50-2 化石の園
化石。
それはロマンの塊だ。
かつてそれらは、この世界に生き生きとしたその姿を威風堂々と晒していた事だろう。
だが彼らは滅び、今は静かに眠り、そして風化の時を待っている。
栄華の時も一炊の夢であったかの如く、今はただそれを吹き散らさんとするかのように、この化石の園に風が吹き渡るだけだ。
博物館で、子供の頃は男の子も女の子も恐竜の化石などに心を躍らせる。
だが、やがてその気持ちも忘れられて、女の子は御化粧やファッション・男の子の話題に夢中になり、男の子もバイクや車・ゲームにアニメ、そして女の子の話に熱中する。
だが中にはそういう事を忘れられずに大人になってしまう人達もいるし、定年になってから童心に帰る人もいる。
あるいは自分が親になった時に子供達を連れていき、自分達も昔はそうだったなと思い起こす事もある。
ファンタジーの物語なども、そんなようなものかもしれない。
そうやって何千年もの間ファンタジーは廃れてもまた流行り、何度もファンタジーブームを作り出してきた。
石碑や粘土板に刻まれ、あるいは羊皮紙に書き付けられて。
今のスタイルとなる普通の小説などは二百年の歴史しかないという人もいるくらいだ。
ファンタジー小説は、そのジャンル自体が一種の「古典」なのだ。
生きた化石、いや小説の化石と言ってもいいのかもしれない。
だが、未だに人を惹き付ける魅力は十分あるように思う。
この世界はファンタジーの要素が少ないんだけど、それでも一応は精霊や魔法などが存在するファンタジーっぽい世界なのだ。
こんなロマンの追求もよいな。
園長先生の独断と偏見により、遠足の野外学習を行なう場所はこの化石の園で決定した。
一応、周辺を調査し、そう危険な場所では無さそうだと判断した。
現時点では魔物などの危険生物は確認できない。
川が干上がって干からびたような土地なんだしな。
そしてゴーレム兵の部隊を出して安全の確保を申し付けた。
次は化石発掘について調べ、必要な道具などを作る作業に入るかな。
学園の方にも予定が決まった事は連絡をしておいた。
化石探しって憧れはあるけど本当にやろうとは思わない事の一つだ。
あるいは、その筆頭といっていいかもしれない。
本式な長期に渡るような案件は大変地道な忍耐力と決して折れない心が必要な気がする。
あの報われなさは遺跡発掘といい勝負なんじゃないのかなあ。
しかも、かなり博識で、おまけにそういう作業が大好きじゃないと務まらないはずだ。
そして一番大事な事は、好事家であるスポンサー探しなのだ。
そういう、金を持て余して面白い事に飢えているような方は世界中に大勢いらっしゃるが、そのプロジェクトとのマッチングが上手くいくかどうかは非常に難しいところだ。
そういう人って早く成果を欲しがりそうだしな。
本来なら飽きっぽい園長先生には、始めから向いていない案件だ。
レーダーでその在処がわかるし、アイテムボックスで上手に化石だけ取り出せるので、やってみる事にしたというわけだ。
とりあえず、谷の中の化石MAPを作る事にした。
レーダーでおおまかな部分を検索し、その結果をPCの中に転写した。
それから谷の中を縦横それぞれ十地区に分けて、それぞれ数字とアルファベットで座標を出せるようにした。
それぞれのポイントに、座標を構成する数字や異世界のアルファベットで描かれたでっかい看板をポールで打ち込んでおき、MAPと照らし合わせられるように作業する。
無論、ポールを打ち込む際には化石の埋没場所を綺麗に避けて。
あと、何が要るかなあ。
とりあえずトイレを設置し、屋根付きの休憩所も作ってみた。
当然、救護所や本格的な閉鎖式の休憩所も設ける。
大体の建築材はコツコツと作ってあるので、殆ど組み合わせるだけのものだ。
昔、現場監督をやっていた人が「店舗の設計なんかは簡単だよ。このプレハブなんかもすぐ図面は引けちゃうし」と言っていた。
夜勤用の派遣やバイト専用みたいな休憩所として設置されているプレハブ小屋の中で。
まあ、そんなレベルだ。
俺は図面すら引かないし。
発掘道具としてハンマーとタガネを用意する。
ハンマーはピック型のハンマーだ。
これは重さ一キロくらいがいいとか言われるのだが、獣人とはいえさすがに子供に持たせるには重いので四百グラムに減らしておいた。
これを魔法金属製にすると、おそらく石だけではなく化石の方も砕けてしまいそうなので自粛した。
タガネは、平タガネと鉛筆状のチスタガネを用意した。
タガネが抜けなくなった時のレスキュー用にもう一本つける。
それにルーペと。
方位磁石などを使った道具のクリノメーターも作っておいたのだが、地質学の研究をするわけではないので今回は使わない予定だ。
長袖でポケットのたくさんある服に、長ズボンと軍手。
靴も滑りにくくて丈夫な革の靴にして。
あとは日除けの帽子だな。
ベルトにはウエストポーチと、ペットボトルホルダーと。
まだそんなに日差しの強い時期じゃないから、そう心配しないでも大丈夫そうだ。
ただ、ああいう場所だと照り返しがキツイかもしれない。
その辺りの事は状況に応じて現場で臨機応変に対応していこう。
そいつはいつもの事だ。
巻尺や、色々書き込むための筆記用具なんかも用意する。
あとスコップなんかもいるな。
なんだかんだで、そう変わったような物なんかはないのだが、地味に日頃持ち歩かないような物が多い。
トーヤなんか、ハンマーやタガネはいつも使い慣れている代物だ。
ハンマーはエルドア王国国旗のマークに使われているくらいだしな。
あと、化石にくっついて取れなかった石を除去する道具も用意してと。
俺って、こういうチマチマした感じの仕事は本当に好きだよな。
刷毛に筆、柄付き針に錐、あとタッパーが要るな。
そして忘れちゃならねえ新聞紙っと。
おっと、破片から目を守る安全対策の子供用ゴーグルは必須だ。
ペンライトも欲しいな。
意外とあれこれ要るな。
こりゃあ普通に潮干狩りをやって、貝殻や貝の分類でもやった方が楽だったかもしれん。
あ、熊手も持っていこう。
アサリを取る時に使う小さな奴だ。
とりあえず園に戻って、野外学習が『化石魔物採集』に決定した事を伝えた。
だが職員さんは殆ど女性なので、返って来た反応は微妙だった。
「化石って何ですか?」
「野外ですかー。この季節になると紫外線の影響が微妙ですねー」
そして、重大な事に気が付いた。
この世界で化石について知識や興味がある人間が、俺以外に誰もいなかった件について。
紫外線の御肌への影響については、もう認知されているくせにな。
俺は頭を抱え、まず化石という物の持つ学術的な価値についての啓蒙活動から始めようかと思った。
すると更に重大な事に気が付いたのだ。
そういう事は結構好きなのだが、自分が全くといってもいいくらい化石に対する知識がなく、また化石掘りをした事が一度も無かった事に。
ここはインターネット先生の出番だな。
化石掘り、それは場合によってはインターネットの中の人にも出番が回るかもしれないほどマニアックな世界なのだった。




