50-7 大物発掘
「よーいせ。そこ任せたぞ」
「アイサー」
「おお、お前ら、そっちの部分のところをかかってくれ」
ドワーフ達は化石採掘に関しては経験があるせいか、大物発掘でもテキパキと作業が進んでいる。
上手に表層を取り除けて、さらさらと化石を露出させていく。
そして下にある母岩を屈強なドワーフの集団が、熱心にコンコンとハンマーとタガネでくりぬいていく。
また豪いスピードで作業しているのだが、あれでも本体を傷つける事は一切ないようだ。
宝物を掘り起こすように慎重に作業する地球の発掘現場じゃあ有り得ないような光景だった。
連中も一種の魔法を使っているのだ。
俺は、さっそくそれを見取って手に入れた。
なんていうか、超細かく使えるような発掘魔法?
おそらく鉱石の採掘関連の魔法なのだろう。
いつか子供達にこれを持たせてやれるといいな。
鉱業方面へ行く子なら役に立つかもしれない。
今のまだ小さいうちに渡すと危ないかもしれないので、今日のところは自重した。
超小型の発破みたいに使えたりしそうだし。
結構それを見学に来ていた子達もいて、大物化石の発掘現場は賑わった。
ブラウンゴブリンも見学していて感心する事頻り。
彼らは彼らで、これよりは小さめの中型サイズにトライしているようだ。
今日中に片付かない見込みなら、ドワーフの応援を出そう。
御昼時までには、くっきりと大物化石の概要が浮かぶようになってきており、なかなか壮観な眺めであった。
地球にもネットで中継してやっていたが、平日にもかかわらず見ている人が結構いるようだ。
結構化石マニアみたいな人達がいるもんだ。
素人でも化石を発掘させてくれるような場所が有ったような無かったような。
あれは宝石の原石拾いだっけかな。
海岸に流れ着く鯨の結石である龍涎香なんかも一般人が散歩の途中で拾うらしいが、有名な化石って結構素人が河原なんかで見つけたりするんだよね。
学者さんも毎日化石の出そうな各地の河原の散歩なんかをしていないだろうからな。
さすがに無理だわ。
もっぱら鑑定なんかが御仕事になっちまうかな。
そこまでやる間にも、その周りにあった他の化石もドワーフによって採掘された。
彼らドワーフの工芸品にも組み込みたい意向のようで、それらを丁寧に処理している。
それらもネットに投下させてもらった。
いつかこの種の化石も地球への土産に持ち帰りたい。
上野の国立博物館にでも寄贈するかな。
あるいは地元名古屋にある白川公園の科学館でもいいか。
一応、一通りの標本は作ってもらってあるので、それらは野外学習の成果として小学校の理科展示室に飾ろうと思っている。
ドワーフ掘りと、子供達が自分で掘った物とは分けて展示されるのだ。
ちゃんと自分の名前が書かれた採集品が学校に展示されるので、みんな張り切っていた。
おそらく、この世界で初めて採掘される物も相当混じっている事だろう。
こんな化石掘りをするのはドワーフくらいのものだし。
子供達は休憩して、おやつを食べながら、そこまでの成果を見せっこしたりして楽しく過ごした。
大元の発掘場所の情報提供者である好奇心旺盛な精霊のベイリーは、あっちこっちを飛び回って、その旺盛な好奇心を心ゆくまで満たしていた。
おチビ猫は、遠足に限ってはカップケーキをおやつに回す所存らしい。
俺も付き合って、今日のおやつはそれにした。
こんな贅沢は王国初期には出来なかったんだろうな。
俺もまるで3D原子プリンターのような凄いアイテムボックスの能力がなかったら、ここまではやれなかったろう。
午前中には大物もかなり掘り出されており、なんとか撤収前には手に入りそうだ。
そしてフィナーレにサプライズも用意してある。
子供達はみんな、自分の御気に入りの化石をゲットするのに夢中だった。
小さくてもいいので、たくさん欲しい子。
一日がかりで、大物を取り出そうとしている子。
じっくり見定めてから、これというものに取り掛かる子。
皆それぞれの考えで取り組んでいる。
中には凄くマニアックな子もいて、こんな注文をしてきた。
「えんちょうせんせいのいっていた『かたちのないかせき』がほしいの」
そう、大昔の生き物の足跡とか、あるいは葉っぱなどが消えてなくなってしまい、その痕跡だけが残っている物とかだ。
しっかりと探査して探し出してやり、状態がどうなっているのかを詳しく説明してから、俺も一緒について壊さないように掘り出させた。
何かうっとりとして、掘り出したそれを眺めている様子が微笑ましい。
ファルなんかは、なんと『藻』の化石を入手していた。
そういう物ってシダみたいな植物あたりと一緒で化石燃料になってたりしそうだけど、これはしっかりと燃料ではない化石になっていた。
「おいちゃん。
この子達はね、大昔に多くの酸素を作ってくれていた子なの。
でも大量の酸素は生物にとって毒でもあったから、酸素濃度の上昇は当時を生きていた多くの生き物には厳しかった面もあるけど、その御蔭で今のこの世界があるのだから。
よしよし」
生憎な事に、さすがに化石はファルの必殺よしよしで喜ばなかったが、天下のレインボーファルスに対しての俺の教育の成果は出ているようだ。
御昼の御弁当は、屋根のある食べるところを用意しておいたのだが、現場で食べたがる子も多かった。
結構ここは日差しも強いので、帽子は被っておくように言ってある。
今日はみんなボーイスカウトのような格好をさせていた。
みんな御飯に夢中になっているので、水分の補給は呼びかけまくっておいた。
一応、腕輪にはメディカルチェッカーが仕込んであるので、そう滅多な事は無いと思うのだが、子供達が興奮しまくっているので、たまに数値が限界レベルに達して警告が鳴る事がある。
大概は真理が見てくれているが、俺もカメラポッドで必ずチェックするようにする。
メディカルゴーレムもいるので、そいつらを巡回させている。
最近は野外弁当もオニギリ派が増えた。
野外で汗を流した後に、塩の利いたオニギリは堪えられない美味さだ。
最近、海苔の香りもこの世界で徐々に受け入れられてきている。
締めに海苔茶漬けというのが、今貴族の間でも流行りつつあるのだ。
それはアルバトロス・サイラスはもとより、稀人文化を急速に受け入れつつあるハイド、あとドワーフのエルドア王国はもちろんのこと、ベルンシュタイン帝国の皇帝ドランも御気に入りのようだ。
遅くまで執務に追われると、小腹の空いた時とかに最高らしい。
奴のところには、俺の作り出した各種茶漬けが常時ストックされている。
自家製オニギリに夢中なおチビ。
そして、でかいおむすびに食らい付くファル。
最近、こいつの食欲が凄い。
本格的な成長期に入ったのだろうか。
俺はチラっと隣のレインを見やる。
各世代で個体差はあると思うのだが、最終的なサイズはあの近辺なんだろうからなあ。
一応、オニギリの交換イベントなどしてみたのだが、真面に出来ているのはファルの奴くらいだ。
ファルは最近、腹が減ると夜中にむっくりと起き上がって、自分で勝手にいろいろな物を作って食べている。
面白いので、カメラポッドで映像を撮ってみた。
焼きソバ、ラーメン、お好み焼き。
気が向くとホットケーキなんかも作っている。
フランクフルトを焼いたり、タコヤキを焼いたりしていた時もあったな。
精霊達の守り神、地上における神の代行者である神聖エリオン様は、主に粉物がっつり系だった!
インスタントではない本格ラーメンを茹でているので、普段は決して見せない真剣な表情で手に笊を持ち、麺を掬い上げるタイミングを持つその姿は実に神々しい?
真夜中に、豪快にラーメンを啜り上げるその姿はまさに豪傑。
午後からはみんな、やっぱり御昼寝だった。
あらかたの子は既に御目当ての化石をゲットしてしまっているので、後はおやつをかっ込んで帰るだけのモードなのだが、まだ目処が立っていない子もいて早めに起きてきた。
「がんばるぞー」
そう気合を入れていたのは、狼獣人の五歳になる男の子だった。
その子は慎重に、しかし素早くタガネとハンマーを振るっていたのだが、何かが、そう何かがほんの少し狂った瞬間にそれは起こった。
何か固い物に皹が入るような、壊れるような小さな音がした。
なんと、その大きめの化石が真っ二つになってしまったのだ。
「ああっ!」
彼はショックのあまり、涙目で四つんばいにへたりこんでしまった。
もう時間的に、これと同等サイズを取り出すのは厳しい。
人生に挫折は付き物。
とはいえ、さすがにあんまりなので助け舟を出した。
「泣かないで。
とりあえず、割れたそいつを全部、母岩ごと取り出してごらん」
頭を撫でながら宥めてやる。
他のみんなが起きてきて集まってきた。
「あれ、ライリー。かせき、われちゃったの?」
「うん、でもえんちょうせんせいは、つづけなさいって」
ライリーは涙を拭いて、残りを一生懸命に取り出した。
丁度おやつの時間が来たので、とりあえず再生をかけて渡してやった。
死んでしまったものに再生をかけても、元の化石状態に戻るだけだ。
そのあたりは、俺が色々と加減も出来るのだが。
「ありがとー」
ライリーは嬉しそうに化石を掲げると、大事そうに新聞紙で化石を包んでリュックに仕舞った。




