。
連中は本体の後ろを突くのではなく、破壊工作というかテロを行い混乱させる予定だったようです。
こいつらは魔法が使えませんが、その作業をするための魔法のスクロールを大量に所持していたとの事で。
こいつらは、どういたしましょうか」
それを聞いた俺は大慌てで奴らから没収した荷物を確認したが、ごっそりと持っていた。
その中には時限爆弾みたいな代物もあった。
この世界には、こんな物騒な物もあったのか。
知らなかった。
ケモミミ園のセキュリティの見直しが必要かもしれない。
帝国Sランクのリックがこれを使っていたらと思うとゾッとする。
これに関しては、ちょっとエドに相談しようかな。
「とりあえず、今回荒事は無しの予定だ。
そいつらは、そのまま捕獲して捕虜にしておいてくれ。
他にうろついているテロ部隊はいないか?
よく確認してくれ」
秋山三尉は可愛い顔をしているが、実は拷問の名手だ。
まあ、それを許可している俺も俺だけど。
この世界にロボット三原則のようなものは作っていない。
そんな安全装置のような物があったら、ゴーレムを兵士にはできない。
そのあたりは、全て武が作った魔核の性能に任せてある。
それは彼が愛した妹を模した真理がモデルなのだ。
だからゴーレムも戦う時には果敢に戦うが、殺人マシンのようになったりする事は絶対ない。
マシンどころか実に人間臭い連中だ。
その上、人間の兵士みたいに厄介な心の病気にかかったりはしないから頼りになる。
「で、マスター。
うちは、うちは~?」
斉藤ちゃんは本当に楽しそうだな。
「まあ、例の奴を使うよ。
俺も指揮を執る」
「そうですかー、そいつは出番が無くて残念。
でもアレも面白そうだな~。
あ、船も出るようです。
兵站の関係と、後は大量にいる兵員の輸送をするかもです」
かなり残念そうだが、斉藤ちゃんは作戦を楽しみにする事にしたようだ。
敵兵を山狩り中の秋山君には増援を送っておこう。
何かあってはいかん。
主に敵の方に。
あの子は斎藤ちゃんよりも遥かに物騒なタイプなので。
俺はケモミミ園の警備室へ行って、エドに例のスクロールを見せた。
「敵がこんな物を持っていたんだが、これって普通にあるものなのか」
エドはしげしげと見ながら感心したように言った。
「これはまた古い物ですね。
今では、こんな物を誰も使っていません。
使うとしたら、魔力は凄くあるが魔法が使えないという魔法音痴の奴くらいでしょうか。
そもそも、そんな人自体が上級魔法使いよりも珍しいですし。
それにこういう物は凄い骨董品なのです。
これは大昔の旧型魔法で効率が悪いんです。
羊皮紙に魔法式を刻んで描かれた魔法陣に魔力を込めるわけですが、今の方式よりも十倍から二十倍は魔力を食うので、効率が悪いです。
コストも凄く高いから、魔法を使えない人からも殆ど見向きもされない代物なのです。
普通の魔法の使い手にとっても、通常の魔法で魔力消費も少なくて同じ事が出来ますから必要ないです。
それにスクロール自体も、通常は現代魔法に書き換えて使うはずです。
それも凄く手間がかかりますから、まず使われませんが。
よくこんな物がありましたね」
そうか、時限爆弾のような物とかだから超ヤバイのかと思ったが。
でも本当に使われたりしたら厄介だな。
「これって無効化できないの?」
「できますよ。
仕掛けてあっても、シーフならあっさり見つけます。
その程度の物なので誰も使わないというか、それにこれはどこの国でも違法な代物ですから、無断で持っているのがばれたら死罪確定ですね」
なかなか物騒な扱いの物じゃん。
それで見つかった時に、あいつらもあんなに慌てていやがったのか。
昨日遅い時間に書いたので、もう1回載せます。
7月10日発売予定書籍の、カバーイラストが公開されました。
あと、スペシャルサンクスキャンペ-ンというものが始まりました。詳しくは下記URLの活動報告記事をご参照ください。
http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1729830/




