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50-5 キャンプな夜

 子供達が起きて、また精霊達と遊んでいるので俺は宿舎作りに入った。

 まず前から目を付けておいた開けた場所を精霊に頼んで整地してもらった。


 精霊なら後でそのまま元に戻せるのだ。

 精霊の森は特殊な場所なので、なるべく荒らしたくない。

 滞在する場所にはトイレなんかもちゃんと設置してある。


 俺は知らなかったが、騎士達もあのグスタフと同じように戦場では垂れ流しが基本だ。

 軍の方はそれとは事情が異なるようだが。

 地球でもヨーロッパの重装騎士とかはそうだったらしい。

 地球には浄化魔法はなかったので後始末は従者の仕事だ。


 ローマ軍のスタイルなんかだと、その辺は大丈夫そう。

 あれは防御がかなり弱そうだけど。


 武士はどうだったのだろうか。

 下着が褌だったから着脱し辛かっただろうしな。

 誉れ高く、戦場で雄々しかった日本の武士こそパンツを発明するべきだった。

 日本にだってズボンのように履く衣装はあったのだから、やってやれない事はなかった筈だ。


 日本の俺の家のある地方の殿様は、若き日に戦場でビビって脱糞した武勇伝が非常に勇名を馳せている。

 だが最終的に天下を取ったのは、その人なんだよな。

 人間、先の事は本当にわからない。



 今回みたいな旅には騎士団も普通に革の服で来ている。

 防御魔法なんかは持っている奴も多いし、そもそもこの俺が引率なのだからよっぽどの事はない。

 そもそも行先が主に神聖エリオンたる御方の居城なのだから、世界中から集まった強面な精霊共も詰めているのだ。


 この俺は多分、地球も含めて世界で最も荒事を経験してきた幼稚園の園長先生なのではないだろうか。

 一人で大戦争までしちまったしなあ。

 伊達に魔王園長などと呼ばれてはいない。

 そういや昔、凄いアクションスターの人で幼稚園の先生をやる映画に出て荒事をしていた方がいらっしゃったような。



 精霊の村に、あっというまにコテージ村が出来上がった。

 そして、ついに!

 ついに!


 なんと『テント』を使う日がやってきた。

 日本からキャンプのために持ち込んでおきながら、この世界で只の一度も使う事がなかったという、このテント。

 鮮やかな色合いは、色違いをたくさん作っておいたので、もう華やかな事この上ない。


 子供達を呼んで、みんなで楽しみながら組み立てる。

 最初に見本を一つ立てて、それからトンカントンカンとハンマーの音が精霊の住処を騒がせた。


 テントは猫族達に大好評だった。

 広いコテージよりも落ち着くらしい。

 精霊達も面白がって出たり入ったりして遊んでいる。


 昔、バイク旅行の時に使った物が一人用でかなり狭かったので、車で行くキャンプ用にファミリーサイズを買ってきたのだ。

 こいつは子供達なら相当ゆったりできる。


 騎士団は交替してコテージで休むようだ。

 夜勤の奴がもう既に寝ている。


 おっさんは、おチビ猫やファルと一緒にテント暮らしだ。

 猫族には段ボールハウスも御気に召すかもしれないが、あれは使わせたくないな。

 あれはホームレス向け物件なので、元ストリートチルドレンの子供達には絶対に使わせたくない。

 そいつは、おっさんの密かな楽しみにしよう。


 俺はダンボールの暖かさをよく知る男なのだ。

 工場の床は凄く冷たくてな。

 あれがあると夜勤の休憩時間に寝転がるのに最高なのだ。


 段ボールについては、商会なんかからも結構問い合わせがある。

 まあそのうちには、あんな物くらいはこの世界でも普通に作れるようになるだろうから、別に流通させてもいいのだろうが。

 今はおっさんがいなくなると、とりあえず作れる奴がいないから継続して出せんからな。


 夕食のメニューはカレーだ。

 御飯は飯盒炊爨で。

 今は飯盒炊飯って言う人もいるのね。

 昔は飯盒炊爨という呼び方が普通だったし。


 時代は変わった!

 というか、今の子もちゃんと飯盒を使うんだ。

 昭和三十年代生まれの俺から見ても、あれは古臭い『昔の大戦の遺物』みたいに思えて仕方がなかったのだが。

 俺達昭和のおっさんの子供の頃は、小学生向けの学習施設である「山の学習センター」みたいな所で普通に使っていたがな。


 あれは未だにネットでも普通に売っている。

 自衛隊用の物が素晴らしい性能らしい。

 俺には、どれもこれも同じに見えるのだが。

 故郷納税の返礼で、そういう商品があったような。


 今は良いキャンプ用クッカーがたくさんあるのだが、今の子からしたら飯盒が却って新鮮に映るのかね。


 飯盒で蒸らす時にひっくり返したりするが、あれはやらなくていいはずなのに、なんでやるのか。

 俺は絶対にやらない。

 羽釜炊飯や竈飯だって蒸らす時にひっくり返したりはせんのだから。

 あと炊飯器なんかでも。


 みんなが御代わりするからカレーも多めに作った。

 騎士団連中も楽しそうにカレーを作っていた。

 そういや日本のカレーは、最初は軍隊で作っていたのが一般国民にも普及したんだったか。


 あと、ちゃんとキャンプファイヤーも用意してあるのだ。

 この世界なので、当然ファイヤーボールで点火する。

 今日はなんとエミリオ殿下が点火係だ。


 父王は魔法を使えない人だったが、カルロス君以外は王子様も大なり小なり魔法を使う。

 それは、あの母親のせいだと思う。

 あの人は魔法もかなりチートらしい。


 サイラスのエミルハーデ公爵家は、かなり船橋武の影響が残っているようだ。

 不思議とアルバトロス王国の王は代々魔法を使えない人がなるようだ。

 そしてまた、そういう王達は滅多な事では死んだりしないのだという。

 魔法が使えない代償として、何かの力によって守られているのか?


 だから千年経っても、まだ二十五代目なのだ。

 不思議な一族だな。

 

 可愛い殿下の、これまた可愛らしいファイヤーボールが液体点火剤をたっぷりと塗られた薪に燃え移り、キャンプファイヤーが始まった。

 風魔法で補助しているから途中で火が立ち消えになる事もない。


 一応フォークダンスなどもやってみた。

 これには騎士団の人も参加する。

 うちは女性職員が圧倒的に多いので相手には困らない。

 騎士の中には凄く浮かれている奴もいる。


 まあ堅苦しい王宮とは違って、ここならそうしていたっていいわ。

 騎士も人の子だったか。

 これでカップルが誕生したりしたら笑っちまうな。

 中学生かよ。


 ファルとレミが楽しそうに踊っている。

 そしてトーヤとエミリオ殿下がペアだ。

 殿下を女の子の格好にしたら、これでも結構いける組合せかもしれない。


 とか思っていたら、殿下がくるっとこちらを向いた。

 不穏な空気を感じ取ったのか。


 そして次に上の姉へと顔を向けた。

 王女様も似たような事を考えていたらしい。

 今日は防護壁となってくれるシェリー王女を誘っておくべきだったかな。


 獣人の子はリズムも最高だ。

 どっちかというと、おっさんの方がかなりヤバイ。

 俺の子供の頃はヒップホップダンスなんて学校で学ばなかったしな。

 さあ、レッツモンキーダンス!


 この公爵様はダンスが苦手だ。

 そうそう貴族殺しの称号持ちがダンスパーティに招かれるような事はないと思うのだが。

 誘われたら子供の世話を言い訳にしてサボろう。


 おっさんも混ざってフォークダンスで踊っておいた。

 どういう組み合わせでそうなったのか知らないが、俺が騎士団の人と踊る事になってしまった。

 まあ、楽しく踊っておいたさ。

 向こうはどうか知らんがね。


 精霊が子供の姿になって園児達と踊っている。

 あと二本足で立つユーモラスなスタイルの奴らがいる。

 何かアルマジロっぽい奴が短い足で軽くステップを踏んで、亀っぽい精霊カメラマンと踊っている。

 色とりどりの宝石をちりばめた可愛いカーバンクルの集団が、くるくると回ってダンスダンス。


 そして、そいつらに相手が変わって、どうしたらいいのかわからなくて途方にくれる若い王国騎士。

 ちょっと背の高さの釣り合いがな。

 ビジュアル的にもなんかアレだ。


 ピンク頭の桜精霊達も楽しげに踊っている。

 一緒に踊る事になった若い騎士が顔を赤らめていた。


 あいつらって、髪の色やあの性格のせいか妙にエロい感じがするんだよな。

 おーい騎士君、騙されんなよ。

 これだから若い子は。


 などと思っていたら、なんと俺がシルと踊る事になってしまった。

 これには御互い、ちょっと赤面してしまった。

 やれやれ。


「なんだかね。

 この歳でフォークダンスというのはね」


「ふふ、園長先生もなんとか踊れていますよ」


 なんかフォークダンスとかを踊っていても、王族っていうのは所作が優雅なもんだ。

 特に手の添え方とかがピタっとしていて普通の少女とはまったく違う感じがする。

 凄く上品な感じなんだよな。

 日本人の成人女性でも、その辺の人ではこうはいくまい。


 こういう所作は、汗を気合だけで止められるような一流のファッションモデルか女子プロレスラーあたりでないと無理かもしれない(独断と偏見)。

 ベテランの女性自衛官なら仕込めばいけそうか。


 何しろ普通ならば、こんな王女様は王国同士の縁組でとっくに嫁に行っていてもおかしくはないのだから。

 俺達は笑って踊りの輪から離れた。


「おかしなもんだ。

 故郷の世界から遠く離れたこの地で、王国の御姫様とフォークダンスなんてね。

 まあ、みんなが楽しそうだからいいかな」


「そうですね。

 楽しいのが一番です」


 とりあえず勢いで王女様と婚約なんてしちまったが、さてどうするかな。

 そのあたりの話も敵さんの出方次第なんだが。


 日頃は応援、大変ありがとうございます。

 この度、ツギクルブックス様より拙作が書籍化される事になりました。

 活動報告にて、ご報告させていただいております。


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