49-3 結婚式準備
まだ結婚式自体は先だし、ほぼ身内でやるので、そう招待客には気を使わない。
今回は王族には遠慮してもらおう。
国王陛下が残念がりそうだが、あまり異世界の出席者が濃いと地球側のメンバーがびっくりしかねない。
一応は日本でも、新郎新婦不在の結婚式や披露宴はやるのだ。
現地の結婚式場に二人の映像を送って、臨場感のある仮想結婚式という形になる。
いや、それだって一応は本物の結婚式の中継みたいなものなのだが。
葵ちゃんの御友達も参加するので、彼女達に頼んで、念のために俺も現地の会場へダイブ出来るようにしておいてもらった。
式場は葵ちゃんちのある神奈川方面にしてもらって、事前に俺が説明を行なう形になった。
山本さんの関係者には、俺が強引にビジネスジェットを手配したので開催地はスムーズに決まった。
名古屋もそうなのだが、地方って上手く航空便が繋がらない場合が多いんだよね。
愛知県の場合は、メジャーどころは中部国際空港から、マイナー路線は県営名古屋空港からと使い分けられるが、それでも物凄く不便。
飛行機で地方へ出る時は、結局一旦羽田へ出た方が一番早い。
同じく成田も使えるから、とにかく国内移動は東京まで出るのが早くて便利なのだ。
愛知県はメジャーな交通路線では陸空ともにスルーされる事が多い。
新幹線のぞみ号だって最初は名古屋に止まらない予定だったもんな。
結局名古屋なんて東京都大阪の間にある大都市というだけの、地方扱いの只の田舎に過ぎないのだ。
地元大企業であるトヨタなんかは、自前で『100%子会社の航空会社』を持っているくらいだ。
出席者の都合を合わせるだけでも一苦労なのだが、時間も無い事だし、金に飽かせて強硬手段に出た。
俺の地元にある県営名古屋空港は地方空港だから中部国際空港が出来て以来便がスカスカなので、生き残り施策のため日本で最初の本格的なビジネスジェットの運用空港となり、その旧小牧空港は日本のセントラルに位置するため災害時には東西のヘリ運用の要衝にもなるような重要拠点なので、その特殊な空路をありがたく活用した。
首都圏は空も過密でどうしようもないが、名古屋の空はそれなりの規模なのに比較的空いているからビジネスジェットの運航拠点には向いているのだ。
空港やホテルまでの送迎はバスを用意した。
もう宿も強引に纏めて高級ホテルへ押し込んでおいたし。
田舎の住人には大変に有効な宴会パワーで、事態を円滑に進めようと思ってね。
特に田舎の方だと、新郎の地元で式を挙げたい意見が噴出しそうなのを感じ取って、貴重な日本円を大枚消費して強引に黙らせたのだ。
こういう真似を事前に手配して、超強引に力押し出来るのがセブンスセンスのいいところよ。
式場の人もあまりの内容に目を白黒させていたらしいが、地元警察が人間消失事件について証言してくれたので、無事に式場は確保出来たらしい。
当時はテレビでもニュースとかでやっていたようだし。
おっさんは、あまり報道されなかったようだ。
というか、まったく無かったに等しい。
だって世捨て人のおっさんなんだもの~。
顔写真すら誰も持ち合わせていないので出回らないからな。
いわゆるノーイメージっていう奴だな。
そもそも俺自身が自分の写真なんて碌に撮っていないし。
山本さんも、おっさんに毛の生えた程度の扱いだったそうだ。
ちゃんと家族がいたのにな。
二人とも田舎の住人だったし。
葵ちゃんの場合は、首都圏における可愛い女子高生の失踪事件だったので話題になっていたらしい。
こちらの御式はマクラーレン神父が面倒を見てくれる感じだ。
基本的な式の進行は、向こうの世界にある式場の係の人がやってくれるので。
旦那が王国のVIP扱いだし葵ちゃんも王国結婚式の責任者みたいなことをやってきたので特別に大神官にやらせてもいいのだが、いきなりジェシカみたいな美少女を出すと、主役の花嫁の方が食われてしまいそうだからまずいし。
マクラーレン神父というのは、もちろんエルミアの神父様の事だ。
いつも神父様としか呼んでいないけど。
はっきり言って、俺にとってあの人はマブダチ以外の何物でもない。
しかも殆ど同業者だしなあ。
あとはファルもダイブする。
当然「あれ」をやるわけだ。
必要ならば精霊の舞いを余興に入れてもいいのだが、今回は参加者が一般の日本人も多いからな。
一応、祝電として日本の会場には祝辞を送らせてもらう事にした。
アルバトロス・ハイド・エルドア・ベルンシュタインの国王や皇帝、そしてオルストン伯爵家からという事で出させてもらう事にしてある。
そういう王国などからの祝電という物が一般の結婚式参加者にはよく理解出来ないかもしれないが、まあ両家の御家族宛なので。
その他の人には、事情をおいおいと理解してもらうとしよう。
一応はグランバースト名誉公爵家と、あと日本の船橋家からも出す形になっている。
このあたりはネットで頼める電報を頼む事にした。
電報もネットから注文してクレジットカード決済出来るのだ。
まったく便利な世の中になったもんだぜ。
そういうサービスには「日本国内はもちろんの事、海外からも……」と説明の文言があるので。
どうせなら「インターネットが使える異世界からも」を追加しておいてほしいところだ。
現地のこっち側では異世界日本からの祝電というか、印刷された現物の手紙になる。
一応、蜜蝋で封印した手紙を、俺がその場で開封して読み上げるという段取りだ。
御祝いのスピーチも、異世界側からはまず俺だな。
次に職員で葵ちゃんと仲のいい女性と真理、そして子供達からもある予定だ。
また子供達が色々と企画をしてくれているようだ。
いつもなら葵ちゃんがプロデュースするんだが、今回はトーヤとカミラが中心になってやってくれるようだった。
王国枠ではなくて、芸人枠でドワーフだけは呼んである。
結婚式の出し物という事で、色々な参考映像は連中に送っておいた。
「これくらいやっておければいいんじゃないのかな。
まあ、身内でやる式だしね」
「そうですね。
ありがとうございます。
こんな異世界で、日本でやるみたいに素敵な結婚式を挙げる事になるんなんて思いもしませんでした。
ただ……」
葵ちゃんは少し言い澱んだ。
「ただ?」
彼女は御腹を押さえながら、こう続けた。
「この子を御父さんや御母さんに抱かせてあげられたらいいのに。
出来たら、可愛い赤ちゃんの内に。
贅沢ですよね。
こんな魔物とかがいっぱいいるような世界に来ちゃったのに、無事に毎日楽しく過ごせているんだから。
贅沢なのはわかっているんですけど……」
うーん。
俺としても、それに関しては少し唸ってしまった。
今回は結婚式という事で、特別に少々面倒な事も日本サイドもみんな頑張ってやってくれるが、親戚の集まる行事なんかでそう毎度毎度やるわけにもいかないだろうしな。
やはり、なんとかして向こうと行き来できるような手段を探せないものだろうか。
次元の裂け目から、みんなここへ来てしまうという事は、裂け目が出来れば向こうへ帰れるという事だ。
多分、隣同士にある世界なんだろう。
世界を歪ませてしまうような酷い歪みではなくて、扉のように繋いでしまう事は出来ないものだろうか。
ゲートの魔法がそれに近いような気がするのだが、どんなに頑張っても空間魔法で地球まで繋ぐ事が出来なかったからこそ、このアルバトロス王国はあるのだし。
今度、もう一回詳しく調べ直してみようか。
何か手掛かりになる事があるかもしれない。
俺はもうすっかり馴染んで、この世界に落ち着いてしまったので問題はないのだ。
日本にはもう、待っていてくれる係累も禄にいないしな。
だが他の人は事情が異なるのだ。
他にもまだ誰か、日本へ帰りたがっている日本人とかが、この世界のどこかにいるかもしれない。
俺が山本さんや葵ちゃんと出会ったのは、本当にたまたまだったのだ。
帝国へ行かなければ、彼らがこの世界にいる事すら知らなかっただろう。
武の奴も、とうとう地球に戻る手段を見つける事が出来ずに、この世界に没することになった。
あいつも魔力だけなら俺には及ばなかっただろうが、魔法に関しては奴の方が圧倒的に上だ。
単なる魔法の威力だけではない精密な制御や種類など、俺はまだまだ武の域には遠く及ばない。
この辺は性格も関係しているので。
奴は研究者として細かい仕事に向いていた。
俺は現場の人間で、しかもあまり細かい仕事には向いていなかったしな。
一人でチマチマするのは好きだったのだが。
未だに武の作品で訳がわからないものが色々とある。
真理の奴が、その最たるものだろう。
複雑すぎて解析を諦めた。
未だに真理のメンテナンスは不可能だ。
エリクサーでなんとかならないような緊急事態が起きない事を祈っている。
真理は魔道ホムンクルス、つまり生物と同じような代物であり、それ以上の魔力抵抗があるのでアイテムボックスには収納できないから、あの中で弄る芸当も無理だ。
かろうじて、そのコアを朧げに解析して劣化コピーを作り出したくらいだ。
日本への帰還を果たす鍵は武が握っているような気がする。
一度、武の知己である真理やバルドスにレインやジョリー、そしてミレーやジェシカと、地球帰還のための会議を開いてみるか。
あと「不思議の森のゴブリン」シリーズにも、何かツェペリが当時の伝承者から聞いたヒントが隠されているかもしれない。
そのあたりの話は、またブラウンゴブリンの長老にも当ってみるとするか。




